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寝汗の原因について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
寝汗の原因.jpg
これは2012年のJ Am Board Fam Medという雑誌に掲載された、
寝汗(Night Sweats)の原因やメカニズムについてのレビューです。

寝汗は夜間の発汗過多による症状で、
実際に体験された方はとても不快だ、
というように話されます。
一方で寝汗が唯一の症状で、
実は深刻な全身の病気であった、
というような情報も、
ネットなどではまことしやかに流れています。

僕も寝汗で日本語の検索を掛けてみたのですが、
大体同じような記事にしか当たりません。
学術的なものはほぼ皆無で、
引用文献などもありません。
内容も如何なものかなあ、
という感じのするものです。

それでPudMedで検索をしてみて、
比較的まとまっていて、
過去の文献も幅広く引用されているのが、
上記のレビューでした。
今日の記事はそれ以外に、
2003年の診断のレビューなどを参考にしています。

さて、不快な寝汗はどうして起こるのでしょうか?

発汗の主な生理的な目的は、
汗の形で水分を体外に出すことにより、
体温を下げて身体の定常性を保つことです。
その指令の中枢は視床下部にあります。
発汗の刺激の主体は交感神経なので、
視床下部から熱を下げろという発汗指令が発せられなくても、
交感神経が強く緊張すると、
それだけでも汗をかきます。
これが冷や汗ですね。

人間は誰でも睡眠中に汗をかきます。
これは睡眠中は体温を少し下げる必要があるからで、
その主な反応は睡眠の前半の時期に起こります。

従って、正常な睡眠時の発汗は、
主に寝てからそれほど時間が経たない時点での現象です。
その一方で病的な睡眠中の発汗、すなわち寝汗は、
睡眠の全時期を通して起こるか、
睡眠が浅くなったり中断されたりする時間帯に起こります。

それでは寝汗の原因にはどのようなものがあるでしょうか?

まず病気で熱があれば、
それを下げるために発汗が高まりますから、
寝汗の原因にもなります。

つまり、発熱する疾患は寝汗の原因の第一です。

ここで良く寝汗の原因として指摘される病気が、
結核です。

寝汗があったら結核を疑えというのは、
かなり昔から言われて来たことです。

ただ、上記文献の記載によると、
過去の論文を集めてみても、
多数例での検証として、
他の病気と比較して結核で寝汗が多い、
という根拠となるような論文は、
殆ど存在していないようです。

理屈から考えても、結核のみが寝汗の原因とは考えにくく、
微熱や消耗感、軽い咳など以外に、
症状がなく経過することが結核ではよくあり、
そうしたケースでは寝汗の存在が、
結核を疑うきっかけになり得る、
ということではないかと思います。

たとえば、
EBウイルスによる感染症は、
慢性ではなくても数か月と長引くケースがあり、
その場合にも寝汗は特徴的な症状であると報告されています。

従って、特に結核に限るのではなく、
有熱性の感染症で亜急性から慢性の経過を取る病気では、
熱は微熱程度のこともあり、
寝汗が症状としては唯一の兆候となるケースも、
少なくないという認識を持つ必要があります。

それから、交感神経の緊張があると、
それが寝汗に結び付くメカニズムが想定されます。

交感神経の緊張を伴う病気としては、
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)がその代表です。

ただ、バセドウ病であれば寝汗もかきますが、
昼間の発汗も多いですし、
手の震えやイライラや体重減少や動悸など、
他の症状もありますから、
寝汗だけをターゲットにする、
という必要はなさそうです。

僕もバセドウ病の診療で、
寝汗の有無を聞くことはあまりありません。

それから寝汗の大きな原因の1つは不眠です。

睡眠が妨害されて覚醒するような状態では、
交感神経が緊張しているので寝汗の原因となります。
よく悪夢を見てベットリと嫌な汗をかいて目覚めた、
というような表現がありますが、
これはレム睡眠の前後で交感神経が緊張し、
発汗が生じたことを示しています。
またうつ病では睡眠時の体温が上昇している、
という知見もあり、
うつ状態があれば、
それだけで寝汗が生じてもおかしくはありません。

睡眠時無呼吸症候群では寝汗が多いとされていて、
これも呼吸状態が悪化するために、
交感神経が夜間緊張することがその原因と想定されます。

つまり、睡眠が不安定であれば、
寝汗が生じておかしくはないのです。

癌も寝汗の原因となるとされていますが、
これも実際にはそれほど科学的な検証がされている知見ではないようです。
癌の多くでは身体は消耗しますし、
炎症があるので微熱になることが多く、
睡眠も不安定になりますから、
寝汗の原因となるものは揃っています。
ただ、寝汗で癌を疑う、
というのは少し言い過ぎのように思います。

寝汗の多い悪性腫瘍として知られているのはホジキンリンパ腫で、
寝汗のみが症状として認められたこの病気の事例が、
複数報告されています。
ただ、これも統計的なデータなどはないようです。
原因もそれほどはっきりしている訳ではありません。
リンパ腫は早期発見が難しい病気ですから、
そのことが1つの要因となっているようには思います。

それから、必ず一般の読み物などに書かれているのが、
逆流性食道炎(胃食道逆流症)で寝汗が多い、という知見です。
これは1989年くらいに最初の報告があるようで、
その後数例の症例報告といったレベルのものが幾つか発表されています。
原文に当たろうと思ったのですが、
大体がマイナーな雑誌で、
簡単にダウンロードなどは出来なかったので、
原文は確認をしていません。
胃食道逆流性の診療ガイドラインを読んでも、
症状としての寝汗の記載はありません。
メカニズムははっきりしないのですが、
胃食道逆流症が不眠の原因の1つとなるという知見はあり、
それがおそらくは寝汗の原因と思われます。
(原文を読まれた方で異なるメカニズムが記載されているようでしたら、
ご教授頂ければ幸いです)

病気ではなく寝汗をかく状態の代表は、
女性の更年期症状です。
これはやはり交感神経の刺激症状ですが、
発汗の中枢である視床下部自体が、
発汗過多の原因となっています。
女性ホルモンの低下に伴って、
視床下部から下垂体はある種の興奮状態になっているからです。

男性では通常はこうした症状はありませんが、
急激に男性ホルモンが低下するようなことが起こると、
同様の症状が出現することがあります。
典型的であるのは、
前立腺癌の治療で男性ホルモンを強力に抑制したようなケースです。

薬も寝汗の原因となることがあります。
解熱剤や痛み止めは、
熱を下げる作用があり、
それに伴って発汗が生じます。
抗うつ剤や降圧剤なども、
副作用として寝汗を生じるという報告があります。
ただ、こうした報告は数例のものが殆どなので、
どの程度実際に寝汗の原因となっているかは分かりません。

低血糖は交感神経の緊張を高めるので、
その症状の1つとして発汗過多になります。
所謂「冷や汗」という感じの不快な汗です。
糖尿病で治療を受けている患者さんの場合、
睡眠中に低血糖になると、
それが寝汗として自覚されることがあります。
従って、糖尿病で治療中の患者さんでは、
寝汗は低血糖のサインの可能性があるので、
軽視するべきではありません。

このように単純に見える寝汗という症状にも、
多くの原因が隠れている可能性があります。
一方で多くの寝汗はほぼ生理現象で、
室温や湿度、寝具や寝間着などの環境に要因があるので、
寝汗を病気と考えるのも考え過ぎという面があります。

その人がどのような薬を飲んでいるのか、
甲状腺機能亢進症なら動悸や頻脈、
結核であれば微熱や全身倦怠感や咳痰など、
併存する症状に注意しつつ、
適切な検査を必要に応じて行うことが、
現時点では適切な対応であるように思います。

今日は寝汗の総説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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