1型糖尿病に対するメトホルミンの効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のLancet Diabetes&Endocrinology誌に掲載された、
1型糖尿病におけるメトホルミンの有用性についての論文です。
糖尿病は大きく1型と2型に分けられます。
1型は自己免疫が関与していて、
膵臓が炎症を起こすことによって、
インスリン分泌が高度に低下した状態となり、
診断と同時にインスリン注射が、
生きるためには必須の治療となります。
一方で2型の糖尿病は、
内臓脂肪の蓄積などの要因により、
インスリンの効きが悪くなって血糖が上昇。
その後徐々にインスリンの分泌も低下します。
肥満を伴うことが多く、
この場合第一選択の薬は、
インスリン抵抗性を改善する作用をもつ、
メトホルミンです。
1型であれ2型であれ、
糖尿病で生命予後を左右するのは、
その血管の合併症で、
特に動脈硬化の進行に伴う心血管疾患と呼ばれる合併症です。
この合併症の予防のためには、
極力血糖値を正常に近づけることが、
有用であることは間違いがありません。
しかし、1型糖尿病をインスリンを使用してコントロールすると、
血糖値を正常に近づけようとすれば、
低血糖のリスクが高くなります。
また、外からインスリンを注射で使用すると、
どうしても自然に分泌されるより、
多くの量のインスリンが必要となって、
高インスリン血症となり、
それが動脈硬化を進行させるリスクになるという、
ジレンマも生じます。
1型糖尿病をインスリンの注射だけで治療することには、
自ずと限界があるのです。
それでは、どうすれば良いのでしょうか?
インスリンの効きを良くする効果のあるメトホルミンを、
インスリン治療に追加するのは1つの選択肢です。
このメトホルミンの併用は、
現行のアメリカとヨーロッパのガイドラインにおいて、
過体重か肥満の1型糖尿病の患者さん治療における、
血糖コントロールの改善とインスリン必要量の減量目的で推奨されています。
ただ、その根拠は、
内容的にはかなり雑多で治療間隔も短いものが多い、
それほど精度が高いとは言えないメタ解析が、
その主なものであったので、
より精度の高い単独の臨床試験で検証することが求められていました。
そこで今回の臨床試験では、
オーストラリア、カナダ、デンマーク、オランダ、イギリスの5か国の、
23の専門施設で少なくとも5年以上1型糖尿病の治療を受けていて、
心血管疾患発症のリスクが高い40歳以上の患者さん、
トータル428名を、
患者さんにも主治医にも分からないように2つに分け、
一方はメトホルミンを1日2000㎎上乗せし、
もう一方は偽薬を使用して、
3年間の経過観察を行っています。
その結果、
動脈硬化の指標である頸動脈の内中膜複合体の厚みの最大値は、
メトホルミン使用群で有意に減少していました。
(年間-0.013mm、95%CI; -0.024から0.003)
ただ、当初の指標である内中膜複合体の厚みの平均値については、
有意な減少は認められませんでした。
メトホルミンの使用により、
血糖コントロールの指標であるHbA1c値は、
-0.13%有意に低下していましたが、
これは治療開始後3か月以内の減少によるもので、
それ以降の期間においては有意な変化は認められませんでした。
また、
3年間のメトホルミンの治療により、
体重減少とLDLコレステロール値の減少、
推計糸球体濾過量の増加が認められましたが、
インスリンの必要量の低下は認められませんでした。
要するに1型糖尿病の患者さんに対して、
メトホルミンを上乗せで使用することは、
血糖コントロールの改善やインスリン必要量の減少、
という面ではあまり有効とは言えないのですが、
体重減少やコレステロールの低下、腎機能の改善に結び付き、
動脈硬化の進行の予防にも結び付く可能性がある、
という結果になっています。
ただ、治療期間は3年間と短く、
実際に心血管疾患の予防効果があるかどうかは、
まだ今後の検証を待つ必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のLancet Diabetes&Endocrinology誌に掲載された、
1型糖尿病におけるメトホルミンの有用性についての論文です。
糖尿病は大きく1型と2型に分けられます。
1型は自己免疫が関与していて、
膵臓が炎症を起こすことによって、
インスリン分泌が高度に低下した状態となり、
診断と同時にインスリン注射が、
生きるためには必須の治療となります。
一方で2型の糖尿病は、
内臓脂肪の蓄積などの要因により、
インスリンの効きが悪くなって血糖が上昇。
その後徐々にインスリンの分泌も低下します。
肥満を伴うことが多く、
この場合第一選択の薬は、
インスリン抵抗性を改善する作用をもつ、
メトホルミンです。
1型であれ2型であれ、
糖尿病で生命予後を左右するのは、
その血管の合併症で、
特に動脈硬化の進行に伴う心血管疾患と呼ばれる合併症です。
この合併症の予防のためには、
極力血糖値を正常に近づけることが、
有用であることは間違いがありません。
しかし、1型糖尿病をインスリンを使用してコントロールすると、
血糖値を正常に近づけようとすれば、
低血糖のリスクが高くなります。
また、外からインスリンを注射で使用すると、
どうしても自然に分泌されるより、
多くの量のインスリンが必要となって、
高インスリン血症となり、
それが動脈硬化を進行させるリスクになるという、
ジレンマも生じます。
1型糖尿病をインスリンの注射だけで治療することには、
自ずと限界があるのです。
それでは、どうすれば良いのでしょうか?
インスリンの効きを良くする効果のあるメトホルミンを、
インスリン治療に追加するのは1つの選択肢です。
このメトホルミンの併用は、
現行のアメリカとヨーロッパのガイドラインにおいて、
過体重か肥満の1型糖尿病の患者さん治療における、
血糖コントロールの改善とインスリン必要量の減量目的で推奨されています。
ただ、その根拠は、
内容的にはかなり雑多で治療間隔も短いものが多い、
それほど精度が高いとは言えないメタ解析が、
その主なものであったので、
より精度の高い単独の臨床試験で検証することが求められていました。
そこで今回の臨床試験では、
オーストラリア、カナダ、デンマーク、オランダ、イギリスの5か国の、
23の専門施設で少なくとも5年以上1型糖尿病の治療を受けていて、
心血管疾患発症のリスクが高い40歳以上の患者さん、
トータル428名を、
患者さんにも主治医にも分からないように2つに分け、
一方はメトホルミンを1日2000㎎上乗せし、
もう一方は偽薬を使用して、
3年間の経過観察を行っています。
その結果、
動脈硬化の指標である頸動脈の内中膜複合体の厚みの最大値は、
メトホルミン使用群で有意に減少していました。
(年間-0.013mm、95%CI; -0.024から0.003)
ただ、当初の指標である内中膜複合体の厚みの平均値については、
有意な減少は認められませんでした。
メトホルミンの使用により、
血糖コントロールの指標であるHbA1c値は、
-0.13%有意に低下していましたが、
これは治療開始後3か月以内の減少によるもので、
それ以降の期間においては有意な変化は認められませんでした。
また、
3年間のメトホルミンの治療により、
体重減少とLDLコレステロール値の減少、
推計糸球体濾過量の増加が認められましたが、
インスリンの必要量の低下は認められませんでした。
要するに1型糖尿病の患者さんに対して、
メトホルミンを上乗せで使用することは、
血糖コントロールの改善やインスリン必要量の減少、
という面ではあまり有効とは言えないのですが、
体重減少やコレステロールの低下、腎機能の改善に結び付き、
動脈硬化の進行の予防にも結び付く可能性がある、
という結果になっています。
ただ、治療期間は3年間と短く、
実際に心血管疾患の予防効果があるかどうかは、
まだ今後の検証を待つ必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本