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「花筐」(檀一雄原作・大林宜彦監督) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
花筐.jpg
大林宜彦監督が以前から温めていた企画を映画化した新作が、
今ロードショー公開されています。

原作は檀一雄の短編小説ですが、
ほぼ設定を借りているだけで、
大林ワールドが濃厚かつ長大に展開されています。

僕は大林監督は大好きで、
1977年の「HOUSE ハウス」はロードショーで観ています。
予告編が驚くほど奇怪でポップで壮絶だったので、
一体どんな映画なのかとワクワクしながら劇場に足を運んだのですが、
本編自体も予告編のようなダイジェスト感で、
「あれあれ、何だこれは…」と思っているうちに、
1時間余りで終わってしまい、
呆然としたことを覚えています。
ただ、ラスト血の海になった邸宅の中を、
大場久美子が戸板の筏で突き進み、
化け猫の池上季実子と抱き合う場面の、
表現の出来ない切ない抒情のような物には、
当時からたまらない魅力を感じました。

その後、
「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の尾道三部作に、
大学時代に出逢い、魅了されて本当の意味で虜になりました。

ただ、その一方で大林監督は、
「ねらわれた学園」や「漂流教室」のような、
スクリーンに物を投げつけたくなるような、
三池崇監督に匹敵するような「Z級映画」も沢山撮っていますし、
「異人たちとの夏」のように、
鶴太郎の場面は素晴らしいのに、
最後の女幽霊は最悪で苦笑するだけ、
というようなアンバランスな変な映画や、
「はるか、ノスタルジィ」のような、
観ると恥ずかしくて具合の悪くなるような、
最悪の変態自意識過剰映画も撮っています。

真の藝術家でありながら、
商業主義の権化のようでもある、
一筋縄ではいかない奇怪な巨人だと思います。

さて、今回の「花筐」ですが、
一応反戦物のような体裁ですが、
殆ど筋らしい筋はなく、
おもちゃ箱をひっくり返して、
お菓子を食べておもちゃをベタベタにしたような、
大林映画のガジェットが氾濫する世界が、
3時間弱特に起伏なく展開されるというマニア向けの作品です。

そもそも40くらいの役者さんが、
10代の若者を演じたリしているので、
それ自体でもう真面目に見ていいのか、
ただ笑うべきなのか訳が分からないのですが、
戦時中の筈なのに豪華な食事に豪華なお祭りなど、
これもファンタジーとして楽しむべきなのか、
ツッコミをするべきなのかも良く分かりません。

「血とバラ」のオマージュで、
昔から大林映画で定番の、
血が白いドレスに盛大にf流れたリ、
薔薇の花びらが血に変化したり、
粉々になった鏡に顔がバラバラに映ったり、
部屋から水に飛び込むような幻想シーンなど、
大林映画を昔から観ている人には、
懐かしいイメージが山のように出て来ますが、
映像がビットレートの低いDVDのようで美しくないのと、
同じ構図の場面が多すぎるので、
次第に疲れて退屈してしまいます。

他の大林映画の多くでも言えることですが、
もう少し上映時間の短い、
密度の濃い映画にして欲しかったと思います。

そんな訳で、
病に倒れながらこの作品を完成させた大林監督の執念には、
最大の敬意を表したいとは思いながら、
マニア以外にはあまりお薦め出来ず、
劇場で観ても映像の精度はあまり高いものではないので、
大変失礼ですがテレビの画面で観れば充分かな、
という印象を個人的には持ちました。

一般の方にはあまりお薦めは出来ません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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長時間の飛行機移動での静脈血栓症の予防法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エコノミークラス症候群の予防法.png
2012年のJAMA誌に掲載された、
一般向けの解説記事ですが、
海外旅行などでの飛行機移動での、
静脈血栓症の簡単な予防法を解説したものです。

長時間椅子に座った姿勢で動かないでいると、
足の静脈の血液が滞り易くなります。
静脈には弁という部分があって、
血液の逆流を防ぐ働きをしているのですが、
その弁の部分が袋のようになっているので、
そこに溜まった血液が、
停滞し易くなり、血栓という血の塊が出来易くなります。

その血栓で足の静脈が詰まると、
足の筋肉が強く痛むような症状が起こります。
これが下肢静脈血栓症です。

そして、この足の静脈に出来た血栓が、
そこから血液を流れて心臓に戻り、
肺の動脈に詰まる病気が、
肺血栓塞栓症症です。
肺塞栓症が起こると、急に呼吸が苦しくなったり、
息切れや胸の痛みが起こり、
適切な治療を行なわないと命に関わることもあります。

この下肢静脈血栓症は、
たとえば老人ホームの高齢者が、
長時間座っている姿勢で動かない時にも起こりますが、
特に病気のない健康と思われる方でも、
飛行機での長期のフライトなどでは、
極めて長時間同じ姿勢を取り、
身体を動かすことも難しく、
トイレに行くこともストレスなので、
水分を取らずに脱水にもなり易いなど、
悪条件が重なるので起こる可能性が高くなります。

そのため、長期のフライトでの静脈血栓症のことを、
旅行者血栓症とかエコノミークラス症候群と通称することがあります。

長期のフライトでは静脈血栓症は、
誰でも起こる可能性があるのですが、
最近手術をしていたり、妊娠中や高齢者、
女性ホルモンを使用している場合、
癌や心臓の病気を持っている場合などは、
よりリスクは高いと考えた方が良いのです。
勿論以前肺塞栓症や下肢静脈血栓症を起こしたことのある方は、
そのリスクは最も高くなります。

それでは、静脈血栓症を予防するにはどうすれば良いのでしょうか?

こちらをご覧ください。
エコノミークラス症候群の予防法の図1.jpg
いつでも出来る飛行機内での、
血栓症の予防法を示したものです。

座ったままでつま先を上げ、次に踵を上げる、
という体操を繰り返します。
なるべく頻繁にやった方が効果的です。

何故これが良いのかを示したのがこちらです。
エコノミークラス症候群の予防法の図2.jpg
左の図が体操をせずにじっとしている場合です。
弁の部分に血液が停滞して、
そこで血栓を起こし易くなります。
体操をすると右の図のように、
筋肉によって血管が刺激を受け、
溜まっていた血液が心臓の方に戻り易くなるのです。

勿論これで100%予防出来る、
という訳ではなく、
リスクの高いことが分かっている場合には、
血液の凝固を抑えるヘパリンの注射を、
飛行機に乗る直前に自分で行う、
というような予防法も上記の記事には紹介されています。

これは現状は日本では難しいと思いますが、
リスクの高いことが想定される時の薬の使用については、
かかりつけの先生に一度ご相談してみるのが良いかも知れません。
病状によっては一時的に薬を使用することも、
1つの選択肢ではあると思います。

今日は飛行機の長期のフライトにおける、
静脈血栓症の予防についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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意識消失の原因として肺塞栓症はどのくらいあるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肺塞栓症の意識消失での頻度.jpg
2018年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
意識消失を起こした原因としての、
肺塞栓症の頻度を調査した論文です。

一時的に意識がなくなる意識消失の症状は、
一生のうちには4人に1人は経験する、
というほど多い症状です。

一時的で後遺症なく回復する意識消失を、
通常、失神(Syncope)と呼んでいます。

この失神の原因は様々ですが、
てんかんや不整脈による一時的な血圧の低下、
脳卒中や脳震盪などの外傷、
また自律神経のバランスの乱れによる、
所謂迷走神経反射などが鑑別となります。

その中で、最近実際にはその頻度は結構多いのではないか、
という指摘があるのが、
肺塞栓症に伴う失神です。

肺塞栓症というのは、
下肢の静脈が腫れて炎症を起こしたような場所から、
血の塊が飛んで、
肺の血管に詰まるという病気です。
ここで心臓から肺に行く根本の方の太い血管が詰まると、
心臓からの血液の拍出量が低下して、
失神の要因となることがあります。

ただ、初回の失神ですぐに意識が戻り、
特に後遺症も認めらない場合には、
あまり肺塞栓症の可能性は疑わないのが実際です。

2016年の10月のNew England…誌に、
イタリア発のビックリするような論文が掲載されました。
これは同時期にブログでも記事にしています。

初回の失神発作の原因には、
これまでの推測より肺塞栓症が多いのではないか、
という推測の元に、
イタリアの11の病院で、
初回の失神で救急受診をし、
急性の脳卒中や痙攣発作、外傷は否定的な事例、
トータル560名を登録し、
まずウエルズ・スコアという、
肺塞栓症の簡易診断の検査を行い、
それと血液のDダイマーという血栓症で上昇する検査値を測定して、
両者の結果で肺塞栓症の存在がほぼ否定された事例以外の全例で、
造影CTもしくは換気血流シンチという検査を施行して、
肺塞栓症の診断を行なったところ、
初回の失神を起こした患者さんのうち、
実に17.3%は肺塞栓症であったという結果が得られました。

ただ、その後カナダなどで行われた同様の臨床研究では、
その頻度はもっと低いものに留まっていました。

要するにイタリアの研究結果は再現されなかったのです。

今回の研究は同様の意識消失の原因としての肺塞栓症の頻度を、
カナダ、デンマーク、イタリア、アメリカという、
4か国の疫学データをまとめて解析するという手法で、
再度検証しています。

18歳以上で一時的な意識消失のため救急外来を受診し、
外来もしくは入院で治療を受けた、
トータル1671944名のデータを解析しています。
これまでで最も大規模な疫学データです。

その結果トータルで意識消失の原因が肺塞栓症であったのは、
0.06から0.55%で、
入院した患者さんにおいては、
0.15から2.10%でした。
意識消失後90日間で肺塞栓症を発症したのは、
患者さん全体で0.14から0.83%で、
入院した患者さんでも0.35から2.63%でした。
更に意識消失後90日以内に静脈血栓症と診断されたのは、
患者さん全体で0.30から1.37%、
入院した患者さんでは0.75から3.86%でした。

このようにイタリアの研究での17%という数字は、
矢張りちょっと実態からは外れているように思われます。

ただ、意識消失の裏側に、
無視出来ない頻度で静脈血栓症や肺塞栓症のあることは事実で、
その可能性については、
常に心にとめておく必要はあるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第29回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
それがこちら。
29回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
2月17日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「身近な冷えの基礎知識」です。

「冷え」というのは非常に身近な症状で、
クリニックの外来でも相談されることが多いのですが、
実際には「冷え」は西洋医学的に定義された症状ではありません。

「冷え」とは一体何でしょうか?

Cold Sensitivityという用語はあり、
同じ低温であっても、
それに対する身体の反応には差がある、
という研究データは存在しています。
この考え方では「冷え」というのは、
低温に対する過剰反応という言い方が出来ます。

ただ、「冷え」というのはそれだけを指すのではなく、
実際には感覚は鈍くなっていて、
寒さを感じるのではなく、
作り出しているという、
感覚障害の側面もあります。

漢方などの東洋医学においては、
昔から「冷え」というのは重要な兆候の1つであり、
こちらは明確に定義されていますが、
その内容な西洋医学的な理解とは、
相容れない部分もあります。

このように「冷え」は一筋縄ではゆきません。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。
ご参加は無料です。

参加希望の方は、
2月15日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ライノウイルス感染と温度と湿度との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ライノウイルスと湿度と温度.jpg
2016年のViruses誌に掲載された、
風邪の代表的な原因ウイルスの感染と、
温度と湿度との関連を検証した論文です。

温度が低く湿度が低いと、
風邪が流行しやすいというのは、
昔から経験的には広く知られている事実です。

ただ、
その理由はあまりはっきりとは分かっていません。

低温で乾燥した環境では、
ウイルスの増殖が促進される、
というようなデータは疫学データとしても、
実験的なデータとしても報告はされています。

その一方で低温で乾燥した空気が気道に入ると、
ウイルスに対する身体の防御力が低下することを、
示唆するようなデータも存在しています。

今回の研究はフィンランドの徴集兵892名を対象として、
訓練中の温度と湿度が、
その後の風邪ウイルスの代表であるライノウイルスの感染に与える影響を、
比較検証しています。

その結果、
低温や湿度そのものよりも、
温度や湿度が低下することが、
その後のライノウイルス感染のリスクを増加させていました。
超低温で湿度が高い環境では感染のリスクは低下し、
平均した比較的高温では感染リスクはむしろ増加していました。

このように、
低温も湿度も、
ウイルス感染のリスクと無関係ではないのですが、
その関係は単純な高低で決定されるような、
簡単なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カテーテルアブレーションの長期予後(心不全合併心房細動での検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カテーテルアブレーションと予後.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心不全を合併した心房細動の患者さんに、
カテーテルアブレーションという治療を行った場合の、
患者さんの長期予後を検証した論文です。

カテーテルアブレーションというのは、
血管から挿入したカテーテルによって、
心臓の一部を焼却するという治療です。

何故心臓の一部を焼いてしまうのかと言うと、
不整脈を起こす原因となる、
異常な興奮をするような場所を焼却することによって、
不整脈が起こらないようにしようというのです。

その効果は、
発作性上室性頻拍というタイプの不整脈では、
90から98%と非常に高い奏効率を示していますが、
一方で心房細動という高齢者に非常に多く、
脳卒中の大きな原因となっている不整脈では、
その経過によって60から95%とかなりのばらつきがあります。
(数字は日本不整脈心電学会のサイトより引用)

また、一旦アブレーションにより洞リズム(通常の脈)に戻っても、
再発してしまうことが稀ではなく、
アブレーションに伴って脳梗塞を発症することも、
0.3から0.5%には見られると報告されています。
(数値は前述のサイトより)

心房細動はまた高率に心不全を合併します。

上記文献の解説記事(editorial)の記載によれば、
新たにうっ血性心不全を発症する患者さんの5割以上は、
心房細動を合併していると報告されています。
逆に新規に心房細動を発症する患者さんのうち、
3分の1近くがうっ血性心不全を合併しているという報告もあります。
心房細動が長く続けば、
心臓の働きが低下して心不全になっておかしくない一方、
心不全があって心臓に負担が掛かれば、
それが原因となって心房細動が生じることも充分考えられます。

つまり、
どちらが原因でどちらが結果かという疑問の答えは、
そう簡単なものではありません。

それでは心不全を合併した心房細動では、
カテーテルアブレーションをすることが、
患者さんの予後の改善に結び付くのでしょうか?

実はこの答えも、
あまり明確にはなっていません。

1999年と2008年に発表された介入試験の結果では、
抗不整脈剤による治療との比較において、
心不全をした合併心房細動患者に対するカテーテルアブレーションは、
洞リズムの期間を延長はしたものの、
心機能の改善や生命予後には、
明らかな効果を認めませんでした。

今回の臨床試験は、
心不全を合併した心房細動の患者さんをを、
カテーテルアブレーションをした場合と、
それ以外の保存的治療のみを継続した場合とにくじ引きで分け、
60ヶ月(中央値37.8ヶ月)という長期の経過観察を行っています。

心不全はNYHA分類でⅡ度以上、
心機能の指標である駆出率が35%以下が条件となっています。
例数はカテーテルアブレーション群が179名で、
保存的治療群が184名です。
万一のリスクのために全例で除細動器が埋め込まれていて、
24時間の脈拍の記録も取られている、
というちょっと特殊な研究です。

その結果、
観察期間が37.8ヶ月の段階で、
総死亡と心不全の悪化による入院を併せたリスクは、
保存的治療群と比較してカテーテルアブレーション施行群では、
38%(95%CI; 0.43から0.87)有意に低下していました。
個別には総死亡のリスクが47%(95%CI; 0.32から0.86)、
心不全による入院のリスクが44%(95%CI; 0.37から0.83)、
心血管疾患による死亡のリスクが51%(95%CI; 0.29から0.84)、
それぞれ有意に低下していました。

また、60ヶ月経過した段階で、
保存的治療群と比較してアブレーション施行群では、
心機能の指標である駆出率が、
8%有意に改善していました。

保存的治療群の22%が洞リズムであったのに対して
アブレーション治療群では63%が洞リズムとなっていました。

これはかなり画期的な結果で、
カテーテルアブレーションをすることによって、
明確に生命予後が改善し、
心機能も長期的に改善しています。
ただ、全例でアブレーションにより洞リズムに改善している、
という訳ではないので、
この改善が何によってもたらされたのかは、
まだ検証の余地を残していると思います。
また、今回の研究は例数はそれほど多くなく、
アブレーションは専門施設で経験のある術者によってのみ施行されているので、
現状より広くアブレーションが行われることが、
一般の患者さんの予後を、
同じように改善するという保証はまだありません。

従って、この問題はまだ解決したとは言えませんが、
今後心房細動に対するアブレーションの適応は、
より広くなるきっかけとはなるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スリー・ビルボード」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
スリー・ビルボード.jpg
僕の大好きなマーティン・マクドナー監督の新作、
「スリー・ビルボード」を観て来ました。

これは傑作です。

脚本が練り上げられていて抜群の完成度ですし、
役者も皆とても味のある良い芝居をしています。
演出もとてもオーソドックスで安定感があり、
草の匂いが感じられるような、
空気感のある映像もとても美しいのです。
ルネ・ルレミングの「夏の名残の薔薇」で始まる音楽も、
新旧織り交ぜオリジナルも入れて、
とても良い感じです。

要するにほぼケチの付けようがありません。

コーエン兄弟の犯罪映画に近い雰囲気ですが、
コーエン兄弟のような晦渋さや臭みがありませんし、
フィクションと現実を強引に結びつけようとする腕力の若さが、
コーエン兄弟にはない魅力です。
クリント・イーストウッドも描きそうな世界ですが、
その視点はもっとニュートラルで党派性はない一方で、
とてもシニカルで独特で深いのです。
「泣ける」映画のような涙とは無縁ですが、
心が吠えるような感動があります。

今年これまでに観た映画の中で、
ベストであることは間違いありませんし、
まだ2月ですが、
年末の今年のベスト5に入れることも、
もう決定したと言って良い感じです。

マクドナーはアイルランド出身の劇作家で、
その後最近になって映画監督としてもキャリアを重ねています。
僕にとっては長塚圭史さんが演出した「ウィー・トーマス」が衝撃的でした。
その後「ピローマン」、「ウィニシュマン島のビリー」、
「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」などの作品を観て、
そのブラックで切なくて残酷な、
それでいて理知的で完成度の高い世界に魅了されました。

今回の作品はマクドナーの演劇畑の作品とは、
また肌合いの違う感じのものになっています。
つまり、演劇から映画に転向した多くの作家とは違って、
映画はしっかりと映画になっていて、
中途半端な演劇臭はないのです。

ただ、それでもマクドナーならではの、
シニカルで意地悪で観客の心理を翻弄するような感じや、
人間に対する深く独特な洞察力は同じで、
凡百のドラマにはない切ない感動が観客の心を揺さぶるのです。

この映画はなるべく予備知識などない方が良いので、
あまりネタバレは避けたいのですが、
最初のとっかかりの部分のみお話すると、
まだ多くの偏見の残るアメリカ南部の田舎町で、
少女がレイプの上焼き殺されるという無残な事件が起こり、
犯人が逮捕されないことに業を煮やしたその母親が、
事件のあった場所近くの看板(ビルボード)に、
警察署長の怠慢を告発する広告を出す、
ということころから物語は始まります。

その広告が村に大きな波紋を呼び…
という展開になると、
観客はこれは被害者の母親が、
警察の理不尽な権力と戦うという話なのか、
と当然そんな風に思うのですが、
悪玉である筈の名指しされた警察署長というのが、
人格者として皆に慕われている人物である上に、
末期の膵臓癌で余命幾ばくもないということが分かり、
主人公の母親自体にも、
常軌を逸っしたところが沢山ある、
ということが分かってくると、
一体何を信じて何を指標としたら良いのか、
混沌とした気分の中に観客は投げ込まれます。

地方のメディアが登場しますが、
その時の空気に支配された報道を繰り返すだけで、
何の尺度にもなってはくれません。

後半に至るまで、
「えっ?」というような展開が続き、
とてもこれでは納得出来るような着地はあり得ない、
というように思えたところで、
意外な人物が事件の中心に浮上して、
一気に物語はラストに向けて加速するのです。

そして、とても印象的なラストでは、
最初には想像も付かなかった組み合わせの一組の男女が、
1台の車で旅に出て、
その車には一丁のライフル銃が載っているのです。
男と女に銃が一丁というのは、
これはもうかつてのハリウッド映画に定番の設定ですし、
それが意味するものは重く切なく、
そして意外なほどに現代的でもあるのです。
観客の心を揺さぶり想像力をかき立てる、
素晴らしいラストだったと思います。

ともかく観終わった瞬間、
見知らぬ誰かと朝まで語り尽くしたくなるような、
素晴らしい映画で、
一般受けはしないかも知れないので、
ロードショーは短期間で終わってしまうかも知れません。

是非是非映画館でご覧になることをお薦めします。

本当の本物です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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柿喰う客「俺を縛れ!」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
俺を縛れ.jpg
スタイリッシュでアングラの雰囲気もある、
柿喰う客の本公演に足を運びました。

10年前の作品の再演ということですが、
初演は観ていません。

「柿喰う客」はこれまでに、
5本くらい観ているのですが、
個人的には何かいつもとらえどころがなく、
本質的な部分で理解が出来ていない、
というような気もします。

その中では今回の作品は、
話もシンプルで分かりやすかったですし、
意図もかなりはっきりしていて、
やや長すぎる感じはしましたが、
役者さんのインパクトもまずまずでしたし、
最後までテンションと勢いが持続した、
良い芝居だったと思いました。
これまで僕が観たこの劇団の作品の中では、
最も好印象で面白く鑑賞しました。

これは一応時代劇の設定になっていて、
徳川家重の治世に、
裏切り者のキャラを将軍から押しつけられた弱小の大名が、
忠義一途でありながら幕府に反乱を起こす、
という話ですが、
最初に服部半蔵を名乗る女忍者が登場して、
登場人物は全て忍者の装束、
という不思議な趣向になっています。

小劇場で時代劇をやるというのは、
なかなか成功することが少ない試みです。

セットや小道具、衣装などが揃わないと、
それらしく見えない一方で、
予算が少ない中で中途半端にそうした準備をすると、
却って貧相に見えてしまいます。

今回の芝居では役柄に関わらずキャストは全て忍者の装束ですが、
役者さんがなかなか頑張っているので、
中段くらいになるとそれほど混乱なく物語に入れます。
それでいて最終的には、
全員が同じ衣装を着ているということが、
作品のテーマとして機能しているのです。
なかなかクレヴァーな発想だと感心しました。

ただ、今回の作品では、
劇団新感線を意識し過ぎている印象があり、
100人斬りのパロディの辺りなどは、
ちょっと気恥ずかしいような感じもありました。
後半の殺陣はもう少し別の切り口や演出があっても、
良かったのではないでしょうか?

また、アンコールがいつも特殊な演出で、
今回もシェイクスピアみたいなことを、
ややアングラチックにしてやっているのですが、
あまり必然性は感じませんでした。

ちょっと変わったセンスのお芝居で、
自意識の臭みが鼻につくようなところもあるのですが、
今回はその意図と様式とが上手くかみ合っていて、
なかなか見応えがあったと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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1型糖尿病は子供の病気ではないのか?(中国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
中国における1型糖尿病の疫学.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
中国での最近の1型糖尿病の疫学調査の論文です。

糖尿病には大きく分けて1型糖尿病と2型糖尿病の2種類があります。

1型糖尿病というのは、
身体がブドウ糖を利用するために必要なインスリンが、
何らかの理由により高度に欠乏して、
インスリンを注射しないと生きて行けないような状態となる糖尿病で、
お子さんに発症することが多いので、
小児糖尿病のように言われていたこともあります。
一度発症すれば治るということはなく、
膵臓移植などの特殊な治療以外は、
生涯インスリンの注射を打ち続ける必要があります。

その原因はまだ不明ですが、
特定の国や地域によってその罹患率に大きな差があることや、
ウイルス感染などのきっかけが見られることなどから、
遺伝的な素因と自己免疫による関与などが、
発症メカニズムとして想定されています。

ちなみに日本での発症率は、
上記文献の中国よりは多くて、
年間10万人当たり1人から2人くらいですが、
フィンランドは10万人当たり64.9人と、
非常に高い発症率を示しています。

以前には小児期の発症が殆どと考えられていましたが、
最近成人で発症する劇症型の糖尿病が、
1型糖尿病の成人型と考えられるようになり、
成人の1型糖尿病は世界的にその報告が増えています。

一方で2型糖尿病は、
日本では糖尿病の患者さん全体の99%を占め、
生活習慣病としての糖尿病と言う時には、
ほぼこの2型糖尿病のことを指しています。

通常肥満が先行することが多く、
遺伝要因(糖尿病の生まれつきのなりやすさ)と、
環境要因(暴飲暴食、肥満などの生活習慣)が、
合わさって発症すると考えられています。

インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性と、
1型糖尿病と同じインスリン不足の、
両方が関連して血糖が上がるのですが、
1型糖尿病と比較するとインスリンの不足は軽く、
特に初期にはインスリン抵抗性が主な原因となることが多いのです。
ただ、日本人の糖尿病は、
当初からインスリン不足が原因となり、
あまり太らないケースが多い、
という見解もあります。

今回の疫学データは、
世界的にみると1型糖尿病の発症率の低い中国において、
地域毎の発症率を比較検証したものです。
調査は2010年から2013年の期間において、
中国全土の13の地域の糖尿病の診療を行う505の病院で、
新たに診断されて治療が開始された全ての1型糖尿病の患者を、
その対象としています。
年間1億3000万人、中国の人口の10%が対象に含まれている、
と記載がされています。

登録期間中に、
トータルで5018名の1型糖尿病の患者さんが、
新たに診断をされています。

このうち15歳未満での発症は1239名、
15歳から29歳の発症が1799名、
30 歳以上の発症が1980名となっています。
20歳以上、要するに成人となってから診断されるケースが、
全体の65.3%となっていて、
1型糖尿病が小児発症という考え方が、
実際には正しくはない、ということが分かります。

日本での小児糖尿病の患者さんは、
少し古い統計だと思いますが、
年間5000から6000人発症と推計されていますから、
日本人の発症率の方が、
中国よりかなり多いということが分かります。

1985年から94年の報告では、
今回と算出の方法は異なっていますが、
中国の小児1型糖尿病の発症率は、
年間人口10万人当り0.51人となっていて、
今回の統計では、
全年齢の1型糖尿病の発症率が、
年間10万人当り1.01人、
0から14歳の年齢層の発症率が10万人当り1.93人、
15から29歳が10万人当り1.28人、
30歳以上が0.69人となっていますから、
最近小児の1型糖尿病の発症率は、
増えているということも推察されます。

興味深いのは緯度との関連で、
0から14歳では北の地域ほど発症率は高くなっていましたが、
15歳以上ではそうした傾向は認められませんでした。
ウイルス感染の罹りやすさや、
食生活などの違い、
また人種差や遺伝子のタイプの差など、
色々な可能性はありますが、
特定の原因は判明していません。

1型糖尿病には2型とは異なる多くの特徴があり、
世界的に増加していることや、
成人発症例が以前想定されていたより遙かに多いことなど、
興味深い点は多く、
今後もこうした地域毎の特徴や傾向が、
その病態の解明には重要な手がかりになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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1日タバコ1本の心血管疾患リスクはどのくらいか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
夜に雪が降らないといいのですが…

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タバコ1本の心血管疾患リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
1日1から5本という少ない量の喫煙が、
心臓病や脳卒中のリスクに与える影響についての論文です。

タバコが健康に害のある習慣であることは、
これはもう間違いのない事実ですが、
その害がどのくらいの本数のタバコから生じるものか、
という点についてはまだ議論の余地を残しています。

喫煙による肺癌のリスクについては、
明確に増加するのは1日20本の喫煙を、
10年以上続けた場合です。
CTによる肺癌検診は、
欧米では概ね1日20本の喫煙を30年以上続けた喫煙者を、
主な対象としていますが、
これもその本数の蓄積が、
明確に肺癌のリスクを上昇させるからです。

従って肺癌のリスクということだけで考えると、
禁煙が無理でもタバコの本数をうんと減らせば、
極端に言えば毎日1本だけにすれば、
肺癌のリスクは喫煙をしない人と、
そう変わらない状態と言っても良いと思います。

しかし、タバコの害は肺癌だけではありません。

COPDのような肺の病気もあり、
肺癌以外の癌のリスクの増加もあり、
心臓病や脳卒中などの心血管疾患のリスクの増加もあります。

最近受動喫煙の害というものも、
強く言われるようになりましたが、
これは端的に言えば1日1本くらいの喫煙をすることと、
意味合いとしては大きく変わりません。

とすれば、
1日1本の喫煙でも、
病気のリスクに結び付くという可能性はある訳です。

それは実際にどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はこれまでの疫学データをまとめて解析した、
メタ解析の研究で、
トータルで55の論文に含まれている、
141の疫学データが対象となっています。

それをまとめて解析した結果として、
男性での虚血性心疾患のリスクは、
非喫煙者と比較して、
1日1本の喫煙者で1.48倍、
1日20本の喫煙者では2.04倍有意に増加していて、
これを関連する因子が補正されたデータに限ると、
1日1本の喫煙者で1.57倍、
1日20本の喫煙者で2.27倍とより高くなっていました。

同様に女性の虚血性心疾患のリスクは、
非喫煙者と比較して、
1日1本の喫煙者で1.57倍、
1日20本の喫煙者で2.84倍有意に増加していて、
これを関連する因子で補正されたデータに限ると、
1日1本の喫煙者で2.19倍、
1日20本の喫煙者で3.95倍と矢張りより高くなっていました。

脳卒中のリスクについてみると、
男性では非喫煙者と比較して、
1日1本の喫煙者で1.25倍、
1日20本の喫煙者で1.64倍有意に増加していて、
これを関連する因子で補正されたデータに限ると、
1日1本の喫煙者で1.30倍、
1日20本の喫煙者で1.56倍となっていました。

女性では同様に、
1日1本の喫煙者で1.31倍、
1日20本の喫煙者で2.16倍と脳卒中のリスクは有意に増加していて、
これを関連する因子を補正したデータに限ると、
1日1本の喫煙者で1.46倍、
1日20本の喫煙者で2.42倍と更に高くなっていました。

このように1日たった1本の喫煙でも、
心筋梗塞や脳卒中のリスクは、
非喫煙者と比較しても明確に高くなることが、
今回の解析では明らかになりました。

たった1本のタバコで、
それだけの影響があるのだとすると、
そのメカニズムはどのようなものなのでしょうか?
その点については上記文献にも説明はありませんし、
科学的に説明することは、
かなり難しいように思います。

本数は多いほどリスクは高まることは高まりますが、
用量依存ではなく蓄積効果ということでもないようです。
そうなると喫煙時の交感神経の緊張や血圧の上昇などが、
リスクとして想定されますが、
仮にそうであるとすると、
熱いお湯への入浴などの方が、
よりリスクが高いとも言えそうです。

このように、
データの解析自体は事実であるのでしょうが、
少量の喫煙や受動喫煙の害は、
最近の研究結果ではあまりに強調されていて、
それ自体あまり科学的ではないように思える部分もあります。

今回の結果などは喫煙以外に、
隠された交絡因子があると考えた方が、
説明し易いのではないでしょうか?

ただ、勿論喫煙が健康に害のあることは事実ですので、
本数を減らすより完全に禁煙することが、
求められること自体には僕も賛成です。

どうかその辺りは、
誤解のないようにお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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