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ニジェールにおける安価なロタウイルスワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今週の土曜日(4月1日)の午後は休診となりますので、
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
安いロタウイルスワクチン.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
インド製の安価なロタウイルスワクチンの、
アフリカでの臨床試験の結果についての論文です。

ロタウイルスはノロウイルスと並んで、
乳児のウイルス性胃腸炎の代表的な原因ウイルスで、
嘔吐と下痢がその主な症状です。

日本のような医療がそれなりに発達している国では、
軽症の事例は対処療法で様子をみて、
重症のケースは入院して点滴治療などを行なえば、
命に関わるような事態は稀ですが、
アフリカなどの衛生状態の悪い地域では、
重症化して死亡するケースも稀ではありません。

世界的に見ると、
5歳未満の下痢による死亡事例のおよそ37%は、
毎年ロタウイルスが原因である、
という試算があります。

このロタウイルスによる子供の死亡を減らすためには、
衛生状況の改善と公衆衛生的な知識の普及と共に、
有効なワクチンの接種が必要と考えられます。

現状2種類のワクチンが、
日本を含む世界中で使用されています。
それがグラクソ社のロタリックスと、
メルク社のロタテックです。

この2種類のワクチンはその有効性と安全性とがほぼ確立されていて、
その使用により60から70%程度は、
ロタウイルスによる重症の腸炎を予防することが確認されています。

しかし…

ロタリックスもロタテックも、
ワクチンとしては非常に高価な商品です。
日本では1本の接種で1万円を超えるコストが掛かります。
発展途上国での接種は製薬会社も価格を下げており、
また国際的な補助の仕組みもありますが、
それでも他のワクチンと比較して、
高価であることには変わりはありません。
更にもう1つの問題は、
ワクチンの温度管理で、
ロタリックスもロタテックも、
添付文書上2から8℃の低温で遮光で管理せよ、
というように書かれています。
しかし、現実には低温での輸送や管理にはコストが掛かり、
アフリカなどでの集団接種に、
その温度管理を要求することは、
現実的ではないのです。

そこで、最近インドの製薬会社により、
この問題の解決に結び付く商品が開発されました。
物自体はヒトやウシ由来の複数の型のロタウイルスの抗原を、
再集合させて1つの粒子としたワクチンで、
そこに含まれている5つの型を含めて、
ロタテックとほぼ同一のワクチンです。
特許のこととか問題はないのだろうか、
と、ちょっと気になりますが、
現状は問題はないようです。

その特徴はまずロタテックより安いということで、
もう1つは温度管理があまり必要ではなく、
37℃の条件で2年間、
40℃の条件でも半年は安定している、
と記載がされています。
つまり、低温にすることなく、
そのまま輸送してそのまま接種してもOKということです。

そんな都合の良い話があるのだろうか、
とそこもちょっと疑問に感じるところですが、
今のところはこの点も問題とはされていないようです。

今回の臨床試験はこのインド製ロタウイルスワクチンを、
アフリカのニジェールで摂取した臨床試験の結果です。

3508名の新生児を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はインド製のロタウイルスワクチンを経口接種し、
もう一方は効能のない偽ワクチンを接種して、
接種終了28日後以降のロタウイルスによる重症の胃腸炎の発症を、
比較検証しています。
新生児が2歳になるまで観察は継続される予定ですが、
現状は118例のロタウイルスによる重症胃腸炎が報告された時点で、
解析は行われています。
ワクチンは生後6週、10週、14週の3回接種されていて、
これは現行のロタテックと同じスケジュールです。

その結果…

118例のロタウイルスによる重症胃腸炎が報告され、
そのうちの31例がワクチン接種群で、
残りの87例が偽ワクチン群でした。
これによりロタウイルスワクチンの、
ロタウイルスによる重症胃腸炎予防効果は、
66.7%と算出されました。
(Per-protocol 解析。95%CI;49.9から77.9)
ロタウイルス胃腸炎の事例全てで見ると、
その有効率は34.5%で、
全ての感染性胃腸炎での解析では、
ワクチン接種群で666例に対して偽ワクチン群で646例と、
トータルには予防効果は認められませんでした。
ワクチンの有害事象として指摘されている腸重積については、
今回の研究では報告事例はありませんでした。

今回のロタウイルス由来の重症胃腸炎を66.7%低下させた、
というワクチンの有効性は、
ロタリックスやロタテックの臨床試験とほぼ一致する結果で、
この2種のワクチンの代わりに、
インド製の今回のワクチンを用いても、
大きな問題はなさそうであることを、
示唆する結果です。

このくらいの例数では当然のことではあるのですが、
ロタウイルスによる重症胃腸炎は減っても、
トータルに全ての原因による重症胃腸炎は減っていないので、
少しモヤモヤする結果ではあります。

いずれにしても、
今後は医療コストを考えた製品選びという、
こうした目的の研究が増えることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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