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SGLT2阻害剤による糖尿病性ケトアシドーシス発症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SGLT2阻害剤によるケトアシドーシス.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌のレターですが、
糖尿病の新薬の有害事象についての報告です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
SGLT2阻害剤の3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下しています。
実際に使用されているのは、
SGLT2阻害剤の1つである、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)です。

SGLT2阻害薬のもう1つの特徴は、
血圧の低下作用のあることです。

この薬は一種の利尿剤のようなものですから、
血圧が降下することはある意味当然ですが、
2型糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧を合併していますから、
血糖と共に血圧を降下させる作用のあるSGLT2阻害剤は、
一石二鳥という面があります。

ただ、その一方でSGLT2阻害剤はグルカゴンを上昇させ、
LDLコレステロールを増加させる可能性があり、
骨折リスクを増加させる可能性や、
泌尿器系や婦人科系の感染症を増加させるなど、
その安全性に危惧がないという訳ではありません。

また、最近SGLT2阻害剤の有害事象として、
注目されているのが糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加です。

糖尿病性ケトアシドーシスというのは、
コントロールの悪い糖尿病や、
インスリンが高度に不足した状態において、
インスリン不足でブドウ糖が細胞で利用出来ないために、
脂肪酸から肝臓で大量のケトン体が動員され、
ケトン体の血液中の増加によって、
血液が高度に酸性となって、
意識障害などが起こって、
放置すれば死に至る、という現象です。

このケトアシドーシスが、
そのメカニズムは不明ですがSGLT2阻害剤で多い、
という報告があり、
2015年にアメリカのFDAは警告を出しています。

ただ、実際にどの程度SGLT2阻害剤によるケトアシドーシスは多いのか、
といった具体的な点はまだ明らかではありません。

そこで今回の検討では、
アメリカで2013年から2014年において、
18歳以上の糖尿病の患者さんで、
新規にSGLT2阻害剤を開始された事例を、
同じく新規にDPP4阻害剤が開始された事例と比較して、
その使用後180日以内の糖尿病性ケトアシドーシスの発症頻度を、
検証しています。

それぞれの薬剤の使用者を、
38045人ずつ他の条件をマッチングさせた上で比較すると、
DPP4阻害剤の新規使用者と比較して、
SGLT2阻害剤の新規使用者は、
180日以内の糖尿病性ケトアシドーシスのリスクは、
2.2倍(95%CI;1.4から3.6)有意に増加していました。

その頻度は患者さん1000人当たり年間で、
DPP4阻害剤使用者が2.2件であったのに対して、
SGLT2阻害剤使用者では4.9件となっていました。
これをインスリン未使用の患者さんのみで解析すると、
DPP4阻害剤使用者が1.0件に対して、
SGLT2阻害剤使用者が2.5件で、
頻度自体は少ないものの、
そのリスクは2.5倍(95%CI;1.1から5.5)とより高くなっていました。

ただ、ケトアシドーシスの事例の多くは軽症で、
入院が必要となる事例は極少数でした、

今回の検証では矢張り糖尿病性ケトアシドーシスのリスクは、
DPP4阻害剤よりSGLT2阻害剤で高いという結果になっていて、
その頻度は決して高くはないものの、
服用の際には注意が必要であることは間違いがないと思います。

おそらく糖尿病治療は相次ぐ新薬の発売により、
以前であればインスリンを導入されているようなケースでも、
内服で様子をみるようなことが多くなっていると思います。
インスリン使用者においても、
こうした薬を使用することにより、
インスリンの減量を図るような試みが、
多くなっているように思います。

ただ、特にSGLT2阻害剤は、
メカニズム上インスリン分泌を促進するような作用はないので、
インスリンの欠乏が高度な事例や、
体質的にケトアシドーシスを起こしやすい事例
(以前ご紹介したように、
遺伝的な素因が関与しているという報告があります)
では、ケトアシドーシスのリスクが、
一定レベル上昇することを念頭において、
慎重な対応が必要となるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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