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皮膚膿瘍に対する抗生物質の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後はレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
皮膚膿瘍に対する抗生物質の効果.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
皮膚の感染症に対する抗生物質の効果を、
偽薬との比較で検証した論文です。

皮膚に細菌の感染症を起こして、
患部が赤く腫れて痛みを伴う皮膚膿瘍は、
非常に頻度の高い細菌感染症の1つです。

皆さんも一度はご経験があるのではないかと思います。

通常ある程度大きな皮膚膿瘍であれば、
患部を切開して排膿し、
抗生物質を数日間使用することが、
一般的な治療だと思います。

ただ、皮膚膿瘍の原因菌は、
皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌で、
最近ではペニシリンなどに耐性を持つ、
MRSAと呼ばれる耐性菌であることが多くなっています。

その場合比較的値段が安くて、
MRSAに有効性の高い抗生物質である、
クリンダマイシンやST合剤が使用されることが多いのですが、
その使用にはどのくらいの有用性があるのでしょうか?

偽薬を使用して比較するような精度の高い臨床試験で、
その有効性が評価されたことはこれまでにありませんでした。

そこで今回の研究では、
複数施設で大きさが5センチ以下の比較的小さな皮膚膿瘍の患者さんを登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで3つの群に分けると、
いずれも患部を切開して排膿した上で、
第1群ではST合剤を第2群ではクリンダマイシンを、
そして第3群では偽薬を、
いずれも10日間継続して使用し、
開始後7から10日後の治癒率を比較検証しています。

登録されたのはトータル786名の患者さんで、
64.2%に当たる505名は成人で、
残りの35.8%に当たる281名は小児です。
細菌培養でそのうちの67.0%に当たる527名では黄色ブドウ球菌が検出され、
49.4%に当たる388名はMRSAでした。

10日の治療終了時点で、
偽薬群の治癒率は257名中177名で、
68.9%であったのに対して、
クリンダマイシン群は266名中221名の83.1%、
ST合剤群は263名中215名の81.7%で、
抗生物質使用群はいずれも偽薬と比較して、
有意に治癒率は増加していて、
抗生物質の2群には差はありませんでした。
(intention-to-treat analysis)

この抗生物質使用による有効性は、
黄色ブドウ球菌が検出された事例のみで認められました。
治癒後1か月での新たな感染の出現率には、
3群で差はありませんでした。
つまり、抗生物質の使用により、
感染が再発しやすくなった、
というようなことはありません。

治療の有害事象は、
クリンダマイシン群が有意に高く、
その主なものは下痢と吐気で、
後遺症を残すことなく改善していました。
ST合剤群で1例のみアレルギー症状が認められました。

このように、
黄色ブドウ球菌が原因となった、
比較的軽症の皮膚膿瘍の治療においては、
患部の切開と排膿に加えて、
10日間の抗生物質の使用に、
一定の有効性が認められました。
従って、その有害事象には留意しながら、
こうしたケースで抗生物質を使用することは、
有効な治療であることが確認された、
という結果になっています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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