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リポ蛋白(a)濃度と心血管疾患リスク(メンデル無作為化解析による検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
Lp(a)と心血管疾患リスク.jpg
今年のthe Lancet Diabetes &Endocrinology誌に掲載された、
血液の脂質の数値とその意味についての遺伝子解析を利用した論文です。

リポ蛋白(a)というのは、
比較的簡単に測定可能な血液中の脂質の1つで、
動脈硬化性疾患に関連する指標として、
健康保険でも測定が可能です。

ただ、その数値の意味と、
高コレステロール血症の治療における意義については、
まだあまり一定の評価がありません。

そもそもリポ蛋白(a)というのは一体何でしょうか?

血液の中をコレステロールや中性脂肪などの脂質を移動させるため、
脂質はアポ蛋白という蛋白質と結合して、
リポ蛋白という形態を取っています。

要するに、荷台にコレステロールなどの荷物を載せた、
トラックのようなものがリポ蛋白です。

このリポ蛋白にも種類があって、
俗に悪玉コレステロールと言われているLDLコレステロールは、
LDLというリポ蛋白の荷台に載っているコレステロールの量のことです。

このLDLは主にアポB100というアポ蛋白が脂質と結合したものですが、
アポB100以外にアポリポ蛋白(a)という別の蛋白が、
一緒に結合したLDLの一種が存在していて、
これをリポ蛋白(a)と呼んでいるのです。

このアポリポ蛋白(a)というのは、
プラスミノーゲンという血栓などを溶解する仕組みに、
関連する物質と非常に良く似た構造を持っています。

通常血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
20mg/dL以下に保たれていますが、
その血液濃度が高い体質があり、
そうした人では狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が、
多く発症するということが確認されています。

非常に興味深い点は、
この血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
食事などの影響はあまり受けず、
基本的にその高低は、
アポリポ蛋白(a)をコードしている遺伝子のタイプで決まっている、
ということです。

高リポ蛋白(a)血症は、
ほぼ全て遺伝で決まっているのです。

最近このリポ蛋白(a)濃度とは別個にそのサイズ(粒子径)も、
遺伝子レベルで決定されていて、
より小さな粒子径のリポ蛋白(a)が、
より心血管疾患のリスクが高い、
という知見も発表されています。

ただ、このリポ蛋白の濃度と粒子径とが、
どの程度別個に心血管疾患のリスクに関連しているのか、
というような点については、
今までに名良なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
リポ蛋白(a)の濃度と粒子径に関連する遺伝子変異を解析して、
その心血管疾患との関連を多数例で検証しています。
遺伝子の変異自体は無作為に生じるという性質を利用した、
メンデル無作為化解析という手法による解析です。

その結果、
リポ蛋白(a)の濃度と粒子径の小ささのいずれもが、
総コレステロール値やLDLコレステロール値とは独立した指標として、
それぞれ独立に心血管疾患のリスクと関連していました。

現状リポ蛋白(a)のみの濃度を低下させたり、
その粒子径を大きくするような治療は確認されておらず、
その意味では現状この知見を臨床に活用する名案はないのですが、
今後リポ蛋白(a)をターゲットとした治療が、
クロースアップされることは間違いなく、
今後の研究の進捗を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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