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抗菌薬(トリメトプリム)の腎障害リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バクタの腎障害リスク.jpg
ST合剤と呼ばれる抗菌剤があります。

先発品の商品名はバクタで、
ジェネリックも発売されています。
ST合剤はスルファメトキサゾールとトリメトプリムという、
2種類の薬剤の合剤で、
いずれも細菌の葉酸代謝を阻害する作用があり、
その併用で相乗効果があるため、
このような剤型のみが使用されています。

他の抗菌剤で無効の感染症に有効性があり、
HIV感染症など免疫不全の状態においては、
ニューモシスチス・カリニ肺炎の、
治療や発症予防としても使用されます。

欧米では尿路感染症の第1選択薬の1つとして、
広く使用されていますが、
日本においては、
「他剤が無効又は使用出来ない場合にのみ投与を考慮すること」
という文言が添付文書にはある上に、
白血球減少や血小板減少などの、
重篤な副作用が起こり易いとのイメージがあり、
長くその使用は限られた事例にしか、
行なわれていませんでした。

それが最近、
ニューキノロン系の抗生物質や、
第3世代のセフェム系抗生物質の乱用による、
耐性菌の増加などの悪影響が喧伝されるようになると、
海外のガイドラインでは第1選択薬の1つとなっている、
単純性の尿路感染症に対するST合剤の使用にスポットが当たり、
日本でもその使用が、
増える傾向が顕著となっているのが現状です。

日本の添付文書では頻度不明となっていますが、
高カリウム血症は、
ST合剤の海外では良く知られた副作用の1つです。

これは配合剤のトリメトプリムが、
構造的にカリウム保持利尿剤のアミロライド(日本未発売)に、
似通っており、
そのため同様の尿細管ナトリウムチャネル阻害作用を持つので、
高カリウム血症と低ナトリウム血症を生じ易い事に起因しています。

上記文献にある記載では、
ST合剤を使用した患者さんの8割で、
0.36mEq/L以上の血中カリウムの上昇が起こり、
6%では5.4mEq/Lを越えるという報告があるようです。

仮にこれが事実とすると、
同じようにカリウム濃度の上昇に繋がり易い、
ACE阻害剤やARBを使用している高齢者において、
ST合剤が併用されると、
急激な血液中のカリウム濃度の上昇により、
心臓由来の突然死などのリスクが高まる、
という可能性が否定出来ません。

実際に、
2014年10月のBritish Medical Journal誌に掲載された論文によると、
カナダのオンタリオでの研究では、
ACE阻害剤もしくはARBを使用している66歳以上の高齢者で、
ペニシリンであるアモキシシリンとの比較において、
ST合剤の使用はその後7日以内の死亡リスクを1.38倍、
14日以内の死亡リスクを1.54倍、
それぞれ有意に増加させていました。

このように、ACE阻害剤やARBを使用している高齢者では、
ST合剤の使用は充分に慎重に行うべきなのですが、
そもそもこの合剤のどちらの成分が、
このリスク増加の原因となっているのかは、
この研究では明らかではありませんでした。

理屈では上記のようにトリメトプリムが悪そうですが、
それが実証されているという訳ではありません。

今回の研究は以前トリメトプリムの単剤が、
使用されていたことのあるイギリスにおいて、
プライマリケアのデータベースを活用して、
65歳以上の高齢者における、
尿路感染症の診断に対するトリメトプリルの使用が、
他の抗菌薬と比較して急性腎障害や高カリウム血症、
また死亡リスクに与える影響を検証しています。

65歳以上の1191905名を対象とし、
そのうちの178238名が少なくとも1回、
抗菌薬による尿路感染症の治療を行なっており、
トータルでのべ422514回の事例が確認されました。

ペニシリンのアモキシシリンと比較した時、
トリメトプリムの使用は、
その後2週間以内の急性腎障害のリスクを1.72倍
(95%CI: 1.31 から2.24)有意に増加させていました。
セフェム系のシプロフロキサシンそのリスクを、
1.48倍有意に増加させていました。
(95%CI: 1.03 から2.13)

同様の14日以内の高カリウム血症のリスクも、
トリメトプリムの使用でアモキシシリンと比較して、
2.27倍(95%CI: 1.49 から3.45)有意に増加していました。

一方で14日以内の死亡リスクについては、
トリメトプリムの使用はアモキシシリンと比較して、
有意なリスクの増加を示しませんでした。

今回の結果から、
1000人の65歳以上の成人に抗菌薬による尿路感染症治療を行うと、
アモキシシリンと比較したトリメトプリムを使用した場合、
1から2人がそのために高カリウム血症になり、
2人がそのために急性の腎障害のため入院し、
もしその患者さんがACE阻害剤やARBやアルドステロン拮抗薬を使用していると、
そのために18人の高カリウム血症と、
11人の急性腎障害による入院が生じる、
ということが推測されます。

2014年のカナダの結果とは異なり、
今回はトリメトプリムによる死亡リスクの増加は、
確認されませんでしたが、
高カリウム血症と急性の腎障害が、
特にACE阻害剤やARBとの併用時に多いことは間違いがなく、
そうした併用は高齢者では、
充分な注意の上に限定して行うべきだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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