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歌舞伎座七月大歌舞伎(2017年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
ただ、無念なことにレセプトがまだ完成していないので、
仕方なく作業に出掛ける予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
7 月大歌舞伎.jpg
海老蔵の親子宙乗りが話題の、
歌舞伎座の今月の夜の部に足を運びました。

歌舞伎については最近は海老蔵以外はあまり観る気になれなくて、
今年は1月の演舞場、3月の歌舞伎座、
そして六本木歌舞伎の「座頭市」、
先月のABKAIと足を運んでいます。

ABKAIは行ったのが奥さんが亡くなった翌日で、
胸が詰まるような感じもありましたが
(遅ればせながらお悔やみ申し上げます)、
作品的にはあまり出来の良い舞台ではなく、
「座頭市」も感心はしませんでした。

今回の夜の部は古典を現代の味付けも加えて復活させた、
かつては先代猿之助が得意とした復活狂言で、
こうしたものは薄味になりがちで、
如何なものかなあ、と思ったのですが、
意外にも今年の海老蔵の芝居の中では、
最も楽しめた作品でした。

外題は「駄右衛門花御所異聞(だえもんはなのごしょいぶん)」で、
白波五人男で有名な日本駄右衛門が、
石川五右衛門を思わせる大悪党として登場し、
お家騒動に絡んで天下を狙う物語を縦筋に、
歌舞伎で定番の遊び人で傾城と逃げる城主の弟であるとか、
3千両という大金を使い込んで浪々の身となった家老の弟などが絡み合います。

かつての先代猿之助歌舞伎と同じように、
そこに有名な歌舞伎作品の趣向を、
これでもかと放り込むのですが、
今回は狐の宙乗りは、
もう歌舞伎もどきショーとして割り切って、
マイクや映像なども使って、
現代的なショーにしてしまい、
それ以外の部分については、
なるべく古典劇の雰囲気を活かして構成されています。

領主の弟役の巳之助と傾城の新悟が道行の舞踊を見せ、
オープニングでは海老蔵が善悪の2人を演じ分けての早変わりの殺陣があり、
その後は時代物の趣向で、
領主の切腹へのカウントダウンに忠臣蔵の四段目的趣向があり、
「新薄雪物語」めいた仮腹(衣装をはだけると実はもう腹を切っている)もあり、
堂々たる日本駄右衛門の見現しがあります。
2幕目は世話物になり、
やや複雑すぎる感じもしますが、
駄右衛門配下のお才役の児太郎の裏切り劇に、
後半は伊勢音頭のような殺し場まで用意されています。
ラストは金閣寺の屋台崩しまであって、
怨霊と化した中車との対決まで繰り広げられます。

なかなかバランスの取れた台本で、
かなり苦労があったと推察します。
笑三郎辺りはちょっと気の毒ですが、
それ以外のキャストはそれぞれ見せ場があって、
充実した競演をまずは楽しむことが出来ます。

駄右衛門はゾンビの軍団を配下に従えている、
という趣向なのですが、
この死人の群れというのが意外に歌舞伎的で、
何でも突っ込んだごった煮のような豊穣な奇怪さは、
江戸末期の歌舞伎劇の雰囲気を、
濃厚に感じさせて趣きがありました。

眼目の海老蔵は悪の首領とそれを追い詰める若武者を、
1人で演じるという趣向がとても歌舞伎的で楽しく、
こうしたものを観ると、
六本木歌舞伎やABKAIが、
どうして詰まらなかったのかが分かりました。
どちらも海老蔵はスーパーマンの善玉のみを演じていたので、
当たり前のお芝居にしか感じられず、
歌舞伎味がまるでなかったのです。

矢張り歌舞伎劇の座頭役者は、
善悪両方を演じてこそ、
その魅力が花開くのだと思いました。

今回も高僧に姿を変えた駄右衛門が、
不敵な笑いと共に本性を現し、
睨みと大見えを切るところなどは、
当代随一の千両役者の風格がありました。

すっかり海老蔵組となった感じもある中車ですが、
数年前と比べると、
大分歌舞伎口調も動きも板について来ていました。
まだ物足りない部分は多いのですが、
このくらいやってくれれば及第点ではないでしょうか。
その存在の大きさは血筋を感じます。

そんな訳で意外に楽しめた歌舞伎劇でした。

これからも海老蔵と中車は可能な限り追いかけたいと思います。
後は玉三郎や吉右衛門はもっと良い時に充分に観ましたし、
当代猿之助はもう何をしないのかしたくないのか良く分からないし、
勘九郎や染五郎のナルシスティックな芝居は胃にもたれてつらいので、
今のところは他の歌舞伎はいいかな、
というのが正直なところです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。