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ベンゾジアゼピン使用の死亡リスク(2017年の新知見) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ベンゾジアゼピンの死亡リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
ベンゾジアゼピンの死亡リスクについての論文です。

端的に言うと、
死亡リスクということに関しては、
これまで言われていたより低そうだ、
という結果になっています。

ベンゾジアゼピンは、
商品名では抗不安薬のセルシン、
デパス、ソラナックス、ワイパックス、レキソタン、
睡眠導入剤の、
ハルシオン、レンドルミン、サイレース、
ユーロジンなどがこれに当たり、
その即効性と確実な効果から、
非常に幅広く使用されている薬剤です。

その効果はGABAという、
鎮静系の神経伝達物質の受容体に似た、
ベンゾジアゼピンの受容体に、
薬剤が結合することによってもたらされ、
不安障害の症状を軽減する作用と、
眠りに入るまでの時間を短縮する作用については、
精度の高い臨床試験により、
その効果が確認されています。

その発売以前に、
同様の目的に使用されていた薬剤と比較すると、
ベンゾジアゼピンは副作用も少なく、
使い易い薬であったため、
またたく間に世界中に広がりました。

特にストレスの強い先進国において、
ベンゾジアゼピンの使用頻度は高まりました。

ところが…

ベンゾジアゼピンの問題点が、
近年クローズアップされるようになりました。

このタイプの薬には常用性と依存性があり、
特に長く使用していると止めることが困難で、
次第にその使用量は増えがちになりますし、
急に薬を中断すると、
強い離脱症状が起こることがあります。

一方でこの薬の持つ鎮静作用は、
高齢者においては、
認知機能や運動機能の低下をもたらし、
認知症のリスクを高めたり、
生命予後を悪化させたり、
特に転倒や骨折のリスクを増加させる、
という複数の疫学データが存在しています。

ただ、ベンゾジアゼピンが成人(特に高齢者)の生命予後を悪化させる、
という知見に関しては、
大体が寄せ集めのデータで、
患者さんの個々の状態が把握されているようなものではありません。
メカニズムも不明です。
確かにベンゾジアゼピンの常用で、
ふらつきや転倒は増えそうですが、
それが本当にその患者さんにとって、
生命予後の悪化に結び付いているかどうかは、
あまり厳密には検証されていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの大規模な医療保険のデータベースを活用して、
ベンゾジアゼピンの処方を開始した18歳以上の患者さんのデータを、
同時期に医療機関を受診したベンゾジアゼピン未使用の患者さんと、
300以上の臨床的な項目を一致させて、1対1で比較し、
その生命予後を比較検証しています。
医療機関を受診中の患者さんとそうでない人では、
条件がかなり違ってしまうので、
ベンゾジアゼピンの使用群も非使用群も、
1つ以上の別個の薬も飲んでいる患者さんに限定されています。

ベンゾジアゼピンを開始した患者さんの総数は、
1252988名ですから、
これまでにない大規模な研究と言って良いと思います。

その結果…

使用開始後半年を超える観察期間において、
ベンゾジアゼピン使用群で5061名、
非使用群で4691名の死亡が認められ、
その頻度はベンゾジアゼピン使用群で年間1000人当たり9.3件に対して、
非使用群では9.4件で、
両群に有意な差は認められませんでした。
ただ、観察期間が12か月では4%(95%CI;1から8)、
48か月では9%(95%CI;2から7)の死亡リスクの増加が、
ベンゾジアゼピン使用群では認められました。
また年齢を65歳以上と65歳未満で分けると、
65歳以上ではベンゾジアゼピン使用群で、
むしろ死亡リスクは低下していたのに対して、
65歳未満では9%(95%CI;2から15)のリスク増加を認めていました。
使用したベンゾジアゼピンを、
短期作用型(半減期が24時間未満)と、
長期作用型(半減期が24時間以上)とに分けて比較すると、
短期作用型では死亡リスクが6%(95%CI;2から10)増加したのに対して、
長期作用型ではリスクは40%(45から35)むしろ低下していました。

また、抗うつ剤のSSRIを、
ベンゾジアゼピンの代替薬として比較すると、
ベンゾジアゼピンはSSRIと比較して、
死亡リスクが9%(95%CI;3 から16)有意に増加していました。

つまり、ベンゾジアゼピンを継続的に使用することで、
未使用と比較して死亡リスクはやや増加する可能性はあるのですが、
トータルに見て有意差が出るほどではなく、
これまでの主にメタ解析などによる結果は、
ややそのリスクを過剰に見ていた可能性が高いように思われます。

ただ、不安障害への使用であれば、
SSRIの方が安全性が高いことはほぼ間違いがなく、
また従来から言われていたように、
短期作用型のベンゾジアゼピンより、
長期作用型の方が、
生命予後の面での安全性は高いようです。
年齢に関してはやや意外な結果ですが、
おそらく高齢者でのベンゾジアゼピンの悪影響とされていたものの中には、
多分にそれ以外の要因による高齢者の健康上のリスクが、
関係している可能性が高いのではないかと推測されます。

勿論これをもってベンゾジアゼピンが安全、
というようには言えないのですが、
長期作用型を使用して、
なるべく短期間の使用に留めるのであれば、
生命予後に関しての悪影響については、
それほど高いものではないと、
そう考えても良いようには思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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