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百日咳の臨床診断について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
百日咳の臨床診断.jpg
今月のChest誌に掲載された、
百日咳の臨床診断についてのメタ解析の論文です。

百日咳は百日咳菌による細菌感染症で、
その名前の通り3か月も続くことがある、
咳の症状で知られています。

通常は普通の風邪のような鼻水や咽喉の痛みで始まり、
それから1から2週間くらいすると、
発作性の咳に症状が変わります。
治療は抗生物質に一定の効果がありますが、
症状が出現してから4週間以内でないと、
症状を改善することは難しいと言われています。

この病気の診断はまず特徴的な症状で、
発作性の咳と、咳き込みの後の嘔吐、
息を吸った時の笛のようなヒューヒュー音がその特徴とされています。

こうした咳で百日咳の存在を疑うと、
咳の出現から2週間以内であれば、
鼻や咽喉から検体を取って、
最近培養の検査や遺伝子検査が行われます。
(遺伝子診断は咳が出てから3週間くらいは検出可能)
咳が出てから3週間以降になると、
今度は血液の抗体が上昇するので、
それによる診断が可能となります。
通常1回のみの測定での判断が可能な、
抗PT-IgG抗体が、
現在は使用されることが多いようです。

このように、
闇雲に検査をするのではなく、
症状から百日咳を疑った場合に検査をするのですが、
抗生物質の有効性は早期であるほど高い反面、
早期の診断は難しいというジレンマがあります。
また、小児と大人では症状経過が異なる場合が多いのですが、
そうした検証があまりこれまでに行われて来なかった、
という問題も指摘されています。

今回の研究は、
これまでの百日咳関連の臨床データをまとめて解析する方法で、
症状からの百日咳の診断の方法を検証しています。

その結果、
成人の百日咳では、
発作咳の咳があり発熱はないという所見の、
感度が93.2%で特異度が20.6%、
咳き込み後の嘔吐と息を吸うときの笛のような音という所見の、
感度は32.5%で特異度は77.7%でした。
この場合の感度というのは、
百日咳の患者さんでそうした所見のある確率で、
特異度というのは、
百日咳の感染がない場合のそうした所見のない確率です。

つまり、大人では、
咳き込み後の嘔吐や息を吸うときの笛のような音があれば、
百日咳の可能性が高いので診断のための検査を行う必要があり、
発作性の咳がないか発熱があれば、
百日咳の可能性は低いので、
診断のための検査をする必要も低い、
ということになります。

一方でお子さんの百日咳では、
症状にはばらつきが多くて、
大人のような感度や特異度の高い症状の組み合わせは、
存在しませんでした。
その中では咳き込み後の嘔吐が、
感度60.0%、特異度66.0%で、
一定の有用性があり、
それ以外の症状については全く参考にはなりませんでした。

このようにお子さんの百日咳の診断は、
必ずしも簡単なものではなく、
現状はワクチンの接種状況や流行状況も踏まえて、
総合的に判断する以外にはないように思われます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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