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COPDの予後を血液検査で予測する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDの予後と血液検査.jpg
今年のInternational Journal of COPD誌に掲載された、
簡単な血液検査で、
COPDの余郷を推測する試みについての論文です。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)というのは、
喫煙を主な原因として発症する、
肺気腫や慢性気管支炎といった肺の慢性の病気の総称で、
特に高齢者においてその増加が世界的に大きな問題となっています。

COPDにおいては気道に慢性の炎症が起こり、
それが肺胞の破壊や、気道の狭窄などの変化に結び付いてゆきます。

同じように炎症で気道が狭くなる病気に喘息があり、
気管支喘息における炎症はアレルギー性で、
好酸球という白血球が主体で浸潤が起こっているのに対して、
COPDでは好中球という白血球が主体の炎症が起こっている、
という違いがあります。

好中球という白血球は、
主に細菌感染の時に増加して、
細菌を攻撃する細胞なので、
COPDでは慢性的に細菌の感染が起こっている、
という考え方があります。
ただ、実際には細菌感染以外でも、
COPDにおいては気道で好中球の炎症が起こりやすい、
というメカニズムが存在しているようです。

一方で喘息においては好酸球という白血球が主体の炎症が、
慢性に起こっていることがその特徴です。
ただ、これも実際にはCOPDにおいても、
好酸球が多く浸潤している事例が結構あり、
それが喘息との合併と考えるべきなのか、
COPD自体の特徴であるのかも、
まだ議論のあるところです。

さて、COPDの経過を考える上で、
問題となるのは、
急性増悪と呼ばれる、
急激な呼吸状態の悪化です。

この急性増悪は気道感染をきっかけとして起こることが多く、
それを繰り返すことで呼吸機能は低下し、
COPDの予後は悪くなります。

それでは、簡単な血液検査をすることで、
COPDの状態や予後を予測することは出来るのでしょうか?

実際に気道の炎症部位における、
好中球や好酸球の数を測定出来れば、
それが一番病勢を反映していると考えられますが、
実際にはそうした検査を簡単にすることは出来ません。

血液の白血球の数と、
そこに含まれる好中球や好酸球の数は、
血算という簡単な検査で測定が可能です。

それがどの程度肺での炎症の状態を反映しているのかについては、
まだ明確な結論が出ていませんが、
COPDの増悪時には好中球が増加していて、
特にリンパ球との比率で見た時に、
好中球数をリンパ球数で割り算した数値
(好中球/リンパ球比)が、
上昇しているという報告があります。

また、血液の好酸球が白血球全体の2%以上であると、
アレルギー性の炎症の関与が一定レベルあると想定され、
COPDとしての予後は良く、
喘息の治療薬である吸入ステロイドの有効性が期待出来る、
という報告もあります。

今回の研究は中国において、
40歳以上のその時点では安定した状態にあるCOPDの患者さん、
トータル368名を登録し、
296名の年齢などをマッチさせたコントロール群と比較すると共に、
3か月毎に検査を行い2年間の経過観察を行って、
血液の好中球や好酸球の数や比率と、
患者さんの生命予後の関連を検証しています。

その結果…

コントロール群と比較してCOPD群では、
血液の好中球数と好塩基球数が有意に高く、
好酸球とリンパ球数が有意に低くなっていました。
従って、それを割り算した、
好中球/リンパ球比はCOPD群で有意に高く、
好酸球/好塩基球比は有意に低くなっていました。

経過観察期間中に登録されたCOPDの患者さんのうち、
96名がCOPDのために死亡していました。
その死亡群と生存群とを比較すると、
好中球/リンパ球比は死亡群で有意に高く、
好酸球/好塩基球比は有意に低くなっていました。

多変量解析を行うと、
多くの指標の中でCOPDによる死亡のリスク増加と、
最も高い相関を示していたのは好中球/リンパ球比の増加で、
好酸球/好塩基球比の増加は、
最も死亡リスクの低下と結びつく指標となっていました。

具体的には、
好中球/リンパ球比が3.3以上では死亡リスクが高くなり、
また好酸球/好塩基球比が4.2以下でも死亡リスクが高くなる、
という関係が認められました。

問題はこうしたリスクの高い患者さんに対して、
どのような治療を行なえばそのリスクを低下させることが出来るのか、
ということになるのだと思いますが、
いずれにしても何処の医療機関でも可能な、
簡単で安価な検査によって、
COPDの予後がある程度予測出来るという結果は興味深く、
複数回測定したデータの扱いがあまり明確に書かれていないなど、
信頼性にはやや疑問の点もあるのですが、
今後の検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


スーパー高齢者の脳は何が違うのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スーパー高齢者の脳.jpg
今月のJAMA誌のレターですが、
スーパー高齢者と呼ばれる、
認知機能や記憶が若いままに保たれている高齢者の脳の特徴を、
MRIの経過観察で検証した研究です。

スーパー高齢者(SuperAgers)というのは、
年齢で80歳以上にも関わらず、
エピソード記憶(出来事の記憶)を呼び覚ます働きが、
50から60歳代はそれより若いレベルを保ち、
それ以外の認知機能も同年代の高齢者より低下はしていない、
という特徴を持つ高齢者のことです。

そうした高齢者の脳を頭部MRI検査で撮影すると、
脳の皮質と呼ばれる脳細胞が集まった部分の大きさが、
同年齢の平均よりも大きい(厚い)ことが特徴とされています。

それでは、このスーパー高齢者の脳皮質の大きさは、
そもそも脳が大きいということなのでしょうか?
それとも加齢に伴って起こる脳の萎縮が、
より少ないことによっているのでしょうか?

その疑問を解決する目的で、
アメリカの単独施設において、
24名のスーパー高齢者と、
12名の認知症のない同年齢の通常の高齢者を登録し、
MRI検査によって皮質の体積を計測すると、
その18か月後に再検査を行い、
その間に進行した体積の低下の程度を、
比較検証しています。

その結果、
登録時の大脳皮質の体積は、
ややスーパー高齢者が大きい傾向はあったものの、
有意な差はありませんでした。
しかし、18カ月後の変化を見ると、
スーパー高齢者の減少率が1.06%(95%CI;0.50から1.63)であったのに対して、
通常の高齢者の減少率は2.24%(95%CI;1.06から3.42)で、
明らかに有意差をもって、
スーパー高齢者では脳の萎縮が軽度にとどまっていました。

つまり、
勿論大脳皮質のもともとの大きさが大きい、
ということもあるのだとは思いますが、
80歳を超えて時点での状態としては、
その大きさよりもむしろ萎縮の進行が遅い、
ということが、
認知機能の維持に大きな役割を果たしている可能性が高い、
という結果になっていたのです。

日本でもこうしたスーパー高齢者の特徴の解析は、
行なわれていますが、
当然ながら例数は少なく、
経過観察も困難であることが多いので、
なかなかクリアな結果には結び付かないようです。

健康に長寿でありたいというのは、
誰しもが望む年の取り方ですが、
その実態がこうした研究の積み重ねによって、
明らかになることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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高齢者の潜在性甲状腺機能低下症の治療効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
潜在性甲状腺機能低下症の治療効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対しての、
ホルモン補充療法の効果を検証した論文です。

潜在性甲状腺機能低下症というのは、
甲状腺刺激ホルモンは正常範囲より上昇しているものの、
甲状腺ホルモンの数値自体は、
正常範囲となっている状態のことを示しています。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上がっているということは、
身体は甲状腺の働きが弱っていると判断して、
甲状腺により強い刺激を与えている、
ということになります。
それで機能としては維持されているということになるので、
軽症の甲状腺機能低下症、
という判断になる訳です。

こうした機能低下は橋本病などの病気でも起こりますが、
軽度のものは加齢によっても生じます。
ある海外データによると65歳以上の8から18%に、
潜在性甲状腺機能低下症が見られ、
その比率は男性より女性で多かった、
という結果が報告されています。

従って、その全てを病気として治療する、
ということは適切ではないと思います。
ただ、その一方で身体のだるさや体力の低下など、
不定愁訴的な症状が潜在性甲状腺機能低下症で生じる、
という報告もあり、
それがホルモン剤による治療で改善した、
という症例報告も複数存在しています。

これまでに多くの疫学データはありますが、
偽薬を使用するような精度の高い臨床試験で、
潜在性甲状腺機能低下症の治療効果が、
検証されたことはこれまであまりありませんでした。

そこで今回の研究では、
ヨーロッパにおいて、
年齢が65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さん、
トータル737名をクジ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方は甲状腺ホルモン(T4 )製剤を、
1日50μgもしくは25μg(虚血性心疾患の既往もしくは体重50キロ未満)
から開始してTSHの正常化を目指し、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
1年間の治療を行なっています。

この場合の潜在性甲状腺機能低下症というのは、
甲状腺ホルモンは正常範囲で、
TSHが4.60から19.99mIU/Lであるものを示しています。

その結果、1年間の治療の前後で、
甲状腺機能低下に関連すると思われる自覚症状には、
偽薬と比較して有意な差は認められませんでした。
ただ、甲状腺ホルモンの使用による、
有害事象も特に認められませんでした。

今回の研究は、まあそうだろうな、
というような事項を、
改めて確認したようなものなので、
それほどの新味はありませんが、
甲状腺の分野ではどうしても小さい臨床研究が多く、
こうした厳密なデザインの治療効果の研究はあまりないので、
その意味では意義のあるものだと思います。

短絡的に誤解する方がいるといけないのですが、
これは全ての高齢者に、
数値だけを見て甲状腺ホルモンを使用することは意味がない、
と言う意味で、
患者さんによっては有効であるという点を、
否定するものではないということは、
最後に強調しておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017年実写版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ゴーストインザシェル.jpg
その後に多大な影響を与えた押井守監督の
「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」をベースに、
そこに原作のコミックと、
その後に制作されたアニメシリーズのエッセンスなども入れ込んで、
アメリカ映画として制作された実写版が、
今封切り公開されています。

主役のサイボーグの「少佐」はスカーレット・ヨハンソンで、
その上司をビート・たけしが、
人間時代の母親を桃井かおりが、
彼女をサイボーグ化した科学者をジュリエット・ピノシェが演じる、
というなかなか豪華で興味深いキャストで、
小出しにされる紹介映像などもなかなか凄そうなので、
期待された方も多いのではないかと思います。

僕もそんな訳で期待して初日に行ったのですが、
実際には典型的なエクスプロイテーション映画(見世物映画)で、
個人的には今年一番ガッカリの鑑賞になりました。

ただ、褒めている方や、
なかなか頑張っている、というような意見の方も多いので、
これはもう本当に個人の感想ということで、
ご容赦頂きたいと思います。

以下、悪口大会なのでご容赦下さい。

押井監督の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」と、
その続編の「イノセンス」は好きなのですが、
映画はその哲学的で難解な感じは皆無で、
「人形遣い」も出て来ません。
ビジュアルは確かにそのままに再現されている部分はあるのですが、
1995年には斬新だったビジュアルについては、
もう他の映画でさんざんパクられているので、
目新しい感じは全くありません。

物語はほぼ「ロボ・コップ」で、
その上悪役に魅力のないロボ・コップです。
「ロボ・コップ」の映画の魅力の多くは、
その悪役の造形と大暴れにこそあったので、
それがない「ロボ・コップ」というのはもう、
見る値打ちがほぼないと言って間違いがありません。
それが今回の映画です。

最初にエクスプロイテーション映画と言ったのは、
それほどお金が掛かっている映画ではなく、
トータルにはかなりしょぼいのですが、
一点豪華主義でお金を掛けた場面のみを、
封切り前に何度も何度も見せてしまって、
「出だしでここまで凄いのなら、本編はさぞ凄いだろう」
と思わせて観客を騙そう、
という魂胆がありありとあるからです。

実際にはこの映画はオープニングのみがまあまあ凝っていて、
その後はどんどんしょぼくなり、
最後まで大して盛り上がることもなく終わってしまいます。

予算規模としては、
「ドクターストレンジ」や「キングコング髑髏島の巨神」の、
10分の1くらいかなあ、と感じるスケールです。
それを同じくらいの大作のように宣伝する手法が、
エクスプロイテーションです。

唯一この映画で素晴らしかったのは、
主役のスカーレット・ヨハンソンで、
この映画の彼女は全てが完璧に素晴らしく素敵で、
こんなしょぼい映画に出てもらったことが、
申し訳なくなるような感じです。
ビートたけしさんは日本語の台詞が棒読みの上聞き取れないという、
何か唖然とするような芝居で、
乗り気な仕事であったとは到底思えません。

いずれにしても、
典型的なB級からC級くらいの娯楽映画で、
お金があまりないのに無理をしている感じは、
アメリカ制作とは言え、日本のSF映画のようです。
あまり3D仕様にはなっていないので3Dで観る必要はなく、
スケールはしょぼいので、
アイマックスなどの大画面で観る必要もないと思います。

勿論以上は個人の感想ですので、
違う感想をお持ちの方はお許し下さい。

個人的にはとてもガッカリでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「髑髏城の七人」(Season花) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
髑髏城の7人.jpg
客席全体が360度回転するという、
新機構の劇場のこけら落としとして、
劇団☆新感線の代表作の1つ「髑髏城の七人」が、
装いも新たに上演されています。

これから1年以上を掛けて、
4つの異なるバージョンが上演されるとのことですが、
その最初の公演「Season 花」を観て来ました。

場所は例の豊洲市場の隣で、
広大な更地にポツンとプレハブ的な劇場が建っています。
劇団四季の劇場とほぼ同じような外観で、
まあコストをそれなりに下げるには、
仕方のないことなのでしょうが、
殺風景でこれから芝居を見るぞ、
というワクワク感はあまりありません。

1フロアに1300席余りの客席があり、
その客席全体が、回転する巨大な盆の上に乗っていて、
その周囲360度に舞台装置が作られています。
通常の大劇場では、客席は固定されていて、
舞台転換では左右もしくは前後に、
舞台装置の方が動くのですが、
この客席回転式の劇場では、
客席の方が回転して移動することにより、
舞台の転換が行われるという仕組みです。

広角の270度くらいに緞帳の役目も果たすスクリーンがあって、
そこに風景などの映像が映し出され、
それを見ながら客席が回転します。

360度の舞台装置とは言っても、
4方向に出入り口の通路があるので、
比較的奥行のある装置の組める部分と、
ほぼ通路のようなスペースで、
奥行のないセットしか組めない部分があります。
従って、奥行のないセットの部分は、
物足りなさが残るのですが、
120度以上の広角に広がった舞台については、
ちょっとこれまでの舞台装置にはないスケール感があり、
これにはかなり圧倒されました。

クライマックスの戦闘シーンで、
上手から下手に川が流れていて、
丘が大きく後方に広がり、
遠方のホリゾントにも空の映像が映し出されています。
本当に映画のワンシーンの中に入り込んだような臨場感で、
これについては一度体感する価値は、
間違いなくあると思います。

ただ、意外に奥行のない場面はしょぼい感じもあり、
全てが豪華、という訳ではありません。
客席の回転には意外に時間が掛かるので、
それほどスピーディに場面転換が行われている、
というようにも思えません。
前半が1時間15分、後半が1時間50分という上演時間は、
これまでのこの作品の上演歴の中でも、
最も長いものだと思いますが、
長くしている原因の1つは、
その転換の時間にあるように思います。

さて、作品の「髑髏城の七人」は、
1990年に初演が行われ、
その後1997年、2004年、2011年と上演を重ねています。
僕は1997年のサンシャイン劇場、
2004年の東京厚生年金ホールのアカドクロ版、
2011年の青山劇場のワカドクロ版の3回には足を運びました。

戦国時代、織田信長の影武者が、
信長の死後に関東で日本支配を目論む、という話で、
設定はなかなか面白くワクワクする部分があります。
古田新太さんが善悪の影武者を1人2役で演じる、
というのがそもそもの眼目だったのですが、
最後の対決が1人2役では盛り上がりに欠ける、
と言う欠点がありました。

それで2011年版からは、
2人を別々の役者さんがするようになり。
古田新太さんは出演せず、
小栗旬さんと森山未來さんが、
それぞれ演じるという趣向になりました。

今回の舞台ではその趣向を踏襲していて、
善の影武者は2011年と同じ小栗旬さんが演じ、
悪の影武者は成河さんが演じています。
古田新太さんは美味しい脇役の鴈鉄斎での出演で、
殺陣の場面では昔懐かしいローラースケートも披露します。

ただ、成河さんは確かに高音の突き抜けるような声が良く、
演技も上り調子の役者さんですが、
背が低くて押し出しは今一つですし、
これじゃ右近健一さんと変わらないな、
という印象を持ちました。

百姓上がりの野武士で大暴れをする抜かずの兵庫は、
今回青木崇高さんが演じたのですが、
この役はどうしても橋本じゅんさんが目に浮かぶので、
やや物足りない感じは残りました。

作品としては面白いのですが、
あまり遊びがなく、
矢張りラストの大立ち回りが、
元の1人2役の設定が抜け切れない感じがあって、
盛り上がりに欠けるのは今回も同じでした。

新感線には他にも多くの優れたレパートリーがありますから、
この作品が本当に今回のこけら落としにベストであったか、
という点はやや疑問にも感じます。

ただ、一介の小劇場からのし上がり、
今や最盛期の劇団四季と同じようなことを、
堂々とやっているのですから、
つくづくいのうえひでのりさんは凄いな、
とは思います。

そんな訳で、
どうしてもキャストを4つに割っているので、
1回のステージで全てベストキャストという訳にはいかず、
その意味では欲求不満も残るのですが、
これまでにない舞台機構を持つ劇場を、
堂々と使った大芝居で、
一見の価値は間違いなくあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

こむら返りへの酸化マグネシウムの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カマのこむら返りへの効果.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
酸化マグネシウムによりこむら返りが予防出来るかを、
検証した臨床試験の論文です。

夜足の筋肉が痙攣を起こして硬直し、
激しい痛みが生じる「こむら返り」は、
多くの方が経験のある、
非常に不快な症状の1つです。

その原因は様々で、
下肢の血行不良や冷えで起こることもありますし、
糖尿病などの代謝障害で起こることや、
筋肉内の疲労物質の蓄積の影響、
電解質の乱れ、脊柱管狭窄症などの脊椎疾患によるものなど、
多くの要因が絡み合っており、
また原因不明のケースも少なからず認められます。

上記文献の記載では、
ある高齢者の統計において56%がこむら返りを経験し、
そのうちの24%は週に1から4回の発作を起こしていたと報告されています。

このように非常に多いこむら返りですが、
現状確実に有効とされる治療は見つかっていません。

基礎疾患の治療により改善するものを除いては、
芍薬甘草湯という漢方薬が、
日本では良く使用されていますが、
これもそれほど信頼性のある根拠が、
示されているというものではありません。

マグネシウムの製剤は、
ラテンアメリカやヨーロッパにおいては、
昔からこむら返りの薬として使用されていました。

マグネシウムは細胞内に多く存在する陽イオンの1つで、
筋肉細胞の活動においても、
大きな役割を果たし。
その欠乏は筋肉の緊張を高めることが、
実験的には報告されています。

妊娠中の子癇と呼ばれる痙攣発作の予防には、
マグネシウムが有効であることが分かっていて、
妊娠中のこむら返りの予防にも有効であった、
という臨床試験が報告されています。

しかし、妊娠中以外のマグネシウム製剤の使用では、
そのこむら返りへの有効性は確認されていません。

今回の研究はイスラエルにおいて、
観察期間の2週間に4回以上のこむら返りが起こった、
成人94名でを対象として、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方は酸化マグネシウムを855ミリグラム、
1日1回で継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
4週間の治療を行ない、
そのこむら返りに対する効果を比較しています。

その結果、治療期間において、
酸化マグネシウム群も偽薬群も、
平均で1週間に3回くらい、
こむら返りの回数が減少していましたが、
両群に有意な差は認められませんでした。
また、睡眠の状態やこむら返りの重症度などにも、
明らかな差は認められませんでした。

こうした検証としては例数は少ないので、
これで完全にマグネシウム製剤がこむら返りに無効、
というようには言い切れないのですが、
現状科学的な検証において、
明確にこむら返りに有効な治療というのは、
存在しないと理解しておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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バリウム検査と虫垂炎との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バリウムと盲腸との関係.jpg
今年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
バリウムを利用した消化管の検査と、
その後に起こる急性虫垂炎(盲腸)との関連についての論文です。

バリウムは消化管の造影剤として広く使用され、
胃カメラが普及する前の胃の検査と言えば、
胃のバリウム検査で、
特に二重造影という空気とバリウムとのコントラストによって、
胃粘膜の微細な病変を浮かび上がらせる技術が、
日本で開発をされてからその診断能は飛躍的に向上しました。

肛門からバリウムを注入する大腸のバリウム検査も、
大腸ファイバーが普及する前には、
殆ど唯一の大腸の精密検査でした。

バリウムの検査は、
内視鏡検査にはない利点もあり、
胃や腸の全体としての構造や広がりを、
一目で見ることが出来るので、
今でもその有用性は失われてはいません。

しかし、何より医療被ばくの大きい検査である、
という欠点がありますし、
病気の疑いがある時には、
結局胃カメラや大腸ファイバーもしなければ、
確定診断には至りません。

二重造影の高度な技術とその読影は、
職人芸的な部分があって、
内視鏡検査の普及以降、
その技術レベルは低下していると思います。

それ以外にバリウムの検査により、
バリウムが固まって石のようになって腸に残ったり、
固まったバリウムにより胃腸の病気が起こるような事例が、
バリウムを使用した検査後に報告されています。

そのうちの1つが、
バリウム検査後の急性虫垂炎(盲腸)の発症です。

1954年に最初の症例報告があって以降、
上記文献の記載によれば、
50 例以上の報告が蓄積されています。
ただ、バリウム検査から虫垂炎発症までの期間は、
6時間から数年と幅広く、
関連性が希薄と思えるケースも混ざっています。
また、虫垂炎の原因として、
バリウムが虫垂の中で糞石のようになって溜まり、
通過障害を起こすことが想定されているのですが、
実際にはバリウムの虫垂への残留が確認されている事例を、
多数例観察しても、
虫垂炎は発症しなかった、
という報告もあり、
この問題はまだ白黒が付いていません。

そこで今回の研究では、
台湾の大規模な医療データを活用して、
2000年から2010年に掛けてバリウム検査を受けた、
トータル24885名を、
年齢性別などをマッチングさせて、
バリウム検査を受けていない98384名と比較して、
その後の虫垂炎の発症との関連性を検証しています。

その結果、
平均で6年程度の観察期間中に虫垂炎を発症した比率は、
バリウム検査群で年間1000人当たり1.19件に対して、
検査未施行群では0.8件で、
年齢や基礎疾患などの因子を補正した上で、
バリウム検査後に虫垂炎の発症率は、
未施行と比較して1.46倍(95%CI;1.23から1.73)有意に増加していました。

特にバリウム検査後2か月の期間に限定すると、
そのリスクは9.72倍(95%CI;4.65から20.3)と最も高くなっていました。
その後3から12か月後ではそのリスクは2.11倍(95%CI;1.40から3.18)と、
期間が長くなるにつれて低下し、
バリウム検査後1年を超えると、
有意な虫垂炎の発症リスクの増加は認められなくなりました。
腸が穿孔した重症の事例に限っても、
そのリスクはバリウム後2か月で6.91倍(95%CI;2.72から17.6)と、
最も高くなっていました。
またこのリスクは胃のバリウム検査より、
注腸のバリウム検査でより高くなっていました。

今回初めて多数例の検討により、
バリウム検査後の虫垂炎のリスクが、
特にその検査後2か月以内で増加している、
ということが明確に示されました。

その理由はまだ明確ではありませんが、
バリウム検査によるバリウムの局所の残存と共に、
胃腸に圧力が掛かることによる粘膜の障害なども、
上記文献の考察では言及されています。
ただ、腸に圧力が掛かることが問題であるとすれば、
大腸ファイバーでも同様のリスクはあると想定され、
その検証も必要であるように思います。

バリウム検査を健康診断や人間ドックで行うというケースは、
今後より減ってゆくと思われますが、
バリウム検査後特に2か月以内には、
急性虫垂炎が起こりやすくなるという知見は、
一応頭に置いて検査は受けることが必要であるようです。
ただ、その頻度はそれほど大きなものではなく、
大腸ファイバーにおいても、
理屈の上ではリスクはないとは言えない、
ということも押さえて置く必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


小児期の鉛濃度が脳の発達に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鉛と認知機能.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
小児期の鉛の過剰摂取が、
その後の脳の成長発達に与える影響についての論文です。

鉛は自然に存在する重金属の一種で、
土や水にも微量には含まれています。
その鉱石は重くて腐食しにくく、
また加工も容易であることから、
古くから様々な用途に使用されて来ました。
古代ローマ帝国の水道管として使用されたことは有名ですし、
日本では弾丸や貨幣、屋根瓦などして使用され、
明治以降は水道管としても使用が始まります。

その使用は現在では控えられる傾向にありますが、
輸入の塗料や金属製のアクセサリー、おもちゃなどには、
今でも鉛が使用されています。

最近その使用が控えられている理由は、
勿論鉛の中毒にあります。

鉛は脳と肝臓に蓄積し、
神経症状や肝機能障害を起こします。
また、血液のヘモグロビンの合成を阻害するため、
貧血の原因になります。

大量の鉛は急性中毒として、
ショックや嘔吐、腹痛などを起こしますが、
より少ない量の鉛であっても、
慢性に身体に蓄積されると、
特に小児期においては脳の機能低下や発達障害の要因になる、
というように考えられています。

ただ、実際に小児期の鉛の摂取が、
どの程度大人になってからの脳の働きと関連があるのか、
というような具体的なデータは、
実際にはあまり存在していませんでした。

今回の研究はニュージーランドにおいて、
1972年から73年に出生した1037名を登録し、
38歳まで経過観察するという、
大規模な成長と発達の疫学データを活用して、
11歳の時点の血液の鉛濃度と、
38歳の時点のIQや認知機能との関連を検証しています。

11歳時点で血中鉛濃度が測定されていたのは、
全体の56%に当たる565名で、
その平均は10.99μg/dL(SD 4.63)でした。

そして、11歳時の鉛濃度が高いほど、
38歳時のIQは低いという相関を示しました。
ちょっと嫌らしい話ですが、
鉛濃度が高いほど、
38歳時の社会経済的ステータスが低い、
という相関も同時に認められました。

このように、中毒を起こすようなレベルでなくても、
小児期の鉛の摂取量が多いと、
それがその後の脳の発達に悪影響を及ぼす可能性が、
示唆されたのです。

日本での測定データはあまり多くはありませんが、
概ね小児期の鉛濃度は2μg/dL以下とされています。
ただ、ニュージーランドでの一般の住民のデータと、
かなりの差があり、
本当に測定値がその程度と考えて良いのか、
やや疑問に感じる部分もあります。

日本においては、
まだ水道管の多くで残存している、
鉛管からの水道水への鉛の混入や、
金属製のアクセサリーやおもちゃなどを介する、
お子さんへの鉛の摂取が主な問題となりますので、
特に小児期の鉛の摂取を控えることは、
より慎重に考えた方が良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

アメリカにおける甲状腺癌の頻度(1974年から2013年の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は
午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アメリカの甲状腺癌の頻度.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
アメリカにおける甲状腺癌の頻度の傾向についての論文です。

皆さんも良くご存じのように、
甲状腺癌が診断される頻度は、
最近世界的に増加しています。

アメリカの統計においては、
1975年から2013年の間に、
甲状腺癌の診断される頻度は211%増加しています。

ただ、この間に甲状腺の超音波診断が非常に進歩し、
それまでは発見されなかったような小さな甲状腺癌が、
多く発見されるようになったので、
そのことが甲状腺癌の増加の、
主な要因になっているという考え方があり、
実際に甲状腺癌の超音波検診を積極的に行なった韓国では、
20年弱でその診断数が15倍以上増加していて、
その多くが過剰診断であることは、
ほぼ確実と考えられています。

ただその一方で、
甲状腺癌の発症頻度自体も最近増えていて、
特に悪性度の高い甲状腺癌が増加しているのではないか、
という意見もあります。

そのどちらが正しいのでしょうか?

今回の検証はアメリカにおいて、
SEERという地域癌登録データを活用して、
その診断時点での腫瘍の大きさや組織型進行度と、
時代毎の頻度との関連を詳細に検証しています。

その結果…

1974年から2013年の登録において、
77276名の甲状腺癌の患者さんが診断されています。
75%は女性です。
そのうちの64625件は乳頭癌です。
同じ時期に甲状腺癌での死亡者は2371名です。

この間に毎年平均で3.6%増加しており、
1974年から1977年には、
年間10万人当たり4.56件であったものが、
2010年から2013年には、
年間10万人当たり14.42件に増加していました。

甲状腺乳頭癌の罹患率を、
癌の進行度毎に比較すると、
甲状腺内の留まる状態で診断された癌が、
年間4.6%の増加であるのに対して、
周辺組織への浸潤はあるものの遠隔転移のない癌は、
年間4.3%の増加、
遠隔転移のある癌が年間2.4%の増加となっていました。
つまり、進行癌も増加しているという結果で、
これは診断法の進歩によって、
早期癌が発見されるようになったので、
見かけ上癌の罹患率が増えた、
という見解に疑義を呈するものです。

また、癌と診断された事例における死亡率は、
毎年1.1%の増加を示していて、
遠隔転移の事例に限ると、
年間2.9%の増加を示していました。

つまり、
診断法の進歩により修飾されていることは事実ですが、
それでも進行癌自体もこの40年に渡り増加していて、
その死亡率自体も増加している、
言い換えれば、
悪性度の高い甲状腺癌の罹患率が増え、
治療の進歩にも関わらず、
その死亡率も増加している、
ということが確認されました。

それでは何故、
甲状腺癌は悪性度を増して増加しているのでしょうか?

上記文献の著者らの見解としては、
何等かの環境因子が影響しているのではないか、
と推論しています。

肥満によるインスリン抵抗性は甲状腺癌のリスクになり、
一方で喫煙は甲状腺癌のリスクを低下させます。
診断のために多用されている、
医療放射線被ばくの影響も皆無とは言えません。

ただ、これ以上は推測の域を得ず、
今後のさらなる検証が必要な事項であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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喫煙と甲状腺との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タバコと甲状腺.jpg
これは2013年のClinical Endocrinology誌のレビューですが、
甲状腺の病気と喫煙との関連をまとめたものです。

タバコは勿論多くの有害物質を含み、
肺気腫などのCOPDと呼ばれる慢性の肺疾患や、
食道癌、肺癌、喉頭癌を始めとする多くの癌が、
タバコを原因として発生することは、
精度の高い疫学データで実証された事実です。

ただ、喫煙の人体に与える影響は、
その含まれる成分の多彩さからよるものか、
かなり複雑であることもまた事実です。

上記のレビューは甲状腺と喫煙との関連について、
主にこれまでの疫学データをまとめたものですが、
非常に興味深い知見を含んでいます。

甲状腺の自己免疫疾患と言えば、
甲状腺機能亢進症になるバセドウ病と、
機能低下症になる橋本病がその代表です。

この2つの病気はそれぞれ別個の自己抗体が原因となっていますが、
両者が合併することも稀ではないので、
全く別の病気とも言えません。

これまでの複数の疫学データにおいて、
喫煙は橋本病のリスクを低下させる一方、
バセドウ病のリスクは増加させるという結果が報告されています。

これは同じ炎症性腸疾患でありながら、
クローン病は喫煙者で増加し、
潰瘍性大腸炎は喫煙者では減少するのと似ています。

甲状腺の腫瘍については、
良性の結節が複数出来る腺腫様甲状腺腫は、
喫煙者で多い一方、
甲状腺癌は喫煙者では少ないことが報告されています。

これは2003年に発表されたメタ解析において、
現在の喫煙者は非喫煙者と比較して、
甲状腺癌のリスクが40%(95%CI;0.6から0.9)有意に低下し、
以前の喫煙者では10%低い傾向はあるものの有意ではありませんでした。
この検証では吸っているタバコの本数が多いほど、
甲状腺癌のリスクもより低下していて、
この用量依存性があるという事実は、
喫煙と甲状腺癌との直接的な関連を示唆するものです。
2010年と2012年に発表された独立した疫学データでも、
同様の傾向が見られています。

甲状腺癌のリスクとして、
環境要因での関与が確実とされているのは、
放射線の被ばくですが、
放射線作業従事者の疫学データによると、
女性では喫煙により甲状腺癌のリスクは、
46%有意に低下していました。

また甲状腺乳頭癌のみの検証では、
閉経後の女性において、
喫煙者は非喫煙者と比較して、
乳頭癌のリスクは66%有意に低下していました。
(95%CI;0.15から0.78)

このように甲状腺癌が喫煙者で少ないという知見は、
そのメカニズムは現時点では不明ですが、
ほぼ事実と考えられ、
今後そのメカニズムを含めて、
検証が必要であると考えられます。

念のための補足ですが、
勿論喫煙は健康には多くの害があり、
甲状腺癌のリスクが低下するからと言って、
喫煙が推奨されるということはなく、
万が一にもそのために喫煙をするようなことは、
しないようにお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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