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日本のラジオ「カーテン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
カーテン.jpg
「日本のラジオ」という劇団の新作「カーテン」を、
三鷹市芸術文化センター星のホールで観劇しました。
この劇場で毎年企画されている、
注目の若手劇団シリーズの1本です。

これは正直に言うと物凄く詰まらなくて、
最近久しぶりに「しまった。時間を完全に無駄にした!」
という絶望感と敗北感に苛まれることになりました。

上演中にそんな感想を書くのは失礼なので、
書かなかったのですが、
もう公演は終わっていますので、
率直な感想を書きたいと思います。

以下ほぼ全て悪口ですので、
この劇団がお好きな方や、
この公演を見られて気に入ったというような方は、
ご不快に思われたら申し訳ありません。
色々な感想があるということで、
ご容赦頂ければ幸いです。

お芝居の内容は結構意欲的なもので、
沖縄をモチーフにした架空の島が舞台となっています。
そこでは本土から独立しようとする過激派がいて、
その集団が島の劇場を占拠して、
収監されている同志の解放を要求する事件を起こします。

観客には予めその事件に関する、
パンフレットを兼ねた詳細な資料が配布されていて、
事件は4日目に軍の特殊部隊の突入により終結し、
テロリストは全員射殺、
人質のうち33名も窒息死した、
という経過が書かれています。

劇場は素舞台の側が仮設の客席となっていて、
観客は裏手から誘導されて、
通常の舞台上に座ります。
観客の目の前には舞台と客席を分ける緞帳が下がっています。

緞帳が開くと、
客席を見下ろす格好になり、
何の装飾もない客席のあちこちに、
布の頭巾を被せられた役者さんが腰を下ろしていて、
2人のテロリスト役の役者さんが、
自分達の主張の記録動画を撮っているところが見え、
そこから物語が始まります。

確かにその一瞬はなかなか刺激的で面白いのです。

客席から舞台を見上げる代わりに、
客席という舞台を見下ろすという恰好になりますし、
客席をそのまま舞台装置にする、
という発想も斬新です。
そこに頭巾で顔を隠した役者さんが、
ズラリと並んでいるのも異様な感じがします。

ただ、1時間半の上演時間中、
舞台(実際には客席)の風景には、
全く変化が見られず、
役者さんが自分達のパートでは頭巾を脱ぎ、
自分達のパートが終わると頭巾を被って、
不特定の人質に代わる、
という繰り返しが、
延々と続くだけです。

リアルにそこを劇場として見せたいのかと思うと、
必ずしもそうではなく、
テロリストの持っている銃や爆弾も、
簡素な小道具と見えるものになっていますし、
結果として生き残った人質という設定かと思いますが、
人質役の役者さんが、
もう事件が終わった後の時制から、
過去を振り返るような独白をセリフに挟んだりもしています。

パンフレットに書かれている事件の経過のうち、
占拠事件の翌日から舞台はスタートし、
軍の特殊部隊が突入する寸前で、
物語は終了します。

つまり、基本的に劇的なことや大きく状況が動くという場面については、
舞台上では描かれず、
テロリストと人質との、
ある種淡々とした「日常」の部分のみが描かれます。

これはまあ、平田オリザさんや岩松了さんの劇作に、
基本的には近いスタイルのものだと思います。
また素材自体で言えば、
TRASHMASTERSや劇団チョコレートケーキ辺りに、
近いという印象です。

ただ、平田さんや岩松さんの劇作であれば、
客席と舞台を入れ替えるというような無理はせず、
オーソドックスに安心出来るような舞台を作り、
展開されるドラマ自体に観客の意識を集中させたと思いますし、
人物描写はもっと繊細かつ緻密に紡がれて、
舞台上で実際には描かれない部分にも、
もっと魅力があったのではないかと思います。

一方でTRASHMASTERSであれば、
言葉の暴力を含めて暴力的な闘争はもっと凄味を持って描かれ、
強烈なテンションに貫かれた作品になったと思いますし、
劇団チョコレートケーキであれば、
人物のディテールはもっとリアルに磨かれ、
重厚でリアルな作品となったのではないかと思います。

ただ、劇作自体は、
やや平凡でパンチの効かないものではあっても、
そう悪くはなかったと思うのです。

この芝居がたとえばスズナリ辺りで、
オーソドックスな演出で上演されれば、
「あまり面白くはないけど、まあこんなものかな」
というくらいの感想だったと思います。

問題は演出です。

この作品で客席と舞台を逆転させた意味は何処にあるのでしょうか?

観客は簡易の椅子でとても居心地は悪く、
客席から舞台の距離も不必要に遠くなっています。
舞台面に全編全く変化がなく、
音効効果や照明効果も全くないので、
とても単調で退屈を感じます。

確かに緞帳が上がった瞬間はインパクトがありますが、
そんなものは数秒で終わる性質のものです。

たとえば観客を人質に見立てるというような、
明確な意図があればそれでも良いですし、
通常の舞台と客席では得られない臨場感を、
感じさせるような作品であれば、
それはそれで良いと思うのですが、
前述のように設定はリアルではなく、
平田オリザさんのスタイルに近いような台詞劇なので、
観客は無理をして舞台に意識を合わせるような気分になり、
無用に集中して舞台を見ないといけない羽目に陥ります。

これはいくら何でも観客に失礼ではないでしょうか?

せっかく設備の整った劇場に招聘されての公演なのですから、
ワンアイデアで押し切るのではなく、
もう少し手間と時間とお金を掛けて、
演出に変化を付けるべきではなかったのでしょうか?

パンフレット自体は出来の良いもので、
背景の説明は全てそこで済ませて、
そこにない余白の部分を演劇化する、
という趣向は良いと思うのです。
しかし、そうした発想であれば、
舞台自体はもっとオーソドックスな作りにした方が、
間違いなく良かったと思います。

その一方でもっと滅茶苦茶で前衛的な舞台にしたいのであれば、
ディテールを固める必要などあまりなかったと思いますし、
もっと過激で押して欲しかったと思います。
客席と舞台を反転させるという仕掛けを最初にしておきながら、
その後は1時間半、
ただおとなしく居心地の悪い椅子に座って、
平田オリザさん的舞台を見続けるだけ、
というのはいくら何でもおかしいと思うのです。

これでは、
単純に舞台予算を削減するための演出と言われても、
仕方がないもののように思いました。

今回の芝居で舞台と客席の交換、
という趣向を外してしまうと、
音効も照明もなくセットもない素舞台での芝居、
ということになり、
それは余程の覚悟がなければ、
手抜き以外の何物でもないからです。

劇団のサイトを見ると、
あまり劇場では公演は行わず、
音効や照明も極力使用しない、
と書かれているので、
いつもの通りだったのかも知れません。
今回の芝居でも、
たとえば施設の通路や中庭での公演であれば、
これでも良かったと思いますが、
通常の設備のある劇場を使用してお金を取っておいて、
この使い方は有り得ないように思うのです。

役者の肉体さえあれば何処でも芝居は成立する、
まあそれは確かにそうでしょう、
しかし、今回の芝居に登場した肉体に、
そうした覚悟や凄味はなかったように思います。
何も装飾のない芝居を成立させてお金を取ることは、
一部の天才のなし得る境地で、
そうしたことは滅多にはないからこそ、
多くの劇団は照明や音効やセットに頼るのではないでしょうか?

僕は最低でも同じ劇団の芝居は、
2回から3回は観に行くようにしているのですが、
さすがにこれだけ辛い経験をすると、
もう一度見る元気は、
なかなか起こって来ないのが実際です。

ただ、その一方で僕はデタラメな芝居、
観客を置き去りにしたような芝居も嫌いではなく、
以前にも「なんだこれはひどいな」と思って、
意外にそうした劇団がその後急成長、
というようなことも何度も経験しているので
(僕にとってはケラさんの芝居もそうでした)、
次はビックリ素晴らしい芝居、
というようなこともないとは言えないと思うのです。

おそらくはこの劇団の皆さんにも、
皆さんなりの狙いがあり、
意地があるのだと思うので、
今後の活躍を期待したいと思います。

頑張って下さい。

ただ、最後に1つだけ言いたいことは、
詰まらないお芝居ほど多くの娯楽の中で苦痛なものはなく、
一度そうした芝居を見てしまうと、
お芝居や演劇というもの自体が、
その後一生嫌いになってしまうことがあり、
そうした芝居嫌いの人を僕自身沢山知っているので、
これが地下の小劇場や、
余程の好き者しか行かないような場所での公演であれば良いのですが、
今回のような、
公的な劇場で若手の良いお芝居を集めました、
というような企画の場合には、
演じる側も、
観客の中にはお芝居を見るのが初めてという人もいて、
そうした観客にとっては、
この機会が一期一会で、
この芝居が面白いかどうかが、
その後の演劇に対する姿勢を決定することもある、
ということは是非念頭において欲しいと思うのです。
要するに何にせよTPOということはあるのではないか、
というのが僕の唯一言いたかったことです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高リン食による老化のメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リンによる老化のメカニズム.jpg
今年のScientific Reports誌に掲載された、
高リン食による老化のメカニズムを、
ネズミの実験で検証した論文です。
慶應義塾大学の宮本健史先生らのグループによる研究です。

最近老化のメカニズムとの関連で注目されているのが、
血液のリン濃度と老化の進行との関連です。

リンはカルシウムに次いで身体に多いミネラルで、
その多くは骨の構成成分としてカルシウムと共に存在しています。
身体には副甲状腺ホルモンと言って、
血液のカルシウムを上昇させてリンを低下させる、
という役割を持つホルモンがあり、
このためカルシウムとリンの比率(カルシウム・リン積として表現される)は、
ほぼ一定に維持されるような仕組みになっています。

これ以外に血液のリン濃度が上昇した時に、
リンを単独で低下させる物質として、
FGF23という物質が高リン食で増加することも、
最近分かって来ています。

さて、カルシウム・リン積が増加すると、
血管の壁や皮下などに石灰化が起こることは分かっていましたが、
老化とリンとに関連があるとの知見が広まったのは、
抗老化遺伝子として同定されたKlotho遺伝子が欠損して、
全身の老化や動脈硬化が急激に進行しているネズミでは、
血液のリン濃度が著明に増加していて、
血液のリン濃度を正常化すると、
老化の促進の多くが抑制される、
という研究結果が発表されてからです。

どうやらリンを適切に身体から排泄するシステムが壊れ、
過剰なリンが身体にたまると、
それが老化を促進する大きな因子となることは、
ほぼ間違いがなさそうなのです。

しかし、リンと老化との間にどのような関連があり、
それがKlotho遺伝子とどのような関連を持っているのか、
といった詳細はまだ不明のままなのです。

今回の論文はそのミッシングリンクにメスを入れたもので、
Enpp1という遺伝子が、
そこを介在しているのではないか、という結果になっています。

動脈硬化などで起こる身体の病的な石灰化は、
老化現象の大きなシグナルの1つですが、
この石灰化はカルシウムと無機リンから形成されたハイドロキシアパタイトが、
コラーゲン繊維に沈着することにより起こります。
一方でその石灰化を抑制しているのがピロリン酸という物質で、
その産生を促進するのがEnpp1という酵素です。

ピロリン酸はリン酸が2つ結合した化合物です。
それが行き過ぎた骨化を抑制するようなスイッチの働きをしているのです。
リンが過剰になると異所性石灰化が起こり易くなり、
それを同じリンの化合物が止める働きをして、
身体のバランスを保っているのです。

このEnpp1遺伝子が欠損すると、
正常な骨の石灰化が起こらなくなります。
人間の遺伝性低リン性骨軟化症という病気がありますが、
この病気ではEnpp1遺伝子が正常に働かないような変異があることが、
確認をされています。

上記論文の著者らは、
Klotho遺伝子による老化の抑制が、
一部はEnpp1を介しているのではないかとの推測の元に、
Enpp1遺伝子が欠損しているネズミに高リン食の負荷を行ない、
その全身に与える影響を、
Enpp1が通常に機能しているネズミと比較検証しています。

その結果…

Enpp1遺伝子が欠損しているネズミに、
高リン食の負荷を行なうと、
Klotho遺伝子が欠損しているネズミと非常に似通った、
加齢が促進されたような変化が起こり、
異所性の石灰化は促進されて、
動脈硬化や骨粗鬆症が進行、
寿命も短縮してしまいます。

ややトリッキーですが、
Enpp1遺伝子の欠損ではなく、
別の遺伝子の欠損による骨軟化症のモデル動物のネズミで、
同様の高リン食負荷を行なっても、
老化の進行に結び付くような変化は見られませんでした。

ここでEnpp1遺伝子の欠損による変化をみてみると、
高リン食の負荷により、
リンを下げる働きを持つFGF23と、
リンを取り込んで正常な骨を作る活性型ビタミンD(1,25OH2D3)が、
共に過剰に産生されて、
これはKlotho遺伝子の活性低下に伴うものの可能性が高い、
という結果になっています。

こちらをご覧下さい。
高リン食への対応正常.jpg
これはEnpp1が正常に働いている場合の、
生体内でのリンの調整メカニズムを示しています。

余分なリンを身体から排泄する仕組みの主体は、
FGF23というホルモンにあります。
血液の無機リン濃度が上昇すると、
骨細胞からFGF23が産生されます。
このFGF23 は腎臓にある受容体に結合しますが、
そこではEnpp1で刺激されるKlothoが受容体とリンクしていて、
これがCyp27という酵素を抑制し、
ビタミンDの活性化を阻害するので活性型ビタミンDは低下、
消化管からのリンの吸収が抑えられて、
リンの上昇にストップが掛かります。
FGF23は尿細管からのリンの再吸収も抑制しますから、
その2つの働きにより、
リンは排泄されて定常状態に戻るのです。

それでは次を御覧ください。
高リン食への対応異常.jpg
これはEnpp1が何等かの原因で働かない場合の、
高リン血症時の身体の働きを見たものです。

リン濃度の上昇により、
骨からはFGF23が産生されますが、
Enpp1の働きがなくなることで、
Klothoの活性が落ち、
Cyp27の抑制もされないために。
活性型ビタミンDが過剰に産生されてしまいます。
このビタミンDがリンの吸収を促進するので、
リンの過剰は悪循環に陥るということになります。

このリンが過剰である状態での活性型ビタミンDの過剰産生が、
異所性の石灰化に結び付き、
老化促進の要因にもなっているのではないか、
という仮説です。

今回の結果は1種類の特殊な実験動物でのものなので、
それが人間でも当て嵌まることであるのかどうかは、
現時点では何とも言えません。
他の矢張りEnpp1が欠損したモデル動物では、
高リン食でも異所性石灰化は見られなかった、
というような報告もあり、
今後より詳細な検証が必要であるように思います。

いずれにしても、
リンが生体内で過剰に存在するかどうかで、
石灰化に関わる身体の仕組みが変化し、
それが老化に結び付いているという知見は興味深く、
老化とリンとの関連は、
これからも大きなトピックであることは、
間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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抗凝固剤の使用と血尿との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗凝固剤と血尿との関連について.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
抗凝固剤の有害事象としての血尿のリスクについての論文です。

アスピリンなどの抗血小板剤や、
ワルファリン、ダビガトランなどの抗凝固剤は、
心血管疾患の予防薬として、
また心房細動による脳梗塞の予防や、
静脈血栓症に伴う肺塞栓症の予防薬として、
幅広く使用され、
その有用性が確認されている薬剤です。

その副作用として最も多いのが、
胃潰瘍や脳出血などの出血系の合併症です。

このうち、
消化管出血や脳出血については、
そのリスクはよく調べられていてデータも多いのですが、
その頻度が少なく比較的軽症に留まる場合が多い、
という判断からか、
あまり触れられることがないのが血尿などの泌尿器科系の出血です。

ただ、実際には血尿が止まらずに入院に至るというケースもあり、
抗凝固剤を中止せざるを得ないケースも、
実際には相当数あると思われます。

今回の研究はカナダのオンタリオ州において、
66歳以上の全人口を対象とした非常に大規模なもので、
2518064名が対象となり、
そのうちの808897名が何等かの抗血小板剤か抗凝固剤を使用していました。
これは1回でもそうした処方が出た人はカウントされています。
観察期間の中央値は7.3年です。

全く抗血小板剤や抗凝固剤を使用していない場合の、
血尿に伴う救急受診と入院、
そして泌尿器科的処置を併せた頻度は、
年間1000人当たり80.17件であったのに対して、
こうした薬を一回でも使用している場合には、
年間1000人当たり123.95件と有意に増加していました。

未使用の場合と比較して、
アスピリンなどの抗血小板剤のリスクは、
1.31倍(95%CI; 1.29から1.33)、
ワルファリンやダビガトランなどの抗凝固剤のリスクは、
1.55倍(95%CI; 1.52から1.59)、
両者を併用した倍は格段に高く、
10.48倍(95%CI; 8.16から13.45)となっていました。

こうした薬剤未使用の場合と比較して、
1種類でも使用していると、
その後半年に膀胱癌と診断されるリスクは、
1.85倍(95%CI: 1.79から1.92)有意に高くなっていました。

このように、
抗血小板剤や抗凝固剤の使用により、
他の出血系のリスクと同様、
血尿による入院などのリスクが増加することは間違いがなく、
それは特に2種類以上の薬の併用で顕著となっています。
膀胱癌の増加は、
薬が癌を誘発したのではなく、
血尿よりその二次検査が行われるので、
そのために見かけ上診断が増加したものと想定されます。

比較的軽症例が多いので、
やや軽視されがちですが、
抗血小板剤や抗凝固剤が、
泌尿器科系の出血リスクを増すことも間違いはなく、
そうした薬の使用時には、
血尿の有無にも注意を払う必要があるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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非ビタミンK阻害抗凝固剤の併用薬と出血リスクとの関連(台湾の大規模研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
NOACの併用薬と出血リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
最近多く使用されている経口抗凝固剤と、
その併用薬による出血リスクについての論文です。

心房細動という年齢と共に増加する不整脈があり、
特に慢性に見られる場合には心臓内に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まることにより、
脳塞栓症という脳梗塞を発症します。

これを予防するために、
抗凝固剤と呼ばれる薬が使用されいます。

この目的で古くから使用されているのがワルファリンです。

ワルファリンは非常に優れた薬ですが、
納豆が食べられないなど食事に制限が必要で、
定期的に血液検査を行って、
量の調節を行う必要があります。

こうしたワルファリンの欠点を克服する薬として、
2011年以降に日本でも使用が開始されているのが、
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
非ビタミンK阻害抗凝固剤と呼ばれる一連の薬剤です。

直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。

この非ビタミンK阻害抗凝固剤の有効性は、
コントロールされたワルファリンとほぼ同等と考えられています。
ワルファリンと比較した場合の主な利点は、
消化管出血などの出血系の有害事象が少ないことと、
量の調節が基本的には不要である点です。

ただ、こうしたタイプの薬が広く使用されるようになると、
矢張り問題となるのは出血系の有害事象です。

こうした有害事象は特に複数の薬を、
併用している場合に多いと考えられています。
ワルファリンと比較すれば薬物間の相互作用は少ないとは言え、
その代謝は主にCYP3A4という肝臓の代謝酵素を介して行われ、
同じ代謝酵素で代謝される薬物との併用は、
抗凝固剤の血液濃度を上昇させて、
出血リスクを高めることが想定されます。

心房細動のある患者さんの多くは高齢者で、
糖尿病や高血圧などの疾患を一緒に持っていることが多く、
複数の薬を併用していることが、
実際には大多数であると思われます。

しかし、通常の薬の臨床試験においては、
そうしたリスクの高い患者さんは除外されていることが多いので、
実際よりそのリスクは低く見積もられてしまうことが、
これも多いと想定されるのです。

そこで今回の研究では、
国民全ての医療データが解析可能な台湾において、
心房細動に対する非ビタミンK阻害抗凝固剤の治療の併用薬が、
その合併症の出血リスクに与える影響を大規模に検証しています。

解析されているのは、
非弁膜症性心房細動の診断があって、
非ビタミンK阻害抗凝固剤のうち、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンの、
いずれかを使用されているトータル91330名の患者さんで、
その平均年齢は74.7歳です。

抗凝固剤の内訳は、
ダビガトランが45347名、
リバーロキサバンが54006名、
アピキサバンが12886名で、
合計が合わないのは、
途中での変更があるからだと思われます。

併用薬として多かったのは、
スタチンのアトルバスタチンが27.6%、
カルシウム拮抗薬のジルチアゼムが22.7%、
強心剤のジゴキシンが22.5%、
抗不整脈剤のアミオダロンが21.1%などとなっています。

その結果、
有意に併用により出血リスクが増加していたのは、
アミオダロン、抗真菌剤のフルコナゾール、
抗結核剤のリファンピシン、
抗痙攣剤のフェニトインの4種類でした。

具体的には、
アミオダロンが未使用と比較して1.37倍(95%CI; 1.25から1.50)、
フルコナゾールが2.35倍(95%CI; 1.80から3.07)、
リファンピシンが1.57倍(95%CI; 1.02から2.41)、
フェニトインが1.94倍(95%CI;1.59から2.36)となっていました。

一方で併用によりむしろ出血リスクが抑制されていたのは、
アトルバスタチンが0.71倍(95%CI; 0.64から0.78)、
ジゴキシンが0.91倍(95%CI;0.83から0.99)、
抗生剤のエリスロマイシンもしくはクラリスロマイシンが、
0.60倍(95%CI; 0.48から0.75)となっていました。

この結果はやや意外なもので、
マクロライド系の抗生物質はCYP3A4に影響を与えるので、
リスクが高くなってもおかしくはなさそうですが、
使用期間が比較的短期に留まることが多い点などが、
関係しているのかも知れません。

アトルバスタチンやジゴキシンとの併用は、
比較的安全と思われる一方、
フェニトインは神経痛などで長期継続されるケースも多く、
注意が必要と考えられます。

こうしたデータは関連する因子をそれなりに補正はしていますが、
患者さんの状態はまちまちで、
薬の違い以外の背景に、
影響されている可能性は否定出来ません。

ただ、実際の臨床データが大規模に解析されている、
と言う点では非常に意義のあるもので、
同じアジア人のデータとしても、
日本での臨床にも大きな意義のあるものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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マグネシウム濃度と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マグネシウムと認知症.jpg
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のマグネシウム濃度と認知症の発症との関連についての論文です。

マグネシウムはカルシウムに似た性質を持つミネラルで、
植物では光合成に必須の働きを持ち、
人間ではその多くがリン酸塩として骨に存在していますが、
抗炎症作用や代謝の調節などにも関わっています。

脳との関連では、
興奮性グルタミン酸神経の伝達を担っている、
NMDA受容体の調節に関与していて、
マグネシウムの脳内濃度低下が、
うつ病や認知症と関わっているという仮説が存在しています。

人間においても、
血液のマグネシウム濃度の低下が、
片頭痛、てんかん、認知症、うつ病と関連している、
という疫学データが発表されています。

ただ、マグネシウムと認知症との関連についての知見は限られていて、
疫学データは小規模なものしかなく、
その結果もまちまちですし、
初期の認知機能低下の患者さんに対するマグネシウムの使用が、
記憶の機能などを若干改善したという小規模な報告がありますが、
単独の報告に留まっているようです。
マグネシウムが認知症の発症予防に有効というのは、
ネズミのデータがあるのみです。

そこで今回の研究では、
オランダのロッテルダム研究という、
大規模な疫学データを活用して、
登録時に認知症のない55歳以上(平均年齢64.9歳)の9569名を、
中央値で7.8年の経過観察を行い、
登録時のマグネシウム濃度と、
その後の認知症の発症との関連を検証しています。

マグネシウム濃度は5群に分けて分析されていて、
一番低値の群は0.79mmol/L以下
(ほぼ1.9mg/dL以下に相当)で、
一番高値の群は0.90mmol/L以上
(ほぼ2.2mg/dL以上に相当)です。
日本での現行のマグネシウム濃度の基準値は、
概ね1.8から2.4mg/dLに設定されていますから、
大体その上限と下限を見ていることになります。

その結果、
観察期間中に823名の登録者が認知症と診断され、
そのうちの662名はアルツハイマー型認知症でした。

そして、マグネシウム濃度が0.84から0.85mmol/L
(ほぼ2.0から2.1mg/dLに相当)を基準とすると、
マグネシウム濃度が低値であっても高値であっても、
認知症の発症リスクは増加していました。
具体的には0.79mmol/L以下の群では、
そのリスクは1.32倍(95%CI; 1.02から1.69)となり。
0.90mmol/L以上の群では、
1.30倍(95%CI; 1.02から1.67)となっていました。
これは認知症トータルでの解析ですが、
アルツハイマー型認知症のみで解析しても、
ほぼ同様の結果が得られました。

このように、
マグネシウム濃度は一定の範囲に保たれていることが重要で、
それを外れれば高めであっても低めであっても、
認知症のリスクは高まるという結果になっています。

ですから単純にマグネシウムを補充するような介入を、
闇雲に行なっても認知症の予防や治療に結び付くとは思えず、
問題はその調節メカニズムの解明と、
脳神経細胞に対する働きを、
より精緻に観察することにあるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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アンナ・ネトレプコ スペシャル・コンサート in JAPAN 2017 [コロラトゥーラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アンナネトレプコ.jpg
ロシア出身のソプラノで、
今世界で最も売れっ子のオペラ歌手の1人である、
アンナ・ネトレプコが昨年に続いて来日し、
オペラアリアのリサイタルを行いました。

昨年2010年以来の来日を果たし、
さすが世界のプリマドンナ、という歌唱を聞かせてくれましたが、
今年もなかなか聴き応えのあるコンサートでした。
ただ、アンコールもなく、
やや省エネ気味の舞台ではありました。
昨年の方が良かったことは確かです。

ネトレプコは2000年代の初めころに頭角を表したソプラノ歌手で、
美貌の歌姫で貫禄充分なところは、
ゲオルギューの再来という感じがありました。
ただ、演技の大きさでも、
歌唱の技術的な面でも、
ゲオルギューを遥かに凌いでいると思います。

そのレパートリーは、
コロラトゥーラからベルカントまで幅広く、
力押しも出来る一方で、
そう上手くはないのですが、
コロラトゥーラのような装飾歌唱もそこそここなし、
何より演技の大きさが魅力です。

日本にはマリインスキー・オペラに同行したのが、
確か始まりで、
小澤征爾のオペラ塾でムゼッタを歌い、
2005年にはロシア歌曲主体のリサイタルを開きました。
このリサイタルは聴いていますが、
可憐な容姿と繊細な歌い廻しが素敵で、
アンコールで歌ったルチアの第一アリア(2幕)は、
確かな技術も感じさせました。

2006年にはメトロポリタンオペラの来日公演で、
「ドン・ジョバンニ」のドンナ・アンナを歌っています。
これは非常に豪華なメンバーの公演でしたが、
もう既に堂々たる貫禄のドンナ・アンナで、
観客の人気を最も集めていました。
この時は本当に目の覚めるような美しさでした。

オペラの歌唱として、
極めて印象的だったのは、
2010年の英国ロイヤルオペラの来日公演で、
ネトレプコはマスネの「マノン」のタイトルロールを歌い、
抜群の歌唱と演技を見せると共に、
ドタキャンして来日しなかったゲオルギューの代役として、
1日のみ「椿姫」の舞台に立ちました。

この時は「マノン」が最高で、
思わず2回足を運びました。
特に3幕で男たちを引き連れて女王然として登場し、
装飾技巧を散りばめたアリアを歌うくだりなどは、
これぞプリマドンナという、
惚れ惚れとするような姿であり演技であり歌唱でした。

1日のみ代役で歌った「椿姫」は、
高音に失敗したりして、
準備不足の否めない出来でしたが、
それでもおそらく日本では唯一の機会となるであろう、
ネトレプコのヴィオレッタを堪能しました。

この時のお姿は、
正直以前よりかなりあちこちにお肉が付き、
ぽっちゃりとされていました。

そして、2011年にメトロポリタンでの来日が予定されていたのですが、
震災の影響でキャンセルとなり、
その後もなかなか来日の機会はありませんでした。

もう駄目なのかしらと思っていると、
一昨年12月に再婚したテノール歌手、
ユシフ・エイヴァゾフさんのお披露目旅行の意味合いがあったのでしょうし、
中国公演のおまけなのかも知れませんが、
旦那さんとのデュオコンサートとしての、
来日公演が昨年実現しました。
これは待っただけのことはある素晴らしいコンサートでした。

今回はそれに引き続いての来日で、
旦那さん以外にバリトンを同行していて、
「イル・トロヴァトーレ」の1幕3重唱をラストに歌うのが、
今回のメインでした。

正直昨年のコンサートと比較すると、
ネトレプコ自身の曲目は少ないですし、
アンコールもなかったので、
少し欲求不満は残る部分はありました。

ただ、スケジュールを見ると世界中を、
過密にコンサートで飛び回っているので、
省エネになるのは仕方のないことなのかも知れません。

昨年は肉体はかなりのボリューム感でビックリしたのですが、
今回は多分昨年より5キロくらいは絞れている感じでした。

それより気になったのは、
ヴェルディのマクベス夫人や「アイーダ」のタイトルロール、
「トゥーランドット」のタイトルロールと、
力押しのドラマチック・ソプラノの歌唱が主体で、
繊細さや細かいコロラトゥーラなどの技巧は、
陰をひそめている感じがあったことです。
「仮面舞踏会」や「イル・トロヴァトーレ」での歌唱も、
装飾歌唱などはかなり大雑把で正確さには欠けていました。
中ではロシア物の「皇帝の花嫁」の狂乱の場が、
これだけは繊細な歌唱で面白かったのですが、
突出した感じはありませんでした。

これから何処に向おうとしているのか、
ちょっと疑問に思うような感じもあったのです。

いずれにしてもその風格と演技力、
声の振幅の大きさとスケール感など、
これぞ世界のプリマドンナという表現力自体は圧巻で、
これからもしばらくは、
世界のトップに君臨し続けることは確実と思われたのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「ユリゴコロ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ユリゴコロ.jpg
沼田まほかるさんのミステリーの原作に、
吉高由里子さんと松坂桃李さん、
松山ケンイチさんという魅力的なキャストが顔を揃えた、
映画「ユリゴコロ」を見て来ました。

結構どぎついところもあるスリラーですが、
主役格3人の演技にはなかなか見応えはあります。
ただ、後半はかなりオヤオヤという感じになるので、
トータルにはあまり見て良かったという気持ちは残りませんでした。
B級映画と言って良いのですが、
その割にはキャストが豪華なので、
松山ケンイチさんの真面目な苦悩演技など、
結局どう見て良いのか当惑する感じになるのです。

これは先に原作は読みました。
湊かなえさんに似たスタイルで、
サイコスリラー的な雰囲気なのですが、
ミステリ―としての構成はあまり上手くはなく、
ディテールのグロテスクさや嫌やらしさが、
リーダビリティの中心となっています。
ニーリイのような、
登場人物の年齢を読者に誤認させるような技巧を、
一応使っているのですが、
全く成功はしていません。
殺人者の手記と現実の事件とが交錯していて、
面白いのは主に手記の部分ですが、
桐野夏生さんの「グロテスク」や、
湊かなえさんの諸作の焼き直し的な感じもします。
ただ、ラストはちょっと突き抜けたような感じがあって、
主人公2人の道行には余韻が残ります。

映画はほぼ原作通りの展開で、
特にほぼ忠実な手記の部分が面白いと思いました。
リストカットを繰り返すみつ子(佐津川愛美さん怪演)と、
吉高由里子さんとの血みどろ交流は、
原作でも一番生理的につらい部分ですが、
映画でも薄目で見るのがギリギリくらいの過激さを見せてくれます。
原作の病院を自宅に変えた趣向も、
成功をしていたと思いました。

松山ケンイチさんと吉高さんとの場面は、
昔の日活や東映のやさぐれ映画のような雰囲気を、
構図も色彩も上手く模倣していて、
古風で面白い感じを出していました。
日活と東映が制作している映画ですから、
これは明らかな狙いなのだと思います。

ただ、松坂桃李さんがメインの現実パートは、
原作自体かなり未整理でゴタゴタしているのですが、
それを整理したのが却って失敗していて、
特に原作の借金を抱えた駄目夫を、
映画では組織的なヤクザにしてしまっているので、
派手にしたかったという意図は分かりますが、
展開が現実離れしてしまって、
完全な失敗になっていました。

そこが全くの絵空事なので、
ラストに感動的な場面らしきものを持って来ても、
間抜けにしか思えない結果となっていたのです。

湊かなえさんに続いて、
沼田まほかるさんも映画化が続いていますが、
適度にどぎつくグロテスクで、
構成もゆるく出来ているところが、
もっとカッチリしたミステリーよりも、
映像化には向いているのかも知れません。

最後にこの作品の吉高さんの役作りはちょっと疑問で、
ラーメン屋さんを殺す時の顔などには、
明らかに「この野郎」みたいな感情が見えているのですが、
それではサイコパスではないので、
彼女の雰囲気でこの映画は成功している部分が大きいのですが、
本人はそのキャラクターを、
とても理解をしているようには思えませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ワーグナー「神々の黄昏」(2017年新国立劇場レパートリー) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
神々の黄昏.jpg
新国立劇場の2017/2018シーズンのオープニングとして、
ワーグナーの「神々の黄昏」が幕を開けました。

この作品は楽劇「ニーベルングの指輪」の完結編で、
「ニュールンベルグのマイスタージンガー」、
「トリスタンとイゾルデ」と並んで、
ワーグナーのオペラの中でも最も長大な作品です。

新制作ですが、
フィンランド国立歌劇場の以前の演出の借り物です。
この演出で「ニーベルングの指輪」が1作ずつ上演され、
今回めでたく完結となりました。

演出自体は何処か色々な有名演出の寄せ集め、
と言う感じの強いものでしたが、
「ラインの黄金」と「ワルキューレ」に関しては、
原作の描写を極力活かしたきめ細やかさが、
サポートスタッフの力もあるのだと思いますが、
非常に好印象でした。

ただ、「ジークフリート」は、
大蛇と対決したりと、
真面目に演出するのが難しい面もあり、
かなりそれまでの2作品と比較すると、
オヤオヤという感じの雑な出来栄えでした。

そして、残念ながら今回も、
超大作の締め括りとしては、
あまり緻密な出来栄えとは言い難いものでした。

「神々の黄昏」は僕にとっては、
何と言っても英雄ジークフリートの死の場面が、
音楽と共に忘れがたく、
忘れ薬の威力が消え、
ブリュンヒルデと出逢った瞬間を、
思い出した刹那の戦慄が、
これはもう全てのオペラの中でも、
屈指の名場面であり、
藝術そのものの代名詞のようにすら感じているのですが、
今回はややその感動は弱めで、
ジークフリートを刺したハーゲンの恰好良さの方が、
印象の残るような舞台でした。

ラストの部分は今回のような処理をすると、
自分で感情に任せてジークフリートの弱点を喋っておきながら、
最後には偉そうに神様にまでお説教を垂れるブリュンヒルデが、
何かイラつきますし、
叫んでいるおばさんに手も足も出ずに、
指輪を盗られてしまうハーゲンも、
とても間抜けで納得がいきません。

今回の舞台はベーゼンドルファーの好演もあって、
ハーゲンがとても印象的で魅力的な悪役に描かれているので、
最後に間抜けになるのがどうもおかしいのです。
群衆の動かし方なども、
音楽の切れ目で全員が様式的に移動したりするので、
却ってわずらわしくセンスのなさを感じました。

ワーグナーはいつも、
アクションを伴うような場面が下手糞なので、
この作品の最後も、
あまり細かく動きを付けようとしたり、
段取りを観客に分からせようとしない方が、
却って音楽に集中出来るので、
良いように感じました。
今回のものは説明のし過ぎで、
しかも音楽との連携にセンスのないものなので、
アラばかりが目立って、
音楽の力を削いでいたように感じました。

そんな訳でとても演出は駄目だったのですが、
オケは読売交響楽団で良かったですし、
キャストもジークフリートのステファン・グールドと、
ハーゲンのベーゼンドルファーが良く、
衰えたとは言え、
マイヤーがヴァルトラウテに出演という豪華なおまけもあって、
なかなか聴き応えはある上演でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性心筋梗塞における酸素投与の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心筋梗塞における酸素投与の効果.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心筋梗塞の急性期に酸素を使用することの有効性についての論文です。

昨日は脳卒中に対する急性期の酸素投与の話題でしたが、
同様の検証を心筋梗塞に対して行ってみた、
という意味合いの論文です。

狭心症や心筋梗塞に対する酸素療法の歴史は古く、
1900年には既に酸素療法によって重症の狭心症が改善した、
という論文が発表されています。

狭心症や心筋梗塞では、
心臓の筋肉の酸素不足が起こりますから、
血液の酸素が低下した状態であれば、
酸素吸入がその予後にも良い影響を与えることは、
理に適った治療と言って良いと思います。

ただ、血液の酸素濃度が低下していない場合に、
酸素吸入が心筋梗塞の予後改善に有用であるかどうかは、
現時点で明確な結論が得られていません。

心臓の筋肉は酸素欠乏の状態になっているのですから、
通常より高濃度の酸素を供給することにより、
心臓の酸素不足の改善に繋がるという可能性は否定出来ませんが、
一方で高濃度の酸素は細胞に対しての毒性も持っていますから、
それが却って予後に悪影響を与えるという可能性も、
同様に否定は出来ません。

実際にはその有効性は確認されていないのにも関わらず、
心筋梗塞の急性期に低酸素血症がなくても酸素吸入を行なうことは、
この数十年間世界的に一般的な治療として行われて来ました。

しかし、その根拠はあまり明確なものではなかったのです。

2015年のCirculation誌に掲載されたAVOID試験という大規模臨床試験では、
STが上昇するタイプの心筋梗塞に、
予防的な酸素投与を行なったところ、
その予後は使用しない場合と比較して、
むしろ悪化していました。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
急性心筋梗塞が疑われ、
血液の酸素飽和度が90%以上である患者さん、
トータル6629名をクジ引きで2つの群に分け、
一方はマスクにより6L/minの酸素を6から12時間使用し、
もう一方は使用をしないで、
1年後の患者さんの予後を比較しています。

その結果、1年以内の心筋梗塞の再発も、
1年後の時点でも生命予後にも、
両群で差は認められませんでした。

昨日の脳卒中の研究と一緒で、
今回の心筋梗塞の酸素投与の影響も、
決して使用した方が予後が悪い、
という結果は得られていないのですが、
酸素濃度が明確に低下していない場合の、
予防的な酸素投与が、
患者さんの予後にメリットがないと言う点については、
ほぼ結論が得られたと言って、
間違いはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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よろしくお願いします。

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急性期脳卒中の酸素吸入の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
脳卒中の酸素吸入の効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
脳卒中の急性期に酸素吸入を行うことの、
効果と安全性についての論文です。

脳梗塞や脳内出血によって脳を栄養する血管が障害されると、
血流が完全になくなった部位では、
数分で脳の神経細胞は死んでしまいます。
ただ、その周辺に血流量は低下していても、
細胞自体はまだ死んでいない部分があり、
これをペナンブラ(penumbra)と呼んでいます。

脳卒中の予後がそうなるかは、
このペナンブラの部分が生き延びるかどうかに掛かっていて、
発症後数日の間に起こる、
脳浮腫や血管収縮、炎症などの合併症が、
ペナンブラの部分の細胞の生死を分けると考えられています。

脳細胞が低酸素状態に陥ることは、
ペナンブラの部位の細胞を死滅される、
大きなリスクであることは間違いがなく、
実際に急性期の低酸素状態が、
脳卒中の予後を悪化させることは実証されています。

勿論急性期の入院中では、
動脈血の酸素飽和度は常にモニターされていて、
低下するようであれば酸素投与が開始されるようにはなっています。

しかし、
そうは言っても24時間完全に監視していることは、
そう簡単なことではありませんから、
1つの考えとして、
酸素飽和度にはそれほどの低下はない状態でも、
脳卒中の急性期の数日は、
酸素の吸入を持続していた方が、
その予後にも良い影響があるのではないか、
という考え方が成立します。

ただ、酸素は過剰に与えられれば、
組織障害の原因ともなりますし、
鼻からのチューブやマスクによる酸素投与は、
患者さんのストレスにもなり、
またチューブを介しての感染などのリスクも軽視は出来ません。

これまでの臨床研究において、
12時間以内という比較的短期間の、
10から45L/minという高濃度の酸素投与は、
脳卒中の患者さんの予後を改善しませんでした。
24時間3L/minという低用量の酸素を使用した試験でも、
明確な改善効果は認められませんでした。
その一方で、低用量の酸素を72時間使用した試験においては、
一定の予後改善効果が認められました。

つまり、評価は割れていて一定の結論に至っていません。
現行のガイドラインにおいても、
この点は明確な指針を提示していません。

そこで今回の研究においては、
酸素飽和度を測定してそれに合わせた用量の酸素を使用すると共に、
3日間連続の使用と、
酸素の低下し易く監視が不十分になり易い夜間のみ、
酸素を使用した群とに分け、
この問題の再検証を行なっています。

イギリスの複数の専門施設において、
年齢は18歳以上で脳卒中のために入院となり、
入院後24時間以内の患者さん、
トータル8003名をクジ引きで3つの群に分け、
第1群は原則として72時間の酸素吸入を継続し、
第2群は同様の酸素吸入を夜間のみ行い、
第3群は酸素が病的に低下した時のみ酸素吸入を行なって、
開始後1週間及び90日間後の予後を比較検証しています。
治療者には3群の差についてあらかじめ開示されています。

判定は主にランキン・スケール(mRS)という指標で評価されます。
これは0から6の数字で予後の程度を表現していて、
0は全く後遺症のない治癒で、6が死亡。
0から2であれば日常生活には支障のない状態を示しています。

酸素投与は経鼻のチューブにより行われ、
酸素使用群では動脈血酸素飽和度が93%以下であれば、
3L/minで酸素が流され、
93%を超えていれば2L/minで流されます。
酸素を使用しない群でも、
原則として93%以下であれば酸素の使用が開始されます。

その結果…

90日後の時点でのランキン・スケールには、
3群間で有意な差はなく、
その間の有害事象にも差はありませんでした。

今回のこれまでで最も大規模で、
最も厳密な検証において、
急性脳卒中後の継続的な酸素の使用は、
夜間のみの使用を含めて、
従来の酸素飽和度をモニターしての酸素使用と比較して、
患者さんの予後の改善効果は得られませんでした。

有害事象にも違いはなく、
酸素飽和度は計測上は若干上昇する程度なので、
管理が不十分な施設においては、
使用継続も1つの選択肢ではあるようにも思いますが、
基本的にはその有用性は確認はされておらず、
上記文献の結論としても、
酸素の低下時のみの酸素吸入で必要にして充分である、
という理解が正しいようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。

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