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甲状腺機能亢進症の生命予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺機能亢進症の死亡リスク.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab.誌に掲載された、
甲状腺機能亢進症の生命予後についての論文です。

甲状腺機能が亢進していても低下していても、
いずれも健康に少なからずの影響を与えることは間違いがありません。

ただ、その影響の大きさについては、
研究データによってもかなりの差があり一定はしていません。

甲状腺機能亢進症については、
甲状腺ホルモンは正常で甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけが低下している、
所謂潜在性甲状腺機能亢進症においても、
心血管疾患のリスクや死亡リスクを増加させる、
という報告が認められます。

しかし、一方で潜在性機能亢進症ではそうして影響はない、
という報告もあります。
また、甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病)を治療した場合と、
治療をしない場合とで、
その予後に差があるのかどうかについても、
あまりはっきりしたデータはありません。

今回の研究はデンマークの医療データを活用したもので、
一度以上TSHの測定を行っている235547名の医療情報を、
中央値で7.3年間観察し、
甲状腺機能と死亡リスクとの関連を、
治療の有無を分けて検証しているものです。

TSHの正常値は0.3から4.0mIU/Lに設定されていて、
TSHが0.3未満で甲状腺ホルモンは正常である場合が、
潜在性甲状腺機能亢進症、
甲状腺ホルモンも上昇している場合が、
顕在性甲状腺機能亢進症です。

235547名のうち2793名がTSH0.3未満で、
甲状腺機能亢進症の可能性があり、
そのうちの59.3%に当たる1656名は、
機能亢進症の治療を受けています。
分類可能な事例としては、
1909名が顕在性甲状腺機能亢進症で、
498名が潜在性甲状腺機能亢進症でした。
残りの事例はTSHのみしか測定されていないので、
分類は不能となっています。

さて、合併する病気や年齢性別などを補正した結果として、
未治療の甲状腺機能亢進症の患者さんは、
甲状腺機能が正常なコントロールと比較して、
観察期間中の死亡リスクが1.24倍(95%CI;1.12から1.37)
有意に増加していました。
(これは本文では1.24倍となっていますが、
アブストラクトでは1.23倍と誤植になっています。
このレベルの雑誌だとそんな感じですね)

しかし、治療されている甲状腺機能亢進症の患者さんについては、
その死亡リスクはコントロールと差がありませんでした。
この甲状腺機能亢進症の死亡リスクの増加は、
TSHの値が低い期間と相関を示していて、
TSHが正常下限より抑制された状態が半年間ある毎に、
未治療の甲状腺機能亢進症では1.11倍(95%CI;1.09から1.13)、
治療中の機能亢進症でも1.13倍(95%CI;1.11から1.15)、
死亡リスクがそれぞれ有意に増加していました。

要するに治療と未治療には関わらず、
甲状腺機能が亢進していると、
それが死亡リスクの増加に繋がる、
と言う結果です。
従って、方法はどうあれ、
TSHが0.3未満となる期間を、
なるべく短くすることが生命予後の改善のためには必要だ、
ということになります。

ただ、そうは言ってもこのリスクの増加は、
トータルに考えると非常に軽微なもので、
おそらくは心疾患があったり、
骨量が減少していたり、
患者さんの背景が大きく影響しているのでは、
と個人的には思います。

要するに、全ての人で甲状腺機能の軽度が異常が、
生命予後に関わるような影響を与えるとは考えにくく、
今後はどのような状態の患者さんが、
その影響を大きく受けるのか、
その検証が最も必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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