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SPAC「真夏の夜の夢」(2017年静岡芸術劇場版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は連休でクリニックは休診です。
昨日から奈良にいて、
今起きたところです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
真夏の夜の夢.jpg
SPACのヒット作である、
野田秀樹さんの台本による「真夏の夜の夢」の再演を、
本拠地の静岡芸術劇場で観て来ました。
今年の3月です。

宮城聡さんのSPACは、
食わず嫌いであまり観ていなかったのですが、
昨年奈良の平城宮跡で上演された、
「マハーバーラタ ナラ王の冒険」は、
非常に幻想的で美しい舞台であったので、
東京でも見逃していて代表作の1つと言われている「真夏の夜の夢」を、
是非観ようと静岡まで出掛けて来ました。

静岡芸術劇場は複合施設として駅前にそそり立っていて、
バブルの残滓を感じさせる堂々たる劇場です。

主宰の宮城さんが1人1人観客のお出迎えをしていて、
プレトークもあるなど和気あいあいとした雰囲気です。

上演された「真夏の夜の夢」は、
シェークスピアの原作を、
野田秀樹さんが設定自体を変えて書き直したもので、
原案シェークスピア、作野田秀樹というくらいがちょうど良い、
ほぼ野田さんのオリジナルになっていました。

元々野田さんの日生劇場のシェークスピアシリーズの1本として、
書き下ろされて野田さんの演出で初演され、
再演はされなかった台本を、
2011年に宮城さんがSPC版として演出上演しました。
それが好評で東京公演を含めて何度か再演され、
今回の上演になりました。

この作品はともかく台本が素晴らしくて、
野田さんの才気がみなぎるという感じの傑作です。

原作には登場しないメフィストフェレスが、
妖精パックに拮抗する存在としてダークに活躍し、
少女の空想の中の森が、
想像力の枯渇によって死に瀕するという物語に、
書き換えられています。

前半の稚気あふれる諧謔と、
後半のカタストロフ、
そして喪失感を伴う切ないラストが印象的です。

野田さんはこうした世界が抜群で、
是非また幼稚な幻想世界に戻って来て欲しいな、
と思います。
政治ネタの芝居など本当に下らないです。

絶賛された舞台で原作は抜群の切れ味なのですが、
今回実際に観た舞台は、
正直少し落胆がありました。

最初に幻想の森が少女の背後に立ち上がるところなどは、
さすがSPACという感じがしたのですが、
中途半端に遊眠社的な要素があり、
それがあまりこなれていませんし、
役者さんの技量も、
高速度の台詞を耳に心地よく伝える点などにおいて、
あまり作品の求める水準を満たしているようには思えません。

今のNODA MAPはプロデュース公演的なものなので、
役者さんの台詞術や動きにもムラがあるのですが、
最盛期のかつての遊眠社は、
ともかく怒涛の動きと早口のメリハリの利いた台詞術が身上で、
それと比較すると、今回のSPACの芝居は、
動きも台詞も中途半端で、
それでいて遊眠社のスタイルと、
全く違うものを確立しているとも言えないので、
どうもそこに漂うある種の「偽物感」に、
居心地の悪い気分にとらわれてしまいました。

パックの役者さんやメフィストフェレスの役者さんは、
初演から同じ方のようなのですが、
演技の質が劇団四季の子供向けミュージカルのような感じでした。
中学生に見せる無料公演などもあるようなので、
要するに主なターゲットが中学生くらいなのかも知れませんが、
もう少し違うものを期待していたので、
個人的にはかなり落胆をしてしまいました。

ただ、これは僕が勝手にもう少し違う芝居を、
期待していたのが悪かっただけなのかも知れません。

また、途中で檻に閉じ込められたパックを、
観客の1人がクイズを解いて救い出すという、
ちょっと背筋がムズムズするような客いじりがあるのですが、
そこで手を挙げた観客が、
劇場の常連さんの地元のおじさんで、
クイズの答えを全部知っているので、
この地元感にも相当脱力する思いがありました。

駄目だよおじさん、そこで手を挙げるのは…
と心の中で叫びました。

そんな訳で牧歌的な体験でしたが、
期待が大きかっただけに落胆もそれなりに大きく、
しょんぼりした気分で静岡を後にすることになったのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。