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ヴェルディ「椿姫」(2017年パレルモ・マッシモ劇場上演版) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で診療は午前午後とも石原が担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
パレルモの椿姫.jpg
イタリアのパレルモ・マッシモ劇場が、
今来日公演を行っています。
デジレ・ランカトーレがヴィオレッタを演じる、
「椿姫」の舞台を聴きに行きました。

ヴェルディの「椿姫(ラ・トラヴィアータ」は、
日本でおそらく最も上演頻度の高いオペラで、
最近は上演頻度は減っていると感じますが、
それでも毎年数回は必ず何処かで上演されます。

これがヴェルディの代表作かと言うと、
そうは言えないと思いますが、
音楽的にも充実したオペラで、
ヒロインが様々な技巧を尽くして歌いまくるので、
ソプラノ歌手にとっては、
一度は全幕通して歌いたいと誰もが願う、
特別の演目であることもまた確かです。

聴き始めの頃は、
1幕ラストのコロラトゥーラの技巧を散りばめた大アリアに、
矢張り目が行くのですが、
ヴェルディは生粋のバリトン好きですから、
2幕一場のソプラノとバリトンの二重唱の部分が、
音楽的には最も充実しています。
このパートに関しては、
ヴェルディの数あるオペラを、
音楽的に代表する場面の1つであることは、
間違いがないように思います。

以前はズタズタにカットされて、
悲惨な短縮版としての上演が常だったのですが、
最近はほぼノーカットでの上演が増え、
この作品の真価が明らかになったことは、
素晴らしいことだと思います。

ソプラノのアリアとしても、
1幕より3幕巻頭のアリアが、
歌手の腕の見せ所という感じがあります。

単純に見えて、
繰り返し聴くと、
必ず新たな発見があるという辺りも、
名作の所以だと思います。

僕も50回くらいは生で聴いていると思いますが、
大御所ではデヴィーアやグルヴェローヴァ、
チューリヒ歌劇場の時のエヴァ・メイ、
4回の公演全てに足を運んだデセイ様、
今回と同じランカトーレ、
新国立のアンドレア・ロスト、
デビューは華やかだったボンファデッリ、
英国ロイヤルオペラで、
ドタキャンのゲオルギューに代わって、
1日のみ舞台に立ったアンナ・ネトレプコ、
メトロポリタンのルネ・フレミングなどが、
印象に残っています。

悔いが残っているのは、
一度だけ新国立で来日したインヴァ・ムーラで、
ロストとのダブルキャストだったのですが、
当時はロストが大好きだったので、
ロストしか聴きに行きませんでした。
彼女は素晴らしいコロラトゥーラで、
その後来日は多分一度もありません。

さて、今回の上演ですが、
なかなか良い「椿姫」だったと思います。

パレルモ・マッシモ劇場は、
超一流の歌劇場という訳ではありませんが、
如何にもイタリアの歌劇場という感じのオケで、
歌手の伴奏としての職人芸的な演奏はなかなかだったと思います。
お上品で繊細な音ではないのですが、
歌手の呼吸に巧みに合わせた柔軟な演奏でした。

演出は100年前でも同じと思わせるような、
古めかしいものでしたが、
まあまあ綺麗に出来ていて、
ストーリーをしっかり伝えるという意味では、
最近の無理矢理読み替えのような演出より、
ずっと安定感がありました。

最近の大手の招聘会社の引っ越し公演と称するものは、
経費削減が露骨なことが多く、
合唱と言っても、半分くらいは日本人だったりするのですが、
今回は結構大人数の合唱を実際に連れて来ていて、
これもそれほど上手くはないのですが、
矢張り歌手との呼吸などは良く、
とても良心的な招聘と感じました。
日本人エキストラの名前もちゃんと配役表に書かれています。
これも良心的で何処かの悪質な呼び屋さんとは違いますよね。

特筆するべきは字幕の文章で、
キリスト教的に祝福されない恋という、
やや日本人には分かりにくい作品のテーマを、
上手く伝えていたと思います。
2幕1場の父ジェルモンが、
息子と別れて欲しいと、
主人公の高級娼婦ヴィオレッタを説得する場面など、
通常訳が分からなくなるのですが、
「神に祝福されない恋」という一点で、
筋を通していたのにはセンスを感じました。
また、2幕2場の闘牛士の歌の意味合いなども、
分かりやすく字幕にしていて、
なるほどと思いました。

メインキャストは、
ヴィオレッタにデジレ・ランカトーレ、
アルフレードにアントニー・ポーリ、
父ジェルモンにレオ・ヌッチという布陣で、
3人とも生粋のイタリアの声という点が嬉しく、
如何にもイタリア的な声の競演が、
なかなかのレベルで展開されていて、
非常に聴きごたえがありました。

ランカトーレは、
ちょっとドンくさい田舎娘という雰囲気なのですが、
歌うことが本当に好きなことが、
伝わってくるような熱のある歌唱が持ち味で、
僕は好きなソプラノの1人です。
2011年の震災の年の秋のボローニャ「清教徒」など、
今もその熱唱が耳に焼き付いています。
良く来日してくれましたよね、本当にブラボーです。
押し出しが弱いので、
今回もオープニングなど、
「誰が椿姫?」という感じなのがちょっと残念です。
ただ、歌が乗ってくれば引き込まれます。
中音域とは別の出し方で高音を出していて、
以前は音調の違いに違和感があったのですが、
今回は割とスムースに中音域から高音域へのシフトチェンジがされていて、
声の出し方に違いはないのですが、
それほどの違和感はなくなっていました。
以前より低音域が安定して出せているので、
歌に膨らみが増していたと思います。
1幕の大アリアはボチボチで、
前半はカットもありましたが、
2幕のジェルモンとの掛け合いはなかなかの精度で、
3幕の巻頭のアリアはカットなしの全曲版で、
気合の入った歌唱でした。
総じて作品の肝が分かっての演技と歌唱なので、
説得力があって良かったと思います。

アルフレードのポーリは、
ちょっとお上品でテンションは低めなのですが、
美声で歌はしっかりしています。
今回はテノールのアリアはカットが多くて残念なのですが、
3幕はかなり頑張っていたと思います
冬の新国立劇場版も楽しみです。

そして大ベテランのヌッチですが、
以前は体調もあり海外で売れっ子でもあったので、
キャンセルも多く、
なかなか日本でオペラを歌ってはくれなかったのですが、
最近は来日も多く、
歌はさすがに往年の精度ではありませんが、
「リゴレット」も「椿姫」も、
日本で聴けたのは幸せでした。
今回もその存在感は抜群で、
ヴィオレッタとの掛け合いは迫力がありました。

そんな訳で意外に良かった「椿姫」でした。
最近はワーグナーの方が聴くことが多くなりましたが、
ヴェルディも悪くないなと今回は思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。