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降圧剤の高齢者肺炎予防効果(高齢者高血圧診療ガイドライン2017を考える) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ARBとACEの肺炎予防効果.jpg
2011年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
広く使用されている降圧剤の、
肺炎予防効果を検証したメタ解析の論文です。

これはひょっとしたら以前にもご紹介したかも知れません。

ただ、今回は「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」に、
誤嚥性肺炎の既往のある高齢者の高血圧治療には、
肺炎予防効果を期待してACE阻害剤を第一選択として検討することが、
推奨グレードBとして考慮されていたので、
そこの引用文献も含めてこの知見を検証してみたいと思います。

ACE阻害剤は現在降圧剤の第一選択薬の1つですが、
その副作用として多く認められるのが空咳です。
これはブラジキニンやサブスタンスPの上昇によるとされていて、
これにより咳反射が誘発されるのです。
サブスタンスPは嚥下反射の誘発にも関与していて、
その加齢による減少や感受性の低下が、
誤嚥の増加の原因であると考えられています。
とすれば、ACE阻害剤を使用することにより、
高齢者ではサブスタンスPが増加し、
嚥下反射や咳反射を刺激して、
誤嚥性肺炎を予防するという可能性が示唆されます。

ガイドラインにおいて引用されているのがこちらです。
ACE阻害剤による肺炎予防効果.jpg
これは1999年のAmerican Journal of Hypertension誌に掲載された、
日本の研究者による論文で、
65歳以上で肺炎を来した55のケースと、
年齢や性別をマッチさせた220例のコントロールを比較して、
ACE阻害剤やカルシウム拮抗剤の使用と、
肺炎のリスクとの関連を検証したものです。

その結果、
関連する因子を補正した上で、
降圧剤未使用と比較して、
カルシウム拮抗薬の使用では肺炎リスクは1.84倍(95%CI;0.84から3.78)と、
有意ではないものの増加する傾向を示した一方で、
ACE阻害剤の使用により、
肺炎リスクは62%(95%CI;0.15から0.97)有意に低下していました。

ただ、概略でもお分かりのように、
例数も少なく別個の事例をマッチングさせただけですから、
それほど精度の高い臨床データとは言えません。

最初にご紹介した論文はガイドラインには引用されていないのですが、
それまでの同様の知見をまとめて解析したもので、
37の関連する文献をまとめて解析した結果として、
ACE阻害剤の使用は未使用との比較で、
肺炎リスクを34%(95%CI;0.55から0.80)、
ARBとの比較では31%(95%CI;0.56から0.85)、
それぞれ有意に低下させていました。
アジアでの臨床研究がこの分野では多いこともあり、
アジアの患者さんのみの検証では、
肺炎のリスク低下は57%(95%CI;0.34から0.54)とより大きく、
非アジア人種のみの検証では、
有意なリスク低下は認められませんでした。
また、脳卒中の既往のある患者さんに限って解析すると、
これもコントロールと比較して54%(95%CI;0.34から0.62)と、
全体より大きな肺炎リスクの低下を認めていました。

従って、ACE阻害剤が高齢者の肺炎リスクを低下することは、
ほぼ事実であると考えて良く、
そこに人種差があるかどうかはまだ明確ではありませんが、
データの主体はアジア人種のもので、
脳卒中の患者さんでは嚥下障害のあることが多いため、
よりその効果は期待出来る、
と言うことになります。

脳卒中後や高齢者で肺炎の既往のある場合の降圧には、
ACE阻害剤を優先することが、
肺炎リスクの低下という観点からは、
望ましいと考えてほぼ間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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