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メトホルミンの妊娠中の使用とその安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトホルミンと妊娠.jpg
今年のDiabetologia誌に掲載された、
妊娠中のメトホルミンの使用とその影響についてのレビューです。

メトホルミンというのは、
インスリン抵抗性を改善し、
肝臓でのブドウ糖の産生を抑えるなどの作用により、
2型糖尿病の血糖コントロールを改善する薬で、
世界的に2型糖尿病の第一選択の治療薬とされている薬です。

最近では内臓脂肪の改善や脂肪肝の改善作用、
一部の癌のリスク軽減や、
抗炎症作用などの別個の働きも多く報告されていて、
健康寿命の延長のために、
メトホルミンを予防的に使用するような試みも施行されています。

このように、
良いこと尽くめの印象のあるメトホルミンですが、
妊娠中の使用については、
現状は世界的にもあまり推奨はされていません。

アメリカの治療ガイドラインにおいては、
妊娠中の糖尿病治療薬の第一選択はインスリンの注射で、
メトホルミンの使用は禁忌ではないものの、
その安全性は確認されていない、
という扱いになっています。

現状多くの糖尿病治療薬が、
妊娠中には使用は出来ず、
インスリンが第一選択で、
メトホルミンとSU剤のグリベンクラミドが、
状況によって使用可能、
という扱いになっています。

ただ、インスリンは低血糖のリスクが高く、
妊娠中の低血糖は胎児にも悪影響を与えますし、
母体の体重はインスリンにより増加するので、
妊娠の経過にも必ずしも良い影響を与えるとは言えません。

メトホルミンはインスリン抵抗性を改善し、
低血糖のリスクは少ないままに血糖を低下させますし、
体重を減少させます。
こうした効果は母体にとっては、
いずれも良い影響を与えそうです。

その一方で胎児に対する効果はどうでしょうか?

メトホルミンは胎盤を通過することが確認されていて、
動物実験のデータでは、
母体とほぼ同じ血液濃度で、
胎児の血液中に移行することも確認されています。

メトホルミンはAMP活性化プロテインキナーゼを活性化させます。
このAMP活性化プロテインキナーゼは、
ブドウ糖や蛋白質や脂肪の産生を抑制します。
この効果は糖尿病になっている母体へは、
良い影響を与えるのですが、
胎児にとっては成長が阻害される可能性があり、
それが胎児の成長障害や先天奇形の発症に、
結び付くという可能性も否定は出来ません。

このリスクが想定されるので、
現時点でメトホルミンの妊娠中の使用は推奨はされていないのです。

ただし…

人間のデータにおいて、
これまでにメトホルミンの使用が、
明らかに個別の奇形や胎児の発育の異常に、
関連したという報告はありません。

ただ、多数例のデータは殆どないので、
特に出産後の長期の安全性については、
良いとも悪いとも言えないのが現状なのです。

現状妊娠中の糖尿病治療薬として、
第一選択となっているのはインスリンですが、
母体に対してはメトホルミンの方が、
優れていることは間違いがなく、
今後胎児の安全性について、
より精緻な検証が必要な段階に、
来ていることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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