「逃奔政走-嘘つきは政治家のはじまり?-」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
この作品は上演されてから、
少し時間が経っているのですが、
覚書的にご紹介させて頂きます。
シチュエーションコメディを一貫して小劇場で上演し続けている、
アガリスクエンターテイメントの富阪友さんが、
作・演出を勤め、
鈴木保奈美さんが主演したコメディで、
鈴木さんは女性の県知事役、
配下の副知事に相島一之さん、
若手政治家役に寺西拓人さん、
悪徳政治家役に佐藤B作さんというのがメインキャストで、
それ以外のキャストは、
ほぼほぼアガリスクのメンバーが勤めているという布陣です。
アガリスクエンターテイメントは、
最近はあまり観ていませんが、
2015年の「紅白旗合戦」の初演で感銘を受けて、
それからしばらく新作が上演される度に足を運んでいました。
特に印象的だったのは、
三谷幸喜さんの「笑いの大学」を、
尊敬はしつつ笑いのめした「笑いの太字」という怪作で、
これはちょっと仰天しました。
その後もシチュエーションコメディに拘りながら、
ナチスドイツや大本営など、
本来笑うべきではない素材を、
かなりの力業でコメディにするという作品を発表し、
「こんなことをして大丈夫なのかしら」と少し不安には感じつつ、
新作を楽しみに出かけていました。
良いコメディ作家は必ず世に出るもので、
今回鈴木保奈美さん主演の舞台を、
新作で任されるというニュースを見た時には、
これは行かなくてはと思い、
富阪さんがどのような進歩を遂げたのか、
大きな期待を持って劇場に足を運びました。
内容は鈴木保奈美さん演じる、
市民運動出身の政治家が、
政治の刷新を訴えて、県知事選に立候補し、
見事に当選するところから始まるのですが、
自分の実現したい政策とのバーターで、
悪徳政治家と公共事業を巡る取引をしてしまう、
というところから、
次々と不正に手を染めてしまい、
それを若手議員から追求されて、
その火消しに躍起になる様を、
シチュエーションコメディの手法で描いているものです。
これね、通常の作劇であれば、
主人公は本当に止むを得ず不正に加担してしまった、
ということが、
観客に納得できるような内容にしますよね。
でも、富阪さんはそうではなくて、
主人公はかなり軽い気持ちで、
「まあいいか」みたいな感じで不正に手を染めるのですね。
確かに現実はそうだと思うのですが、
簡単に不正に手を染めるような人格を、
主役に据えて観客に共感させようというのは、
かなり難しい作業で、
正直なところ今回の作品で、
それに成功していたとは思えませんでした。
誰でも心の中に持っている小市民的なせこい「悪」を、
そのまま受け入れて、
それ自体を笑ってしまおう、というのが、
富阪さんのコメディのコンセプトで、
それはそれで面白いと思うのですが、
今の世の中はそうしたせこい「悪」を、
全て抉り出して糾弾し集団リンチにしよう、
という風潮ですから、
皆自分の心の中の悪を隠すことに必死で、
それを受け入れて笑おう、
というような気持ちにはなれないのですね。
結果としてこの作品のラストは、
悪事を告白して辞職した主人公が、
観客に向かって、
心の中の悪に向き合え、みたいな、
演説をするという趣向になるのですが、
これは小市民的「悪」を受け入れて笑うという当初のテーマとは、
かなり真逆に近い展開で、
おそらくこうせざるを得なかったのだろうな、
という推測は付くのですが、
富坂さんが最初に想定していたような展開とは、
かなり違ってしまったのではないかと、
個人的には思って観ていました。
政治をテーマにしたコメディを作ることは、
現代では至難の作業であるようです。
そんな訳で富坂さんの資質が、
十全に活きた作品にはなっていなかったことは、
残念ではあったのですが、
今後も富阪さんの日の当たる舞台での活躍は、
間違いなく続くことになると思うので、
今後の作品を楽しみに待ちたいと思います。
いつの日か、
従順に飼いならされた観客が、
度肝を抜かれるような怪作が、
一般の劇場で堂々と上演されることを期待します。
頑張って下さい。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
この作品は上演されてから、
少し時間が経っているのですが、
覚書的にご紹介させて頂きます。
シチュエーションコメディを一貫して小劇場で上演し続けている、
アガリスクエンターテイメントの富阪友さんが、
作・演出を勤め、
鈴木保奈美さんが主演したコメディで、
鈴木さんは女性の県知事役、
配下の副知事に相島一之さん、
若手政治家役に寺西拓人さん、
悪徳政治家役に佐藤B作さんというのがメインキャストで、
それ以外のキャストは、
ほぼほぼアガリスクのメンバーが勤めているという布陣です。
アガリスクエンターテイメントは、
最近はあまり観ていませんが、
2015年の「紅白旗合戦」の初演で感銘を受けて、
それからしばらく新作が上演される度に足を運んでいました。
特に印象的だったのは、
三谷幸喜さんの「笑いの大学」を、
尊敬はしつつ笑いのめした「笑いの太字」という怪作で、
これはちょっと仰天しました。
その後もシチュエーションコメディに拘りながら、
ナチスドイツや大本営など、
本来笑うべきではない素材を、
かなりの力業でコメディにするという作品を発表し、
「こんなことをして大丈夫なのかしら」と少し不安には感じつつ、
新作を楽しみに出かけていました。
良いコメディ作家は必ず世に出るもので、
今回鈴木保奈美さん主演の舞台を、
新作で任されるというニュースを見た時には、
これは行かなくてはと思い、
富阪さんがどのような進歩を遂げたのか、
大きな期待を持って劇場に足を運びました。
内容は鈴木保奈美さん演じる、
市民運動出身の政治家が、
政治の刷新を訴えて、県知事選に立候補し、
見事に当選するところから始まるのですが、
自分の実現したい政策とのバーターで、
悪徳政治家と公共事業を巡る取引をしてしまう、
というところから、
次々と不正に手を染めてしまい、
それを若手議員から追求されて、
その火消しに躍起になる様を、
シチュエーションコメディの手法で描いているものです。
これね、通常の作劇であれば、
主人公は本当に止むを得ず不正に加担してしまった、
ということが、
観客に納得できるような内容にしますよね。
でも、富阪さんはそうではなくて、
主人公はかなり軽い気持ちで、
「まあいいか」みたいな感じで不正に手を染めるのですね。
確かに現実はそうだと思うのですが、
簡単に不正に手を染めるような人格を、
主役に据えて観客に共感させようというのは、
かなり難しい作業で、
正直なところ今回の作品で、
それに成功していたとは思えませんでした。
誰でも心の中に持っている小市民的なせこい「悪」を、
そのまま受け入れて、
それ自体を笑ってしまおう、というのが、
富阪さんのコメディのコンセプトで、
それはそれで面白いと思うのですが、
今の世の中はそうしたせこい「悪」を、
全て抉り出して糾弾し集団リンチにしよう、
という風潮ですから、
皆自分の心の中の悪を隠すことに必死で、
それを受け入れて笑おう、
というような気持ちにはなれないのですね。
結果としてこの作品のラストは、
悪事を告白して辞職した主人公が、
観客に向かって、
心の中の悪に向き合え、みたいな、
演説をするという趣向になるのですが、
これは小市民的「悪」を受け入れて笑うという当初のテーマとは、
かなり真逆に近い展開で、
おそらくこうせざるを得なかったのだろうな、
という推測は付くのですが、
富坂さんが最初に想定していたような展開とは、
かなり違ってしまったのではないかと、
個人的には思って観ていました。
政治をテーマにしたコメディを作ることは、
現代では至難の作業であるようです。
そんな訳で富坂さんの資質が、
十全に活きた作品にはなっていなかったことは、
残念ではあったのですが、
今後も富阪さんの日の当たる舞台での活躍は、
間違いなく続くことになると思うので、
今後の作品を楽しみに待ちたいと思います。
いつの日か、
従順に飼いならされた観客が、
度肝を抜かれるような怪作が、
一般の劇場で堂々と上演されることを期待します。
頑張って下さい。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2024-08-25 12:41
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