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高尿酸血症と健康との関連について(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
尿酸値のメタ解析.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
高尿酸血症の健康への影響を、
これまでのデータを集積して解析した論文です。

血液の尿酸値が高いことで、
身体にとってどのような問題があるでしょうか?

一番最初に思い付くのは所謂「痛風」の関節炎です。

尿酸が高い人がたとえばお酒を飲むと、
その翌日に足の指の付け根が真っ赤に腫れて、
歩けないような酷い痛みが襲います。

これが痛風の発作です。

この痛風発作は、
必ずしも尿酸が高いことのみを、
原因として起こる訳ではありませんが、
血液の尿酸値が6.0mg/dl 以下では起こり難いことは間違いがなく、
従って痛風の関節炎を起こして、
その時の尿酸値が7.0mg/dl を超えており、
その尿酸値がお酒を控える、体重を減らす、
などの生活習慣の改善によっても低下しない時には、
尿酸値を下げる薬を、
飲むことが推奨されます。

これは世界的にもほぼ共通の認識です。

問題は痛風発作がなく、
それでいて血液の尿酸値が高い時です。

この場合、アメリカやヨーロッパでは、
基本的には尿酸値を下げる薬は推奨されません。
その一方で日本においては、
血液中の尿酸値が9.0mg/dl を超えていれば他に何も病気がなくても、
8.0mg/dl を超えていて腎障害や糖尿病があればその時点で、
いずれも薬物治療の適応となります。

何故このような違いがあるのでしょうか?

ガイドラインを隅々まで読んでも、
どうもその点にはすっきりした説明がありません。

腎機能や高血圧の状態と、
血液の尿酸値に関連性がある、
というデータが複数存在し、
それが1つの論拠となっています。

つまり、尿酸が高いことにより、
腎機能が悪くなったり、
血圧が上昇したりしているのではないか、
というのです。

しかし、それを証明するのには、
尿酸を薬で下げることにより、
それだけで高血圧が発症し難くなったり、
腎機能が悪化し難くなったりすることを、
示さなければなりませんが、
クリアに人間でそうした治療効果を証明したデータは、
「若干の傾向…」程度のものがあるだけで、
実際には存在しないのです。

このことが、
海外では尿酸を下げる薬の使用が、
痛風の患者さん以外では推奨されていない理由です。

ただ、最近になり海外においても、
高血圧や心血管疾患、糖尿病、心不全、慢性腎臓病などの慢性病において、
尿酸が高いことが病気の発症に結び付いているのではないか、
ということを示唆する報告が、
多く寄せられるようになりました。

しかし、尿酸値の高いこと自体が、
血圧を上昇させたり、腎臓の血流に結び付いたりするような、
原因となっているのかどうか、
と言う点については色々な見解があって、
一定の結論に至っていません。

今回の研究はこれまでの臨床試験の結果や、
最近流行りの遺伝子変異を利用した解析などの結果を、
多数収集してまとめて解析する方法で、
現時点でのこの問題の総括を目指したものです。

その結果…

高尿酸血症が原因であることはほぼ確実で、
尿酸降下剤によりその治療効果のあることも明確であるのは、
現時点では痛風関節炎と尿酸結石のみで、
心不全、高血圧、耐糖能異常と糖尿病、慢性腎障害、虚血性心疾患は、
確かに尿酸値が高いほどそのリスクが増加する、
という意味での関連はあるのですが、
それが独立した原因であることを示す根拠は弱く、
尿酸降下剤による治療効果も明らかではない、
という結論が得られました。

今後の知見の積み重ねによって、
状況はまた変わって来る可能性はあるのですが、
日本の臨床でしばしば見られるように、
尿酸値が異常値なので何となく気分が悪いから薬を出す、
というのはあまり科学的な判断ではなく、
痛風関節炎と尿管結石以外は、
治療の有効性の根拠は乏しいという理解に立って、
個々の判断を行う必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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