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GLP-1アナログ エキセナチドのパーキンソン病への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
GLP-1アナログのパーキンソン病への有効性.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
2型糖尿病の治療薬を使用して、
パーキンソン病という神経難病の、
運動機能を改善しようという、
ちょっとビックリな内容の論文です。

パーキンソン病というのは、
脳の特定の部位のドーパミン分泌細胞が減少することにより、
手の震えや歩行障害などの特徴的な症状が見られる神経難病で、
様々な治療薬や治療法が開発されていますが、
完治に至るような確実な治療は未だ実現していません。

通常不足したドーパミンを補充するような治療が、
まず試みられますが、
初期には著効しても、
進行するとその効果は不安定となり、
特有の薬による有害事象も増えることが知られています。

そのため、
ドーパミン製剤に併用して、
その治療効果を高め、
病気の進行を遅らせるような治療薬の開発が、
期待をされています。

その1つの候補として最近注目をされているのが、
今日ご紹介するエキセナチドという注射薬です。

エキセナチドはアメリカ毒トカゲの唾液腺から発見された物質ですが、
インクレチンと言って、
血糖の上昇に合わせて膵臓を刺激し、
インスリンの分泌を促すGLP-1と呼ばれる物質に、
似通った働きをすることが分かり、
低血糖などの副作用の少ない、
2型糖尿病の治療薬として使用されています。

以前は毎日皮下注射が必要でしたが、
最近週1回2㎎の注射で持続的に有効な薬剤が発売され、
糖尿病の治療に幅広く使用されています。

インスリン自体も脳の活動に、
少なからずの影響を及ぼしているという研究結果がありますが、
エキセナチドは血液脳関門を通過して脳内で働き、
脳の神経細胞にあるGLP-1の受容体を介して、
脳の神経細胞を保護したり、
その再生を促進したりする作用のあることが、
動物実験のレベルでは確認されています。

上記文献の著者らの研究グループは、
2013年にエキセナチドの1年間の使用により、
パーキンソン病の運動機能及び認知機能に一定の改善が見られた、
という趣旨の報告をしています。

今回の研究ではより多数例のパーキンソン病の患者さんに対して、
同様の検証をより厳密な試験デザインで行っています。

年齢が25から75歳でパーキンソン病で治療中の、
Hoehm-Yahrの重症度分類で2.5度以下
(軽度の両側性パーキンソニズムまで)の患者さん、
トータル62名を本人にも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つに分け、
一方はエキセナチド2㎎一週間に一度皮下注し、
もう一方は偽薬を同じように注射して、
48週間の治療を継続し、
治療終了後更に12週間、
全体で60週間の経過観察を行っています。

治療効果の検証は、
パーキンソン病統一スケール(UPDRS)の第3部、
運動能力の調査の14項目で評価されています。
これはパーキンソン病の症状を、
指のタッピングや歩行、姿勢などの14項目を、
それぞれ0から4点で評価したものです。
点数が高いほど重症であることを示しています。

その結果…

60週の時点でドーパミン製剤の効果が切れている時間帯(off-medication)
でのUPDRS第3部の評価点は、
エキセナチド群で1.0点(95%CI;-2.6から0.7)改善する傾向を示し、
偽薬群では2.1点(95%CI;-0.6から4.8)と進行する傾向を示しました。
偽薬群と比較してエキセナチド群は、
平均で3.5点(95%CI;-6.7から-0.3)有意に改善が認められました。

エキセナチドによる有害事象は吐気などの消化器症状が主なもので、
重篤な有害事象で薬剤の使用との関連が高いものは認められませんでした。

これまでのパーキンソン病の薬物治療は、
ドーパミンの補充がその主体で、
薬を止めれば症状はすぐに元に戻りますし、
治療を継続することにより、
徐々に薬の効果が減弱したり、
症状が不安定になったりするという問題がありました。
またパーキンソン病自体の進行を止めるようなものではありません。
遺伝子治療や外科的治療なども試みられてはいますが、
個々に問題はあり、
多くの患者さんに適応可能なものではありません。

その中でこのエキセナチドは、
GLP‐1受容体を介する神経細胞の保護作用と再生促進作用を、
そのメカニズムに持ち、
元々が糖尿病や肥満症の治療薬なので、
強い副作用や有害事象がなく、
48週くらいの使用においては、
使用により病状が不安定になる、
ということもなさそうで、
治療終了後も12週間はその効果が維持されているなど、
これまでにない利点を多く持っている可能性があります。

ただ、今回の結果はパーキンソン病統一スケールの、
一部の運動機能の判定に絞って、
それもドーパミン製剤の効果が認められない時間帯に限って、
若干の有効性が認められる、
というレベルのものです。
他の症状についてのデータもありますが、
実際には有意差が付いているのはその部分だけです。

従って、それほど著明な効果と言えるほどではなく、
まだ今回の結果は臨床での効果判定としては、
不充分なもののように思います。

ただ、これまでにないメカニズムの治療薬として、
安全性も比較的確立しているという点には魅力があり、
パーキンソン病の改善に繋がる薬物療法の選択肢の1つとして、
今後の更なる検証の結果に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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