SSブログ

地下空港「サファリング・ザ・ナイト」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

久しぶりに駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
サファリングザナイト.jpg
移動型演劇「サファリング・ザ・ナイト」を、
すみだパークスタジオで観て来ました。
上演は本日までです。
観たのは2日目でしたが、
内容の性質上早くネタバレしたり批評するのは良くないかな、
と思って本日の紹介となりました。

地下空港は劇団ではなく舞台芸術集団を名乗っていて、
伊藤靖朗さんという方が主宰です。

結構難しいことをお話になっているのですが、
2年前に1回公演を見に行って、
海の神様と人間が宝物を取り合って戦うという、
ティーンエイジャーが主人公のアニメか戦隊もののような話でした。

見ていて少し恥ずかしい感じがあり、
ちょっと僕には向いていないな、
というように感じました。
大分低い年齢層を対象としているのだな、
というようにも感じました。

今回の作品はぴあとの共同で、
アトラクション型というのか、
観客に一定の役割が与えられて、
それに沿って活動する、という形式になっています。

こういうものは嫌いではないので、
どんなものかしらと思って出かけてみました。

舞台は2045年に設定されていて、
そこはオベロンとタイタニアという2つのAIに支配されている世界です。
「火の鳥未来編」みたいな感じのあれですね。
そこで敵対する2つのAIを統合させるというような話が持ち上がり、
その会合に出席するメンバーが観客の1人1人である、
という趣向です。

チケットはオベロンとタイタニアに分かれていて、
それぞれのメンバーの1人として、
観客はまずミーティングのような場に招かれ、
そこで数人ずつのグループに分けられて、
そこにグループリーダーという役者さんが、
1人ずつついて観客を先導し案内します。

すみだパークスタジオは倉庫の連なりですが、
そのあちこちで同時多発的にドラマは展開されます。
最後は倉庫の屋上で終演となります。

スマホのアプリをダウンロードしておくと、
それが随所で活用されたりと、
色々と工夫のある公演でした。

ただ、僕の参加したのは2日目でしたが、
物凄く寒い日で、
外にいる時間が長いので、
寒くて寒くて物語に没入するようなことは出来ませんでした。

ディズニーランドやUSJのアトラクションではないので、
それほど舞台をお金をかけて作り込むことは出来ず、
壁にAIの映像を映したりはするのですが、
それがそう活躍するという感じにはなりませんし、
屋内もちょっと未来風の装飾があるくらいで、
基本的には元の倉庫のままです。

こういう性質のものは、
以前は野外劇や密室劇として、
寺山修司の天井桟敷が得意としていました。
最近ではゴキブリコンビナートの迷路密室劇が、
その作り込みの見事さで印象に残っています。

演劇の場合予算は限られているので、
大きな空間を別世界として構成することは、
基本的に無理があるのです。

それで、寺山修司は密室の完全な暗闇を、
それ自体としてセットとして利用し、
時空を超えるという幻想を表現しましたし、
野外劇ではその町の「事実」そのものを、
虚構化するという手法を取りました。
ゴキブリコンビナートも、
小空間を多層的な迷路として作り込み、
地下都市の幻想を表現しました。

その一方今回の地下空港は、
2045年の未来世界で、
周囲の風景は過去の東京をバーチャルに見せているのだ、
という趣向になっているのですが、
こういう大仕掛けな趣向は、
ディズニーランドのアトラクションなどの得意技で、
演劇ごときではどう考えても無理があると思うのです。

今回は果敢な挑戦だったとは思いますが、
矢張り無理だなあ、という感じを強く持ちました。

スマホのアプリが使用されているのですが、
ダウンロードしていない人は、
グループリーダーの役者さんのものを代わりに使用するので、
結局あってもなくても同じことになるのが、
最初から明らかなのが面白くありません。
もう少し別の工夫が必要だと思いました。

色々と文句は言いましたが、
意欲的な試みでしたし、
グループリーダーのお姉さんがなかなか魅力的で、
一緒に行動するという趣向は悪くありませんでした。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


村上春樹「騎士団長殺し」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
騎士団長殺し.jpg
村上春樹さんの新作長編小説を読みました。

村上春樹さんの小説は、
「海辺のカフカ」以前のものについては、
長編、短編、エッセイ、ノンフィクションを含めて、
一応全て出版されたものは読んでいて、
その後も「1Q84」などの長編は読んでいます。

僕の好みは一番は「羊をめぐる冒険」で、
次が「ノルウェイの森」、
そして「羊をめぐる冒険」の続編に当たる、
「ダンス、ダンス、ダンス」です。

今回の作品は「顔のない男」のプロローグが、
とても意味ありげで良く出来ていて、
その後の何かが起こるような予感だけがあって、
結局何も起こらないまま時間が過ぎてゆくような前半が、
ちょっと「ダンス、ダンス、ダンス」を思わせて、
悪くない感じです。

今回は語り口としては、
単一視点で作者を思わせるような主人公が出て来て、
妻がどうして浮気しただの何だのと、
喪失感を絡めたいつもの愚痴が連発するので、
「ああ、懐かしいなあ」という感じに囚われます。

それが中段で話が動き出すと、
話の底がとてつもなく浅くて何の工夫もないので、
「まさかこの調子で終わりになってしまうのかしら」
と読みながら不安に駆られるのですが、
結局そのまま大ガッカリで作品は終わってしまいます。

プロローグの「顔のない男」は、
確かに後半で登場するのですが、
ほんのちょっぴりの登板であまり活躍はなく、
「バイオハザードにローラが登場!」
と同じくらいのインパクトです。
プロローグにそうちゃんと繋がる訳でもなく、
単純につかみのためのオープニングだったようです。

読了後の感想としては、
結果的には「1Q84」よりかなり質が低く、
変てこりんな「色彩を持たない、多崎つくると、彼の巡礼の年」より、
読みやすいのですが内容には乏しいように感じました。

単純に出来が悪いということよりも、
村上さんの脳内劣化というか、
ひょっとしたら今の村上さんの頭の中は、
この程度のことが渦巻いているだけの荒野なのかしら、
と思うととてもつらい気持ちになりました。

村上さんと言えば、
凝ったレトリックが身上と思うのですが、
今回の作品では、
「カントが時間通りの散歩をしていて、
カントを見て村の人が時計を合わせた」
というような、
教科書に載っているような話をわざわざ出して来たりして、
何処か、おかしくなってしまわれたのだろうか、
と不安に感じるようなところもありました。

またオペラの話が結構出て来るのですが、
「ドン・ジョバンニ」にしても「薔薇の騎士」にしても、
これなら僕の方がもう少しは詳しいよ、
というくらいの知識が披露されたりしていて、
かつて村上さんの博識とディテールに、
とても感心しのめり込んでいた者としては、
その辺りもとても切なく感じました。

食事の話題も村上作品の定番ですが、
かつてはカリフラワーのソースのパスタとか、
サンドイッチとオムレツが美味しいバーなどに、
僕も食べたいなあ、お洒落だなあ、と思っていたのですが、
今回の作品でも主人公は、
パスタとサンドイッチばかりを食べているので、
それはあまりに芸がないし、
何より栄養バランスもひどいじゃないか、
と凡庸さにもガッカリしてしまいました。

以下内容にも少し踏み込みます。
未読の方はご注意下さい。

主人公は36歳の肖像画家で、
妻から一方的に別れを申し渡され、
「ノルウェーの森」のように、
東北から北海道を1人で彷徨った後で、
友人の父親で日本画の大家が暮らしていた古い小田原の家に、
1人で暮らすようになります。

その大家の画家は、
かつては洋画家であったのですが、
留学先のドイツで丁度オーストリアを併合したナチスの「悪」と対峙し、
挫折して日本に戻り日本画家に転身して成功したという経歴があり、
今は認知症で老人ホームに入っています。

家の谷を隔てた向かい側には、
免色渉という謎の大金持ちの男がいて、
彼から突然自分の肖像画を描いて欲しいという依頼を受けます。
同じ時期に家の屋根裏から、
老大家が秘密にしていた「騎士団長殺し」という絵が見つかり、
そこには日本古代の装飾で、
オペラの「ドン・ジョバンニ」の最初の場面、
ドン・ジョバンニが愛人の父親である騎士団長を殺す、
という場面が描かれています。
それから、家の外の祠から謎の鉦の音が聞こえてくる、
という怪異があり、
祠の後ろの石の塚を掘ると、
その底に石室のような空間が現れます。
これは春雨物語の「二世の縁」を元にした趣向です。

ここまではまあまあ悪い感じでもなく読み進めました。
「二世の縁」は鈴木清順監督が怪奇劇場アンバランスで撮った、
「ミイラの恋」という作品がカルトとして心に残っていて、
これは凄みのある現代怪談でした。
中に入れ子のように「二世の縁」が挟まっているのです。
村上さんが見ているのかどうかは分かりません。
「ドン・ジョバンニ」は馴染みのあるオペラで、
それほど好きな作品ではありませんが、
結構回数は聴いています。

物語の構造的には「ねじまき鳥クロニクル」に近く、
何も起こらず何かの予感だけが続く感じは、
「ダンス、ダンス、ダンス」に近いのです。

ただ、どうなるのかと思うと、
石室を開放した後で、
身長60センチくらいの騎士団長の姿をした人物が、
主人公にしか見えない幻覚として登場し、
自分はイデアである、と名乗るので、
オヤオヤという感じになります。

日本軍とナチスが過去の邪悪なものとして登場しますが、
それと対決する、という感じの話にはなりません。
その後もまったりと平坦に話は続き、
免色の娘かもしれないという少女が登場して、
その少女が姿を消す、
というのが全編のクライマックスになります。

実際にはただ免色の屋敷に忍び込んで、
数日出られなくなっただけの顛末なのですが、
主人公は騎士団長に命じられるまま、
老人ホームに老大家を見舞って、
その眼前で騎士団長を包丁で刺し殺し、
それによって異次元の扉が開くと、
メタファーの世界と言う何だか分からない世界を彷徨います。
最終的にはその旅は石室に出ておしまいで、
少女はそのまま帰って来てそれでおしまいです。

ラストになって身重の妻が戻って来て、
主人公は復縁し、
娘に何かを伝えようとするところで物語は終わります。

ラストは2011年の震災の時ということになっていて、
プロローグの意味もはっきりしませんから、
「1Q84」のように第3部があるような嫌な予感もします。

村上さんは「アンダーグラウンド」でオーム事件を描き、
それをフィクション化した試みが「1Q84」だったと思うのですが、
今回も多分2011年の震災を村上さんなりにフィクション化したい、
と言う思いがあって、
その前段としてこの作品を書いたのかな、
というようにも感じるのです。

トータルには色々な怪異が登場しますが、
「となりのトトロ」と同じように、
最終的には少女が行方不明になって、
怪異が総動員して少女を探し、
見つかるとそれで終わり、という具合になっています。

石室は「ねじまき鳥クロニクル」の井戸と同じで、
別空間への出入り口になっていて、
今回は「1Q84」と同じ病室が、
もう1つの出入り口と繋がっているという趣向です。
ただ、村上さんのこれまでの作品とも共通する特徴として、
異空間に入ってもあまり大したことは起こらず、
今回はそのイメージもかなり平凡な上に、
数日間行方不明だった少女が出て来るだけのことなので、
読んでいても脱力してしまうのです。

まあ、これまでの村上作品のエッセンスが、
色々な意味で詰まった作品であることは確かで、
その意味でとても懐かしい作品ではあるのですが、
かなり劣化して総登場するという具合になると、
かつてのファンの1人としては、
何か空しく切ない思いにとらわれてしまうのです。

毎回村上作品を読まれているファンのみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

SSRIによる先天性心疾患のリスクと遺伝子型との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SSRIと胎児奇形.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
妊娠中とその前後のSSRIの使用により、
上昇する心血管疾患のリスクが、
母体と胎児の代謝系の遺伝子変異により、
どの程度変化するのかを検証した論文です。

SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)は、
現在最も広く使用されている抗うつ剤です。

その安全性を検証する上で常に問題となることの1つは、
その妊娠中の使用における安全性です。

これまでに一部のSSRIについて、
妊娠初期における心奇形の増加と、
妊娠後期の使用により、
新生児遅延性肺高血圧症と、
新生児禁断症候群という病態が、
出産直後に生じる可能性がある、
ということが指摘されていました。

以前ご紹介したことがある、
2015年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの10カ所の医療センターのデータを活用して、
17652名の先天性の疾患を持って生まれたお子さんを、
9857名の障碍のないお子さんと比較して、
先天性の障碍と妊娠初期(3か月以内)のSSRIの使用との、
関連性を検証しています。

SSRIについては、
シタロプラム(日本未発売)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)、
フルオキセチン(日本未発売)、パロキセチン(商品名パキシル)、
そしてセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)が対象となっています。

そのベイジアン解析の結果として、
個別のSSRIと個別の胎児奇形との間で関連が認められたのは、
パロキセチンと5種類の先天性疾患との関連、
及びフルオキセチンと2種類の先天性疾患との関連のみでした。

具体的には、
パロキセチンについては、
無脳症のリスクが2.5倍、心房中核欠損のリスクが1.8倍、
右室流出路狭窄のリスクが2.4倍、
腸壁破裂リスクが2.5倍、臍帯ヘルニアのリスクが3.5倍、
それぞれ有意に増加している、
という結果でした。

フルオキセチンについては、
右室流出路狭窄のリスクが2.0倍、
頭蓋骨癒合のリスクが1.9倍と、
それぞれ有意に増加していました。

それ以外の抗うつ剤と個々の胎児奇形との間には、
明確な相関は認められませんでした。

ただ、これは必ずしも他の抗うつ剤が安全ということではなく、
使用頻度などによる影響が大きいと、
考えておいた方が良いと思います。

さて、次に問題となるのは、
お母さんやお子さんの体質的な要素が、
このSSRIによる心疾患の発症に関連しているのではないか、
ということです。

先天性心疾患と関連のある代謝異常としては、
葉酸関連の異常がよく知られています。

葉酸はビタミンBの一種で、
その名の通り、
野菜などの葉っぱに多く含まれている栄養素です。

この葉酸は補酵素と呼ばれ、
遺伝子の構成成分である、
核酸をつくる酵素の働きを助ける役目があります。

つまり、単純化して言えば、
葉酸が不足すると、
細胞分裂がスムースに行なわれなくなるのです。

特に女性の妊娠中は、
胎児の細胞分裂のために、
多くの葉酸が必要となるので、
妊娠中には通常より多くの葉酸が必要となります。

妊娠の初期に葉酸が不足すると、
神経管の閉鎖という現象が妨げられ、
先天奇形の増加することが知られています。
このために、アメリカでは1998年、
FDAの指示により、
全ての強化穀物に、
葉酸の添加が義務付けられました。

日本ではこうした措置が取られてはいないので、
葉酸の欠乏が生じ易いのではないか、
というのが1つの問題点として、
指摘されるところです。

葉酸は必須アミノ酸であるメチオニンと、
ビタミンB12の代謝にそれぞれ関連があります。

メチオニンは代謝の過程で、
不安定な中間産物である、
ホモシステインを発生させます。
このホモシステインは身体を酸化させ、
血管の細胞や神経の細胞に対する毒性を持つなど、
試験管の実験のレベルでは、
かなりの悪玉であり、
人間の病気や老化の大きな原因である、
動脈硬化や認知症の原因である神経細胞死にも、
深い関わりを持つとされています。

通常の身体の状態では、
ホモシステインはビタミンB12と葉酸との働きによって、
無害な物質に変化します。

ところが、葉酸やビタミンB12が足りないと、
ホモシステインの蓄積が起こるのです。

今回の研究においては、
葉酸の代謝に関連のある遺伝子多型と、
ホモシステインの代謝に関連のある遺伝子多型、
そしてトランススルフレーション経路といって、
ホモシステインをシステインに変換する過程に関連のある遺伝子多型を、
1180名の先天性の心疾患を持つ新生児と、
1644名の心疾患のない新生児、
そしてその母親で検査して、
SSRIの使用とお子さんの心疾患の発症とが、
遺伝子のタイプによりどのような影響を受けるのかを検証しています。

その結果、
葉酸やホモシステイン、
トランススルフレーション経路に関わる遺伝子多型により、
SSRI使用時の先天性心疾患の発症リスクが、
2から7倍程度増加することが確認されました。
このリスクの増加は母親ばかりでなく、
新生児の遺伝子多型によっても認められました。

つまり、SSRI使用時に生じる胎児の先天性心疾患のリスク増加は、
SSRIが葉酸などの代謝経路の異常を、
後押しするような形で生じている可能性が高い、
という結果です。

こうした知見を活用することにより、
SSRIのリスクが高い患者さんを振り分けたり、
そのリスクに応じて薬の適応を選択したり、
一定の予防策を講じられる可能性が生まれたことは、
意義のあることではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


肺炎と心不全との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心不全と肺炎との関連.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
肺炎と心不全との関連についての論文です。

肺炎というのは、
細菌やウイルスによる肺胞の炎症で、
感染症の1つですが、
日本人の死亡原因の第3位を占めていて、
特に高齢者では重症化のリスクが高いと考えられています。

肺炎は基本的には急性の病気で、
治れば特に後遺症を残すようなことは少ないと考えられます。

しかしその一方で、
1回肺炎になった人は、
その後他の病気に罹ったりする可能性が、
長期に渡って高い、
という疫学データが複数存在しています。

中でも関連が深いと思われるのが心不全です。

高齢者では肺炎をきっかけとして、
心不全が悪化するようなケースが多く報告されています。
心臓と肺とは一体として結び付いている臓器ですから、
これは当然とも言えるのですが、
その影響が数年間というような長期に渡り持続した、
というような報告もあり、
肺炎と心不全との関係は、
単純にそれだけのものでもなさそうです。

今回の研究はカナダにおいて、
複数の医療機関で心不全の既往のない肺炎の患者4988例を登録し、
年齢や性別などをマッチさせたコントロール23060例と比較して、
中央値で9.9年という長期の経過観察を行っています。

すると、
心不全の発症率は肺炎群では全体の11.9%に当たる592例に対して、
肺炎を起こしていないコントロール群では、
全体の7.4%に当たる1712例で、
肺炎を起こすとその後の心不全の発症率は、
起こしていない場合の1.61倍と有意に高くなっていました。
(95%CI;1.44から1.81)

この肺炎後の心不全の増加は、
肺炎罹患後90日でも1年以内でも高く、
10年近い観察期間を通して持続的に高くなっていました。

年齢が65歳以下においても、
肺炎後の心不全のリスクは1.98倍と有意に増加していて
(95%CI;1.55から2.53)、
65歳以上と比較すると、
勿論発症率自体は低いのですが、
その相対的なリスクの増加は、
むしろ65歳以下の方が高くなっていました。

つまり、年齢に関わらず
肺炎に罹患した後は長期に渡り、
心不全のリスクが高くなる可能性があります。

そのメカニズムは不明ですが、
肺炎後は心不全のリスクとなるような生活習慣を避け、
定期的な健康チェックを行うことが、
現状では健康を守るために、
重要なことだと言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


低尿酸値症の腎障害リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
低尿酸値症と急性腎障害との関係.jpg
2016年のClin Exp Nephrol誌の論文ですが、
高知医科大学において、
入院患者の急性腎障害の発症と、
尿酸値との関連を検証したものです。

今年日本痛風・核酸代謝学会は、
腎性低尿酸血症の診療ガイドラインを発表する予定で、
その概要が公表されています。

要するに低尿酸血症のガイドラインです。

尿酸が高いと足の指の付け根が腫れて痛む、
痛風発作が起こりやすくなることは皆さんも良くご存じだと思います。

そのために、
尿酸の数値が高いと食事のプリン体を減らすように、
食事は注意を受けますし、
尿酸を下げる薬も処方されます。

その一方で尿酸が低くて良くない、
というような話はあまり聞きません。

それでは、尿酸が低いと一体どのような問題があるのでしょうか?

上記文献で取り上げられているのは、
急性の腎機能障害です。

尿酸が高いことも腎障害や心血管疾患のリスクになりますが、
その一方で尿酸が低いことも急性の腎障害のリスクになると報告されています。

体質的な低尿酸血症のある人で、
運動をした後に急性腎不全になることがあり、
運動後急性腎不全などと言われています。

それでは具体的にどのくらいの尿酸値が、
急性の腎障害のリスクになるのでしょうか?

上記文献は高知医科大学において、
64506名の入院患者のデータを解析し、
入院中の急性腎障害の発症と、
尿酸値との関連を検証しています。
このうち10382名に急性腎障害が発症しています。
かなりの高率です。
そのうち最終的には尿酸降下剤が使用されていた患者さんや、
腎障害発症前30日以内の尿酸値が測定されていない事例などを除外して、
最終的には腎障害を起こした7491名と、
腎障害を起こさなかった51728名が比較されています。

その結果はこちらをご覧ください。
尿酸値と急性腎障害.jpg
縦軸が入院中の急性腎障害の発症リスクで、
横軸が尿酸値、青が男性で、赤が女性のデータを示しています。

尿酸値が7mg/dLを超えると、
確かに急性腎障害のリスクは増加していますが、
2㎎/dL未満という低尿酸値症においても、
高尿酸値症をしのぐような、
急性腎障害のリスク増加が認められています。

この2㎎/dL以下というのは、
間違いなく体質的な尿酸の低下を示すもので、
今年発表される予定のガイドラインにおいても、
この数値が基準になるようです。

低尿酸値症で何故腎障害のリスクが高まるのかについては、
尿酸の過剰排泄による尿細管障害など、
推測はありますが、
まだ確定した知見はないようです。

尿酸値は高いことも低いことも腎障害のリスクになり、
尿酸値の異常のある方では、
消炎鎮痛剤の使用や脱水は、
その発症の危険性を増すということは、
情報として知っていて損はないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


虫垂切除と消化管の癌のリスクとの関連について [医療のトピック]

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
虫垂切除とそのリスク.jpg
2016年のPLOS ONE誌に掲載された、
盲腸の手術とその後の消化管の癌の発生との関連についての論文です。

虫垂というのは、
大腸から部分的に突出した尻尾のようにも見える構造で、
それを含む周辺の腸の部分を盲腸と呼んでいます。
その部分は行き止まりの袋のようになっているので、
細菌による炎症を起こしやすく、
それを放置すると腸が穿孔し、
腹膜炎を来すなどして生死にかかわる事態となることもあります。

これが急性虫垂炎です。
一般には「盲腸」とだけ表現されることが多いと思います。

急性虫垂炎の治療は軽症であれば抗生物質を使用し、
進行性で穿孔などの危険性があれば、
手術で虫垂の切除を行うのが一般的です。

歴史的に言うと1970年代から80年代くらいまでは、
抗生物質を使用するより、
手術による治療を優先することが一般的でした。
その後合併症のリスクの低い事例であれば、
抗生物質の使用と手術との間で、
予後に違いがないとするデータが複数報告され、
虫垂切除術を行うケースは減少するようになりました。
これは世界的な傾向と考えられます。

虫垂切除術が第一選択であった頃には、
虫垂はあっても無用の長物である、
という考え方があり、
そのため患者さんの希望によっては、
別個の外科的治療の時などに、
正常の虫垂を切除することも、
しばしば行われていました。

確かに本当に虫垂が身体で何の役割も果たしてはおらず、
それがある限り急性虫垂炎のリスクがあるとすれば、
それを取ってしまえば安全、
という考え方は成立します。

しかし、それは本当に正しい考え方でしょうか?

2000年代になり虫垂には腸内細菌を保持するような作用があり、
それを切除することにより腸内細菌叢が変化するのではないか、
という考え方が報告されるようになりました。

そこで問題となる人体への悪影響として想定されるのは、
胃癌や大腸癌などの腸内細菌の変化との関連が想定される癌の増加です。

それでは、実際に虫垂の切除を行うと、
そうした癌の危険性は増すのでしょうか?

1965年から1993年のスウェーデンの統計を元にした研究では、
虫垂切除後に胃癌リスクは増加するが大腸癌リスクは減少した、
という結果が報告されています。
ただ、このデータは未成年の虫垂切除のみを対象としていて、
年齢も48歳までしか観察していない、
と言う点で癌のリスクの検証としては問題があります。

デンマークの1998年の報告では、
矢張り急性虫垂炎後に胃癌のリスクが増加していましたが、
大腸癌のリスクの増加は認められませんでした。

2015 年には台湾での研究が論文になっていて、
こちらは胃癌のリスクには差はなかった一方で、
大腸癌のリスクは虫垂切除群で14%有意に増加した、
という結果になっています。

このように報告により虫垂切除の影響はかなりまちまちで、
そこには地域差もある可能性があり、
また対象としている年齢や観察期間の違いによる影響もまた考えられます。

今回の研究は国民総背番号制を取るスウェーデンにおいて、
48万人を超える虫垂切除術施行者の医療データを解析して、
その後の消化管の癌の発症率と、
平均的な罹患率との差を検証しているものです。

きちんとしたコントロールがないのが弱いのですが、
例数はこれまででも最も大規模なものですし、
年齢も若年から高齢者まで幅広く、
観察期間も3割は25年以上と長く取られています。

その結果は胃癌や大腸癌のリスクについては、
虫垂切除による上昇は有意には認められず、
唯一食道の腺癌に限り、
虫垂切除により1.32倍(95%CI;1.09から1.58)と、
有意な増加が認められました。
ただ、この増加も虫垂炎による虫垂切除のみで解析すると、
有意差は消えていて、
それほど明確なリスクの増加とは、
言えない性質のものだと思います。

このように虫垂切除が、
その後の消化器癌の発症に、
影響を与える可能性はないとは言えないのですが、
かなり大規模な疫学データで比較をしても、
あまり一定の傾向は得られておらず、
現時点で神経質になり過ぎる必要は、
ないように思います。

ただ、以前と比べて虫垂切除の件数自体が、
世界的に減少していることは事実で、
勿論必要な場合には速やかに外科的治療は行われるべきですが、
以前のように「無用の長物で取った方が安心」というような考え方が、
適切でないことも事実であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


妊娠中の甲状腺ホルモン補充療法の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中の甲状腺ホルモン補充療法の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
妊娠中の甲状腺機能低下症(潜在性を含む)に対して、
甲状腺ホルモン補充療法を行った場合の、
お子さんへの影響についての論文です。

この問題については、
これまでにも何度も取り上げています。

橋本病などの原因による、
甲状腺が原因での甲状腺機能低下症では。
血液の甲状腺ホルモンの数値は低下し、
下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値は上昇します。

ここでTSHは高めではあるけれど、
甲状腺ホルモンは正常範囲であるものを、
潜在性甲状腺機能低下症と呼んでいます。
一方でTSHは正常範囲で、
甲状腺ホルモンであるT4のみがやや低いこともあり、
これを低サイロキシン血症と呼んでいます。

一般的に正常と言われるTSHの数値は4を超えないレベルで、
確実に治療が必要になるのは、
通常は10を超えるくらいのレベルです。

ただ、その例外として考えられているのが、
妊娠中の場合です。

妊娠の初期には胎盤からのホルモン(hCG)の働きにより、
甲状腺が刺激されて甲状腺ホルモンの数値は、
正常よりやや高くなり、
それに伴ってTSHは通常より少し抑制されます。
胎児の甲状腺が機能し始めるのは、
妊娠16から20週の間と言われていますから、
それ以前の時期において、
胎児の甲状腺機能の維持には、
母体の甲状腺ホルモンが充分あることが、
重要であると考えられるのです。

母体の甲状腺ホルモンとの関連で問題になるのは、
主に流早産のリスクとお子さんの脳の発達の異常です。

2010年のJ Clin Endocrinol Metab.誌に掲載された、
妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症に対する、
T4製剤による介入試験の報告によると、
橋本病の自己抗体である抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の場合に限って、
TSHが2.5以上である場合にホルモン剤を使用すると、
流早産などのリスクが有意に抑制されていました。

2017年のEur J Endocrinol誌に掲載された新しい介入試験でも、
ほぼ同様の結果が確認されています。

こうした知見があるため、
現行のアメリカ甲状腺学会のガイドラインにおいては、
抗ペルオキシダーゼ抗体が陽性の場合には、
妊娠中のTSHの数値を2.5未満とすることが推奨されています。

しかし、この2つの介入試験では、
お子さんの出産後の脳の発達については、
検証をされていません。

これはブログでも以前ご紹介していますが、
2012年のNew England…誌に、
妊娠12週の時点で潜在性甲状腺機能低下症の有無を診断し、
T4製剤を150μg使用して、
生後3.5歳の時点でIQなどを測定した論文が掲載されました。

そこでは、生後3.5歳の時点でのIQには、
治療の有無で有意な差は認められない、
という結果になっています。

つまり、お子さんの脳の発達を正常にする目的で、
妊娠中に甲状腺ホルモン剤を使用することは、
意味がないのではないか、ということを示唆する結果です。

ただ、この研究では13週以降でホルモン剤が開始されていて、
胎児の甲状腺の発達から考えれば、
それでは遅すぎる可能性がある上に、
ホルモン剤も150μgというかなり多い量が、
調節なく使用されている点にも問題があります。

それ以外に今年のBritish Medical Journal誌には、
潜在性甲状腺機能低下症において妊娠中に、
ホルモン剤を使用しているケースとしていないケースの比較として、
流産には予防効果があったけれど、
早産や妊娠糖尿病、子癇前症については、
むしろホルモン剤使用群で多い傾向があった、
という結果が報告されています。
ただ、これは介入試験ではなく、
橋本病の自己抗体の有無なども検証されていません。

このように、
妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症に対して、
どのような対象者にどのようなタイミングで、
どのくらいの量の甲状腺ホルモン剤を使用することが、
最も妊娠の経過やお子さんの経過にとって有益なのか、
と言う点については、
まだ未解決の点が多いのが実状なのです。

今回の研究は、
TSHがやや高めで甲状腺ホルモンは正常な潜在性甲状腺機能低下症と、
TSHは正常で甲状腺ホルモン(T4)濃度が低めの低サイロキシン血症を、
妊娠20週未満の時期において採血により診断し、
診断された時点からTSHおよびT4濃度を正常化することを目標に、
T4製剤の使用を行って、
妊娠の経過とお子さんの5歳までのIQを含む脳の発達との関連を、
検証しているものです。

潜在性甲状腺機能低下症が677例、
低サイロキシン血症が526例登録され、
それぞれ妊娠した本人にも実施者にも分からないように、
クジ引きで2群に分け、
一方は甲状腺ホルモン製剤を使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
これまでで最も厳密な検証を行っています。

その結果…

潜在性甲状腺機能低下症と低サイロキシン血症、
いずれの検証においても、
甲状腺ホルモン製剤を使用した場合と使用しない場合との間で、
生後5歳までの脳の発達に明らかな違いは認められませんでした。

抗ペルオキシダーゼ抗体の有無もこの結果には影響を与えず、
妊娠の転帰についても差は認められませんでした。
その一方で甲状腺ホルモン製剤を使用することによる悪影響も、
明確なものは認められませんでした。

今回の結果は、
少なくともお子さんの脳の発達の観点からは、
潜在性甲状腺機能低下症や低サイロキシン血症の、
妊娠中のホルモン補充療法は、
必要ないというものになっています。

これまでのデータを統合して考えると、
潜在性甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモンの補充効果は、
橋本病の患者さんにおける、
妊娠早期の流産の予防に限って、
その適応を考慮するべき性質のもののようです。

今回の研究は妊娠17週くらいからホルモン剤の使用を開始していて、
流産の予防にはそれでは遅すぎる可能性が高いからです。
勿論妊娠前に甲状腺ホルモン剤の補充療法をされていた方は、
量の微調整は必要な場合はありますが、
基本的にはそのまま内服して妊娠を継続することで、
何ら問題はないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


「ナイスガイズ!」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ナイスガイズ!.jpg
1977年のロスを舞台に、
ラッセル・クロウとライアン・ゴズリングが私立探偵を演じて、
コミカルな大活躍を見せた映画です。

これはとても胸がすくような映画で、
ちょっとふざけすぎかな、とは思うのですが、
今年観た外国映画の中では、
最も楽しめた作品かも知れません。

同じライアン・ゴズリングの主演作としては、
「ラ・ラ・ランド」の2倍くらい楽しめました。

わざわざ1970年代のスモッグに覆われたロスを舞台にしていて、
日本でも70年代や80年代を舞台にした刑事ものはありますが、
日本の作品がどう見ても現代に撮ったとしか見えないのに対して、
この作品はその映像の肌触りといい、
物語の組み立て方からキャラの設定、
そして演じている役者さんの雰囲気から演出まで、
見事なまでに1977年を再現していて、
その時代に作られた私立探偵アクションのようにしか、
見えない、と言う点がともかく見事です。

懐古趣味と言えば懐古趣味なのですが、
後ろ向きの感じは全くなくて、
あの頃のアメリカの恰好良さを、
同時代的にそのまま表現しているのが良いのです。

現代を舞台にして同じような物語を紡いでも、
こんなに楽しくは絶対になりません。

台本もなかなかに凝っていて、
たとえばオープニングでポルノ女優が死ぬのですが、
その叔母さんが死んだ2日後に彼女を見た、
と言って探偵に調査を依頼するのです。
甦るようなシチュエーションでは全くないので、
あれっ?と思っていると、
それが後半で綺麗に伏線になっています。
上手いなあ、と思いました。

10万ドルを運んで欲しいと頼まれて、
ライアン・ゴズリングが愛車のハンドルを握るのですが、
ラッセル・クロウが、
「今は自動運転も出来るんだぜ、ちょっと手を放してごらん」
みたいなおかしなことを言うのです。
確かに手を放しても、
自動的にハンドルが動いています。
不思議だなと思って後ろを向くと、
何と人間と同じ大きさの蜂が後ろに座っています。
こんな馬鹿なと思うと、オチが付くのですが、
それが10万ドルの正体に繋がってゆきます。
全てが有機的に結合していて、
無駄というものがまるでありません。
遊びだらけに見えて、緻密という、
良く出来たシナリオのお手本のようです。

映像も凝っていて、
オープニングで車の事故が起こるところは、
事故に遭遇する家の子供が夜に起きて来て、
キッチンでミルクを飲もうとすると、
キッチンの窓から見える遠くの景色の中で、
今まさに崖から落ちる車が映り込むのです。
と思う間もなく、
その家の壁を突き破って車が突入して来ます。
ちょっとした場面なのに、
贅沢で手の込んだことをしていると感心します。

音楽は鉄板のかつてのヒット曲が目白押しで、
EW&Fの「セフテンバー」もありますし、
アメリカの「名前のない馬」もあります。
僕にはドンぴしゃりです。

キャストもラッセル・クロウとライアン・ゴズリングの共演が、
期待を超えるような素晴らしさで、
2人の掛け合いを見ているだけで、
ウキウキするような気分になります。
練り上げられたギャグの応酬が、
また楽しいのです。

そんな訳で、
基本的には70年代のパロディアクション映画なのですが、
とてもとても贅沢にかつ丁寧に作られていて、
アメリカ娯楽映画の底力を感じさせるような快作でした。

70年代や80年代のアメリカアクション映画の好きな人には、
絶対のお薦め品です。
とても楽しいですよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

第18回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は告知です。
それがこちら。
18回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
3月18日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

テーマは今回は「睡眠とその科学」です。

人間は人生の3分の1は眠っている訳で、
全ての病気と眠りとは、
密接な関係があることは間違いがありません。

眠りと健康との関連について、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。
睡眠薬の功罪や新しい睡眠障害の治療薬の話、
最近炎上した「ガッテン」の糖尿病と睡眠の話なども、
織り交ぜて検証したいと思います。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
2月16日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


テストステロン治療の冠動脈プラークへの影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
テストステロンと冠動脈プラーク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
男性ホルモンのテストステロンを、
男性更年期を思わせる症状のある高齢男性に、
使用した時の心臓血管への影響についての論文です。

昨日は貧血への効果についての論文をご紹介しましたが、
それと一連のもので、
同じ集団に対して、
全部で7種類の介入試験を行っているもののようです。
そのそれぞれが別個の論文として発表されています。

男性ホルモンであるテストステロンと、
心筋梗塞などの心血管疾患との関連については、
相反する研究結果があって、
まだ一定の結論に至っていません。

テストステロンが低値であると、
メタボや心血管疾患の予後が悪化する、
という観察研究のデータがあります。
これからすると、テストステロンが低値の高齢者に対しては、
その補充を行うことで心血管疾患の予後改善に結び付く、
という可能性が想定されます。

しかし、実際に施行されたテストステロン補充療法の臨床試験においては、
有効性が示されなかった、と言うものが多く、
中には心血管疾患のリスクが増加した、
というものもあります。

しかし、それではテストステロンが低値の高齢者に、
補充療法を行うことでどのような心臓への悪影響があるのか、
というような具体的な点については、
殆ど明らかにはなっていません。

そこで今回の研究では、
アメリカの9か所の専門施設において、
年齢が65歳以上の男性で、
朝2回採血した血液のテストステロン値の平均が、
275ng/dLより低く、
性欲低下や体力や意欲の低下など、
男性更年期を疑わせるような症状のある170名を、
クジ引きで2つのグループに分け、
対象者にも実施者にも分からないように、
一方はテストステロンの外用剤を毎日使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
1年間の治療を行ない、
その前後で冠動脈CTにより、
冠動脈の動脈硬化を石灰化とプラークの容積で評価しています。

使用されている外用剤は、
1%の濃度のテストステロンのゲルで、
1日に5グラムを使用し、
定期的に血液検査を行って、
実薬群ではテストステロン濃度が、
若者の基準値である、
280から873ng/dLになるように調整します。

その結果…

石灰化していないプラークの容積の変化は、
テストステロン使用群で有意に大きくなっていました。
石灰化を含むトータルなプラークの容積も、
同様にテストステロン使用群の方が増加していましたが、
石灰化部分の容積については、
有意な差は生じていませんでした。
1年という短期間なので、
その間の心筋梗塞などの発症には、
両群で差は見られていません。

このように、
若干ではあるものの、
冠動脈の動脈硬化をテストステロンの使用は進める可能性があり、
このリスクは補充療法を行う際には、
常に考慮する必要がありそうです。

同じ紙面にもう1つ掲載されたテストステロン関連の論文では、
認知機能へのテストステロンの効果が検証されていて、
1年の使用においては、
明確な差は認められない、
という結果になっていました。

テストステロン濃度が低値の高齢者への、
その補充療法の有効性とリスクについては、
今回の一連のデータの解析などを踏まえて、
より的確な指針が作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本