「コスモス -山のあなたの空遠く-」(JIS企画 竹内銃一郎作・演出) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
竹内銃一郎さんと佐野史郎のユニット、JIS企画の、
20年ぶりの新作公演にして最終公演が、
今下北沢のスズナリで上演されています。
竹内銃一郎さんは、
1970年代の半ば頃から、
息の長い活動をされているベテランの劇作家です。
その作風は別役実さん風の前衛劇を、
つかこうへいさん風の演出を盛り込んで、
思い切って娯楽ミステリー風に再構成したもので、
そのドラマチックで意外性に富んだ展開は、
これぞ小劇場という醍醐味がありました。
特に1980年代の、
「あの大鴉さえも」と「戸惑いの午後の惨事」は、
この世にこんなに面白く衝撃的で感動的な芝居があるのかと、
高揚する気分で劇場を後にしたことを、
今でも鮮やかに覚えています。
これだけシンプルに面白いのに、
それでいてアングラ的で不条理で前衛でもあったのです。
ただ、その作風は1980年代後半には、
かなり変化を見せ、
「前衛劇のつか的情念に満ちた娯楽化」という路線は、
その後戻ることはありませんでした。
今回久しぶりに接した竹内さんのお芝居は、
1980年代のものとは勿論大きく違っていたのですが、
何と言うのか、
とても自然な「老境」のお芝居になっていて、
何かじんわりと心に滲み込むような、
良いお芝居であったと思います。
以下ネタバレがあります。
観劇予定の方は観劇後にお読みください。
オープニングから、
若い2人の女優さんが、
竹内さんが以前書いた男2人芝居「東京物語」の、
立ち稽古をしている、
という意表を付いた場面から始まります。
竹内さんの孫くらいの年齢の女優さんが、
わざわざ付け髭を付けて、
男の役の台詞を発していて、
それをベテランの佃典彦さんが見てダメ出しをするのですね。
ある意味自分の過去作の台詞を流用していて、
手抜きと言えば手抜きなのですが、
二重三重に捻った構造は、
さすが竹内さんという感じが最初からします。
舞台は佐野史郎さんが主人の時計店で、
そこに謎の男の佃さんが、
奇妙な依頼を持って来るところからも物語は始まるのですが、
佐野さんは昔小学生の少女を誘拐したという罪で、
刑務所に入っていたという過去があり、
その時の小学生が成長して20年ぶりに訪ねて来る、
という甘酸っぱい展開が待っています。
これ、ちょっと際どい、
少女への偏愛みたいなものが、
基調音としてはあるのですね。
でもそれがどうにかなる訳ではなく、
「何も出来ない年寄りの妄想なのでいいでしょ」
という感じなんですね。
秘めたる欲望を解放して、
それが満月に照らされて、
近付く死の恐怖と一体化するような、
老境の思いみたいなものに結び付くのです。
そこに演劇愛みたいなものが絡み合って、
独特の詩的な世界が形作られて行きます。
その竹内さんの思いを体現する、
老境に至りつつある、
佐野史郎さん、佃典彦さん、広岡由里子さんのトリオの、
円熟した芝居がまた素敵でした。
正直まだ、
もう少しとんがったお芝居の方がいいな、
という気分もあるのですが、
変に若ぶらない自然体のお芝居は、
一服の清涼剤という感じがありました。
こうしたものもいいですね。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
竹内銃一郎さんと佐野史郎のユニット、JIS企画の、
20年ぶりの新作公演にして最終公演が、
今下北沢のスズナリで上演されています。
竹内銃一郎さんは、
1970年代の半ば頃から、
息の長い活動をされているベテランの劇作家です。
その作風は別役実さん風の前衛劇を、
つかこうへいさん風の演出を盛り込んで、
思い切って娯楽ミステリー風に再構成したもので、
そのドラマチックで意外性に富んだ展開は、
これぞ小劇場という醍醐味がありました。
特に1980年代の、
「あの大鴉さえも」と「戸惑いの午後の惨事」は、
この世にこんなに面白く衝撃的で感動的な芝居があるのかと、
高揚する気分で劇場を後にしたことを、
今でも鮮やかに覚えています。
これだけシンプルに面白いのに、
それでいてアングラ的で不条理で前衛でもあったのです。
ただ、その作風は1980年代後半には、
かなり変化を見せ、
「前衛劇のつか的情念に満ちた娯楽化」という路線は、
その後戻ることはありませんでした。
今回久しぶりに接した竹内さんのお芝居は、
1980年代のものとは勿論大きく違っていたのですが、
何と言うのか、
とても自然な「老境」のお芝居になっていて、
何かじんわりと心に滲み込むような、
良いお芝居であったと思います。
以下ネタバレがあります。
観劇予定の方は観劇後にお読みください。
オープニングから、
若い2人の女優さんが、
竹内さんが以前書いた男2人芝居「東京物語」の、
立ち稽古をしている、
という意表を付いた場面から始まります。
竹内さんの孫くらいの年齢の女優さんが、
わざわざ付け髭を付けて、
男の役の台詞を発していて、
それをベテランの佃典彦さんが見てダメ出しをするのですね。
ある意味自分の過去作の台詞を流用していて、
手抜きと言えば手抜きなのですが、
二重三重に捻った構造は、
さすが竹内さんという感じが最初からします。
舞台は佐野史郎さんが主人の時計店で、
そこに謎の男の佃さんが、
奇妙な依頼を持って来るところからも物語は始まるのですが、
佐野さんは昔小学生の少女を誘拐したという罪で、
刑務所に入っていたという過去があり、
その時の小学生が成長して20年ぶりに訪ねて来る、
という甘酸っぱい展開が待っています。
これ、ちょっと際どい、
少女への偏愛みたいなものが、
基調音としてはあるのですね。
でもそれがどうにかなる訳ではなく、
「何も出来ない年寄りの妄想なのでいいでしょ」
という感じなんですね。
秘めたる欲望を解放して、
それが満月に照らされて、
近付く死の恐怖と一体化するような、
老境の思いみたいなものに結び付くのです。
そこに演劇愛みたいなものが絡み合って、
独特の詩的な世界が形作られて行きます。
その竹内さんの思いを体現する、
老境に至りつつある、
佐野史郎さん、佃典彦さん、広岡由里子さんのトリオの、
円熟した芝居がまた素敵でした。
正直まだ、
もう少しとんがったお芝居の方がいいな、
という気分もあるのですが、
変に若ぶらない自然体のお芝居は、
一服の清涼剤という感じがありました。
こうしたものもいいですね。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2024-08-04 22:29
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