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「マンチェスター・バイ・ザ・シー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は夏季の休診日のため診療はお休みです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
マンチェスターバイザシー.jpg
ケネス・ローガンが監督と脚本を務め、
主演男優賞と脚本賞に輝いた作品です。

東京でも小さな映画館でしか公開はされませんでしたが、
比較的ロングランに近い形で、
劇場を変えながら細々と上映が続いている、
という感じの映画です。

これはかなり渋い素材で、
マイケル・チミノが描く映画に出て来るような、
暴力的で不器用で繊細な中年男が、
病死した兄の息子を引き取ることになり、
過去の自分と向き合う羽目になって葛藤する、
という物語です。

アメリカ映画では、
アクション映画の主人公にこうした人物を据えるのは、
比較的定番の発想で、
今回の作品でも、
死んだ兄というのが実は殺されていて、
その背後には謎の組織の影が見え隠れしていて、
と言うような感じになれば、
典型的なニューシネマ以降のアメリカアクション映画になるのですが、
実際にはこの映画では何のアクションも、
謎もドラマチックなことも起こらず、
心に空洞を抱え愛に飢えた孤独な人々が、
すれ違いながら生きてゆく姿が、
淡々と描かれるだけです。

それで悪いという訳ではありませんし、
掘り下げられた人物の姿はなかなかに魅力的ではあるのですが、
個人的には主人公の、
嫌なことをされて傷ついても、
その場では押し黙っていて、
その後バーで酒を飲んでから、
関係のない酔っ払いをぶん殴って大暴れ、
というような性格の人にあまり同情出来ないので、
どうもしんどい感じの鑑賞にはなってしまいました。

なかなか良い映画とは思うのですが、
僕は駄目でした。

これはもう相性だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「銀魂」 [映画]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
銀魂.jpg
宇宙人が黒船の代わりに来訪し、
それにより変貌した幕末が舞台のコミックを、
マニア向けの低予算ビデオみたいな演出を、
予算が大きくても平然と確信犯的に行う、
福田雄一監督が映画化しました。

脚本も福田監督自身です。

これはオープニングなどは物凄くチープで脱力する映像で、
深夜ドラマそのもののクオリティなので、
「まさかこんな馬鹿な…」と思うのですが、
そんなことは作り手も百も承知でツッコミを入れながら、
それでもそのテンションと絵作りのまま、
130分を押し切ったのには唖然としました。

ただ、そのチープな世界に慣れてしまうと、
それはそれで心地良く楽しめる感じになります。
そして、意外にもアクションは冴えていて、
もったいぶった「無限の住人」などより、
爽快な気分で観終わることが出来るのです。

日本映画としてはキャストはとても豪華で、
人気者が次々と登場して怪演を繰り広げます。
通常こうしたオールスターキャストになると、
見せ場のない顔見世的な出演の人が多いと思いますが、
今回の映画では皆かなり役柄を作り込んで、
勝負をしているのが分かるので、
その演技合戦だけでも結構元は取った気分になります。

福田監督作品では常連の、
佐藤二朗さんやムロツヨシさんは、
出鱈目の極致を喜々として演じていますし、
漫画に溶け込んだような安田顕さんのテンション、
勘九郎さんの裸芝居の馬鹿馬鹿しいまでの迫力、
渋いところでは座頭市のような新井浩文さんが、
抜群の存在感でした。

脚本もかなり練れていて、
そのままマーベルコミックのヒーロー物にして、
予算を掛けて大作にすれば、
世界的にヒットするようなアクション映画になっても、
おかしくはない水準のものです。
前半のオトボケから、
謎の辻斬りの出現と主要キャストの失踪、
幕府転覆を企む組織と新選組と主人公達との三つ巴の抗争。
男主体の芝居に女性キャストも上手く絡めていますし、
因縁の対決とか、
マッドサイエンティストとその娘の悲劇など、
定番の娯楽活劇の趣向も盛り沢山です。
その上ラストは空中戦艦によるバトルで堂々と盛り上がりますから、
これはもう間然とするところのない作劇なのです。

しかし、アメリカのようにお金は掛けられないので、
チープなパロディだと開き直って、
完成度の高い台本を、
わざわざ深夜低予算ドラマの演出で、
描いているのです。

何と言うか、
サブカルチャーの凄味のようなものを、
この作品には感じました。

ビックリしたのは客席の雰囲気で、
騒ぐガキのいる家族や、
ヤンキーの怖そうな少年少女の一団などがいて、
そのどちらもが、
映画のギャグには大笑いをしながら、
「真面目に」この映画を鑑賞していました。

なるほどこうしたものが、
日本の幅広い層に受ける娯楽であるのかと、
福田雄一さんの実力に、
改めて感心するような思いもあったのです。

カルト的な怪作です。
一見の価値は充分にあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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IgA腎症に対するステロイド治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

明日8月11日から14日(月)までは、
夏季の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
IgA腎症に対するメチルプレドニゾロンの効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
IgA腎症という患者さんの多い腎臓の病気に対する、
ステロイド治療の効果を検証した論文です。

IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。

この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。

数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療や免疫抑制剤の使用が検討されます。

しかし、こうした免疫抑制療法の上乗せ効果は、
あまり精度の高いデータの裏付けがある、
というものではありません。

治療成績は必ずしも満足の行くレベルのものではありませんし、
レニン・アンジオテンシン系の抑制が、
充分であったかどうかの検証があまりなされていないので、
真の意味での免疫抑制療法の上乗せ効果が、
どのくらいのものであるのかが不明なのです。

日本ではそれ以外に、
扁桃腺の切除とステロイドのパルス療法を組み合わせた治療が、
非常に高い奏効率を持つものとして施行されていますが、
世界的にはあまり言及をされていません。

さて、免疫を抑制することが、
IgA腎症の腎機能を保つ上で重要であることはほぼ間違いがありませんが、
全身的にステロイドを使用した臨床試験は、
あまり予後に明確な結果を示していません。

その理由は1つには糖尿病や易感染性などの、
ステロイドの有害事象にあると考えられます。

今回の臨床研究は、
ACE阻害剤もしくはARBによる治療を継続しても、
タンパク尿の充分な改善が認められていないIgA腎症の患者さんに、
上乗せの治療として比較的高用量のステロイドを使用し、
その効果と安全性を検証しているものです。

IgA腎症で、
ACE阻害剤もしくはARBによる血圧コントロールを、
3か月以上継続しても、
尿タンパクが1日1グラムを超えてていて、
腎機能を示す推計の糸球体濾過量が、
20から120mL/min/1.73㎡の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つに振り分け、
一方はステロイドのメチルプレドニゾロンを、
体重1キロ当たり0.6から0.8ミリグラム(上限48ミリ)で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
2か月の治療を行ない、
その後4から6か月を掛けて減量離脱します。
そして偽薬と比較してステロイド治療の効果と安全性を検証しているのです。

試験は262名の患者が振り分けられ、
中間値で2.1年の観察期間が経過した時点で試験は途中終了となりました。

重篤な有害事象が、
明らかにステロイド治療群で多かったためです。

この重篤な有害事象は、
ステロイド治療群の14.7%に当たる20名に認められたのに対して、
偽薬群では3.2%に当たる4名に認められていて、
そのリスクの差は11.5%となり、
有意にステロイド治療群で増加していました。
有害事象の多くは肺炎などの感染症で、
死亡例も2例が報告されています。

末期腎不全になるリスクと、腎不全による死亡、
推計糸球体濾過量が40%低下するリスクを併せたリスクは、
ステロイド治療により63%(95%CI;0.17から0.85)有意に低下していました。

つまり、
ステロイド治療は腎機能の低下と、
それに伴うリスクの抑制のためには、
一定の有効性が期待出来るのですが、
その一方で重篤な感染症などのリスクが明確に増大していて、
今回の臨床試験は、
その有害事象の増加のため中止となっています。

これまでの同種の臨床試験においても、
ほぼ同様の結果が得られています。

従って、ステロイド治療が、
IgA腎症の腎臓に対する予後に良い影響を与える一方で、
重篤な感染症の発症も、
少なからず増加させることもまた事実です。

このジレンマを解決する1つの方法は、
2017年5月30日のブログでご紹介したことのある、
小腸粘膜に選択性のステロイド剤の使用で、
今後IgA腎症に対するステロイド治療は、
通常の全身に作用する内服や注射以外の、
別個の方法を考えるべきなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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第23回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で外来は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

今日はいつもの告知です。
こちらをご覧下さい。
第23回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
8月19日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

テーマの今回はシンプルに「熱中症とその予防」です。

夏は真っ盛りで熱中症の疑われるような体調不良の患者さんが、
大人子供を問わずにクリニックを受診されています。
訪問診療をしている1人暮らしのお年寄りの方の中には、
クーラーをつけるのは大嫌い、
という方も多く、
夏場に倒れて救急車で搬送される、
という事態にも毎年のように遭遇します。

熱中症の予防のためには水分と塩分をしっかり摂れ、
というように言われます。
スポーツドリンクやイオン飲料をガバガバ飲んでいれば、
どんな暑さと湿度の中にいても、
熱中症にはならないかのような意見が、
しばしば目に留まりますが、
却って弊害が多いことのように個人的には思います。

過剰な塩分も水分も、
身体にとっては有害なものですし、
熱中症の原因は体内温度が上昇することで、
それを下げるために発汗が起こって脱水になる訳で、
脱水さえ予防していれば体内温度の上昇が抑えられる、
という理屈はおかしいからです。

熱中症の予防というのは、
もう少し繊細に考えるべき事項のように思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。
ご参加は無料です。

参加希望の方は、
8月17日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オンジの認知症予防効果とその問題点 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オンジの認知症改善作用.jpg
2009年のNeuroscience Letters誌に掲載された、
イトメヒメハギという植物の根からの抽出物の、
高齢者認知機能改善効果についての論文です。

何故この8年前の論文をご紹介するかと言うと、
最近ロート製薬から「キオグッド」という商品名で、
ほぼ同成分のオンジ(遠志)という生薬が発売されていて、
効能は「中年期以降の物忘れの改善」とされ、
「脳の記憶機能を活性化させて、中年期以降の物忘れを改善する」
とあたかも認知症の予防に有効性が確認されているが如くの、
気を惹く文面が並んでいたからです。

漢方薬や生薬の製剤としては、
抑肝散と釣藤散が認知症の周辺症状に有効な可能性があるとして、
ガイドラインにも掲載をされています。

ただ、これも認知症の中核症状に効果がある、
という性質のものではなく、
抗精神病薬などを使わざるを得ないような症状に対して、
それが比較的軽症であれば有効な場合がある、
というくらいの意味合いです。

アルツハイマー型認知症の初期症状が、
物忘れであることは間違いのない事実で、
その時点での物忘れに、
明らかに有効だという治療薬は、
現時点では確認をされていません。

仮に宣伝の意味合いが、
初期の認知症の症状を改善する、
ということであれば、
これは画期的な発見もしくは発明であって、
現代医学も形無しだ、
ということになります。

本当にそんなことがあるのでしょうか?

何故このような効能の薬が急に発売されたのかと言うと、
それは2015年に「単味生薬製剤の製造に関するガイダンス」
という資料が厚生労働省で作成されたからです。

これは主に医療用ではなく、
一般の薬局や漢方薬局で販売されている単剤の生薬について、
その標準的な製法や効能などを、
全国統一で定めたものです。

その資料の中で、
単味生薬製剤のオンジ(遠志)の効能は、
「中年期以降の物忘れの改善」と記載されているのです。
効能はこれ以外には書かれていません。
つまり、今後オンジの生薬製剤を販売する際には、
必ずその効能は、
「中年期以降の物忘れの改善」としなければいけない訳です。

他の生薬製剤の効能は、
概ね、頭痛や吐き気や二日酔いや食欲不振などですから、
こうしたものの根拠は別の科学的な裏付けによるものではなく、
参考文献も漢方の古い解説書などになっています。
一般の方もこうした効能に、
それほどの科学的な根拠が、
存在しているとは思いませんから、
特に問題はないものだと思います。

ただ、このオンジの効能の記載については、
単独の効能であるばかりか、
誰もが関心のある認知症の初期症状が改善すると、
思えてしまうような記載である点が、
正直かなり問題があるように思います。

この記載の根拠として書かれているのが、
5編の文献で、
そのうちの2編はいずれもNeuroscience Lettersに、
2009年に発表された論文で、
そのうちの一編が上記のものです。
残りの3編は漢方の教科書的なもので、
西洋医学的な検証とは無縁の文献です。

その2編は一連のもので、
同じ韓国の研究グループによる研究です。
内容も研究の視点が若干違うだけで、
ほぼ同等のものです。

オンジの元であるイトメヒメハギの抽出物については、
神経栄養因子を増加させる、というような動物実験のデータは、
複数存在していますが、
人間において実際に認知機能を検証した研究は、
まとまったものはこの2編以外にはないようです。

上記文献ではイトメヒメハギの根の抽出物を、
認知症のない60歳以上のボランティアに使用し、
8週間の治療期間の前後で、
偽薬と比較して認知機能の変化を見ています。
二重盲検という厳密な方法による臨床試験ですが、
症例数は実薬群が28名で偽薬群が25名ですから、
充分な例数とは言えません。
認知機能は評価法によってはかなりの差がついているのですが、
たとえば一般的な認知症の診断検査であるMMSEでは、
殆ど差は付いていません。
また、差がついているものについては、
逆に8週間という短期間で、
改善度が大き過ぎるという印象を持ちます。
もう1篇の論文の記述もこれと同工異曲のものです。

本来は是非追試が必要な知見で、
もっと例数を集めより長期間の検証が必要だと思われますが、
今回調べた範囲では、
そうした追試は少なくとも英文の文献としては、
発表されていないようです。

このように、
オンジの成分が認知機能の改善に結び付くという可能性は、
ないとは言えないのですが、
人間での臨床試験は韓国で行われた、
少数例の短期間のものしかなく、
その成分が完全に日本で使用されているオンジと、
同じであるという確認もされていません。
長期の安全性と有効性のいずれも不明です。

要するに、
認知症のガイドラインで言及されるような水準の知見ではありません。

その段階でこの不充分な知見のみを元に、
オンジの効能を認知症に有効と誤解されかねない、
「中年期以降の物忘れの改善」としたガイダンスの判断は、
個人的にはかなり問題があるように思います。
国がこの効能にお墨付きを与えた、
と言って過言ではないからです。

こうした記載があれば、
それを錦の御旗として、
「キオグッド」のような商品が、
非常に誤解を招くような宣伝のされ方をすることは、
商売としては理の当然ですから、
その想像力が働かなかったという時点で、
厚労省のガイダンスの記載には、
もう少し配慮が必要だったのではないでしょうか?

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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プレガバリン(リリカ)処方増加を考える [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リリカの使用過剰を考える.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された解説記事ですが、
慢性の痛みの治療薬として日本でも使用数が増加している、
プレガバリン(商品名リリカ)の、
アメリカでの処方著増について論じているものです。

ガバペンチン(商品名ガバペン)とプレガバリン(リリカ)は、
ガバペンチノイドとも総称される同種の薬で、
そもそもは抗痙攣剤の一種ですが、
その神経障害性疼痛への効果が注目され、
オピオイドのような麻薬系の薬剤と比較すると、
その副作用や依存性も少ないことから、
その使用が拡大している経緯があります。

これは世界的な現象です。

アメリカのFDAは、
帯状疱疹後神経痛に対してガバペンチンとプレガバリンを、
線維筋痛症に対してプレガバリンを、
糖尿病や脊髄損傷に伴う神経障害性疼痛に対してプレガバリンを、
それぞれ認可しています。

日本ではプレガバリンの保険適応は、
神経障害性疼痛と線維筋痛症です。

神経障害性疼痛というのは、
痛みを伝える神経が何等かの原因で障害されることにより、
神経が過敏になって痛みを生じるもので、
帯状疱疹というウイルスによる皮疹の出る病気の後で、
炎症をおこした場所がピリピリ痛む、
帯状疱疹後神経痛がその代表ですが、
太腿の裏側の痛みとしてポピュラーな、
坐骨神経痛もその仲間になりますから、
そう考えるとかなり多くの慢性の痛みが、
そこには含まれているということが分かります。

通常癌による痛み以外の慢性の痛みに対しては、
アセトアミノフェン(商品名カロナールなど)や、
NSAIDSと呼ばれる痛み止め(商品名ロキソニン、ボルタレンなど)
が使用されますが、
アセトアミノフェンはその効果が充分ではないことが多く、
NSAIDSは強力な薬ほど胃潰瘍や腎障害などの、
有害事象が起こりやすいという欠点があります。
そして、そうした薬が必要な患者さんでは、
副作用や有害事象も起こりやすいのです。

麻薬系の鎮痛剤であるオピオイドは、
トラマールやトラムセットなどの商品名で、
これも最近癌以外の慢性疼痛に対して広く使用されていますが、
癌性疼痛に使用される麻薬系鎮痛剤と比較すれば軽度ではあっても、
その常用性や依存性が問題となることが、
最近は多くなりました。

そのため、
慢性疼痛に対してオピオイドを使用していた患者さんが、
リリカに変更するようなケースも、
最近は増えているようです。

こちらをご覧ください。
リリカの処方数の増加.jpg
アメリカの最近のガバペンチノイドの処方数の推移を見たものです。
左側がガバペンチンで右がプレガバリン(リリカ)のものです。
特にリリカについては、
2012年から2016年の4年間に、
処方数が倍増していることが分かります。

上記解説記事の記載によると、アメリカにおいて、
先発医薬品でプライマリケアの臨床医に処方されている薬のうち、
インスリンのランタス、糖尿病治療薬のジャヌビア、
喘息治療薬のアドエアに引き続いて、
リリカは第4位の収益を上げた薬剤にランクされています。

勿論ニーズがあり正当な処方なのであれば、
この増加も問題があるとは言えません。

ただ、幾つかの問題を指摘する声もあります。

日本でリリカの適応とされている神経障害性疼痛には、
非常に多くの病気や病態が含まれているのですが、
実際に精度の高い臨床試験において、
リリカの効果が確認されているのは、
帯状疱疹後神経痛と糖尿病性神経障害による疼痛だけです。

これは2017年3月27日のブログ記事での紹介していますが、
同月のNew England…誌に掲載された論文によると、
坐骨神経痛に対して偽薬と比較してリリカの効果を検証した臨床試験では、
その効果は確認されませんでした。

従って、本来は全ての神経障害性疼痛への有効性が、
高いレベルで確認されているとは言えないリリカなのですが、
日本では拡大適応に近い形でその処方は容認され、
アメリカでも実際にはより広い適応で使用がされているようです。

効果がはっきりしないままの漫然とした適応拡大が行われている、
という点がまず第一の問題点です。

上記解説記事にある第二の問題点は、
ガバペンチノイドがそれほど副作用や有害事象の少ない薬剤とは、
言い切れないという点です。
鎮静作用やめまいは少なからず認められていて、
前述の坐骨神経痛への臨床試験では、
40%の患者さんがめまいを訴えています。
また、認知機能の低下を、
服用中に認めているケースもあります。
この副作用は確かに単剤で使用した場合には、
軽度のものと考えられなくはありませんが、
こうした薬は実際には複数の他の処方薬と、
併用されることが多く、
鎮静作用のあるような他の薬との併用により、
大きな問題が生じる可能性も否定は出来ません。

第三の問題点はガバペンチノイドの濫用や依存が、
認められる事例があることで、
こうしたケースはベンゾジアゼピンやオピオイドの、
使用者に多いとされていますが、
その頻度は影響については、
まだ未知数であるのが現状です。

最後にこうした薬剤が安易に慢性の痛みに使用されることにより、
本来はもっと原因を追究するべき痛みの診断が疎かになったり、
たとえば長期臥床による痛みであれば、
全身状態の改善やリハビリなどを優先するべきなのに、
痛みの訴えに安易にガバペンチノイドが使用されて、
それでよしとされるような医療レベルの低下が、
起こっている可能性も指摘をされています。

勿論オピオイドやガバペンチノイドが、
癌以外の慢性疼痛に対して使用出来るようになったことにより、
疼痛の治療が大きく進歩したことは間違いのない事実なのですが、
その一方で多くの弊害が生じつつあることもまた事実で、
その適応については、
もう一度慎重な線引きを行う必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

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  • メディア: 単行本


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赤堀雅秋「鳥の名前」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
何もなければ1日ゆっくり過ごす予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
鳥の名前2.jpg
最近多方面で活躍をされている、
THE SHAMPOO HATの赤堀雅秋さんが作・演出を勤め、
新井浩文さんや水澤紳吾さんなど、
映像で活躍をされている曲者役者と、
荒川良々さんや村岡希美さんなど小劇場のプロフェッショナルが、
一堂に顔を揃えた舞台が、
今下北沢のスズナリで上演されています。

スズナリの小空間での舞台としては、
贅沢過ぎるような顔ぶれで、
かつての竹中直人さんの舞台のような、
客席の熱気がありました。

赤堀さんの作品はあまり良い観客ではなく、
THE SHAMPOO HATの公演は、
何度か観ようとは思いながら、
他の芝居と同じような時期に上演されることが多く、
何となく観る機会を逃していました。

赤堀さんが作品を書いた、
プロデュース公演には何度か足を運びましたが、
犯罪などを扱ったかなりドロドロした筋立にも関わらず、
まったりしたテンポで淡々と物語は展開し、
何処が山場かも分からないように話が終わってしまうので、
ウトウトしながらの気合の入らない観劇になってしまいました。

今回も不安を抱えながらの観劇となったのですが、
矢張り犯罪なども扱い、
まったりとしたテンポで物語は進むのですが、
小空間ならではの空気感と、
物語の密度とのバランスが良く、
赤堀さんの意図もかなり明確に感じられる舞台であったので、
結構面白く充実した気分で劇場を後にしました。

以下ネタバレを含む感想です。

愛すべきダメ男達の群像劇、
というタイプの1時間50分くらいの芝居で、
主演が誰かは必ずしも明確ではありませんが、
ボロアパートの大家で、
家賃収入でブラブラしている無職の新井浩文さんと、
その友人で会社員の時に痴漢を疑われて仕事を失い、
父親の自転車屋を継いだ赤堀雅秋さんを中心として、
物語は開始されます。

アパートの住人の村岡希美さんと、
赤堀さんを結婚させようと、
新井さんが2人の仲立ちをするのですが、
村岡さんは荒川良々さんにストーカーをされていると訴え、
それを止めさせようと新井さんがサウナに乗り込む辺りから、
得体の知れない闇の世界に引き込まれてゆきます。

親の遺産で食いつなぎながら、
それはいつまでも続くものではなく、
無為に人生を過ごしている中年男達に、
今の社会の閉塞感のようなものが見え隠れします。

「アウトレイジ」のたけしを彷彿とさせるような、
吃音のヤクザを演じる水澤紳吾さんや、
力士上がりの怪しい青年実業家の荒川良々さんの、
怪演技も楽しく、
根本宗子さんは地下アイドルとして物語に絡み、
ストーカーに斬り付けられ殺害されるという、
現実の事件をイメージした役柄を演じます。

ラストは村岡希美さんが嘘吐きの本性を現すのですが、
新井さんも赤堀さんもそれを呑み込んで安スナックの夜は更け、
オープニングで友達から2万円を返せと言われた新井さんが、
ヤクザからもらったお小遣いで、
それを清算したというオチが付いて、
物語は軽快に終わります。

狂気を孕んだ人物が沢山登場する、
という意味では松尾スズキさんの世界にも、
ちょっと似たところがありますが、
良くも悪くも登場するのは「小物」ばかりなので、
壮大な物語になることはなく、
事件としても新聞の1面に載ったり、
3面でも大きく載るような事件ではなく、
一般紙なら3面の片隅に、
小さく載るような哀れを誘うような事件が、
その中心に据えられています。

そして、同時代的な切迫感のようなもの、
将来への絶望と空しさと、
それでも小さな希望を追い求める切なさのようなものが、
観客の心に澱のように残るのです。

作者が意図したその「気分」のようなものを、
観客が共有出来るかどうかが、
こうした作品を楽しめるポイントだという気がしますが、
今回は意図もかなり明確で作品の密度も濃かったので、
充分にその「気分」を感じることが出来ました。

ただ、国会中継をラジオで流したりする、
なくもがなの演出もあって、
「私だって危機感は共有しているのですよ」
と言いたいのかも知れませんが、
その辺は正直余計だと感じました。
いつの時代の何処の場所でも成立する物語だと思うので、
その点は筋を通した方が良いのではないでしょうか。

赤堀さん演じる自転車屋が、
自分が痴漢で捕まった話をしたり、
地下アイドルの根本宗子さん
(彼女の今の立ち位置からすれば、
ちょっと気の毒な役回りに感じました)が、
大して意味のない調子で自転車屋に本音を語る場面などの、
一方向的な「告白」の虚しさに、
充分作品のテーマは感じられると思いました。

役者は手練れが揃っていますから勿論楽しく、
荒川良々さんのサウナでの大暴れなど、
お約束のようなサービスも盛り沢山で、
赤堀さんの僕が観た作品の中では、
最も楽しめる素敵な1本になっていたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「彼女の人生は間違いじゃない」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
彼女の人生は間違いじゃない.jpg
ベテランの廣木隆一監督が、
自らの処女小説を映画化した「彼女の人生は間違いじゃない」を、
新宿の武蔵野館で観て来ました。

これは福島原発事故で人生を狂わされた人々の群像劇で、
舞台はいわき市に設定され、
主人公の滝内公美さん演じる20代の女性は、
避難指示区域となったいわき市に隣接する地域に自宅があり、
今はいわき市にある仮設住宅に住んで、
いわき市の市役所の職員として働きながら、
週末は高速深夜バスで東京に出て、
渋谷のデリヘルで働いている、
という設定になっています。

主人公の母親は病死していて、
光石研さん演じる父親は、
農業をしていた土地が避難区域となって戻ることが出来ず、
保証金で毎日パチンコだけをしている、
無為な日々を送っています。

物語は主にこの親子と、
同じ市役所の職員で、
原発の処理に関わる役所の業務に携わっている、
柄本時生さん演じる主人公の同僚の3人を軸にして展開されます。

原作も読みましたが、
映画のあらすじのような感じの薄味の小説で、
小説の方が成立は先ですが、
独立した小説という感じは、
あまりないものになっています。

内容はほぼ原作通りですが、
幾つかの違いはあります。
小説版では主人公の親子と柄本時生さんの役柄との間に、
一定の関係があるのですが、
映画ではその部分をバッサリ切って、
殆どすれ違う程度の独立した筋にしています。

また小説の成立から時間が経っているので、
いわき市を巡る状況などにも変化があり、
それを汲んでカットされている部分も映画にはあります。
主人公の父親が妻の遺品の洋服を、
福島原発近くの海に捨てる場面なども、
原作にはない映画オリジナルの設定です。

映画を観ていると、
何故主人公がデリヘル嬢をしているのかが、
あまり明確ではないのですが、
原作を読む限り、
かつて福島の原発の電気が東京に送られたように、
自分も東京から何かを奪われ奪い返したい、
という思いが根底にはあるようです。

はっきりは語られませんが、
男の性に奉仕する女性に聖性を見るような、
昔の日本映画によくあったテーマが、
沈潜しているようにも思われます。

もうちょっとドロドロした物語にもなりそうなところを、
主人公は結局デリヘルも辞めて、
福島で新たな生活を模索しますし、
父親は過去の自分に一区切りを付けて、
農業の再開に向けて行動を開始しますし、
柄本時生さん演じる若者も、
自分の仕事にやりがいを見出すような感じになりますから、
皆がポジティブな気づきを得て幕が下りるという、
前向きの物語になっています。
もう少し規格外の展開があったり、
切ない抒情のようなものがあっても良いのに、
とは思いますが、
テーマがテーマですから、
あまり遊びは出来なかったのかも知れません。

何と言ってもこの映画の値打ちは、
原発事故後のいわき市周辺の現実が、
しっかりと映像として写し取られていることで、
海から見た福島原発の全景や、
実際にそのすぐ沖合で、
主人公の父親が妻の遺品を捨てる場面が撮影されていたり、
除染の光景や汚染土の積まれた風景、
仮設住宅の様子や避難指示区域の情景などが、
美しく冷徹なキャメラで、
的確に写し取られていて、
多分それこそがこの映画の本質であったように、
個人的には感じました。
描かれたやや月並みな物語は、
言ってみればその背景として成立しているだけなのです。

従って1本の映画として観た時には、
少し彫り込み不足で中途半端な印象があるのですが、
意義のある映画であったことは、
「間違いじゃない」と思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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早期限局性前立腺癌治療方針と長期予後(20年の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
限局性前立腺癌の治療による予後.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
早期限局性前立腺癌の長期予後を、
手術と経過観察とで比較した論文です。

遠隔転移のない前立腺癌の、
最も適切な治療は何でしょうか?

前立腺癌は高齢男性に多い、
基本的には予後の良い癌です。
勿論その一部は全身に転移するなどして、
そのために命を落としたり、
骨転移による痛みなどの苦しめられる、
というケースもあるのですが、
比率的には多くの癌は、
特に症状を出すことなく、
その方の生命予後にも影響しない、
というように考えられています。

それでは、
前立腺の被膜内に留まった形で癌が発見された場合、
どのような治療方針が最適と言えるでしょうか?

神様的な視点で考えれば、
その後転移するような性質の悪い癌のみに、
手術や放射線などの治療を行ない、
転移しないような癌は放置するのが、
最善であることは間違いがありません。

しかし、実際には生検の結果である程度の悪性度は評価出来ても、
その癌が転移するかどうかは分かりません。

従って、このことを重視すれば、
全ての患者さんに治療を行なうということになり、
それは本来放置していても生命予後には問題のなかった、
多くの患者さんを「過剰に」治療するという結果に繋がります。
治療は無害ではなく、
合併症などで体調を却って崩すこともありますし、
医療コストも膨大になってしまいます。

そこで1つの考えとしては、
積極的な治療以外に、
当面は無治療で経過観察を行い、
定期的な最小限の検査は施行をして、
悪化が強く疑われれば、
治療をその時点で考慮する、
という方法が次善の策として考えられました。

これを無治療経過観察(積極的監視療法)と呼んでいます。

この無治療経過観察では、
通常は腫瘍マーカーであるPSAを、
定期的に測定し、
それが一定レベル以上上昇すれば、
治療を考慮します。
ただ、このPSAも確実に病勢を反映しているとは言えず、
そうした経過観察によって、
どの程度ただの無治療と比較して、
患者さんの予後が改善するのかも明確ではありません。

この問題を検証する目的で、アメリカで行われ、
2012年のNew England…誌に発表されたのがPIVOT研究です。

これは限局性の早期の前立腺癌の手術に、
その患者さんの生命予後を、
改善する効果があるかどうかを検証する目的で、
アメリカにおいて、限局性前立腺癌の患者さん731例を、
手術を行なう群と行わないでそのまま経過を見る群とに、
くじ引きで割り付け、
その後の経過を平均10年間観察しているものです。

癌が見付かったのに、
「手術をするかどうかはくじ引きで決めますね、これは実験ですから」
と言って承諾を得るのですから、
日本では確実に施行が不可能な種類の研究です。

ただ、当初の対象者は2000人以上を予定していたようですが、
アメリカでもさすがにそれは困難で、
最初のエントリーは5000人を超えていますが、
承諾を得て研究が施行されたのは、
そのうちの731名に留まっています。

そのトータルな結論としては、
観察期間中に手術を行なった患者さん364人中、
47%に当たる171人が死亡し、
手術を行なわず観察のみの患者さん367人中、
49.9%に当たる183名が死亡しています。
絶対リスクで治療による死亡率の減少は、
2.6%に留まっています。

つまり、
手術をしてもしなくても、
その後の経過に明確な差はついていません。

しかし、
実際に前立腺癌のために亡くなった患者さんは、
手術を行なった群では21名で、
観察のみの群では31名です。
経過の中で前立腺癌で生じ易く、
痛みなどの症状の原因になり易い、
骨への転移についてみると、
手術群で17名に対して、
観察群では39名でした。
この研究では定期的な骨のシンチの検査を、
行なっているのです。

つまり、トータルには差はなくても、
骨の転移の比率や前立腺癌のみの死亡数を見ると、
一定の治療効果はありそうです。

そこでこのPIVOT試験を一旦終了後に、
更に4年間の観察を行い、
今度は総死亡のリスクと前立腺癌による死亡のリスクに絞って、
手術と無治療経過観察との比較を行ったのが、
今回の研究です。

19.5年の観察期間(中央値12.7年)において、
手術群の61.3%に当たる223名が死亡し、
無治療観察群では66.8%に当たる245名が死亡していました。
この死亡率には両群で有意な差はありません。

観察期間中に前立腺癌もしくは治療による死亡は、
手術群の7.4%に当たる27名と、
無治療観察群の11.4%に当たる42名で認められ、
この死亡率にも有意な差はありませんでした。

そして、手術群の方が、
尿失禁などの手術に関わる有害事象の頻度は10年間は高く、
術後2年間は生活の制限もより大きくなる、
という結果になっています。

ダミコの分類という、
日本でも良く使用されている癌のリスク分類で比較すると、
低リスク群と高リスク群では、
手術群と無治療観察群とで、
総死亡リスクには差がありませんでしたが、
中リスク群(PSAが10.1から20もしくはグリーソンスコア7もしくは病期がT2b)では、
手術群の方が総死亡リスクが低い傾向が認められました。

要するに限局性の前立腺癌で、
発見された時点で転移が見つからず、
年齢も75歳以下という集団では、
手術をしてもPSAや症状のみで経過を観察しても、
20年間を通して、
明らかな生命予後の違いはありませんでした。

ただし、中リスク群については、
一定の手術のメリットがある可能性があり、
今後の検証が必要であると考えられます。
つまり、限局性の前立腺癌の全てに手術を行うのは、
矢張り長期予後から見て誤りで、
その予後を推測するなどして、
かなりの絞り込みをする必要がある、
という結論です。
今後その点についての、
明確な基準が作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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アレンドロネートによるステロイド使用高齢者の股関節骨折予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ステロイド骨粗鬆症に対するアレンドロネートの効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
評価の定まった骨粗鬆症治療薬による、
ステロイド使用高齢者の股関節骨折予防効果を、
検証した論文です。

ステロイド(糖質コルチコイド)は、
慢性の炎症性疾患やアレルギー性疾患に幅広く使用されている薬剤です。
非常に有用性の高い薬ですが、
その一方で易感染性や耐糖能異常、消化管出血など、
多くの副作用のある薬でもあります。
そして、高齢者に使用する際に大きな問題となる副作用の1つが、
骨粗鬆症と骨折の増加です。

ステロイドは比較的短期間の使用においても、
骨量を減少させ、
その影響は大腿骨などの長管骨よりも、
背骨などの海綿骨で著明です。
その影響は投与されたステロイドの累積量が多いほど、
より大きくなることが分かっています。
あるデータによると、
ステロイドの使用により、
股関節の骨折は60%、
背骨の骨折は160%増加すると報告されています。

80代ではステロイドの使用により股関節の骨折は2.1倍増加し、
それは骨塩量の減少とは独立に起こる現象であることも報告されています。

高齢者においては、
1日5ミリのプレドニゾロンを、
少なくとも3か月以上使用することにより、
骨折リスクの明確な増加が認められる、
と考えられています。

アレンドロネート(商品名フォサマック、ボナロンなど)は、
ビスフォスフォネートと呼ばれる、
強力に骨吸収を抑制する薬剤で、
抗RANKLE抗体などの新しい薬剤が使用されるようになった現在でも、
最も有効性や安全性が確立された骨粗鬆症治療薬であることは、
間違いがありません。

アレンドロネートはステロイド使用者の背骨の骨折に対しては、
その予防効果が確認されていますが、
股関節の骨折についてはその頻度が低いこともあって、
明確な予防効果はこれまでに確認されていません。

そこで今回の研究では、
65歳以上で1日5ミリグラム以上のプレドニゾロンを、
少なくとも3か月以上使用し、
それからアレンドロネートを処方された1802名を、
矢張りステロイドを同じ様に使用していて、
アレンドロネートのような骨粗鬆症治療薬を未使用の、
条件をマッチングさせた1802名と比較して、
股関節骨折のリスクを検証しています。

対象者の平均年齢は79.9歳で、
70%は女性です。
中央値で1.32年の経過観察期間において、
アレンドロネート群で27件、
アレンドロネート非使用群で73件の股関節骨折が発症していて、
アレンドロネートによる治療は、
股関節の骨折のリスクを65%(95%CI;0.22から0.54)、
有意に抑制していました。

このように今回の検証において、
プレドニゾロン換算で1日5ミリグラム以上のステロイドを、
3か月以上使用したようなケースでは、
アレンドロネートの使用が、
背骨の骨折のみならず、
股関節の骨折のリスクも明確に予防することがほぼ確認されました。

従って現状はステロイド誘発性骨粗鬆症による骨折予防の治療として、
アレンドロネートが有用な選択肢の1つであることは、
間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本