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GLP1アナログの心血管疾患に対する効果(2018年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
GLP1アナログの心血管疾患に対する効果.jpg
2018年のLancet Diabetes & ENdocrinology誌に掲載された、
GLP1アナログという糖尿病治療薬の、
心血管疾患の予後に与える影響についてのメタ解析の論文です。

2型糖尿病の治療の目的は、
合併症の予防にあります。

そのうち網膜症や神経症については、
HbA1cが7%を切るような血糖コントロールを継続することにより、
その発症は一定レベル予防されることが確認されています。
腎症については、
尿への微量蛋白の発症というような指標を用いれば、
そうしたコントロールにより予防可能ですが、
それで腎機能の低下が抑制されるかについては、
あまり明確には証明されていません。

もっと問題が多いのは動脈硬化の進行に伴う、
心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患です。

心血管疾患のリスクは2型糖尿病により増加しますが、
そのリスクはHbA1cが7%台のコントロールでは、
十分には低下しません。
しかし、それを下回るような強化コントロールは、
今後は低血糖の増加を招き、
却って患者さんの生命予後の低下に結びついてしまうのです。

インクレチンは一種の消化管ホルモンで、
食後のみのインスリン分泌を刺激して、
インスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンの低下作用を併せ持っています。

インクレチン関連薬には、
インクレチンそのものであるGLP1アナログという注射薬と、
その分解酵素の阻害剤である、
DPP4阻害剤の2種類があります。

このインクレチン関連薬は、
血糖値の上昇時のみに働くので、
低血糖のリスクが少なく、
動物実験では膵臓のインスリン分泌細胞を増加させるなど、
これまでの糖尿病治療薬にはない特徴も有しています。

そのためインクレチン関連薬を使用することにより、
心血管疾患の予後が改善することが期待されました。

しかし、
これまでの複数のDPP4阻害剤
(アログリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン)
の臨床試験結果は、
その上乗せによる心血管疾患の予防や予後の改善効果が、
確認されませんでした。

それでは、GLP1アナログはどうなのでしょうか?

これまでにリクセナチド、リラグルチド、
セマグルチド、そして長期作用型のエキセナチド、という、
4種類のGLP1アナログについて、
心血管疾患に対する数年という期間での効果が検証されています。

その一部はブログでも過去に記事にしています。

その中で最も良い結果であったのはリラグルチドの臨床試験で、
中間値で3.8年の観察期間中の心血管疾患の死亡と心筋梗塞、
および脳卒中の発症を合わせた頻度は、
偽薬群では14.9%であったのに対して、
リラグルチド群では13.0%で、
リラグルチドは心血管疾患をトータルで13%、
有意に抑制していました。(0.78から0.97)

心血管疾患による死亡のみで見ると、
偽薬群よりリラグルチド群は、
死亡リスクを22%有意に低下させていました。
(0.66から0.93)

総死亡のリスクについても、
リラグルチド群で15%の低下が有意に認められました。
(0.74から0.97)

ただ、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院については、
偽薬群とリラグルチド群との間に、
有意な差は認められませんでした。

4種類のGLP1アナログのいずれも、
偽薬と比較して心血管疾患の予後を悪化はさせませんでした。

リラグルチドとセマグルチドは、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクを、
有意に低下させていましたが、
総死亡と心血管疾患による死亡のリスクを、
単独で有意に低下させていたのは、
リラグルチドのみでした。

また、脳卒中単独のリスクを有意に低下させていたのは、
セマグルチドだけでした。

このように同じGLP1アナログでも、
臨床試験によってその結果には大きな差があります。

GLP1アナログのトータルな効果が、
現時点で確認されている、という訳ではないのです。

今回の研究では、
これまでのGLP1アナログの臨床データをまとめて解析する、
メタ解析という手法で、
GLP1アナログ全体の、
心血管疾患に対する効果を検証しています。

これまで4種類の臨床試験をまとめて解析したところ、
偽薬と比較してGLP1アナログは、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクを、
10%有意に低下させていました。
(95%CI: 0.82 から0.99)
また心血管疾患による死亡のリスクを13%
(95%CI: 0.79から0.96)
総死亡のリスクも12%
(95%CI: 0.81から0.95)
それぞれ有意に低下させていました。
ただ、個々のGLP1アナログの効果には、
かなりのばらつきが見られました。
要するに、現時点ではリラグルチドと、
他のGLP1アナログとの間には、
ある程度の開きが見られます。

心筋梗塞と脳卒中と心不全による入院のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。

このように、
GLP1アナログは心血管疾患の予後に、
悪影響を与えない糖尿病治療薬である、
という点はほぼ間違いがなく、
生命予後にも良い影響を与えるという可能性がありますが、
リラグルチド以外の薬でもそうした効果があるかどうかは、
まだ確定的なものとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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