気管支拡張症に対するスタチンの予後改善効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のChest誌に掲載された、
緑膿菌という抗生物質抵抗性の細菌の感染を伴う、
気管支拡張症の患者さんに対する、
スタチンの予後改善効果についての論文です。
気管支拡張症というのは、
伸展性のある肺の気管支が、
その機能を失い、
部分的もしくは全体的に拡張する病気です。
その原因は大きく分けると、
先天性のものと後天性のものがあり、
先天性のものは、
気管支の感染防御機能が、
何らかの原因で障害されていることにより、
若い年齢から気道の感染を繰り返しながら、
気管支拡張症が進行します。
嚢胞線維症はその代表的な病気ですが、
明確な人種差があって、
白人に多くアジアには少ないとされています。
後天性の気管支拡張症は、
肺炎などの肺の感染症により、
持続的な気道の炎症が起こり、
発症することが多く、
小児期のアデノウイルス感染症やマイコプラズマ肺炎、
結核や細菌性肺炎が、
その原因として知られています。
肺炎は勿論後遺症を残さず、
完全に治癒することもありますが、
炎症が持続する結果として、
気道を障害し、
通常部分的な、
気管支の拡張症を来たすことも多いのです。
それ以外に、
自己免疫疾患などでは、
気道の非感染性の炎症が起こり、
それにより気管支拡張症を来たすこともあります。
後天性の気管支拡張症は、
疫学的には中年の女性に多く、
これは自己免疫機序との関わりを、
示すものだと思われます。
気管支拡張症の本態は、
気道の慢性の炎症にあります。
拡張した気管支は、
その正常な機能を失っているので、
その部位で細菌が増殖し易く、
一旦増殖すると完全には除菌されません。
そこで風邪など身体の抵抗力が低下した時に、
拡張した気道で細菌の増殖が起こり、
気管支炎や肺炎などの、
強い炎症を起こすのです。
これを、
気管支拡張症の急性増悪と呼んでいます。
急性増悪を繰り返せば、
障害される気道が増え、
肺の機能は低下します。
これを繰り返すことにより、
気管支拡張症は進行してゆくのです。
気管支拡張症は決して稀な病気ではないと考えられていますが、
日本のみならず海外においても、
あまり明確なその発症頻度は、
報告されていません。
気管支拡張症の診断は、
進行したものであれば、
レントゲンで可能ですが、
正確にはCTが必要です。
従って、
CT検査が増えればその頻度は増加するので、
正確な頻度のデータが取り難い、
という問題があります。
これは甲状腺癌の頻度などと、
同じ問題点です。
また、古い結核の病巣などには、
高率に気管支拡張症を合併しますが、
そうしたものを気管支拡張症にカウントするかどうか、
というような点も明確ではありません。
ただ、たとえば慢性気管支炎などと、
言われるような病態の多くは、
気管支拡張症を伴っている可能性が高いのです。
さて、
このように進行性の病気である気管支拡張症ですが、
現時点で確実に有効な治療は存在していません。
ただ、
そのメカニズムからして、
気道の細菌性の炎症をコントロールすることが、
重要なことは明らかです。
特に緑膿菌という細菌が慢性の炎症を来しているような事例では、
病状は悪化し易く、
治療も困難であることが知られています。
この炎症のコントロールに、
抗生物質を使用する臨床試験が多く行われていますが、
一定の効果が見られたという報告はあるものの、
その効果は限定的で、
かつ耐性菌の誘導など有害な影響も無視出来ません。
そこで1つの選択肢として注目されているのが、
スタチンの使用です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
コレステロールの降下作用以外に、
炎症の抑制や免疫の調整作用のあることが知られていて、
これまでに気管支拡張症の急性増悪に、
一定の予防効果が示唆されたという報告もあります。
ただ、概ね慢性の炎症にスタチンを使用した臨床試験の結果は、
基礎実験や動物実験のデータと比較すると、
それほどクリアなものではありません。
今回の検証は緑膿菌の感染が確認をされている、
気管支拡張症の患者さんに限って、
高用量のスタチンを使用してその有効性を見たものです。
対象となっているのは緑膿菌の感染を伴った気管支拡張症の患者さん、
トータル32名で、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで16名ずつの2つの群に分けると、
一方はスタチンのアトルバスタチンを、
1日80ミリグラムという高用量で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
3か月の治療による症状などの変化を比較検証しています。
3か月の治療後、
6週間は未治療の期間をおいて、
今度は両群を入れ替えて、
再び3か月の治療を行なっています。
その結果、
32名中27名が解析の最終的な対象となり、
本来の指標であった咳症状の改善においては、
両群で有意な差は認められませんでした。
ただ、呼吸状態の指標では、
スタチンによる一定の改善効果が確認され、
炎症性サイトカインの一部も、
スタチンの使用により低下が認められました。
今回の研究では、
短期間の高用量のスタチンの使用により、
一定の症状の改善が認められていますが、
必ずしも著効とまでは言えないもので、
かつ例数も少ないので、
これをもって緑膿菌感染を伴う気管支拡張症に対して、
スタチンの処方が推奨される、
とまでは言えないと思います。
ただ、抗生物質治療以外の、
1つの選択肢としては、
考慮には値するように思いました。
この分野では臨床研究は小規模なものは多いのですが、
いずれもモヤモヤする結果に終わっていて、
今後それほど画期的な結果が、
出て来るようにも思えないのですが、
今後も情報収集には努めたいと思っています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のChest誌に掲載された、
緑膿菌という抗生物質抵抗性の細菌の感染を伴う、
気管支拡張症の患者さんに対する、
スタチンの予後改善効果についての論文です。
気管支拡張症というのは、
伸展性のある肺の気管支が、
その機能を失い、
部分的もしくは全体的に拡張する病気です。
その原因は大きく分けると、
先天性のものと後天性のものがあり、
先天性のものは、
気管支の感染防御機能が、
何らかの原因で障害されていることにより、
若い年齢から気道の感染を繰り返しながら、
気管支拡張症が進行します。
嚢胞線維症はその代表的な病気ですが、
明確な人種差があって、
白人に多くアジアには少ないとされています。
後天性の気管支拡張症は、
肺炎などの肺の感染症により、
持続的な気道の炎症が起こり、
発症することが多く、
小児期のアデノウイルス感染症やマイコプラズマ肺炎、
結核や細菌性肺炎が、
その原因として知られています。
肺炎は勿論後遺症を残さず、
完全に治癒することもありますが、
炎症が持続する結果として、
気道を障害し、
通常部分的な、
気管支の拡張症を来たすことも多いのです。
それ以外に、
自己免疫疾患などでは、
気道の非感染性の炎症が起こり、
それにより気管支拡張症を来たすこともあります。
後天性の気管支拡張症は、
疫学的には中年の女性に多く、
これは自己免疫機序との関わりを、
示すものだと思われます。
気管支拡張症の本態は、
気道の慢性の炎症にあります。
拡張した気管支は、
その正常な機能を失っているので、
その部位で細菌が増殖し易く、
一旦増殖すると完全には除菌されません。
そこで風邪など身体の抵抗力が低下した時に、
拡張した気道で細菌の増殖が起こり、
気管支炎や肺炎などの、
強い炎症を起こすのです。
これを、
気管支拡張症の急性増悪と呼んでいます。
急性増悪を繰り返せば、
障害される気道が増え、
肺の機能は低下します。
これを繰り返すことにより、
気管支拡張症は進行してゆくのです。
気管支拡張症は決して稀な病気ではないと考えられていますが、
日本のみならず海外においても、
あまり明確なその発症頻度は、
報告されていません。
気管支拡張症の診断は、
進行したものであれば、
レントゲンで可能ですが、
正確にはCTが必要です。
従って、
CT検査が増えればその頻度は増加するので、
正確な頻度のデータが取り難い、
という問題があります。
これは甲状腺癌の頻度などと、
同じ問題点です。
また、古い結核の病巣などには、
高率に気管支拡張症を合併しますが、
そうしたものを気管支拡張症にカウントするかどうか、
というような点も明確ではありません。
ただ、たとえば慢性気管支炎などと、
言われるような病態の多くは、
気管支拡張症を伴っている可能性が高いのです。
さて、
このように進行性の病気である気管支拡張症ですが、
現時点で確実に有効な治療は存在していません。
ただ、
そのメカニズムからして、
気道の細菌性の炎症をコントロールすることが、
重要なことは明らかです。
特に緑膿菌という細菌が慢性の炎症を来しているような事例では、
病状は悪化し易く、
治療も困難であることが知られています。
この炎症のコントロールに、
抗生物質を使用する臨床試験が多く行われていますが、
一定の効果が見られたという報告はあるものの、
その効果は限定的で、
かつ耐性菌の誘導など有害な影響も無視出来ません。
そこで1つの選択肢として注目されているのが、
スタチンの使用です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
コレステロールの降下作用以外に、
炎症の抑制や免疫の調整作用のあることが知られていて、
これまでに気管支拡張症の急性増悪に、
一定の予防効果が示唆されたという報告もあります。
ただ、概ね慢性の炎症にスタチンを使用した臨床試験の結果は、
基礎実験や動物実験のデータと比較すると、
それほどクリアなものではありません。
今回の検証は緑膿菌の感染が確認をされている、
気管支拡張症の患者さんに限って、
高用量のスタチンを使用してその有効性を見たものです。
対象となっているのは緑膿菌の感染を伴った気管支拡張症の患者さん、
トータル32名で、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで16名ずつの2つの群に分けると、
一方はスタチンのアトルバスタチンを、
1日80ミリグラムという高用量で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
3か月の治療による症状などの変化を比較検証しています。
3か月の治療後、
6週間は未治療の期間をおいて、
今度は両群を入れ替えて、
再び3か月の治療を行なっています。
その結果、
32名中27名が解析の最終的な対象となり、
本来の指標であった咳症状の改善においては、
両群で有意な差は認められませんでした。
ただ、呼吸状態の指標では、
スタチンによる一定の改善効果が確認され、
炎症性サイトカインの一部も、
スタチンの使用により低下が認められました。
今回の研究では、
短期間の高用量のスタチンの使用により、
一定の症状の改善が認められていますが、
必ずしも著効とまでは言えないもので、
かつ例数も少ないので、
これをもって緑膿菌感染を伴う気管支拡張症に対して、
スタチンの処方が推奨される、
とまでは言えないと思います。
ただ、抗生物質治療以外の、
1つの選択肢としては、
考慮には値するように思いました。
この分野では臨床研究は小規模なものは多いのですが、
いずれもモヤモヤする結果に終わっていて、
今後それほど画期的な結果が、
出て来るようにも思えないのですが、
今後も情報収集には努めたいと思っています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本