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変形性膝関節症に対するステロイド注射の問題点 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ステロイドの関節注射の効果2017.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
変形性膝関節症による膝の痛みに対して,
ステロイドの関節内注射を継続した場合の、
関節軟骨への影響を検証した論文です。

変形性膝関節症は、
太った中高年の女性に多い膝の痛みで、
関節の軟骨がすり減ることによってそこに炎症が起こり、
その炎症が更に軟骨をすり減らせるという悪循環を起こします。

変形性膝関節症の治療は、
まずは体重のコントロールや生活改善、
運動療法などで、
次に飲み薬の痛み止めや関節内への注射、
病状が進行した場合には手術治療も検討されます。

このうち関節注射として使用されているのは、
軟骨成分を補充するヒアルロン酸と、
痛みや炎症と取る目的で使用されるステロイドです。

ステロイド剤の関節注射には色々な意見があります。

変形性膝関節症で起こる関節の炎症は、
痛風の関節炎などと同じ、
一種の自己炎症です。
軟骨のすり減りによる機械的な刺激が、
炎症の原因となり、
その炎症が更に軟骨を痛めてすり減らすという、
悪循環になるのです。

もしそうだとすれば、
炎症を抑えることにより軟骨の破壊の進行も抑制され、
痛みも軽減する筈だ、
ということになります。

ステロイドには強力な抗炎症作用がありますから、
その使用はその意味では理に適っています。

一方でステロイドは骨壊死の原因となり、
蛋白質の異化作用を持つので、
軟骨がそれによりすり減るという可能性もあります。

つまり、変形性膝関節症に対して、
関節内にステロイドを注入することは、
病状を改善する可能性もある一方、
悪化させる可能性もある、
ということになります。

一体どちらが正しいのでしょうか?

この問題については、
2003年のArthritis & Rheumatism誌に、
トピックとなる論文が掲載されています。
それがこちらです。
ステロイドの関節注射の効果2003年.jpg
この論文では、
68名の変形性膝関節症の患者さんを、
本人にも主治医にもどちらか分からないように、
くじ引きで2つの群に分け、
一方は3か月に一度ずつ、
ステロイド剤であるトリアムシノロン(商品名ケナコルトA)を、
40ミリグラム関節注入することを繰り返し、
もう一方は生理食塩水を注射して、
トータルで2年間の観察を行っています。

その結果、
関節所見には両群で有意な差はなく、
その一方で痛みなどの症状については、
ステロイド使用群で有意な改善が認められた、
というデータが得られています。

つまり、変形性膝関節症に対して、
3か月に一度ケナコルト40ミリグラムを注射することの、
効果と安全性とが確認された、
という内容になっています。

ただ、この研究においては、
関節の所見はレントゲンのみで判断されています。
それでは、実際に軟骨のすり減り具合は、
正確に計測することは出来ません。

そこで今回の研究においては、
上記の2003年論文と同じことを、
140人の患者さんに対して行い、
軟骨のすりへり具合はMRI検査により判定を行っています。

使用されたステロイド剤はトリアムシノロン40ミリグラムで、
3か月に一度の注射を2年間継続している点も全く同じです。

その結果…

全経過を通して、
ステロイド使用群と偽注射群とで、
痛みなどの症状には有意な違いはなく、
MRIで計測された軟骨の厚みは、
ステロイド使用群で有意に減少していました。

つまり、
ステロイドの関節内注射は、
変形性膝関節症の症状に対しての有効性はなく、
その異化作用により、
軟骨のすり減りを進行させて、
膝関節症の悪化に結び付く可能性が高い、
という結論です。

2003年とは正反対の結果で、
検証の精度も例数も今回の方が勝っていますから、
現時点では、少なくともケナコルト40ミリグラムの投与の継続は、
望ましくはないと考えた方が良さそうです。
ただ、今回の検証でも臨床的に、
明確な差が出るまでには至っておらず、
ステロイドの使用量や使用方法によっては、
また別の結果が出るという可能性も残っています。

今後のより臨床に直結するような、
知見の積み重ねを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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