変形性膝関節症に対するステロイド注射の問題点 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
変形性膝関節症による膝の痛みに対して,
ステロイドの関節内注射を継続した場合の、
関節軟骨への影響を検証した論文です。
変形性膝関節症は、
太った中高年の女性に多い膝の痛みで、
関節の軟骨がすり減ることによってそこに炎症が起こり、
その炎症が更に軟骨をすり減らせるという悪循環を起こします。
変形性膝関節症の治療は、
まずは体重のコントロールや生活改善、
運動療法などで、
次に飲み薬の痛み止めや関節内への注射、
病状が進行した場合には手術治療も検討されます。
このうち関節注射として使用されているのは、
軟骨成分を補充するヒアルロン酸と、
痛みや炎症と取る目的で使用されるステロイドです。
ステロイド剤の関節注射には色々な意見があります。
変形性膝関節症で起こる関節の炎症は、
痛風の関節炎などと同じ、
一種の自己炎症です。
軟骨のすり減りによる機械的な刺激が、
炎症の原因となり、
その炎症が更に軟骨を痛めてすり減らすという、
悪循環になるのです。
もしそうだとすれば、
炎症を抑えることにより軟骨の破壊の進行も抑制され、
痛みも軽減する筈だ、
ということになります。
ステロイドには強力な抗炎症作用がありますから、
その使用はその意味では理に適っています。
一方でステロイドは骨壊死の原因となり、
蛋白質の異化作用を持つので、
軟骨がそれによりすり減るという可能性もあります。
つまり、変形性膝関節症に対して、
関節内にステロイドを注入することは、
病状を改善する可能性もある一方、
悪化させる可能性もある、
ということになります。
一体どちらが正しいのでしょうか?
この問題については、
2003年のArthritis & Rheumatism誌に、
トピックとなる論文が掲載されています。
それがこちらです。
この論文では、
68名の変形性膝関節症の患者さんを、
本人にも主治医にもどちらか分からないように、
くじ引きで2つの群に分け、
一方は3か月に一度ずつ、
ステロイド剤であるトリアムシノロン(商品名ケナコルトA)を、
40ミリグラム関節注入することを繰り返し、
もう一方は生理食塩水を注射して、
トータルで2年間の観察を行っています。
その結果、
関節所見には両群で有意な差はなく、
その一方で痛みなどの症状については、
ステロイド使用群で有意な改善が認められた、
というデータが得られています。
つまり、変形性膝関節症に対して、
3か月に一度ケナコルト40ミリグラムを注射することの、
効果と安全性とが確認された、
という内容になっています。
ただ、この研究においては、
関節の所見はレントゲンのみで判断されています。
それでは、実際に軟骨のすり減り具合は、
正確に計測することは出来ません。
そこで今回の研究においては、
上記の2003年論文と同じことを、
140人の患者さんに対して行い、
軟骨のすりへり具合はMRI検査により判定を行っています。
使用されたステロイド剤はトリアムシノロン40ミリグラムで、
3か月に一度の注射を2年間継続している点も全く同じです。
その結果…
全経過を通して、
ステロイド使用群と偽注射群とで、
痛みなどの症状には有意な違いはなく、
MRIで計測された軟骨の厚みは、
ステロイド使用群で有意に減少していました。
つまり、
ステロイドの関節内注射は、
変形性膝関節症の症状に対しての有効性はなく、
その異化作用により、
軟骨のすり減りを進行させて、
膝関節症の悪化に結び付く可能性が高い、
という結論です。
2003年とは正反対の結果で、
検証の精度も例数も今回の方が勝っていますから、
現時点では、少なくともケナコルト40ミリグラムの投与の継続は、
望ましくはないと考えた方が良さそうです。
ただ、今回の検証でも臨床的に、
明確な差が出るまでには至っておらず、
ステロイドの使用量や使用方法によっては、
また別の結果が出るという可能性も残っています。
今後のより臨床に直結するような、
知見の積み重ねを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
変形性膝関節症による膝の痛みに対して,
ステロイドの関節内注射を継続した場合の、
関節軟骨への影響を検証した論文です。
変形性膝関節症は、
太った中高年の女性に多い膝の痛みで、
関節の軟骨がすり減ることによってそこに炎症が起こり、
その炎症が更に軟骨をすり減らせるという悪循環を起こします。
変形性膝関節症の治療は、
まずは体重のコントロールや生活改善、
運動療法などで、
次に飲み薬の痛み止めや関節内への注射、
病状が進行した場合には手術治療も検討されます。
このうち関節注射として使用されているのは、
軟骨成分を補充するヒアルロン酸と、
痛みや炎症と取る目的で使用されるステロイドです。
ステロイド剤の関節注射には色々な意見があります。
変形性膝関節症で起こる関節の炎症は、
痛風の関節炎などと同じ、
一種の自己炎症です。
軟骨のすり減りによる機械的な刺激が、
炎症の原因となり、
その炎症が更に軟骨を痛めてすり減らすという、
悪循環になるのです。
もしそうだとすれば、
炎症を抑えることにより軟骨の破壊の進行も抑制され、
痛みも軽減する筈だ、
ということになります。
ステロイドには強力な抗炎症作用がありますから、
その使用はその意味では理に適っています。
一方でステロイドは骨壊死の原因となり、
蛋白質の異化作用を持つので、
軟骨がそれによりすり減るという可能性もあります。
つまり、変形性膝関節症に対して、
関節内にステロイドを注入することは、
病状を改善する可能性もある一方、
悪化させる可能性もある、
ということになります。
一体どちらが正しいのでしょうか?
この問題については、
2003年のArthritis & Rheumatism誌に、
トピックとなる論文が掲載されています。
それがこちらです。
この論文では、
68名の変形性膝関節症の患者さんを、
本人にも主治医にもどちらか分からないように、
くじ引きで2つの群に分け、
一方は3か月に一度ずつ、
ステロイド剤であるトリアムシノロン(商品名ケナコルトA)を、
40ミリグラム関節注入することを繰り返し、
もう一方は生理食塩水を注射して、
トータルで2年間の観察を行っています。
その結果、
関節所見には両群で有意な差はなく、
その一方で痛みなどの症状については、
ステロイド使用群で有意な改善が認められた、
というデータが得られています。
つまり、変形性膝関節症に対して、
3か月に一度ケナコルト40ミリグラムを注射することの、
効果と安全性とが確認された、
という内容になっています。
ただ、この研究においては、
関節の所見はレントゲンのみで判断されています。
それでは、実際に軟骨のすり減り具合は、
正確に計測することは出来ません。
そこで今回の研究においては、
上記の2003年論文と同じことを、
140人の患者さんに対して行い、
軟骨のすりへり具合はMRI検査により判定を行っています。
使用されたステロイド剤はトリアムシノロン40ミリグラムで、
3か月に一度の注射を2年間継続している点も全く同じです。
その結果…
全経過を通して、
ステロイド使用群と偽注射群とで、
痛みなどの症状には有意な違いはなく、
MRIで計測された軟骨の厚みは、
ステロイド使用群で有意に減少していました。
つまり、
ステロイドの関節内注射は、
変形性膝関節症の症状に対しての有効性はなく、
その異化作用により、
軟骨のすり減りを進行させて、
膝関節症の悪化に結び付く可能性が高い、
という結論です。
2003年とは正反対の結果で、
検証の精度も例数も今回の方が勝っていますから、
現時点では、少なくともケナコルト40ミリグラムの投与の継続は、
望ましくはないと考えた方が良さそうです。
ただ、今回の検証でも臨床的に、
明確な差が出るまでには至っておらず、
ステロイドの使用量や使用方法によっては、
また別の結果が出るという可能性も残っています。
今後のより臨床に直結するような、
知見の積み重ねを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本