ベンゾジアゼピンと認知症リスク(2024年オランダの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMC Medicine誌に、
2024年7月2日付で掲載された、
ベンゾジアゼピンと認知症との関連についての論文です。
ベンゾジアゼピンは、
商品名では抗不安薬のセルシン、
デパス、ソラナックス、ワイパックス、レキソタン、
睡眠導入剤の、
ハルシオン、レンドルミン、サイレース、
ユーロジンなどがこれに当たり、
その即効性と確実な効果から、
非常に幅広く使用されている薬剤です。
その効果はGABAという、
鎮静系の神経伝達物質の受容体に似た、
ベンゾジアゼピンの受容体に、
薬剤が結合することによってもたらされ、
不安障害の症状を軽減する作用と、
眠りに入るまでの時間を短縮する作用については、
精度の高い臨床試験により、
その効果が確認されています。
その発売以前に、
同様の目的に使用されていた薬剤と比較すると、
ベンゾジアゼピンは副作用も少なく、
使い易い薬であったため、
またたく間に世界中に広がりました。
特にストレスの強い先進国において、
ベンゾジアゼピンの使用頻度は高まりました。
ところが…
ベンゾジアゼピンの問題点が、
近年クローズアップされるようになりました。
このタイプの薬には常用性と依存性があり、
特に長く使用していると止めることが困難で、
次第にその使用量は増えがちになりますし、
急に薬を中断すると、
強い離脱症状が起こることがあります。
一方でこの薬の持つ鎮静作用は、
高齢者においては、
認知機能や運動機能の低下をもたらし、
認知症のリスクを高めたり、
生命予後を悪化させたり、
特に転倒や骨折のリスクを増加させる、
という複数の疫学データが存在しています。
こうした知見がある一方で、
ベンゾジアゼピンの処方自体は、
特に先進国においては減ってはいません。
上記文献の記載によれば、
ヨーロッパの成人人口のおよそ1割はこのタイプの薬の使用歴があり、
65歳以上に限ると3割に達するとされています。
その使用は原則は数週間以内に限る、
というのが国内外のガイドラインの記載ですが、
実際には長期連用がしばしば行われています。
これだけ長期連用の弊害が強調されているベンゾジアゼピンですが、
その一方でそこまでのリスクはないのではないか、
というような意見もあります。
たとえば2017年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アメリカの医療保険データを元にした解析では、
以前指摘されていたほどその生命予後に与える影響は大きくはなく、
65歳以上ではむしろ死亡リスクは低下していた、
という知見が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28684397/
高齢者がベンゾジアゼピンを使用した場合の問題の1つは、
認知症のリスクに与える影響です。
これについては、
臨床的データではリスク増加に繋がった、
とする知見が多いのですが、
その一方で動物実験においては、
神経保護的な作用もあり、
むしろ認知症予防的に働く可能性もある、
という知見もあります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36418599/
確かにベンゾジアゼピンの短期的な使用により、
急性には認知機能の低下が認められることはあるのですが、
それが長期的に認知症リスクの増加に結び付くかどうか、
という点にについては、
まだ明確には実証されていない事項なのです。
そこで今回の研究では、
オランダで施行された疫学研究のデータを活用して、
5443名の登録時点で認知症のない一般住民を対象として、
ベンゾジアゼピンの使用とその後の認知症リスクとの関連を、
比較検証しています。
その結果、
ベンゾジアゼピンの使用は、
認知症リスクに有意な影響を与えていませんでした。
ただ、同時に施行された脳MRIでの所見では、
ベンゾジアゼピンの使用者に、
認知機能に関連することが想定される、
海馬や扁桃体の部位の萎縮傾向が認められました。
従って、この問題はまだ検証途上であり、
勿論ベンゾジアゼピンの使用を最小限にすることは必要なのですが、
ベンゾジアゼピンの使用で明確な認知症リスクの増加が認められる、
という根拠は現時点ではないと、
そう考えて大きな問題はないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMC Medicine誌に、
2024年7月2日付で掲載された、
ベンゾジアゼピンと認知症との関連についての論文です。
ベンゾジアゼピンは、
商品名では抗不安薬のセルシン、
デパス、ソラナックス、ワイパックス、レキソタン、
睡眠導入剤の、
ハルシオン、レンドルミン、サイレース、
ユーロジンなどがこれに当たり、
その即効性と確実な効果から、
非常に幅広く使用されている薬剤です。
その効果はGABAという、
鎮静系の神経伝達物質の受容体に似た、
ベンゾジアゼピンの受容体に、
薬剤が結合することによってもたらされ、
不安障害の症状を軽減する作用と、
眠りに入るまでの時間を短縮する作用については、
精度の高い臨床試験により、
その効果が確認されています。
その発売以前に、
同様の目的に使用されていた薬剤と比較すると、
ベンゾジアゼピンは副作用も少なく、
使い易い薬であったため、
またたく間に世界中に広がりました。
特にストレスの強い先進国において、
ベンゾジアゼピンの使用頻度は高まりました。
ところが…
ベンゾジアゼピンの問題点が、
近年クローズアップされるようになりました。
このタイプの薬には常用性と依存性があり、
特に長く使用していると止めることが困難で、
次第にその使用量は増えがちになりますし、
急に薬を中断すると、
強い離脱症状が起こることがあります。
一方でこの薬の持つ鎮静作用は、
高齢者においては、
認知機能や運動機能の低下をもたらし、
認知症のリスクを高めたり、
生命予後を悪化させたり、
特に転倒や骨折のリスクを増加させる、
という複数の疫学データが存在しています。
こうした知見がある一方で、
ベンゾジアゼピンの処方自体は、
特に先進国においては減ってはいません。
上記文献の記載によれば、
ヨーロッパの成人人口のおよそ1割はこのタイプの薬の使用歴があり、
65歳以上に限ると3割に達するとされています。
その使用は原則は数週間以内に限る、
というのが国内外のガイドラインの記載ですが、
実際には長期連用がしばしば行われています。
これだけ長期連用の弊害が強調されているベンゾジアゼピンですが、
その一方でそこまでのリスクはないのではないか、
というような意見もあります。
たとえば2017年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アメリカの医療保険データを元にした解析では、
以前指摘されていたほどその生命予後に与える影響は大きくはなく、
65歳以上ではむしろ死亡リスクは低下していた、
という知見が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28684397/
高齢者がベンゾジアゼピンを使用した場合の問題の1つは、
認知症のリスクに与える影響です。
これについては、
臨床的データではリスク増加に繋がった、
とする知見が多いのですが、
その一方で動物実験においては、
神経保護的な作用もあり、
むしろ認知症予防的に働く可能性もある、
という知見もあります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36418599/
確かにベンゾジアゼピンの短期的な使用により、
急性には認知機能の低下が認められることはあるのですが、
それが長期的に認知症リスクの増加に結び付くかどうか、
という点にについては、
まだ明確には実証されていない事項なのです。
そこで今回の研究では、
オランダで施行された疫学研究のデータを活用して、
5443名の登録時点で認知症のない一般住民を対象として、
ベンゾジアゼピンの使用とその後の認知症リスクとの関連を、
比較検証しています。
その結果、
ベンゾジアゼピンの使用は、
認知症リスクに有意な影響を与えていませんでした。
ただ、同時に施行された脳MRIでの所見では、
ベンゾジアゼピンの使用者に、
認知機能に関連することが想定される、
海馬や扁桃体の部位の萎縮傾向が認められました。
従って、この問題はまだ検証途上であり、
勿論ベンゾジアゼピンの使用を最小限にすることは必要なのですが、
ベンゾジアゼピンの使用で明確な認知症リスクの増加が認められる、
という根拠は現時点ではないと、
そう考えて大きな問題はないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2024-08-05 08:37
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