総合ビタミン剤の生命予後への影響 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年6月26日付で掲載された、
総合ビタミン剤の生命予後に与える影響についての論文です。
総合ビタミン剤は、
最も古くから使用されているサプリメントの1つです。
その発症はアメリカで、
有名なアーサー・ミラーの戯曲、
「セールスマンの死」の主人公が、
鞄に入れて売り歩く商品もビタミン剤でした。
(書いていてちょっと混乱しています。
スタインベックの小説だったかも知れません)
上記論文の記載によれば、
今でもアメリカの大人の3人に1人は、
総合ビタミン剤の愛用者であるようです。
20世紀の初頭は次々とビタミンが発見され、
命名された時期ですから、
身体で作ることの出来ない物質とされていたビタミンを、
健康のために補充するという考え方は、
健康に気を配る最も一般的な習慣となったのです。
確かにビタミンの高度の不足は、
深刻な健康被害や病気の原因となります。
しかし、それは食事が摂れないなどの理由で、
高度に不足した場合の話であって、
普通に食事をしている人が、
やや不足している程度の状態である時に、
サプリメントが有効であるという証拠にはなりません。
ただ、その不足が病気の原因になると聞けば、
大半の人はそれを補充することで病気が予防される、
というように考えるのは自然のことで、
これが「サプリメント信仰」の、
特徴的なレトリックとなっています。
実際現在でも殆どのサプリメントの効能は、
「不足すると病気になります」という理屈で説明されていて、
それは決して科学的理屈ではないのですが、
多くの人をサプリメントに惹き付ける、
魔法の言葉となっているのです。
さて、総合ビタミン剤が健康の改善に、
実際に有効であるのかどうか、
という問題は未だ解決していません。
明確に有効というような臨床試験の結果はあまりないのですが、
無効とも言い切れないからです。
今回の研究は、
アメリカでこれまでに実施された、
3つの大規模な疫学研究のデータをまとめて解析することで、
総合ビタミン剤の生命予後に限定した有効性を検証しているものです。
トータルで390124名の一般住民を対象として、
最長で27年という長期の経過観察が施行されています。
その結果、
他の関連する因子を補正した結果として、
総合ビタミン剤の継続的な使用は、
総死亡のリスクを、
4%(95%CI:1.02から1.07)有意に増加させていました。
このように今回の解析結果からは、
総合ビタミン剤の使用は生命予後を改善しないばかりか、
僅かながら悪化させる可能性が示唆されました。
その差は微妙なものなので、
これはビタミン剤が危険、ということではなく、
少なくとも生命予後に関しては、
改善する可能性は低い、
というように判断するべきだと思いますが、
総合ビタミン剤を健康のために継続するという習慣は、
今後見直す必要があるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA Network Open誌に、
2024年6月26日付で掲載された、
総合ビタミン剤の生命予後に与える影響についての論文です。
総合ビタミン剤は、
最も古くから使用されているサプリメントの1つです。
その発症はアメリカで、
有名なアーサー・ミラーの戯曲、
「セールスマンの死」の主人公が、
鞄に入れて売り歩く商品もビタミン剤でした。
(書いていてちょっと混乱しています。
スタインベックの小説だったかも知れません)
上記論文の記載によれば、
今でもアメリカの大人の3人に1人は、
総合ビタミン剤の愛用者であるようです。
20世紀の初頭は次々とビタミンが発見され、
命名された時期ですから、
身体で作ることの出来ない物質とされていたビタミンを、
健康のために補充するという考え方は、
健康に気を配る最も一般的な習慣となったのです。
確かにビタミンの高度の不足は、
深刻な健康被害や病気の原因となります。
しかし、それは食事が摂れないなどの理由で、
高度に不足した場合の話であって、
普通に食事をしている人が、
やや不足している程度の状態である時に、
サプリメントが有効であるという証拠にはなりません。
ただ、その不足が病気の原因になると聞けば、
大半の人はそれを補充することで病気が予防される、
というように考えるのは自然のことで、
これが「サプリメント信仰」の、
特徴的なレトリックとなっています。
実際現在でも殆どのサプリメントの効能は、
「不足すると病気になります」という理屈で説明されていて、
それは決して科学的理屈ではないのですが、
多くの人をサプリメントに惹き付ける、
魔法の言葉となっているのです。
さて、総合ビタミン剤が健康の改善に、
実際に有効であるのかどうか、
という問題は未だ解決していません。
明確に有効というような臨床試験の結果はあまりないのですが、
無効とも言い切れないからです。
今回の研究は、
アメリカでこれまでに実施された、
3つの大規模な疫学研究のデータをまとめて解析することで、
総合ビタミン剤の生命予後に限定した有効性を検証しているものです。
トータルで390124名の一般住民を対象として、
最長で27年という長期の経過観察が施行されています。
その結果、
他の関連する因子を補正した結果として、
総合ビタミン剤の継続的な使用は、
総死亡のリスクを、
4%(95%CI:1.02から1.07)有意に増加させていました。
このように今回の解析結果からは、
総合ビタミン剤の使用は生命予後を改善しないばかりか、
僅かながら悪化させる可能性が示唆されました。
その差は微妙なものなので、
これはビタミン剤が危険、ということではなく、
少なくとも生命予後に関しては、
改善する可能性は低い、
というように判断するべきだと思いますが、
総合ビタミン剤を健康のために継続するという習慣は、
今後見直す必要があるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2024-07-19 10:26
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コメント(2)
先生おはようございます。
マルチビタミン(39種も入っているもの)を年単位で服用しているので気になる記事でした。
寄与しないならまだしも、リスクが上がるというのは一体どういう理由が考えられるのでしょうか?
ビタミン剤を飲んでいる安心感から他の節制をしない傾向がある、ビタミンを継続して服用すると実は害があるのにまだわかっていない…!? とはいえそんなに大量ではない市販品で寿命が変わるかもしれない理由が知りたいです。
by 凛 (2024-07-19 11:55)
凛さんへ
マルチビタミンに明確な健康リスクがあるとは考えにくいので、
これは別の関連する因子が影響していると思われます。
サプリメントを好む方が、
健診や医療機関受診に、
消極的傾向のあることも考えられますし、
ご指摘のように、
元々他の健康リスクのある可能性もあると思います。
一応関連する因子を補正した結果ですが、
こうしたデータは完全に中立的な解析は出来ないと思います。
ですので本文にあるように、
ビタミンに害があるという意味ではなく、
生命予後に対する、積極的メリットはなさそう、
というくらいで理解して頂く方が良いと思います。
by fujiki (2024-07-19 14:00)