二次検査までの時間と大腸癌の予後について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
一般的に行われている大腸癌検診で、
精密検査の指摘を受けてから実際に検査を受けるまでの時間と、
発見される病変の進行度についての論文です。
これは臨床に直結する研究で、
他愛がないように思われがちですが、
大変意義のあるものだと思います。
大腸癌の検診としては、
その簡便性やコストの安さから、
市町村の検診でも、
もっぱら便潜血検査が行われています。
これは便を通常2回以上別の日に採取して、
人間の血液由来のヘモグロビンが検出されるかを見るもので、
検出された場合には、
微量な出血が大腸の粘膜から生じていると判断して、
大腸の内視鏡検査(もしくは直腸鏡や3次元CTなど代替検査)に、
進むことが通常です。
便を採るだけの古い検査で、
こんなもので何が分かるのかと、
馬鹿にされる方もあるかも知れませんが、
30年に渡る長期間において、
大腸癌のよる死亡のリスクを、
最大で3割程度減少させる効果が確認されています。
これだけ明確に癌による死亡のリスクを低下させるような癌検診は、
他には殆どなく、
あってもどの検査をどのような対象者に行うべきかについては、
多くの議論がありますから、
便潜血検査による大腸癌検診のように、
その有効性が科学的に確認され実証されている検診は、
他にはないと言って良いと思います。
しかし、
この検査の大きな問題は、
便潜血検査単独では診断的な意味はなく、
陽性であった対象者が、
大腸内視鏡などの二次検査をして初めて、
大腸癌かどうかが診断される、
と言う点にあります。
そのために陽性であってもその結果を軽視して、
二次検査を受けずにスルーしてしまったり、
受けても何か月も経ってから、
というようなことも稀ではありません。
僕がとても印象に残っているケースでは、
集団検診である年に便潜血が陽性になったのですが、
その年度は二次検査は受けずに放置していて、
その翌年の検診で再度陽性となったので、
初めて大腸内視鏡検査を受けたところ、
もう進行癌の状態で手術はしたものの、
その半年後に亡くなった、という実例がありました。
そのために検診の説明会などでは、
早期発見のために、
必ず陽性の結果が出たらすぐに二次検査を受けるように、
という説明をしています。
しかし、実際にはその根拠が、
それほど明確にある、という訳ではありません。
便潜血検査が陽性と報告されてから、
1か月以内に大腸内視鏡検査をしても、
半年以上経ってから検査をしても、
それで患者さんの予後が変わるかどうかは、
これまでに確かに分かっていることではないのです。
そこで今回の研究では、
カリフォルニアにおいて2010年から2014年に、
50から70歳で便潜血検査による大腸癌検診を受け、
結果が陽性で大腸内視鏡検査を施行した、
70124名を対象として、
便潜血の陽性が報告されてから、
大腸内視鏡検査が施行されるまでの期間と、
大腸癌や進行癌のリスクとの関連を検証しています。
その結果…
二次検査により2191例の大腸癌が診断され、
そのうちの601例はリンパ節転移のあるステージ3と、
遠隔転移のあるステージ4を併せた大腸進行癌でした。
便潜血陽性が判明してから、
30日以内に大腸内視鏡検査を施行した場合と比較して、
9か月までに施行された場合の大腸癌発見のリスクと、
大腸進行癌が発見されるリスクは、
有意な差はありませんでした。
その一方で10から12か月後に施行された場合には、
30日以内に施行された場合と比較して、
大腸癌が発見されるリスクが1.48倍(95%CI;1.05から2.08)、
進行大腸癌が発見されるリスクは1.97倍(95%CI;1.14から3.42)、
それぞれ有意に増加していました。
更に12か月後以降に施行された場合には、
大腸癌が発見されるリスクが2.25倍(95%CI;1.89から2.68)、
進行大腸癌が発見されるリスクは3.22倍(95%CI;2.44から4.25)、
とこれもそれぞれ有意に増加していて、
便潜血陽性が判明してから10か月を超えると、
時間が経つほど大腸癌も多く見付かり、
進行癌もそれだけ増加していることが確認されました。
この進行癌の増加が、
便潜血陽性の結果を放置したことによると、
今回の結果のみから確定することは出来ませんが、
一定の蓋然性のあることも確かで、
倫理的にわざわざ二次検査までの時間を延ばして、
その影響を見るような臨床試験は実際には不可能なので、
今後この問題が、
これ以上明確な結論に至ることは、
ないようにも思います。
全ての癌が早期発見により予後の改善に結び付くとは言い切れず、
むしろ違いはないという結果の方が多いのですが、
大腸癌に関しては、
二次検査は速やかに行うことが、
予後の改善にも結び付く可能性が高いと、
そう考えて早期に検査を受けた方が良いようです。
皆さんも便潜血検査が陽性になった場合には、
極力3か月以内には、
大腸内視鏡検査を受けるようにして下さい。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
一般的に行われている大腸癌検診で、
精密検査の指摘を受けてから実際に検査を受けるまでの時間と、
発見される病変の進行度についての論文です。
これは臨床に直結する研究で、
他愛がないように思われがちですが、
大変意義のあるものだと思います。
大腸癌の検診としては、
その簡便性やコストの安さから、
市町村の検診でも、
もっぱら便潜血検査が行われています。
これは便を通常2回以上別の日に採取して、
人間の血液由来のヘモグロビンが検出されるかを見るもので、
検出された場合には、
微量な出血が大腸の粘膜から生じていると判断して、
大腸の内視鏡検査(もしくは直腸鏡や3次元CTなど代替検査)に、
進むことが通常です。
便を採るだけの古い検査で、
こんなもので何が分かるのかと、
馬鹿にされる方もあるかも知れませんが、
30年に渡る長期間において、
大腸癌のよる死亡のリスクを、
最大で3割程度減少させる効果が確認されています。
これだけ明確に癌による死亡のリスクを低下させるような癌検診は、
他には殆どなく、
あってもどの検査をどのような対象者に行うべきかについては、
多くの議論がありますから、
便潜血検査による大腸癌検診のように、
その有効性が科学的に確認され実証されている検診は、
他にはないと言って良いと思います。
しかし、
この検査の大きな問題は、
便潜血検査単独では診断的な意味はなく、
陽性であった対象者が、
大腸内視鏡などの二次検査をして初めて、
大腸癌かどうかが診断される、
と言う点にあります。
そのために陽性であってもその結果を軽視して、
二次検査を受けずにスルーしてしまったり、
受けても何か月も経ってから、
というようなことも稀ではありません。
僕がとても印象に残っているケースでは、
集団検診である年に便潜血が陽性になったのですが、
その年度は二次検査は受けずに放置していて、
その翌年の検診で再度陽性となったので、
初めて大腸内視鏡検査を受けたところ、
もう進行癌の状態で手術はしたものの、
その半年後に亡くなった、という実例がありました。
そのために検診の説明会などでは、
早期発見のために、
必ず陽性の結果が出たらすぐに二次検査を受けるように、
という説明をしています。
しかし、実際にはその根拠が、
それほど明確にある、という訳ではありません。
便潜血検査が陽性と報告されてから、
1か月以内に大腸内視鏡検査をしても、
半年以上経ってから検査をしても、
それで患者さんの予後が変わるかどうかは、
これまでに確かに分かっていることではないのです。
そこで今回の研究では、
カリフォルニアにおいて2010年から2014年に、
50から70歳で便潜血検査による大腸癌検診を受け、
結果が陽性で大腸内視鏡検査を施行した、
70124名を対象として、
便潜血の陽性が報告されてから、
大腸内視鏡検査が施行されるまでの期間と、
大腸癌や進行癌のリスクとの関連を検証しています。
その結果…
二次検査により2191例の大腸癌が診断され、
そのうちの601例はリンパ節転移のあるステージ3と、
遠隔転移のあるステージ4を併せた大腸進行癌でした。
便潜血陽性が判明してから、
30日以内に大腸内視鏡検査を施行した場合と比較して、
9か月までに施行された場合の大腸癌発見のリスクと、
大腸進行癌が発見されるリスクは、
有意な差はありませんでした。
その一方で10から12か月後に施行された場合には、
30日以内に施行された場合と比較して、
大腸癌が発見されるリスクが1.48倍(95%CI;1.05から2.08)、
進行大腸癌が発見されるリスクは1.97倍(95%CI;1.14から3.42)、
それぞれ有意に増加していました。
更に12か月後以降に施行された場合には、
大腸癌が発見されるリスクが2.25倍(95%CI;1.89から2.68)、
進行大腸癌が発見されるリスクは3.22倍(95%CI;2.44から4.25)、
とこれもそれぞれ有意に増加していて、
便潜血陽性が判明してから10か月を超えると、
時間が経つほど大腸癌も多く見付かり、
進行癌もそれだけ増加していることが確認されました。
この進行癌の増加が、
便潜血陽性の結果を放置したことによると、
今回の結果のみから確定することは出来ませんが、
一定の蓋然性のあることも確かで、
倫理的にわざわざ二次検査までの時間を延ばして、
その影響を見るような臨床試験は実際には不可能なので、
今後この問題が、
これ以上明確な結論に至ることは、
ないようにも思います。
全ての癌が早期発見により予後の改善に結び付くとは言い切れず、
むしろ違いはないという結果の方が多いのですが、
大腸癌に関しては、
二次検査は速やかに行うことが、
予後の改善にも結び付く可能性が高いと、
そう考えて早期に検査を受けた方が良いようです。
皆さんも便潜血検査が陽性になった場合には、
極力3か月以内には、
大腸内視鏡検査を受けるようにして下さい。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本