IgA腎症に対するステロイド治療の効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
明日8月11日から14日(月)までは、
夏季の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
IgA腎症という患者さんの多い腎臓の病気に対する、
ステロイド治療の効果を検証した論文です。
IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。
この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。
数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療や免疫抑制剤の使用が検討されます。
しかし、こうした免疫抑制療法の上乗せ効果は、
あまり精度の高いデータの裏付けがある、
というものではありません。
治療成績は必ずしも満足の行くレベルのものではありませんし、
レニン・アンジオテンシン系の抑制が、
充分であったかどうかの検証があまりなされていないので、
真の意味での免疫抑制療法の上乗せ効果が、
どのくらいのものであるのかが不明なのです。
日本ではそれ以外に、
扁桃腺の切除とステロイドのパルス療法を組み合わせた治療が、
非常に高い奏効率を持つものとして施行されていますが、
世界的にはあまり言及をされていません。
さて、免疫を抑制することが、
IgA腎症の腎機能を保つ上で重要であることはほぼ間違いがありませんが、
全身的にステロイドを使用した臨床試験は、
あまり予後に明確な結果を示していません。
その理由は1つには糖尿病や易感染性などの、
ステロイドの有害事象にあると考えられます。
今回の臨床研究は、
ACE阻害剤もしくはARBによる治療を継続しても、
タンパク尿の充分な改善が認められていないIgA腎症の患者さんに、
上乗せの治療として比較的高用量のステロイドを使用し、
その効果と安全性を検証しているものです。
IgA腎症で、
ACE阻害剤もしくはARBによる血圧コントロールを、
3か月以上継続しても、
尿タンパクが1日1グラムを超えてていて、
腎機能を示す推計の糸球体濾過量が、
20から120mL/min/1.73㎡の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つに振り分け、
一方はステロイドのメチルプレドニゾロンを、
体重1キロ当たり0.6から0.8ミリグラム(上限48ミリ)で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
2か月の治療を行ない、
その後4から6か月を掛けて減量離脱します。
そして偽薬と比較してステロイド治療の効果と安全性を検証しているのです。
試験は262名の患者が振り分けられ、
中間値で2.1年の観察期間が経過した時点で試験は途中終了となりました。
重篤な有害事象が、
明らかにステロイド治療群で多かったためです。
この重篤な有害事象は、
ステロイド治療群の14.7%に当たる20名に認められたのに対して、
偽薬群では3.2%に当たる4名に認められていて、
そのリスクの差は11.5%となり、
有意にステロイド治療群で増加していました。
有害事象の多くは肺炎などの感染症で、
死亡例も2例が報告されています。
末期腎不全になるリスクと、腎不全による死亡、
推計糸球体濾過量が40%低下するリスクを併せたリスクは、
ステロイド治療により63%(95%CI;0.17から0.85)有意に低下していました。
つまり、
ステロイド治療は腎機能の低下と、
それに伴うリスクの抑制のためには、
一定の有効性が期待出来るのですが、
その一方で重篤な感染症などのリスクが明確に増大していて、
今回の臨床試験は、
その有害事象の増加のため中止となっています。
これまでの同種の臨床試験においても、
ほぼ同様の結果が得られています。
従って、ステロイド治療が、
IgA腎症の腎臓に対する予後に良い影響を与える一方で、
重篤な感染症の発症も、
少なからず増加させることもまた事実です。
このジレンマを解決する1つの方法は、
2017年5月30日のブログでご紹介したことのある、
小腸粘膜に選択性のステロイド剤の使用で、
今後IgA腎症に対するステロイド治療は、
通常の全身に作用する内服や注射以外の、
別個の方法を考えるべきなのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
明日8月11日から14日(月)までは、
夏季の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
IgA腎症という患者さんの多い腎臓の病気に対する、
ステロイド治療の効果を検証した論文です。
IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。
この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。
数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療や免疫抑制剤の使用が検討されます。
しかし、こうした免疫抑制療法の上乗せ効果は、
あまり精度の高いデータの裏付けがある、
というものではありません。
治療成績は必ずしも満足の行くレベルのものではありませんし、
レニン・アンジオテンシン系の抑制が、
充分であったかどうかの検証があまりなされていないので、
真の意味での免疫抑制療法の上乗せ効果が、
どのくらいのものであるのかが不明なのです。
日本ではそれ以外に、
扁桃腺の切除とステロイドのパルス療法を組み合わせた治療が、
非常に高い奏効率を持つものとして施行されていますが、
世界的にはあまり言及をされていません。
さて、免疫を抑制することが、
IgA腎症の腎機能を保つ上で重要であることはほぼ間違いがありませんが、
全身的にステロイドを使用した臨床試験は、
あまり予後に明確な結果を示していません。
その理由は1つには糖尿病や易感染性などの、
ステロイドの有害事象にあると考えられます。
今回の臨床研究は、
ACE阻害剤もしくはARBによる治療を継続しても、
タンパク尿の充分な改善が認められていないIgA腎症の患者さんに、
上乗せの治療として比較的高用量のステロイドを使用し、
その効果と安全性を検証しているものです。
IgA腎症で、
ACE阻害剤もしくはARBによる血圧コントロールを、
3か月以上継続しても、
尿タンパクが1日1グラムを超えてていて、
腎機能を示す推計の糸球体濾過量が、
20から120mL/min/1.73㎡の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つに振り分け、
一方はステロイドのメチルプレドニゾロンを、
体重1キロ当たり0.6から0.8ミリグラム(上限48ミリ)で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
2か月の治療を行ない、
その後4から6か月を掛けて減量離脱します。
そして偽薬と比較してステロイド治療の効果と安全性を検証しているのです。
試験は262名の患者が振り分けられ、
中間値で2.1年の観察期間が経過した時点で試験は途中終了となりました。
重篤な有害事象が、
明らかにステロイド治療群で多かったためです。
この重篤な有害事象は、
ステロイド治療群の14.7%に当たる20名に認められたのに対して、
偽薬群では3.2%に当たる4名に認められていて、
そのリスクの差は11.5%となり、
有意にステロイド治療群で増加していました。
有害事象の多くは肺炎などの感染症で、
死亡例も2例が報告されています。
末期腎不全になるリスクと、腎不全による死亡、
推計糸球体濾過量が40%低下するリスクを併せたリスクは、
ステロイド治療により63%(95%CI;0.17から0.85)有意に低下していました。
つまり、
ステロイド治療は腎機能の低下と、
それに伴うリスクの抑制のためには、
一定の有効性が期待出来るのですが、
その一方で重篤な感染症などのリスクが明確に増大していて、
今回の臨床試験は、
その有害事象の増加のため中止となっています。
これまでの同種の臨床試験においても、
ほぼ同様の結果が得られています。
従って、ステロイド治療が、
IgA腎症の腎臓に対する予後に良い影響を与える一方で、
重篤な感染症の発症も、
少なからず増加させることもまた事実です。
このジレンマを解決する1つの方法は、
2017年5月30日のブログでご紹介したことのある、
小腸粘膜に選択性のステロイド剤の使用で、
今後IgA腎症に対するステロイド治療は、
通常の全身に作用する内服や注射以外の、
別個の方法を考えるべきなのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本