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一般臨床における2型糖尿病に対する血糖自己測定の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血糖自己測定の効果.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
安定した2型糖尿病の診療における、
患者さんの血糖自己測定の意義についての論文です。

結論は、
意外に思われるか方が多いかも知れませんが、
あまり意義はない、というものです。

患者さんが自宅で指や耳朶などに針を刺し、
その場で数字が出る簡易型の血糖測定器は、
一般に広く使用されています。

健康保険での適応は、
インスリンの自己注射をしている患者さんに限られていますが、
毎日の血糖が心配だからと、
自費で測定器を購入される患者さんも少なくありませんし、
医者には行かないけれど、
血糖自体は心配なので、
自宅で測定だけはしている、
というような人もいます。

血糖の自己管理に熱心な糖尿病の患者さんからは、
何故インスリンを使用していないと、
血糖の自己測定が保険で認められないのか、
それはおかしいのではないか、
というような意見を聞くことがよくあります。

ただ、それは決して理由がないことではありません。

インスリンを使用中の患者さん、
特にインスリンが身体からは殆ど出ていない、
1型糖尿病の患者さんでは、
血糖は変動し低血糖のリスクも高いので、
血糖を自己測定してインスリン量を調節することにより、
より安定したコントロールが期待出来ますし、
重症な低血糖を予防することが可能になります。

一方で飲み薬を主体で治療をされている、
2型糖尿病の患者さんでは、
重症の低血糖を繰り返すような方は少なく、
1型糖尿病に比較するとその必要性は低くなります。

それでも、自己測定を行った方が、
血糖値はより安定して良好となり、
患者さんの予後に良い影響を与えるのであれば、
その意義はあると考えられます。

ところが、
実際には血糖の自己測定の効果を検証したこれまでの臨床試験において、
安定した2型糖尿病の患者さんで、
明確な予後の改善やメリットは、
認められていないのです。

そのために、現状は健康保険では、
そうした行為は保険適応を除外されているのです。

それでも、
測らないより測った方が良いのではないか、
という患者さんの声は、
日本のみならず海外でも小さくはありません。

そこで今回の研究においては、
アメリカ、ノースカロライナの、
15か所のプライマリケアのクリニックにおいて、
30歳以上の2型糖尿病で、
HbA1cが6.5%から9.5%の、
インスリンは使用していない患者さん、
トータル450名を登録し、
くじ引きで3つの群に分けると、
第1群は血糖自己測定を行わず、
外来受診時の検査のみで治療を行ない、
第2群は毎日1回の自己測定を行って、
その結果は外来受診時にチェックして治療を行ない、
第3群は自己測定を行うともに、
それによるアドバイスを自動メッセージで受け取りながら、
治療を継続します。
自己測定をするかしないかは、
勿論患者さんには予め知らされています。

こうした治療を52週(ほぼ1年)に渡って継続し、
自己測定を施行した方が、
血糖コントロールが良好となったかどうかを検証するのです。

その結果…

開始後3か月、6か月、9か月の時点では、
血糖コントロールの指標であるHbA1cは、
自己測定群の方が低値となりましたが、
その差は開始後1年(52週)の時点では消失していました。
自動メッセージを伴う自己測定も、
伴わない自己測定も、
その効果には変わりはなく、
重篤な低血糖などの有害事象も、
3群で違いは見られませんでした。
糖尿病の合併症などの予後にも、
違いは生じていません。
使用薬剤はメトホルミンが80%で、
SU剤が36%で処方されていました。

このように、
数か月という短期間においては、
確かに自己測定を行うと血糖コントロールは改善するのですが、
その差は持続的なものではなく、
半年をピークに減弱し、
1年間の検討では全く差は見られなくなります。

従って、
安定した2型糖尿病の患者さんにおいて、
インスリン以外の薬剤による治療を継続する場合には、
毎日の血糖自己測定が、
長期的な糖尿病のコントロールや予後に影響するという、
明確な根拠はなく、
そうした行為が必要であるとは言えない、
という結論になります。

勿論これは全体を均してみた場合の話で、
治療の導入時や、
血糖が変動を繰り返したり、
低血糖を繰り返すようなケースでは、
一定の有効性が期待はされるところです。
そうした部分までを、
今回の結果は否定するものではありません。

従って、
どのような患者さんには血糖自己測定が有用なのか、
長期予後という観点から考えた時の、
指針が必要であるように思います。

国内外を問わず、
現状はそうした指針がないことが問題なのです。

血糖も血圧もそうですが、
治療に熱心な患者さんほど、
自宅での頻回の測定を希望されることが多いのですが、
そうした患者さんにおいては、
実際にはあまり頻回の検査の必要性はなく、
治療に無関心な患者さんの方が、
実はそうした自己測定の必要性が高い、
という辺りに、
一般の臨床における一筋縄ではいかないところがありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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