蜂窩織炎に対する抗生物質の選択について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
一般的な皮膚の感染症に対する、
抗生物質の選択についての論文です。
蜂窩織炎(Cellulitis)というのは、
皮膚に付いた傷などをきっかけにして、
皮膚が赤く腫れあがって痛みを伴うような状態で、
主に細菌による皮膚の化膿性の炎症です。
細菌感染に伴う炎症が、
真皮から皮下の脂肪組織まで広がった状態と考えられています。
この病気は細菌感染症なので、
その治療には抗生物質が使用されます。
通常こうした細菌感染で最も原因菌としての頻度が高いのは、
β溶連菌というタイプの細菌と考えられています。
そのため、
現行のアメリカ感染症学会のガイドランにおいては、
β溶連菌のみに抗菌力を持つ抗生物質の使用を推奨しています。
その一方で、
抗生物質の耐性菌であるMRSAが、
最近のアメリカの皮膚感染症の原因としては最も多くなっている、
という報告もあります。
ただ、実際に蜂窩織炎の原因菌として、
どの程度MRSAが影響をしているか、
というような点については、
明確ではありません。
蜂窩織炎を起こしている皮膚などの細菌培養を行なっても、
培養されている菌が実際に炎症の原因であるかどうかは、
判断が非常に難しいからです。
そして、MRSAが増加している、
という先入観があるためか、
実臨床においては、蜂窩織炎に対して、
MRSAに有効な抗生物質を、
使用する医師が増加している、
という傾向があるようです。
それでは、
通常のガイドライン通りの治療と比較して、
MRSAを原因として想定した治療は、
蜂窩織炎の予後を改善するのでしょうか?
その点を検証する目的で今回の研究では、
アメリカの5つの救急医療機関において、
膿瘍の形成を伴うなどの合併症はなく、
12歳を超える年齢の蜂窩織炎の患者さん、
トータル500名を、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方は標準治療として、
第一世代のセフェム系抗生物質であるセファレキシンを、
1回500ミリグラムで1日4回使用し、
もう一方はそれに加えてMRSAに有効なST合剤を上乗せして、
7日間の治療を行ない、その有効性の違いを検証しています。
勿論偽薬を使用して、
どちらの治療かは判別は出来ないように工夫がされています。
その結果、
各々の群で最期まで治療が継続された事例のみで比較
(per-protocol analysis)すると、
臨床的な治癒は、
セファレキシン単独群の85.5%に認められたのに対して、
セファレキシンとST合剤併用群では83.5%に認められていて、
両群には最初に設定した効果の差は認められませんでした。
一方で、
途中で脱落したような事例も含めて比較
(intention-to-treat amalysis)したところ、
臨床的な治癒はセファレキシン単独群の69.0%に認められたのに対して、
セファレキシンとST合剤併用群では76.2%に認められていて、
その差は7.3%と有意ではないものの、
併用群でやや予後の良い傾向を認めました。
両群の有害事象には差はありませんでした。
今回の結果は微妙なもので、
臨床試験としては当初設定した有効性の指標を満たしていないので、
蜂窩織炎に対する併用療法は、
従来の治療と比較して優れているとは言えないのですが、
より実地の臨床に近い比較を行うと、
有意ではないものの一定の有用性が認められました。
また今後の検証を注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
一般的な皮膚の感染症に対する、
抗生物質の選択についての論文です。
蜂窩織炎(Cellulitis)というのは、
皮膚に付いた傷などをきっかけにして、
皮膚が赤く腫れあがって痛みを伴うような状態で、
主に細菌による皮膚の化膿性の炎症です。
細菌感染に伴う炎症が、
真皮から皮下の脂肪組織まで広がった状態と考えられています。
この病気は細菌感染症なので、
その治療には抗生物質が使用されます。
通常こうした細菌感染で最も原因菌としての頻度が高いのは、
β溶連菌というタイプの細菌と考えられています。
そのため、
現行のアメリカ感染症学会のガイドランにおいては、
β溶連菌のみに抗菌力を持つ抗生物質の使用を推奨しています。
その一方で、
抗生物質の耐性菌であるMRSAが、
最近のアメリカの皮膚感染症の原因としては最も多くなっている、
という報告もあります。
ただ、実際に蜂窩織炎の原因菌として、
どの程度MRSAが影響をしているか、
というような点については、
明確ではありません。
蜂窩織炎を起こしている皮膚などの細菌培養を行なっても、
培養されている菌が実際に炎症の原因であるかどうかは、
判断が非常に難しいからです。
そして、MRSAが増加している、
という先入観があるためか、
実臨床においては、蜂窩織炎に対して、
MRSAに有効な抗生物質を、
使用する医師が増加している、
という傾向があるようです。
それでは、
通常のガイドライン通りの治療と比較して、
MRSAを原因として想定した治療は、
蜂窩織炎の予後を改善するのでしょうか?
その点を検証する目的で今回の研究では、
アメリカの5つの救急医療機関において、
膿瘍の形成を伴うなどの合併症はなく、
12歳を超える年齢の蜂窩織炎の患者さん、
トータル500名を、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方は標準治療として、
第一世代のセフェム系抗生物質であるセファレキシンを、
1回500ミリグラムで1日4回使用し、
もう一方はそれに加えてMRSAに有効なST合剤を上乗せして、
7日間の治療を行ない、その有効性の違いを検証しています。
勿論偽薬を使用して、
どちらの治療かは判別は出来ないように工夫がされています。
その結果、
各々の群で最期まで治療が継続された事例のみで比較
(per-protocol analysis)すると、
臨床的な治癒は、
セファレキシン単独群の85.5%に認められたのに対して、
セファレキシンとST合剤併用群では83.5%に認められていて、
両群には最初に設定した効果の差は認められませんでした。
一方で、
途中で脱落したような事例も含めて比較
(intention-to-treat amalysis)したところ、
臨床的な治癒はセファレキシン単独群の69.0%に認められたのに対して、
セファレキシンとST合剤併用群では76.2%に認められていて、
その差は7.3%と有意ではないものの、
併用群でやや予後の良い傾向を認めました。
両群の有害事象には差はありませんでした。
今回の結果は微妙なもので、
臨床試験としては当初設定した有効性の指標を満たしていないので、
蜂窩織炎に対する併用療法は、
従来の治療と比較して優れているとは言えないのですが、
より実地の臨床に近い比較を行うと、
有意ではないものの一定の有用性が認められました。
また今後の検証を注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本