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糖尿病のタイプと生命予後について(スウェーデンの20年間の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病の20年の生命予後.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
この20年間の治療や予防の進歩に伴う、
糖尿病の患者さんの生命予後を検証した、
スウェーデンの大規模な疫学データについての論文です。

糖尿病には、
自己免疫機序によって起こり、
お子さんの時期からインスリンの注射が必要となる、
1型糖尿病と、
通常肥満や運動不足、過食などを誘因として、
中年期以降に起こり、
インスリン抵抗性とインスリン不足の両方が関与する、
2型糖尿病の2つがあります。

この20年あまりの間、
食生活などの生活の変化によって、
2型糖尿病の患者さんは増え続けていますが、
その一方で医療も進歩し、
多くの糖尿病治療薬が発売され使用されるようになり、
また糖尿病の患者さんの予後において、
最も問題となる心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の発症予防と予後の改善においても、
それぞれ格段の進歩が見られました。

その治療や予防の介入の効果は、
実際にはどの程度のものだったのでしょうか?

今回の研究は国民総背番号制を取っているスウェーデンにおいて、
1998年から2014年の糖尿病患者さんの予後についての全データを解析し、
それを一般人口から無作為に抽出したコントロールと比較して、
この20年の治療のトレンドを検証しているものです。

臨床医としても患者さんとしても、
これは是非知りたい情報だと思いますが、
なかなか正確な統計などを取ることは、
日本では困難だと思います。

トータルで36869名の1型糖尿病の患者さんと、
457473名の2型糖尿病の患者さんが解析の対象となっています。

1998年から2014年の間において、
1型糖尿病の患者さんの総死亡のリスクは、
患者さん年間1万人当たり、
31.4件減少しました。
これは死亡率で29%の低下に相当しています。
(95%CI;0.66から0.78)
コントロールではその間の死亡数の減少は13.9件で、
死亡率の低下は23%となり、
死亡率の低下率という観点からは、
1型糖尿病とコントロールとの間に有意な差はありませんでした。

これがどういうことかと言うと、
コントロールと同じ比率の減少であれば、
それは治療の効果ではなく、
社会の状況などの変化によるものとも考えられますが、
それを超えて減少している場合には、
治療が一定の効果を死亡率の低下に与えている可能性が高い、
ということになる訳です。

同様に心血管疾患による死亡は、
年間患者さん1万人当たり26.0件低下し、
虚血性心疾患による死亡は21.7件、
心血管疾患による入院は45.7件、
この20年間で減少していました。

2型糖尿病について同様の検討を行うと、
総死亡はこの20年で69.6件減少していて、
死亡リスクは21%低下したということになります。
コントロールとの比較においては、
コントロールの総死亡低下率の方が、
13%有意に高い、という結果になっていました。

心血管疾患による入院のリスクについては、
1型糖尿病の患者さんでは20年間で36%、
2型糖尿病の患者さんでは44%の低下を示していて、
これに関してはコントロールより有意に低下していました。

この結果をどうとらえるかは非常に微妙なところです。

トータルに数で見ると、
この20年で亡くなる人の数は格段に減っているのですが、
比率で見ると病気でない方でも、
同じように減っているのです。
ただ、心血管疾患での入院で見ると、
比率で見ても減少していて、
糖尿病の治療の効果は、
その部分では明らかと言って良いと思います。

この20年で糖尿病の患者さんの予後が、
格段に改善していることは間違いがなく、
その原因は治療の進歩と共に、
トータルな住民の健康意識と、
衛生状態の改善や病気の予防などへの取り組みが、
大きな役割を果たしているようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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原発性アルドステロン症と脊椎の骨折リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルドステロン症と骨折リスク.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
原発性アルドステロン症という副腎の病気と、
骨折のリスクとの関連についての論文です。

島根大学内分泌代謝血液内科の、
杉本利嗣先生のグループの研究です。

原発性アルドステロン症は、
副腎からのアルドステロンというホルモンが、
過剰に分泌されるために、
血圧が上昇し、血液のカリウム値が低下する、
という病気です。

以前は通常の高血圧として診断がされないケースが多かったのですが、
最近ではレニン活性やアルドステロン値を測定することが一般化したので、
多く診断されるようになりました。

さて、高血圧や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患では、
骨粗鬆症やそれに伴う骨折が多い、
という疫学データが複数存在しています。
その原因の1つとして、
アルドステロンを含むレニン・アンジオテンシン系の、
過剰な反応の影響を指摘する意見があります。

レニンの刺激によって活性化される、
アンジオテンシンⅡという昇圧物質は、
骨を吸収する破骨細胞を活性化して、
骨量の減少につながる可能性があります。
また、アルドステロンは遠位尿細管という部分での、
カルシウムの再吸収を抑制する作用があることが分かっていて、
これは結果的にカルシウムの排泄を増加させるので、
血液のカルシウムの低下が副甲状腺ホルモンを刺激して、
骨の吸収の増加に繋がり、
骨量が減少する、という可能性も想定されます。

そこで今回の研究では、
56名の原発性アルドステロン症の患者さんと、
年齢や性別をマッチングさせた56名の病気のないコントロールとを比較して、
椎骨(背骨)の骨折との関連を検証しています。
これは経過を追った研究ではなく、
登録時に既往もしくはレントゲンの検査で、
骨折の確認された頻度を比較しているもののようです。

原発性アルドステロン症の患者さんは、
そのうちの16名が片側の腺腫が見つかって手術を受けていて、
12名の患者さんは両側の過形成との診断になっています。
静脈サンプリングまで施行されたのは34名で、
それ以外の方は負荷テストまででの診断となっています。
つまり、治療と未治療の患者さんが混在しています。

その結果、
原発性アルドステロン症の患者さんのうち、
45%に当たる25名で脊椎の骨折が見つかり、
コントロールでは23%に当たる13名でした。
アルドステロン症群で有意に骨折の頻度が高いという結果です。
またより重症の骨折の比率も、
アルドステロン症群で多いという結果になっていました。
他に両群で差のあった項目は、
血圧値がアルドステロン症群で有意に高かった点と、
尿中へのカルシウム排泄が、
アルドステロン症群で高かったという点のみでした。
コントロール群でのアルドステロンなどの測定は行われていません。

患者さんの年齢は50代の後半で、
それで45パーセントに背骨の骨折というのは、
平均からしてかなりの高頻度と言うことが出来ます。
骨量の測定は行われていますが、
こちらは両群で有意な差は見られていません。

何故こんなにも骨折の患者さんが多いのでしょうか?

原発性アルドステロン症の存在のみを理由にするには、
この頻度の多さはちょっと説明が困難であるような気もします。

この研究は本来は未治療のアルドステロン症のみで比較するか、
治療後と未治療とを比較する、
という手法が望ましいと考えられますが、
実際には例数を集めることが困難なので、
こうした区分になったのではないかと思われます。
コントロール群の血圧は正常なので、
血圧値に差が付いているという点も問題だと思います。
骨折の差が血圧の差であるという可能性も否定は出来ないからです。

血圧の治療薬には立ちくらみを起こすようなものもあり、
アルドステロン症の内科的治療薬として使用されるアルドステロン拮抗薬は、
利尿作用がありますから、
脱水によるふらつきなどの発症が、
骨折のリスクになった可能性も否定は出来ません。

従って、今回の不充分なデータからは、
骨折の原因とアルドステロン症との関連については、
確かなことは言えないのですが、
高血圧と骨折とに関連があり、
それが尿中のカルシウム排泄と関連がありそうだ、
という指摘は興味深く、
アルドステロン症に限らず高血圧の患者さんを治療する場合には、
骨折や骨粗鬆症のリスクの評価が、
重要であることは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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中年期のメタボが認知症の原因となるメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
認知症リスクと中年期の動脈硬化リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
中年期の糖尿病などの動脈硬化リスクが、
その後のアルツハイマー型認知症の発症に結び付く、
そのメカニズムを検証した論文です。

アルツハイマー型認知症は加齢に伴い、
脳にβアミロイドなどの異常タンパクが沈着する病気です。

そのため、直接的には心筋梗塞や脳卒中のような、
動脈硬化によって起こる病気とは別物なのですが、
その一方で動脈硬化を進めるような要因が、
その後のアルツハイマー型認知症のリスクになることも、
また確かなことだと考えられています。

この場合、認知症になった時点での身体の状態ではなく、
病気が発症する10年や20年前の状態の方が、
より病気との関連が大きいと報告されています。

これは考えてみれば当然のことですが、
それを証明するには非常に時間の掛かる臨床研究が必要なので、
最近まで分からなかったような事実も多いのです。

それでは、何故動脈硬化のリスクがあると、
アルツハイマー型認知症が起こりやすいのでしょうか?

1つの可能性としては動脈硬化に伴う脳の虚血性の変化が、
認知症の発症に関係しているという推測が可能です。
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症というのは、
基本的には別の病気ですが、
実際には両者が合併しているケースも多いと、
考えられているからです。

その一方で、
何等かのメカニズムにより、
動脈硬化のリスクがβアミロイドなどの異常タンパクの蓄積と、
結び付いている、という可能性も否定は出来ません。

そこで今回の研究では、
アメリカの3つの地域において、
平均年齢52歳(45から64歳)の登録の時点で認知症のない346名を登録し、
動脈硬化のリスク因子を調査した上で、
平均年齢76歳(67から88歳)の時点でアミロイドPETという、
非侵襲的に脳のβアミロイドタンパクの沈着を計測出来る検査を行って、
アミロイドの沈着と動脈硬化のリスク因子との関連を検証しています。
平均の観察期間は23.5年という、
非常に手の掛かった臨床研究で、
勿論これだけのために行われた研究ではなく、
複数の目標が別個に設定されているものだと思います。

アミロイドPETは特殊な放射線を注射して、
脳の画像を撮り、
通常アミロイドの沈着は殆ど見られない小脳と比較して、
大脳皮質を平均化した時のアミロイドの沈着が、
1.2倍以上になる場合をこの試験では陽性と判断しています。

動脈硬化のリスク因子としては、
BMIが30以上の肥満、喫煙、高血圧、糖尿病、
総コレステロール200mg/dL以上が解析項目となり、
年齢、性別、人種、教育レベル、
アルツハイマー型認知症の遺伝素因である、
APOE遺伝子の変異の有無で、
補正がわれています。

その結果、
登録時の動脈硬化の危険因子が全くない場合と比較して、
リスク因子が1つあると、
アミロイドの病的な沈着が20年後に生じるリスクは、
1.88倍(95%CI;0.95から3.72)、
2つ以上あると2.88倍(95%CI;1.46から5.69)と、
2つ以上のリスクがあると有意に病的なアミロイドの沈着が認められる、
というデータが得られました。
これを高齢の時点でのリスクで解析しても、
アミロイドの沈着との有意な相関は認められませんでした。

つまり、それほど明解な結果とまでは言えませんが、
中年期に動脈硬化のリスクが高いほど、
その20年後にアルツハイマー型認知症になるリスクが高まり、
それがβアミロイドの沈着自身と関連している可能性が高い、
という結果です。

仮にこれが事実であるとすれば、
中年以前の時期からそうした生活習慣を改善することにより、
脳血管性認知症のみならず、
アルツハイマー型認知症のリスクの予防にもなる、
という可能性が高いということになり、
今後そうした介入試験による検証が待たれるところだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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腸内細菌の多様性と食物繊維が肥満を予防する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腸内細菌の多様性と体重.jpg
今年のInternational Journal of Obesity誌に掲載された、
腸内細菌の種類や多様性と、
体重の増加のし易さとの関連についての論文です。

肥満が心血管疾患や糖尿病の大きな原因であることは、
間違いのない疫学的な事実です。

これまでの双子の研究などの結果によると、
肥満の原因の40から75%は遺伝により決まっています。
これは裏を返せば、
全く同じ遺伝子を持っていても、
環境要因により肥満になることもあり、
またならないこともある、
ということを示しています。

肥満の原因はカロリーの摂り過ぎと運動不足である、
というように良く言われます。
それは事実ではありますが、
その一方で、
全く同じ食事量と運動量であっても、
矢張り太りやすい人とそうでない人とは存在しています。

それは代謝量など遺伝的に決まっている因子もありますが、
それだけで説明が付くものではありません。

それでは、
生まれつき決まっているものではないのに、
同じカロリーを摂って太りやすい人と、
太りにくい人との間には、
どのような違いがあるのでしょうか?

最近この点で注目をされているのが、
腸内細菌叢の違いです。

腸内細菌が身体の代謝に大きな影響を与えていることは、
最近の研究のトレンドの1つで、
その違いにより食物の身体での利用のされ方が異なり、
同じカロリーを同じように摂っていても、
体重の増加の仕方が違うということは、
ほぼ間違いのない事実です。

しかし、それではどの腸内細菌が体重増加に繋がり、
どの腸内細菌が体重増加を抑制しているのか、
というような点については、
研究によってもその結果には大きな違いがあり、
ある論文では悪の権化のようにされている細菌が、
他の論文では正義の味方のような評価を受けている、
というような食い違いも稀ではありません。

動物実験ではなく、
人間を対象とした臨床データも、
現時点では不足しています。

今回の研究はイギリスの双子研究のデータを活用したもので、
時間を追った体重増加の経過と、
腸内細菌の遺伝子レベルでの分析結果との関連を検証しています。
双子の研究であるので、
遺伝の影響を簡単に除外出来ることが利点です。

トータルな対象者数は1632名で、
便のサンプルを採取して、
遺伝子の種別による解析を行い、
どのような腸内細菌が含まれているのかをマッピングして、
個々の操作的分類単位毎の体重増加との関連と、
その多様性との関連を分析しています。

その結果、
まず長期間の体重増加における遺伝の関与は41%程度で、
腸内細菌の多様性、つまり多くの種別の細菌がバランス良く存在していることが、
体重増加の抑制に有意に結びついていました。
個別の腸内細菌については、
草食動物の胃などに多く存在している、
ルミノコッカスという菌群と、
ラクノスピラと呼ばれる菌群が増加していると、
体重増加の抑制に結び付き、
最近肥満予防効果があるとする報告の多い、
日和見菌のバクテロイデスについては、
単独では体重増加のリスクとして働くものの、
菌叢の多様性が保たれていれば、
体重増加には結び付かない、という結果になっていました。
また、食物繊維の摂取量が多いことは、
これも体重増加の抑制と相関を持っていました。

要するに今回の検討では、
個々の腸内細菌よりも、
その多様性のバランスが、
健康の維持に重要で、
それが乱れることが病的な体重の増加に結び付く可能性が高い、
という結果になっています。

今回の研究は平均で9年くらいという長期の体重増加を見ていて、
例数も多く、双子の研究で遺伝の因子を除外出来るなど、
これまでの研究にはない多くの利点があり、
今後の腸内細菌叢と健康との関連の議論において、
一石を投じるような知見であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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ステロイドの短期使用とその悪影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
短期ステロイドの悪影響.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
短期のステロイド治療の身体に与える影響についての論文です。

ステロイド(糖質コルチコイド)は、
副腎皮質から分泌されるホルモンで、
強い抗炎症作用と免疫抑制作用などを併せ持ち、
特に合成ステロイドであるプレドニゾロンやデキサメサゾンなどは、
その抗炎症作用が強力で、
炎症性疾患の治療薬などとして広く使用されています。

気管支喘息や慢性関節リウマチなどの慢性の炎症性の病気は、
このステロイドの使用により、
患者さんの予後は劇的に改善しました。

しかし、その一方でこの合成ステロイド剤を、
漫然と長期間使用することにより、
多くの有害事象が出現することも、
また徐々に明らかになりました。

合成ステロイドの長期使用により起こる有害事象としては、
結核や敗血症などの感染症のリスク増加や、
静脈血栓症、血管の壊死や骨折リスクの増加などがあり、
糖尿病や高血圧、骨粗鬆症の原因ともなります。

そのため、長期のステロイド剤の使用は、
他に代わり得る治療のない場合のみに限られ、
気管支喘息においては身体への影響の少ない吸入ステロイドに、
慢性関節リウマチの治療も、
ステロイドは最小限の使用にとどめ、
他の免疫抑制剤や、
遺伝子標的薬をより優先的に使用する流れになっています。

ここまでは最低でも1か月を超えるようなステロイドの使用についての話です。

それでは、
もっと短期間のステロイドの使用でも、
身体に何等かの悪影響があるのでしょうか?

この場合、
糖尿病や高血圧、骨粗鬆症などが、
短期間の使用で発症するとは考えにくいのですが、
感染症や骨折、血栓症のリスクの増加は、
起こらないとは言い切れません。

今回の研究ではアメリカの健康保険の医療データを活用することにより、
多数例において、
30日未満という短期間の経口ステロイド剤(主にプレドニゾロン)の処方と、
その後の病気の発症との関連性を検証しています。
医療データを後から解析したもので、
対象者を最初から登録して経過を追ったものではないので、
その精度は落ちる部分があるのですが、
その代わり非常に多数の事例の解析が可能となっています。

2012年から2014年までの解析が可能な、
18歳から64歳の加入者のデータ1548945名が対象で、
3年間で1度以上経口ステロイド剤の使用処方があったのは、
全体の21.1%に当たる327452名でした。

その処方目的で最も多かったのは、
上気道の感染症で、
次が腰椎ヘルニアなどによる疼痛、
蕁麻疹などのアレルギー症状などとなっていました。
アメリカではメチルプレドニゾロンの6日パックというものがあるようで、
平均の使用期間はそれを活用した6日間程度になっていました。
平均の1日使用量はプレドニゾロン換算で20ミリグラムくらいです。

ステロイド剤開始後30日間で見ると、
その間の敗血症のリスクは、
未使用と比較して5.30倍(95%CI;3.80から7.41)、
静脈血栓塞栓症のリスクは3.33倍(95%CI;2.78から3.99)、
骨折リスクは1.87倍(95%CI;1.69から2.07)と、
それぞれ有意に増加していました。
このリスクはステロイドの使用量が、
1日20ミリグラム未満でも認められ、
必ずしも用量依存性を示していませんが、
使用開始から30日以内とそれ以降との比較では、
明確に30日以内でのリスクがより高くなっていました。

このように短期的な経口ステロイドの使用においても、
感染症や血栓症、骨折のリスクは増加する可能性があり、
今回のデータは実際の事例を解析したものではないので、
その点は割り引いて考える必要がありますが、
その使用はより症例を選んで慎重に行う必要があると思いますし、
使用後30日はそうした合併症の発症に注意を払う必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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「はじまりへの旅」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は映画の話題です。

それがこちら。
はじまりへの旅.jpg
俳優として著名なマット・ロスが脚本と監督を勤め、
「指輪物語」のビゴ・モーテンセンが主役を演じた、
感動的なロード・ムービー、
「はじまりへの旅」を観て来ました。

これは本当に素晴らしい映画で、
今年観た映画の中では最も心を揺さぶられました。

「森で暮らす風変りな一家が旅に出たことから起こる騒動を描いた、
心温まるコメディ・ドラマ」
というような宣伝文句になっていて、
ポスターも上のようなほのぼのした感じを漂わせたものなので、
そうした薄味のコメディ映画を想像されて、
あまり映画館に足を運ぼう、
という気分にならないかも知れません。

僕も正直そうでした。

ただ、その割には映倫区分はPG12になっています。

何故ほのぼのした家族のコメディ映画が、
PG12なのでしょうか?

観るとすぐにその理由は分かります。

この映画はそんな生易しいものではないのです。

登場する一家のあり様は尋常ではありませんし、
展開されるドラマも尋常なものではありません。
それでいて作り物ではないリアルさがそこにあって、
僕達が当たり前と感じていた生活を、
根底から揺さぶるような刃が潜んでいます。
更には、その世界に一旦馴染んでしまうと、
彼らのことが途方もなく愛しく思え、
ラストには溜まらない感動に、
胸が溢れそうな思いにとらわれるのです。

アカデミー賞に相応しい作品であるように思いますが、
それでいてこの作品が作品賞にノミネートされず、
高名な映画評論家の先生も、
奥歯に物が挟まったような批評しかしていない理由も、
また分かるような気がします。

この作品は人間と家族の真実を描いているのですが、
その真実というのは、
無難で平穏を第一に考えるような社会にとっては、
最悪の危険思想であるからです。

昔は社会変革を叫んでいながら、
今はテレビを見て文句を言う程度で、
平穏に生活を送っているような大人がこの映画を観れば、
何等かの胸騒ぎを絶対に感じると思いますし、
それが素直にこの映画を素晴らしいと、
言えない理由ではないかと思います。

たとえばケン・ローチの「わたしは、ダニエル・ブレイク」は、
概ね評論家の皆さんは大絶賛で、
それはあの映画が思想の押し付けのようなもので、
ああした思想の押し付けは、
大衆の洗脳がお好きな皆さんには好ましいものだからです。

しかし、真実というのはもっと多面的で、
1つには割り切ることが出来ず、
もっと苦い後味のするものではないでしょうか?

地味な公開ですが結構お客さんは入っていて、
皆さん分かっているなあ、という感じがします。

以下、若干内容に踏み込みます。
後半のネタバレはしませんが、
なるべく鑑賞後にお読み下さい。

ビゴ・モーテンセン演じる主人公は、
革命主義者の過激派の活動家で、
同じく共鳴する活動家の女性と恋をして結婚。
彼女は大富豪の娘で弁護士のインテリなのですが、
そのキャリアを投げ打ち、
アメリカ北西部の森の中で、
おぞましい現代社会とは隔絶した暮らしをしています。

2人は6人の子供をもうけ、
自分たちで独自の教育を施していたのですが、
妻は双極性障害で6人目の子供を産んだ直後に病状が悪化。
手に負えなくなった主人公は、
結果的に拒否していた現代社会に頼り、
自分の姉の伝手で病院に入院させますが、
彼女は入院中に手首を切って自殺してしまいます。

彼女は異常としか思えないような遺言を残していたので、
それを達成するために、
主人公は6人の子供たちと共に、
数千キロ離れた妻の実家への旅に向かうのです。

このオープニングの段取りをお話しただけでも、
この作品がかなりとんでもない代物であることは、
お分かりが頂けるのではないかと思います。

更には2人の子育てが相当壮絶なもので、
いきなり鹿の首をナイフで掻き切って、
内臓を生で食い千切って、
それが大人になる儀式だと悦に入っていますし、
子供同士が本気での殺し合いのような戦闘訓練に興じています。

そこには子供を育てるということの崇高さと、
その恐ろしさのようなものが、
同時に描かれているような気がします。

物語はそれからかつてのアメリカン・ニューシネマを意識した、
ロードムービーの体裁で展開され、
葬式に殴り込むという、
「卒業」のような展開を経て、
母親の意志を汲んだ弔いの、
ちょっと壮絶なクライマックスへと至ります。

凡百の映画が10本束になっても敵わないような、
衝撃と感動とがそこに待っています。

この映画のマット・ロスはまさに天才で、
台本も演出もほぼ完璧と言って良いと思います。

ロードムービーですが探しているのは、
最初から死んでいることが分かっている女性です。
存在しない彼女の狂気が、
物語の原動力になっているという悲しさは、
おそらく今の社会の持つ喪失感そのものの投影なのです。

父親に狂気を見て、家族から離脱を図る少年を、
1人おいているという趣向も上手いと思います。
その残酷さを含めて、
監督は子供というものを本当に良く知っていると思います。

何にせよ、絶対に今観るべき1本、
としか言えない傑作です。

是非是非騙されたと思って劇場に足をお運びください。

期待は多分裏切られないと思います。
観終わって、何か素直に感動出来ないモヤモヤを感じたとすれば、
それはあなたの心の中にあって、
あなたが封印していた何かが、
目覚めようとしているからなのです。

最後に一点だけ不満は、
僕が観た新宿ピカデリーの4番シアターで、
あの劇場はシネスコをそのまま映す大きさがスクリーンになく、
上下が切れたシネスコになっています。
あの劇場は酷いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

ナタリー・デセイ&フィリップ・カサール デュオ・リサイタル(2017年都民劇場公演) [コロラトゥーラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日は声楽が1つと映画が1本です。

最初がこちら。
デセイ1.jpg
ナタリー・デセイ様がピアニストのカサールさんと、
2014年に続いてデュオ・リサイタルに来日されました。

4月12日が都民劇場のリサイタル、
それから1日福岡での公演があって、
今週の19日にはもう1回、
新宿のオペラシティでの公演があります。

デセイ様は僕にとっては絶対の藝術神で、
永遠の女神です。

2004年に日本で最初のリサイタルを開き、
東京でのその2回の公演に2回とも足を運びました。

このリサイタルは本当に本当に素晴らしくて、
聴き終わった後はしばらく呆然としていて、
公演は9月にあったのですが、
その年の終わりくらいまでは、
デセイ様のこと以外は殆ど考えられない状態でした。

彼女が目の前で僕のために1曲歌ってくれたら、
その場で咽喉を掻き切って死んでも構わないと、
本当にそのくらいに思いました。

その直後に体調不良で舞台を降板し、
休養に入ったというニュースを聞いた時などは、
フランスまで飛んで行って看病したいような思いにとらわれました。

翌年にメトロポリタン・オペラの「ロミオとジュリエット」で復帰、
というニュースが流れた時は、
真面目にアメリカまで聴きに行くことを考えました。

デセイ様の絶頂期は1998年から2002年くらいまでだと思いますが、
その時にどうして真の藝術を求めて、
何故ヨーロッパやアメリカに足を運ばなかったのかと、
それなしで空しく生きていても何の喜びがあろうかと、
そんなことを毎日悔いるような日々が続きました。

次の来日は2007年のことで、
日本でのデセイ様の人気は、
この時がピークであったと思います。

オペラシティのコンサートホールで、
3日間のリサイタルが行われ、
3日ともほぼ満席でした。
こんなことはあまりソプラノ歌手ではないことでした。

ただ、この時のデセイ様の調子はあまり良くなくて、
咽喉が何度も引っかかるように声が途切れ、
高音もあまり出ず、
ピアニシモの持続も困難でした。

3日のうち1日くらいはいいだろうと思い、
3日とも聴きに行きましたが、
結果としては3日とも同じ状態でした。

次の来日は何とオペラで、
2010年に「椿姫」の舞台に3回立ちました。

これも勿論全日程に足を運びました。

これはこれで素晴らしい舞台でしたが、
デセイ様にベルカントはあまり似合わないと、
そんな思いは抜けませんでした。
出来はまあまあというレベルだったと思います。

それから2012年にマリインスキー管弦楽団の演奏会に参加し、
「ルチア」のタイトルロールを演奏会形式で全幕歌いました。
この公演は1回きりでしたが、
素晴らしいもので、
奇跡的に声は持続され、
いつもの声帯のエンストのような引っかかりもありませんでした。
全盛期のような超高音はありませんでしたが、
歌い回しには間違いのない天才が宿っていました。

デセイ様の「ルチア」にようやく間に合い、
本当に幸せでした。
しかし、真の代表作であった、
「ラクメ」や「ハムレット」には間に合いませんでした。

その翌年の秋にデセイ様はオペラを引退しました。

そして、2014年にはカサールさんと歌曲主体のリサイタルに来日しました。

この公演はプログラムは意欲的なものでしたが、
デセイ様の声は絶不調で、
まともに歌えた曲は、
正直2回の公演で通算しても1曲もない惨状に終わりました。

絶えず声は突っかかって途切れ、
ピアニシモは持続せず、
高音もまるで出ないという無残な状態でした。

そして、今回同じカサールさんとのリサイタルで、
デセイ様は来日されました。

僕は正直あまり期待はせずに劇場に足を運びました。

それでも、彼女が出て来る直前には、
思春期のようにドキドキしましたし、
第一声を発する直前には心臓が止まりました。

4月12日の公演は2014年とはくらべものにならない良い出来で、
まだデセイ様は終わっていない、
という思いに胸が熱くなりました。

歌の技術自体は矢張り全盛期の完璧さとは程遠いのですが、
歌い回しにはかつての軽快さがかなり復活していて、
何より歌芝居のような、
情感を込めた歌い回しが魅力です。
一時期ベルカントにレパートリーを広げて、
無理に重い歌い回しをしていたのですが、
今回のリサイタルで、
初期の軽やかなコロラトゥーラの華やかさが、
戻っていたことをうれしく思いました。

後半は少し咽喉の調子が悪くなってきて、
エンスト気味の声の引っかかりも増えてしまいましたが、
それでも歌のフォルムはそう崩れることなく、
最後まで持続はされていました。

アンコールのシュトラウスで、
ちょっと当てるという感じの軽い出し方でしたが、
最近は出さない超高音を1回出していて、
19日にはもう少し踏ん張ってくれるかな、
とその点はとても楽しみです。

改めて思いますが、
たとえばグノーの「ファウスト」の宝石の歌を、
このように軽やかかつドラマチックに歌えるコロラトゥーラは、
デセイ様の他にはいません。

もう1日4月19日に公演があります。
今度は絶不調ということもないとは言えないので、
生物の舞台は予測は不能ですが、
12日と同じ調子でしたら、
間違いなく素晴らしい体験になることは確実なので、
ご興味のある方は是非足をお運び下さい。
僕も勿論駆けつけます。
フライングの拍手だけはしないでくださいね。

それでは映画の記事に移ります。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
わたしは、ダニエルブレイク.jpg
昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた、
ケン・ローチ監督の新作社会派映画を観て来ました。

これは英国社会のセーフティーネットの、
非人間性と胡散臭さを徹底して批判した社会派の映画で、
主張は明確で分かりやすく、
語り口も平明でなめらかです。

主人公は59歳の大工さんで、
心不全(弁膜症性ではなさそう)に罹患して、
一命をとりとめますが、
主治医からは当面仕事をすることを禁じられます。

それで障碍者としての給付を受けようとするのですが、
日本の介護保険の申請のような聞き取りの検査を受け、
「身の回りのことは出来ます」というようなことを言ってしまうので、
給付は降りなくなってしまいます。

それで日本の失業手当のようなものを、
申請するのですが、
今度は求職活動をしないと認められないと言われ、
実際には仕事をすることを禁止されているにも関わらず、
履歴書の書き方の講習を受けさせられたり、
実際に仕事に応募して、
採用されてから「実は働けない」と言って、
相手に激怒されるなどの、
理不尽な仕打ちを受けることになります。

日本でも似たようなことはあるのですが、
主治医が仕事が出来ないという証明をすれば、
失業の給付自体は受けられると思うので、
おそらく仕組みが少し違うのだと思いますが、
何故主治医の方にもっと文句を言わないのか、
というような点については、
観ていても良く分かりません。

また、求職活動をしていないと失業の給付が受けられない、
ということは日本でもあると思いますが、
毎月ハローワークに行けばほぼOK、
という感じのものであったと思うので、
映画のように厳しい審査で締め上げられる、
というような状況はないように思います。

映画はこの主人公の顛末と、
彼を取り巻く人間として、
2人の子供を育てるシングルマザーの女性と、
仕事に就かず一攫千金を狙う黒人の青年などが描かれ、
人間同士が助け合う結び付きの素晴らしさと、
それを踏みにじる官僚主義の冷徹さを描きます。

明快で分かりやすく、面白い映画だと思います。

ただ、1つの主張をやや押し付けるような感じがあり、
その一方で登場人物は聖人君子には描かれていないので、
何となくモヤモヤした部分が残ります。

この映画においては国家の社会保障政策と行政は、
まあ悪の権化のように描かれています。
主人公とそれを取り巻く人々は圧倒的な正義として描かれています。
ただ、主人公にもかなり落ち度があり、
性格的にも偏狭で自分勝手で、
短絡的な思考を持っていることも事実です。
カッとして役所の壁に埒もない落書きを書きなぐり、
警察から厳重注意を受けたりもするのですが、
それをある種の英雄的な行為のように描いています。
しかし、こんなものが英雄的な行為でしょうか?
色々な見方があると思いますが、
ただの無意味な迷惑行為のようにしか、
個人的には思えませんでした。

要するに複雑で人間的な人物を描いているのに、
作品の構成としてはその人物が絶対の正義になっているので、
観ていてモヤモヤしてしまうのです。
政治的な主張を持つ映画にありがちの欠点ではないかと思いました。

同じストーリーであっても、
もう少し複雑な味わいで、
一方に決めつけるような結論がない方が、
色々な感想の余地を残して個人的には好みです。

そんな訳で個人的にはあまり乗れなかったのですが、
映画というのはこうした政治的な側面を多分に持つものでもあり、
そうした映画としては、
ケン・ローチ監督の執念を見る思いもあり、
イギリスの社会保障の状況を知るという興味もあり、
決して観て損というようには感じませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

赤ちゃんの新しいおしっこ採取法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
赤ちゃんの尿採取法.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
赤ちゃんの尿採取法についての論文です。

2歳未満の乳幼児では、
発熱の原因として腎盂腎炎などの尿路感染症は、
頻度の高い感染症です。

尿路感染症の診断には、
勿論尿の検査が必要です。

しかし、特に1歳未満のお子さんでは、
尿を採ること自体がなかなか大変です。

採尿バッグと言って、
尿道の周りに張り付ける透明な袋のようなものが、
よく使用されていますが、
実際には尿が隙間から漏れてしまって上手く取れなかったり、
取れても皮膚の雑菌などが混入してしまい、
正確な診断が出来ないことが多いのです。

自然に出る尿をその場で容器に取れれば、
それに越したことはないのですが、
赤ちゃんは気まぐれですから、
おむつを取り、容器の口を開けて待っていても、
時間ばかりが掛かってしまいそうです。

それではもっと効率の良い方法はないのでしょうか?

上記論文で検証されているのは、
次のような方法です。

こちらをご覧ください。
赤ちゃんの尿採取法の図.jpg
上記文献で試みられている、
新しい赤ちゃんの自然採尿法を図示したものです。

おむつを取って無菌の容器を手元に取り、
排尿の刺激として、
冷水に浸した濡れガーゼで、
膀胱の周辺の下腹部を反時計回りに、
回転するように刺激します。
これにより自然な排尿を促すのです。

本当にこれで上手くいくのでしょうか?

オーストラリアの単独施設において、
主治医が尿検査を必要と判断した、
生後1から12か月の乳幼児を、
その時点でクジ引きで2つに分け、
一方は上記のような膀胱刺激を行い、
もう一方は刺激なしの自然採尿を試みて、
その比較を行っています。

その結果、
5分以内で排尿した比率は、
膀胱刺激をしない場合には12%に留まったのに対して、
膀胱刺激を行った場合には31%と高くなっていて、
その差は19%(95%CI;11から28%)と算出されました。
勿論有意な差です。

適切に尿検体が採取出来た比率も、
膀胱刺激をしない場合は9%に留まったのに対して、
膀胱刺激を行った場合には30%に増加していました。

皮膚などの細菌が混入した比率については、
両群で差はありませんでした。

このように、1歳未満の乳児で自然採尿を行う場合には、
適切な膀胱刺激を行うことが、
採尿の掛かる時間を減らし、
的確に採尿出来る確率を上げる方法として、
有用である可能性が示唆されました。

すぐに臨床でも応用可能な方法として、
臨床的に意義の大きなものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


体重の変動が心臓に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
体重の変動と心血管疾患リスク.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
体重の変動が心臓に与える影響についての論文です。

肥満が心筋梗塞などの心血管疾患のリスクであることは、
多くの疫学データで立証された事実です。
その一方で体重の変動が大きいことも、
虚血性心疾患のリスクとなることが報告されています。

これは体重の急激な増加は勿論のこと、
急激な減少やダイエット後のリバウンドなども、
その振り幅が大きければ病気のリスクになるのでは、
という意味合いです。

ただ、実際に心筋梗塞などを起こした患者さんにとって、
その後の体重変動がどのような影響を与えるのか、
というような点については、
これまでにあまり精度の高いデータが存在していませんでした。

今回の研究はTNT研究という、
大規模な臨床研究のデータを活用して、
心筋梗塞や狭心症の患者さんにおける、
体重変動の影響を検証しています。

元になっている臨床試験は、
狭心症や心筋梗塞の明確な既往があり、
血液中のLDLコレステロールは130mg/dL未満と、
それほどの上昇はない患者さんを対象として、
スタチンの上乗せ効果を検証したものですが、
そこで登録された9509名の中央値で4.9年という観察期間中の、
体重の変動幅と虚血性心疾患の予後との関連が検証されています。

その結果、
他の心血管疾患の危険因子や平均体重、体重の変化量で補正した結果として、
体重変動の標準偏差が1増加する(つまり体重の数値のばらつきが大きくなる)毎に、
狭心症や心筋梗塞のリスクが4%、
その死亡リスクが9%、
それぞれ有意に増加していました。

体重の変動の大きさを5分割すると、
最も変動が大きい群の平均の変動幅は3.86キロで、
最も変動の少ない群(平均の変動幅0.93キロ)と比較して、
狭心症や心筋梗塞のリスクが1.64倍(95%CI;1.41から1.91)、
心血管疾患のリスクが1.85倍(95%CI;1.62から2.11)、
死亡リスクが2.24倍(95%CI;1.74から2.89)、
心筋梗塞単独のリスクが2.17倍(95%CI;1.59から2.97)、
脳卒中のリスクが2.36倍(95%CI;1.56から3.58)、
糖尿病の新規発症のリスクが1.78倍(95%CI;1.32から2.40)、
それぞれ有意に上昇していました。

このように体重の大幅な変動は、
それ自体が独立した心血管疾患のリスクである可能性が、
心筋梗塞や狭心症の患者さんで示されたことは、
体重などの生活指導に当たるスタッフにとっては重要な知見で、
一部で流行っているような短期間で急激なダイエットは、
その後のリバウンドのリスクも考えると、
こうした患者さんでは推奨されないということは、
認識をしておくことが重要だと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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