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謎のレトロウイルスXMRVの発見とその顛末 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日は医学上の画期的な発見とされた、
ある不思議なウイルスと、
そのやや間抜けな謎についての話です。

まず、こちらをご覧下さい。
慢性疲労症候群とウイルス論文.jpg
2009年10月のScience誌に掲載された論文です。
勿論Science誌は超一流の科学誌です。
医学の専門誌ではありませんが、
臨床医学の論文も掲載されます。

論文の内容は、
慢性疲労症候群の患者さんにおいて、
その血液中に、
高率にXMRVと呼ばれるウイルスの感染が、
確認された、というものです。

XMRV(Xenotropic murine leukemia virus-related virus)
は異種指向性マウス白血病ウイルス関連ウイルスのことです。

マウス白血病ウイルスというのは、
ネズミの白血病を引き起こすウイルスのことで、
これはネズミの遺伝子に埋め込まれた、
所謂内在性レトロウイルスです。
レトロウイルスはHIVがその代表で、
自分のウイルスの遺伝子を、
人間の遺伝子に埋め込むようなタイプの、
感染をするウイルスです。

異種指向性というのは、
マウスの遺伝子に埋め込まれたウイルスが、
マウス同士ではなく、
マウスから人間に感染するという意味です。

動物の遺伝子の中には、
これまでの進化の過程で、
多くのウイルス遺伝子が、
埋め込まれているのですが、
そうしたウイルスの遺伝子が、
人間に感染することはないと、
通常は考えられていました。

ところが…

2006年にびっくりするような論文が発表されます。

人間の前立腺癌の組織から、
高率にこのXMRVが検出された、
というのです。

ある種のウイルスの感染が、
発癌の原因となることは知られています。

ネズミのウイルスであるXMRVが、
何らかの形で人間に感染し、
それが前立腺癌の原因ではないか、
という可能性が示唆されたのです。

その後、日本人の前立腺癌の患者さんでも、
同様にXMRVの感染が確認されました。

そして、次にこのXMRVと病気との関連性が指摘されたのが、
上記の論文における、
慢性疲労症候群との関連性だったのです。

健常者の4%、
慢性疲労症候群の67%で、
このウイルスが血液中から検出されたと言う結果でした。

慢性疲労症候群というのは、
全身のだるさや微熱などが持続する、
原因不明の疾患で、
ウイルスの持続感染が原因なのでは、
という説は以前からあったのですが、
ここまでクリアな結果が報告されたのは、
初めてのことでした。

それ以上に、
健常な方の血液からも、
数%このウイルスが検出された、
という事実は深刻です。

輸血ではXMRVのチェックはしていないのですから、
血液製剤を介して、
このウイルスの感染が、
広がっている可能性もあるからです。

ところが…

今年の11月には、
次のような論文が、
同じScience誌に掲載されました。
慢性疲労症候群とウイルス検証論文.jpg
これは上記の論文と同じ患者さんの検体を、
別の研究機関で再度分析した結果、
全ての患者さん及び健常者の検体から、
XMRVは検出されなかった、
というものです。

最初の論文が掲載されて以降、
多くの追試が試みられたのですが、
XMRVは何処からも検出されなかったのです。
どうもあの論文はおかしいのではないか、
という疑惑が高まり、
その疑念に答える形で、
Science誌上でも、
検証が行なわれたのです。

結果は失敗に終わりました。

そして、最終的に今月のScience誌において、
次のような恥ずかしい結論が掲載されました。
慢性疲労症候群論文取り下げ.jpg
Retractionは取り下げのことです。
つまり、最初の文献は、
誤りであるとして、
事実上抹消されたのです。

何故こんなことが起こったのでしょうか?

人間の血液には、
本当にXMRVの感染があるのでしょうか?
それともないのでしょうか?

Science誌という有難い権威を取り去って、
本来ある筈のないネズミのウイルスが、
人間の血液から検出された、
という結果だけをシンプルに考えると、
自ずと答えは見えて来ます。

遺伝子の実験では、
頻繁にネズミの遺伝子を使用します。
ネズミの細胞にウイルスを感染させたりもします。

これはつまり、
そうした研究室にはネズミの遺伝子の切れ端が、
そこらじゅうにあっておかしくはない、
ということを示しています。

ここまで来れば答えは簡単です。

本来あるべきではないことですが、
研究室に落ちていたようなウイルスの遺伝子が、
組み換えを起こして血液の検体に紛れ込み、
そして検出されたのです。

手に付いていたばい菌を、
培地にくっつけて培養してしまうようなものです。

感染は人間の体内で起こっていたのではなく、
実験室で起こっていたのです。

深刻なことには、
このウイルス遺伝子検出用の試薬自体が、
ウイルスに汚染されていて、
その試薬を使っただけで、
オートマチックにウイルスが検出されてしまうのです。

日本人で前立腺癌の患者さんに同ウイルスが検出された、
との報告は、
この試薬の汚染によるものとして、
これも撤回されています。
この報告は画期的なものとして当時は報道されましたが、
その恥ずかしい顛末は、
殆ど報道はされていません。

2006年の論文自体は撤回はされていませんが、
ネズミのレトロウイルスが人間に感染するという話自体が、
疑問視されていることは確かです。

科学者というのは、
常に新たな発見を求めているので、
自分の望む結果が出ると、
すぐに気付かないといけないような間抜けなミスも、
見落とし易い人種なのだということを、
テレビやネットで「画期的な発見」のような記事を読む時に、
僕達も時に考えてみる必要があるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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バセドウ病の新規再発マーカーについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バセドウ病の再発マーカー.jpg
今年のThyroid誌に掲載された、
バセドウ病の再発マーカーについての論文です。

隈病院と伊藤病院という日本を代表する甲状腺の専門病院と、
東京医科歯科大学と群馬大学という、
2つの大学病院との共同研究です。

バセドウ病は甲状腺機能亢進症を呈する、
代表的な自己免疫疾患ですが、
その治療についてはまだ確立されていないのが現状です。

治療法は抗甲状腺剤の内服と手術と放射線治療がありますが、
それぞれ一長一短があり、
患者さんにとってベスト、という方法がありません。

日本では海外と比べて抗甲状腺剤による内服の治療が、
選択されるケースが多く、
それも長期間漫然と継続されることが多いという特徴があります。
欧米のガイドラインにおいては、
1年半から2年程度の期間で内服を終了することが困難であれば、
手術もしくは放射線ヨードの治療にスイッチすることが推奨されていますが、
日本では場合によって10年以上抗甲状腺剤が継続されていたり、
一度は治療を終了しても、
再発を繰り返してその都度内服による治療が再開される、
というようなケースが、
実際には稀ではありません。

問題は再発をしやすい患者さんが、
明らかに存在しているのですが、
それを簡単に見分ける方法がないことと、
抗甲状腺剤による治療を終了する目安となる指標が、
あまり明確ではない点にあります。

一応極少量の抗甲状腺剤
(チアマゾールを隔日で5ミリが一応の目安)を、
半年間持続して甲状腺機能に動きがない場合に、
中止を考慮すると、
「バセドウ病治療ガイドライン2011」には記載をされていますが、
その根拠は1つの論文があるだけで、
それほど明確なものとは言えません。

今回の論文においては、
自己免疫疾患の重症度のマーカーとして注目をされている、
シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン1(SIGLEC1)遺伝子の発現量を、
バセドウ病の患者さんで測定し、
そのバセドウ病の再発のし易さとの関連を、
比較検証しています。

こちらをご覧ください。
SIGLEC1の再発マーカーとしての差.jpg
これはSIGLEC1遺伝子の発現量や血液濃度を、
バセドウ病の治療成功群と再発群とで比較したものですが、
治療後に再発した患者さんにおいては、
SIGLEC1遺伝子のリンパ球での発現量が、
治療成功群と比較して有意に増加していました。

ただ、この図でも分かるように、
数値にはかなりばらつきがあり、
明確に2つに分かれているようには見えません。

そこで統計的にどのくらいの数値を基準とするのが、
最も再発のしやすさのマーカーとなるかを計算したところ、
SIGLEC1遺伝子の発現量が258.9コピー以上を基準値として、
それ以上の場合をマーカー陽性とするのが、
最も再発のしやすさを予測出来る、
という結果が得られました。

こちらをご覧ください。
マーカーによる再発予測の図.jpg
右のグラフのTRAbというのは、
TSH受容体抗体と呼ばれる自己抗体で、
バセドウ病の重症度の指標として広く使用されているものです。

この数値が正常化することが、
これまで抗甲状腺剤による治療の終了の、
1つの重要な目安とされていましたが、
右のグラフでお分かりのように、
治療中止の時点でのTRAbが正常であっても異常であっても、
あまりその後の再発のし易さには、
影響をしていません。

一方で左のグラフは、
SIGLEC1遺伝子の発現量が、
258.9コピー以上であるか未満であるかで、
治療後の再発率を比較したものですが、
例数はトータルで55名ですからそれほど多くはないものの、
SIGLEC1遺伝子の発現量が少ないと、
明確にその後の再発が少ないことが分かります。

実際には再発した患者さんの9割はSIGLEC1の発現量が基準値以上で、
SIGLEC1はTRAbとは異なり、
治療経過の中であまり変動をしていないので、
治療開始の時点でこの遺伝子の発現量が多ければ、
再発のリスクは高そうだ、
ということは言えそうです。

ただ、治療後再発のない患者さんでも、
半数ではSIGLEC1遺伝子の発現量は基準値を超えていますから、
そうした患者さんでも抗甲状腺剤による治療が無効、
とまでは言い切れず、
実際にはこの指標だけで治療の中止を決定したり、
治療の選択に使用することは困難であるようにも思います。

このマーカーが本当にバセドウ病の治療において、
福音となるようなものであるのかはまだ分かりませんが、
バセドウ病の再発の基準となるような検査指標が、
殆どなかった現状を考えれば、
大きなトピックの1つであることは間違いがなく、
今後の研究の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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シベリア少女鉄道「残雪の轍 / キャンディポップベリージャム」 [演劇]

北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事も演劇の話題です。

それがこちら。
シベリア少女鉄道.jpg
最近メジャーな仕事が増えつつある、
オタクの仕事師土屋亮一さんが率いるシベリア少女鉄道の、
年末の特別公演的な新作公演が、
今池袋のサンシャイン劇場で上演されています。

今回はシベリア少女鉄道史上、
最も大きなキャパの会場での公演ですし、
エビ中の安本彩花さんと元ハロプロの中島早貴さんが、
ヒロインのツートップとして登場し、
実際に様々な形で対決を繰り広げるという、
祝祭的な公演でした。

セットもこれまでで一番豪華だったと思いますし、
シベリア少女鉄道が新たなステージに立ったことを、
印象付けるような公演となりました。

内容的にも悪くはなかったのですが、
かつての趣味的で万人向けとはとても言えない、
マニアックに作り込んだ作品と比較すると、
あまりに大衆的になり過ぎて、
ちょっと物足りない感じがすることもまた事実です。

でも、それはもう仕方のないことですし、
次回はまた小さな小屋なので、
マニアックな世界を期待するとして、
今回は土屋流の豪華なシチュエーションコメディ的、
後半は何でもありの世界を、
楽しめばそれで良いのかも知れません。

シベ少はネタが全てですから、
完全なネタバレは勿論しませんが、
少し内容には踏み込みますので、
以下は必ず鑑賞後にお読みください。

2本立てのような題名ですが、
実際には「残雪の轍」というプロローグが付いた、
「キャンディポップベリージャム」という内容で、
当然それがリンクするというお楽しみがあります。

本筋の部分は土屋さんがエビ中の公演用に書いた戯曲に、
良く似た構成になっていて、
女子寮でのサプライズパーティーのドタバタを扱ったものですが、
後半はそこにシベ少的なネタが投入され、
珍しく時事ネタが結構大きく扱われて、
ラストはかなりベタなオチで締めくくられます。

以前のシベ少の作品では、
後半ネタが投入されるまでの通常のお芝居の部分が、
あまりに稚拙で見るのがつらい感じがあったのですが、
今回などは通常のすれ違いのシチュエーションコメディとしても、
それなりに良く出来ていて、
通常のお芝居部分の要所でも、
自然な笑いが沸いていたのは、
これまでのシベ少にはあまりなかったことです。

役者としてもヒロインツートップは、
演技も出来て華もあるので申し分がありませんし、
脇のいつもの面々も、
篠崎茜さん、加藤雅人さん、小関えりかさんの辺りが、
とても安定感のある芝居をしているので、
普通のお芝居としても、
レベルが高いことに感心しました。

比較すると後半のいつものネタの畳掛けはやや淡白で、
盛り上がりに欠ける感はありました。
後、ラストはあまりにお子様向けみたいになってしまうので、
伏線の仕込みはさすがですが、
脱力する感じも少しありました。

いずれにしてもこれはこれで楽しむべきもので、
野暮を言っても仕方がありません。
これだけ豪華で出鱈目で馬鹿馬鹿しくも楽しい芝居もそうはないので、
是非お勧めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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チェルフィッチュ「三月の5日間」リクリエーション [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業が積み残されているので、
これからクリニックで仕事の予定です。

今日は日曜日なので趣味の話題です。
今日は2本あります。

まずはこちら。
3月の5日間.jpg
2003年のイラク戦争開戦時の東京での5日間を舞台とした、
2004年初演のチェルフィッシュの代表作「三月の5日間」が、
若手キャストのリクリエーションとして復活し、
今横浜のKAAT神奈川芸術劇場で上演されています。

僕は基本的にはチェルフィッチュは苦手で、
通常「だらしない」と表現されるような動きを、
執拗に繰り返しながら、
視線も定めずに熱量のない会話を、
これも執拗に繰り返すようなところが、
アングラ好きの世代としては、
どうも受け付けないところがあるのです。

ただ、最近は拒否反応は大分なくなりましたし、
その後の演劇に与えた影響力の大きさは、
間違いのないところだと思います。

この「三月の5日間」のオリジナルは、
映像で見ただけです。
イラク戦争が開始された三月の5日間を、
そのままラブホテルで連泊で過ごしたカップルと、
そこに至るまでのコンパに同席した男女が、
戦争反対のデモに参加していたエピソードなどを、
意識の流れというのか、
人間の心の思いつくまま、という感じに、
時間軸はバラバラにして、
個々のキャラクターの感情の赴くままに、
点描的に描いたもので、
政治的ではない無為な若者を、
批判しているように取れるところもあるのが、
「大人」に評価されるところなのではないかと思います。

2002年の松尾スズキさんの「業音」という芝居では、
ラブホテルで退廃の極みにあった男女が、
テレビでアメリカ同時多発テロの映像を見て、
訳も分からず暴走への衝動に駆られるという場面がありましたが、
個人的には同じ発想なのかな、
と感じましたし、
それなら僕は松尾さんの作品の方が好きだな、
というようには思うのですが、
「三月の5日間」もシンプルなスタイルとしては悪くなく、
分かりやすい点とその表現の独特さのバランスの良さが、
人気のあるポイントのようにも思います。

今回の作品は現在に合わせて大幅にリクリエーションする、
ということだったので、
今の時代にスライドさせるということなのかしら、
とちょっと危惧を感じたのですが、
実際にはキャストを若手に入れ替えて、
それに合わせて台詞も変えているのですが、
2003年の三月の5日間の出来事であることは同じで、
作品世界自体はほぼ同じ上演でした。

これはどうも駄目でした。

キャストにあまり魅力がなくて、
「この人を見ていたい」と思う瞬間がありませんし、
落ち着きがなく戯画化された動作が、
あまりその人の身体に溶け合っていない、
という気がしました。
特に意図的に目線を外して宙に漂わせるような感じが、
わざとらしい感じがしてどうも受け付けないのです。

2004年の時点では遠い世界の戦争と、
若者の自堕落な生活との対比や、
傍観者的な立場や自分の視点を外から眺めるような感じが、
それなりの意味を持ったのだと思うのですが、
戦争と生活との関係が大きく変わり、
もう傍観者的ではいられなくなった今という時代に、
この視点はあまりに生ぬるいな、
というようにも感じました。

ただ、作・演出の岡田利規さんも、
この作品に描かれた社会と人間との距離感と、
今の世界の距離感とが大きく異なっていることは、
百も承知であるはずで、
今回のリクリエーションはその距離感を図るための習作的なもので、
今後「今の時代」と向かい合う新作のクリエーションを、
見据えての作品なのだと思います。

今後の新作に期待をしたいと思います。

小劇場演劇に限定して言えば、
演劇はその時代と分かちがたく結びついているものなので、
時代を切り離しての再演は、
基本的には距離感を図る程度の意味しか、
持たないものなのだと実感しました。

それでは2本目に続きます。
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「エンドレス・ポエトリー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
エンドレス・ポエトリー.jpg
チリの出身で「エル・トポ」や「ホーリー・マウンテン」など、
奇怪で残酷でグロテスクで、
豊穣な想像力に満ちた映画を撮ったホドロフスキー監督の、
自伝的な映画「エンドレス・ポエトリー」が、
今ロードショー公開されています。

ホドロフスキー監督では、
個人的には「エル・トポ」が大好きで、
最初はウェスタン的設定から入り、
「ルパン三世」のようなテイストもあって、
後半は奇怪な宗教残酷劇にまで飛翔します。

今回の作品はホドロフスキーの自伝的な復活作、
「リアリティのダンス」の正統的な続編で、
青年期のホドロフスキーの若き芸術家の卵としての、
南米チリのサンティアゴでの生活が描かれ、
ラストは海を越えてヨーロッパへと旅立つところで終わります。

ラストには独裁者的で暴君の父親との、
和解の場面が用意されていて、
物語としてはとてもオーソドックスな仕上がりです。

ただ、オープニングから奇怪でグロテスクな場面が、
次々と展開され、最近では観ることの少ない、
「藝術家の妄想」系の映画として、
とても楽しく観ることが出来ました。

フェリーニの「アマルコルド」や、
寺山修司の「田園に死す」に近いイメージであり世界ですが、
イタリアや日本とはまた違う、
ドロドロと熱情がたぎるような、
南米の雰囲気が独特で、
鑑賞後はちょっと熱に浮かされたような気分になります。

実際のホドロフスキー監督が登場して、
かつての自分に指南をしますし、
かつての自分を演じているのも、
かつての自分の父親を演じているのも、
自分の実際の息子という、
究極の自己愛的映画ですから、
こういうものを受け付けない方には、
「何をやっているんだ馬鹿」という感想になるのだと思いますが、
最近はこういう堂々と「自分が大好きです」
というようなタイプの藝術家は少なくなりましたし、
ある意味父親以上の暴君として、
映画の世界を支配しているのですから、
これはもうとことん楽しむしかないのです。

フェリーニや寺山修司が好きな方には絶対のお薦めですし、
かつてのホドロフスキー監督作品のお好きな方にも、
派手さやギラギラした感じは大分減りましたが、
その映画愛と自己愛の強さは健在ですから、
お薦めしたいと思います。

好きです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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安定冠動脈疾患に対するリバーロキサバンとアスピリン併用の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リバーロキサバンとアスピリンの併用.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
安定冠動脈疾患の治療における、
抗凝固剤とアスピリンとの併用の効果についての論文です。

安定冠動脈疾患というのは、
急性の心筋梗塞やその前段階の不安定狭心症など、
急性冠症候群と呼ばれる急性期の状態を除いた、
継続的な治療が必要な全ての冠動脈疾患のことで、
通常重症の心不全なども除外されています。

こうした急性期を過ぎた冠動脈疾患において、
アスピリンのような抗血小板剤の使用が、
その後の急性冠症候群の予防に有効であることは、
多くの臨床データにおいて実証された事実です。

ただ、単独の抗血小板剤の使用だけでは、
その後の心血管イベントのリスクの低下は2割程度ですから、
症状の進行や再発の予防には、
不充分であることもまた事実です。

そこで複数の抗血小板剤や抗血小板剤の併用が、
治療の選択肢として試みられています。

ただ、薬を増やしたり強力に抗凝固を行なえば、
有害事象としての出血の増加が問題となります。

抗凝固剤のワルファリンとアスピリンの併用は、
アスピリン単独と比較して心筋梗塞のリスクを減らし、
死亡リスクも低下すると報告されていますが、
その一方で脳内出血を含む重篤な出血系合併症を増やします。

最近ワルファリンに代わって使用されることの多い、
直接作用型抗凝固剤とアスピリンの併用は、
重篤な出血系合併症がワルファリンより少ないと期待されましたが、
Ⅹa阻害剤のアピキサバンと抗血小板剤との併用は、
心血管イベントの減少の上乗せ効果はなく、
重篤な出血系合併症を増加させるという結果に終わりました。

今回の研究はアスピリンと用量を変えたリバーロキサバンという、
Ⅹa阻害剤との併用の効果をアスピリン単独と比較検証したものです。

対象は世界33か国の602の専門施設で治療を受けている、
トータル27395名の安定冠動脈疾患の患者さんで、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで3つの群に分けると、
第1群は1日100ミリグラムのアスピリン単独、
第2群はアスピリンとリバーロキサバン2.5ミリの1日2回使用、
第3群はリバーロキサバン5ミリの1日2回使用を行ない、
平均1.95年の観察期間中の、
心筋梗塞や脳卒中、
心血管疾患による死亡のリスクとの関連を検証しています。

その結果、
アスピリンの単独と比較して、
アスピリンとリバーロキサバン少量との併用は、
心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡を併せたリスクを、
26%(95%CI; 0.65から0.86)有意に低下させていました。

一方でリバーロキサバン単独治療は、
アスピリン単独と比較して、
有意に予後を改善しませんでした。

アスピリン単独と比較して、
リバーロキサバンとアスピリンとの併用は、
出血系合併症を1.66倍(95%CI; 1.37から2.03)、
有意に増加させていました。
出血は主に消化管出血でした。

そして、リバーロキサバンとアスピリンの併用は、
アスピリン単独と比較して、
総死亡のリスクも23%(95%CI; 0.65から0.90)
有意に低下させていました。

このようにリバーロキサバン少量とアスピリンとの併用は、
アスピリン単独と比較して、
安定冠動脈疾患の予後を改善し、
生命予後も改善していました。

しかし、出血系の合併症が増加することも事実で、
より長期の観察期間で検証すると、
また別の結果が出るという可能性もあります。
欧米と比較して日本では脳出血の発症は多いですから、
この結果をそのまま日本の臨床に適応することも、
まだ時期尚早ではないかと思います。

リバーロキサバンは心房細動などへの通常用量の使用では、
他の同種の薬剤と比較しての有効性が低く、
出血系の合併症のリスクも高いなど、
最近あまり良いデータがないのですが、
今回は低用量をアスピリンと併用しているというのがポイントです。
ただ、他の同種の薬剤でも同じような検証をして比較しないと、
それがリバーロキサバンの特性であるのかどうかは、
何とも言えません。

アスピリンと他の抗凝固剤の安定冠動脈疾患への併用は、
多くの臨床試験はありながらまだ結論は出ておらず、
今後もより厳密な検証の積み重ねを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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抗凝固剤の脳卒中予防のメタ解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワルファリンとDOACの比較メタ解析.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心房細動の患者さんに対する抗凝固剤の効果を比較した論文です。

心房細動という非常に頻度の高い不整脈があり、
左心房という部分に血栓が発生しやすくなるため、
脳塞栓というタイプの脳卒中を起こす原因となります。

そのために抗凝固剤という血栓を出来にくくする薬が、
脳卒中の予防のために使用されます。

この目的で広く使用されて来た薬剤がワルファリンです。

ワルファリンの脳卒中予防の有効性は確立されていますが、
ビタミンKの関連する経路を妨害するという性質から、
納豆などビタミンKを多く含む食品の制限が必要で、
他の薬剤との相互作用も非常に多いため、
その効果が不安定になりやすいという欠点があります。

その調節はPT-INRという血液検査の数値を、
概ね2.0から3.0を目標として量の調整がされますが、
微調整は意外に難しく、
数値が低ければ効果が充分発揮されない一方で、
数値が高ければ有害事象としての出血のリスクが増加します。

最近相次いで発売された、
直接作用型抗凝固剤(呼び名は他にもあり)は、
ワルファリンとは別の機序で同等の効果を得られる薬剤で、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、エドキサバン(商品名リクシアナ)が、
現在日本でも使用可能です。

ワルファリンと比較すると薬物相互作用が少なく、
ビタミンKにも影響されないので
食事や併用薬の制限が殆どありません。
また効果が安定しているので使用量の調節も、
殆ど必要ありません。
臨床試験の段階では、
出血系の有害事象もワルファリンより少ないと報告されました。

このように発売時はいいことづくめと思われた新薬ですが、
実際に使用が拡大してみると、
出血系の有害事象は決してワルファリンより少ないとは言えず、
報告によってはむしろ多いというものもありました。
効果は安定していると思われましたが、
腎機能が低下するとその影響を受け、
有害事象が重篤化する傾向も認められました。
有効性についても、
コントロールが良好のワルファリンより優れているということはなく、
薬の値段としては新薬が格段に高いということを考えると、
医療経済的にもどちらを選ぶのが適切かは、
難しい選択になります。

そこで個別の薬剤のデータではなく、
総合的な見地から、
その有効性や安全性、また経済性の観点から、
どの薬が最も優れているのかを比較検証することが、
今後の治療指針のためには重要と考えられます。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析して、
ネットワークメタ解析という手法を用いて、
薬剤相互の比較を推定したものです。

23の介入試験の94656名のデータをまとめて解析した結果として、
ワルファリンとの比較において、
アピキサバン(5mg1日2回)は21%(95%CI; 0.66から0.94)、
ダビガトラン(150mg1日2回)は35%(95%CI; 0.52から0.81)、
それぞれ有意に脳卒中もしくは全身の血栓症のリスクを低下させていました。
エドキサバン(60㎎1日1回)とリバーロキサバン(20㎎1日1回)は、
低下させる傾向を示したものの有意ではありませんでした。

ダビガトラン(150mg1日2回)との比較において、
エドキサバン(60mg1日1回)は1.33倍(95%CI; 1.02から1.75)、
リバーロキサバン(20㎎1日1回)は1.35倍(95%CI; 1.03から1.78)、
それぞれ有意に脳卒中や血栓症発症リスクが高い、
という逆の結果になっていました。

総死亡のリスクについては、
ワルファリンより4種全ての直接作用型抗凝固剤が、
有意に低下させていました。

出血系の合併症のリスクは、
ワルファリンと比較して、
アピキサバン(5mg1日2回)は29%(95%CI; 0.61から0.81)、
ダビガトラン(110㎎1日2回)は20%(95%CI; 0.69から0.93)、
エドキサバン(30㎎1日1回)は54%(95%CI; 0.40から0.54)、
エドキサバン(60㎎1日1回)は22%(95%CI; 0.69から0.90)、
それぞれ有意に低下していました。

アピキサバン(5㎎1日2回)と比較して、
ダビガトラン(150㎎1日2回)は1.33倍(95%CI; 1.09から1.62)、
リバーロキサバン(20㎎1日2回)は1.45倍(95%CI; 1.19から1.78)、
出血系合併症が有意に増加していました。
また、エドキサバン(60㎎1日1回)と比較して、
リバーロキサバン(20㎎1日2回)は1.31倍(95%CI; 1.07から1.59)、
出血系合併症が有意に増加していました。

このようにトータルに見ると、
ワルファリンと比較して特に生命予後や出血系合併症のリスクについては、
直接作用型抗凝固剤の方が優れている可能性が高い、
とは言えそうです。
その脳卒中予防効果については、
エドキサバンとリバーロキサバンはやや落ちると見られ、
出血系の合併症が通常用量においてもワルファリンより低いのは、
アピキサバンとエドキサバンと言って良いようです。

これはあくまで間接的な比較なので、
今後より直接的な直接作用型抗凝固剤相互の比較を行い、
その有効性と安全性が検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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第27回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
それがこちら。
27回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
12月16日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「風邪の正しい対処法」です。

先週からクリニックの周辺でも、
インフルエンザの流行が本格化して来ています。

インフルエンザは風邪でしょうか?

そうであるとも言え、そうでないとも言えます。

戦前にはインフルエンザは「流行性感冒」と言われていて、
感冒と風邪とは今の語感としてはほぼ同じですから、
その意味ではインフルエンザは風邪の一種です。

しかし、風邪とか感冒というのは、
特定の診断や治療がなく、
通常は経過も良好で自然に改善する、
軽症の症状のことを指している、
と言う側面もありますから、
その意味では「インフルエンザは風邪ではない」
という言い方もまた可能です。

医者も結構気軽に「風邪」と言ったり、
「風邪に抗生物質を使うのはヤブ医者だ」
というようなことを平気で言ったりもしますが、
その定義は実際には曖昧模糊としています。

「風邪(ふうじゃ)」という漢字は、
平安時代には既に使用されていた古い概念で、
「全ての病気は風という形を借りて外から入って来る」
というような意味合いです。
「風邪は万病のもと」というのもそもそもはそうした意味で、
外因性の全ての病気の元になっているものが「風邪」です。

したがって、これは西洋にはない、
ちょっと特殊な観念なのです。

一方で「感冒」という言葉は、
現代中国語でも使われていて、
英語の「Common Cold」に近い概念です。
おそらくは日本では明治時代に、
海外の概念の翻訳のために導入された用語と思われます。
中国語の「感冒」には、
感染する、に近い意味も含まれています。

このように風邪の概念自体が一筋縄ではいかないものですが、
個人的には東洋独特の「風邪」の概念により興味があり、
今回はそうしたことと科学との関連を含めて、
風邪との付き合い方を風邪のシーズンに考えたいと思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。
ご参加は無料です。

参加希望の方は、
12月14日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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骨粗鬆症治療薬の直接比較(テリパラチドとリセドロネート) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テリパラチドとリセドロネートの直接比較.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
有効性の高い治療薬として使用されている、
2種類の骨粗鬆症治療薬の効果を、
直接比較した論文です。

現状最も広く使用されている閉経後の骨粗鬆症治療薬は、
ビスフォスフォネートという強力な骨吸収の抑制剤で、
その効果は今回対象薬となっている、
リセドロネート(商品名アクトネル、ベネットなど)のデータでは、
2から3年の継続的使用で、
トータルな骨折のリスクを4割程度減少させています。

一方でより強力な骨吸収の抑制剤として、
抗RANKL抗体という注射薬があり、
その1つであるデノスマブの効果は、
3年間で背骨の骨折のリスクを68%、
股関節の骨折のリスクを40%低下させた、
というデータが発表されています。

また別のメカニズムを持つ注射薬として、
骨形成を促進させる作用を持つ、
副甲状腺ホルモンの誘導体の注射薬があり、
その1つである週1回の注射のテリパラチド(商品名テリボンなど)は、
18か月の使用で新規骨折のリスクを70%以上低下させている、
というデータが報告されています。

こうしたデータからは、
ビスフォスフォネートより、
デノスマブやテリパラチドの方が、
骨折リスクの高いような高齢者では、
有用性が高いように思われます。

ただ、骨折のリスクを評価の項目とした、
厳密な方法でのこうした薬剤の直接比較の試験は、
実際にはこれまであまり行われていませんでした。

今回の研究では偽薬や偽の注射を使用した厳密な方法で、
今後の骨折のリスクが高い閉経後の女性に対する、
テリパラチドとリセドロネートの骨折予防効果を、
比較検証しています。

対象は骨量がTスコアで-1.50以下に低下していて、
脊椎の圧迫骨折の既往のある閉経後の女性、
トータル680名で、
本人にも治療者にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はリセドロネートを週に1回35ミリ内服し、
もう一方はテリパラチドを1日1回20μg皮下注射して、
2年間の治療を継続して、
その間の骨折の頻度を比較検証しています。

この用量はリセドロネートは日本では17.5ミリですから、
試験で使用された量の半分で、
テリパラチドは週1回56.5μgの皮下注射ですから、
使用法自体が異なります。
どちらが選ばれたのかは分からないように、
偽の注射と偽の薬が使用されています。

その結果、
2年間の治療期間中に、
新規の背骨の骨折が、
リセドロネート群では12.0%に当たる64名に発症したのに対して、
テリパラチド群では5.4%に当たる28名に発症していて、
テリパラチドはリセドロネートと比較して、
背骨の骨折のリスクを56%(95%CI; 0.29から0.68)、
有意に低下させていました。

臨床的な骨折のリスクも、
テリパラチド群では52%(95%CI; 0.32から0.74)、
リセドロネートと比較して有意に低下していました。

一方で脊椎以外の脆弱性骨折については、
両群で有意差はありませんでした。

このように、骨折のリスクの高い骨粗鬆症の患者さんの骨折予防については、
2年間くらいの治療期間において、
テリパラチドによる治療がリセドロネートと比較して、
有意に優れているという結果が得られました。
そのリスクの差は特に背骨の圧迫骨折の予防において顕著なので、
この結果のみをもってテリパラチドを第一選択で使用するべき、
とまでは思いませんが、
今後の治療選択の1つの重要な手がかりとしての有用性は、
あるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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日本人のピロリ菌感染率の推移(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ピロリ菌感染の日本人の頻度.jpg
今年のScientific Reports誌に掲載された、
1908年から2003年に生まれた日本人のピロリ菌感染率を、
これまでの疫学データをまとめて解析して、
総合的に検証した論文です。
愛知医科大学の研究者による解析です。

ピロリ菌という細菌の感染が胃の粘膜で持続することにより、
萎縮性胃炎が進行し、
胃癌のリスクが増加することは広く知られている知見で、
このために健康保険において、
一定の要件を満たす場合には、
抗生物質や胃酸の抑制剤を組み合わせた、
ピロリ菌の除菌治療が認められています。

ピロリ菌の感染は、
井戸水の飲用や食事を口移しで与えることなどで、
小児期に感染が成立すると推定されていて、
そのためアジアなどの衛生状況が悪い地域で、
感染率が高いと報告されています。

日本においても高齢者では感染率が高く、
若年者では年齢が低いほど低くなることが複数報告されていますが、
報告によってもその頻度にはばらつきがあり、
対象人数も充分でないなど、
トータルな感染率を云々するには、
不充分なものしかありませんでした。

今回のデータはこれまで発表された疫学データをまとめて解析する、
一般化加法混合モデルによる重回帰分析という手法で、
日本人の出生年齢毎のピロリ菌感染率を提示しています。

こちらをご覧ください。
ピロリ菌感染率の図.jpg
横軸は出生年齢で縦軸がピロリ菌の感染率です。
出生年齢が1930年代以降、
年齢が下る毎に予測された感染率が低下していることが分かります。

具体的には、
出生年齢が1910年が60.9%(95%CI; 56.3から65.4)、
1920年が65.9%(95%CI; 63.9から67.9)、
1930年が67.4%(95%CI; 66.0から68.7)、
1940年が64.1%(95%CI; 63.1から65.1)、
1950年が59.1%(95%CI; 58.2から60.0)、
1960年が49.1%(95%CI; 49.0 から49.2)、
1970年が34.9%(95%CI; 34.0から35.8)、
1980年が24.6%(95%CI; 23.5から25.8)、
1990年が15.6%(95%CI; 14.0から17.3)、
2000年が6.6%(95%CI; 4.8から8.9)となっています。

実際の文献では1年刻みでの予測値が記載されていて、
皆さんが生まれた年のピロリ菌感染率を、
知ることが出来るようになっています。

これはあくまで予測値なので、
それが実際であるという訳ではないのですが、
ここまでまとまったものはこれまでにはなかったと思いますし、
現状では一定の信頼のおけるものと考えて良いと思います。

この劇的なピロリ菌感染率の低下が、
今後の胃癌の罹患率の低下にどの程度反映されるのかは、
まだ今後の課題だと思いますが、
その点についても今後のトータルな検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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