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コレステロールが低いと認知症が増えるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コレステロールが低いと認知症が増えるのか?.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
コレステロールの血液濃度と認知症などの神経疾患との、
関連についての遺伝子解析を用いた論文です。

スタチンというコレステロール合成阻害剤を用いて、
血液のコレステロール(主にLDLコレステロール)を低下させることにより、
その発症リスクの高い対象者では、
心筋梗塞などの心血管疾患の予防になることは、
多くの精度の高い臨床データで確認された事実です。

最近ではスタチンと併用という条件付きですが、
LDL受容体を増やして細胞へのコレステロールの取り込みを増やす、
PCSK9阻害剤という注射剤が発売され、
スタチンへの上乗せでより強力にコレステロールを低下させることが、
可能な状況になりました。

それでは、コレステロールは下げれば下げるほど良いのでしょうか?

心臓の血管に関して言えば、
それはほぼほぼ事実と考えて良いのですが、
脳や神経においてはまだ議論があるところです。

コレステロールを薬で下げると、
アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳の病気が、
増加するのではないか、
ということを示唆するデータが、
複数報告されていることは事実です。

特定のスタチンでのデータもありますし、
PCSK9阻害剤の臨床試験においては、
使用群で有意ではないものの、
神経関連の症状が多かったというデータがあります。

ただ、その一方でそうした現象はない、
という意見も根強くあります。

一体どちらが正しいのでしょうか?

今回の研究では、
スタチンのターゲットである、
HMGCR遺伝子の変異と、
PCSK9阻害剤のターゲットである、
PCSK9遺伝子の変異を解析することで、
その検証を行っています。
遺伝性変異のあるなしは無作為に決められているとして、
その比較を行う、
メンデル無作為化解析という手法です。

オランダの一般住民111194名の遺伝子を解析した結果として、
コレステロールが高度に低下する、
HMGCR遺伝子やPCSK9遺伝子の変異があることは、
アルツハイマー病や脳血管性認知症、パーキンソン病のリスクを、
上げることはなく、
アルツハイマー病についてはむしろその変異によりリスクは低下することが、
今回明らかになりました。

こうした遺伝子の解析による結果は、
理屈の上では無作為介入試験に近い精度のデータなのですが、
実際には臨床データと乖離するケースもしばしば認められます。

今回の結果もしたがって、
これで実証されたとは言い切れないものなのですが、
HMGCRやPCSK9を阻害することによるコレステロールの降下療法は、
理屈の上では脳に悪影響を与えない可能性が高い、
という知見は、
臨床においても一定の意義を持つものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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