体温上昇と心筋虚血との関連性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年6月11日付でウェブ掲載された、
体温上昇と心筋虚血との関連についての論文です。
猛暑が毎年夏になると話題となる世の中になりました。
先日聞いた話では、
日本の猛暑は世界中にも知れ渡っていて、
インバウンドの観光客のキャンセルも、
夏の時期には多いようです。
猛暑での体調不調と言うと、
熱中症がすぐに頭に浮かびます。
ただ、気温上昇時には他の病気も悪化する、
という指摘も多く見られます。
そのうちの1つが心血管疾患による死亡の増加です。
2022 年のLancet誌に掲載されたメタ解析の論文では、
気温が1℃上昇する毎に、
心血管疾患関連の死亡のリスクは2.1%上昇する、
と推測されています。
https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(22)00117-6/fulltext
この死亡の原因の多くは、
狭心症や心筋梗塞などの、
虚血性心疾患によるものと考えられています。
それでは、
何故気温が上昇すると、
心血管疾患は悪化するのでしょうか?
1つの仮説は心臓への負荷が増加するためではないか、
というものです。
気温が上昇すると、
人間は体温を維持するために、
皮膚の表面に近い血管を拡張させて血流を増やし、
発汗を促して体温を低下させようとします。
この時に心臓は全身を廻る血流量を増やすために、
心拍を早め、心臓の収縮力も高めようとします。
それにより心筋の血流量が増加するのですが、
仮に心臓を栄養する冠動脈に狭窄などがあると、
その部分が虚血に至って、
心筋梗塞の発症などに繋がるという可能性が想定されるのです。
ただ、実際に気温の上昇に伴った、
そうした心臓の変化が起こるのかどうかについては、
実証的なデータは殆どないのが実際です。
そこで今回の研究では、
特殊なスーツを着用して、それを加温することにより、
深部体温を正確に上昇させる実験を行い、
その時の心筋の血流量の変化と、
PET検査による心筋虚血の有無を計測しています。
対象となっているのは、
20名の健康な若年成人(平均年齢28歳)と、
21名の健康な高齢者(平均年齢67歳)、
そして狭心症などの虚血性心疾患の持病を持つ、
20名の高齢者(平均年齢70歳)です。
深部体温が1.5℃上昇するまで加温を行ったところ、
心筋への血流量は、
若年成人で2.08倍(95%CI:1.75から2.41)、
健康な高齢者で1.79倍(95%CI:1.59から1.98)、
心疾患を持つ高齢者で1.64倍(95%CI:1.41から1.87)、
それぞれ有意に増加しました。
つまり、若干の違いはあるものの、
体温の上昇に伴って、
年齢や病気の有無に関わらず、
同じように心筋の血流量は増加していた、
という結果です。
そこでPET検査により加温後の心筋虚血の有無を確認したところ、
心血管疾患を持つ高齢者群の35%に当たる7名で、
無症状での心筋虚血の所見が認められました。
つまり、当初の予測に一致して、
心臓を栄養する冠動脈に異常のある高齢者では、
体温上昇に伴って、心臓に負荷が掛かり、
それが心筋の虚血に繋がる可能性が示唆されるという結果です。
少数例での検証でもあり、
今後同様のデータが蓄積される必要がありそうですが、
特に高齢者で心臓に病気のある患者さんでは、
熱中症予防はより厳密に考えた方が良さそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
終日事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年6月11日付でウェブ掲載された、
体温上昇と心筋虚血との関連についての論文です。
猛暑が毎年夏になると話題となる世の中になりました。
先日聞いた話では、
日本の猛暑は世界中にも知れ渡っていて、
インバウンドの観光客のキャンセルも、
夏の時期には多いようです。
猛暑での体調不調と言うと、
熱中症がすぐに頭に浮かびます。
ただ、気温上昇時には他の病気も悪化する、
という指摘も多く見られます。
そのうちの1つが心血管疾患による死亡の増加です。
2022 年のLancet誌に掲載されたメタ解析の論文では、
気温が1℃上昇する毎に、
心血管疾患関連の死亡のリスクは2.1%上昇する、
と推測されています。
https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(22)00117-6/fulltext
この死亡の原因の多くは、
狭心症や心筋梗塞などの、
虚血性心疾患によるものと考えられています。
それでは、
何故気温が上昇すると、
心血管疾患は悪化するのでしょうか?
1つの仮説は心臓への負荷が増加するためではないか、
というものです。
気温が上昇すると、
人間は体温を維持するために、
皮膚の表面に近い血管を拡張させて血流を増やし、
発汗を促して体温を低下させようとします。
この時に心臓は全身を廻る血流量を増やすために、
心拍を早め、心臓の収縮力も高めようとします。
それにより心筋の血流量が増加するのですが、
仮に心臓を栄養する冠動脈に狭窄などがあると、
その部分が虚血に至って、
心筋梗塞の発症などに繋がるという可能性が想定されるのです。
ただ、実際に気温の上昇に伴った、
そうした心臓の変化が起こるのかどうかについては、
実証的なデータは殆どないのが実際です。
そこで今回の研究では、
特殊なスーツを着用して、それを加温することにより、
深部体温を正確に上昇させる実験を行い、
その時の心筋の血流量の変化と、
PET検査による心筋虚血の有無を計測しています。
対象となっているのは、
20名の健康な若年成人(平均年齢28歳)と、
21名の健康な高齢者(平均年齢67歳)、
そして狭心症などの虚血性心疾患の持病を持つ、
20名の高齢者(平均年齢70歳)です。
深部体温が1.5℃上昇するまで加温を行ったところ、
心筋への血流量は、
若年成人で2.08倍(95%CI:1.75から2.41)、
健康な高齢者で1.79倍(95%CI:1.59から1.98)、
心疾患を持つ高齢者で1.64倍(95%CI:1.41から1.87)、
それぞれ有意に増加しました。
つまり、若干の違いはあるものの、
体温の上昇に伴って、
年齢や病気の有無に関わらず、
同じように心筋の血流量は増加していた、
という結果です。
そこでPET検査により加温後の心筋虚血の有無を確認したところ、
心血管疾患を持つ高齢者群の35%に当たる7名で、
無症状での心筋虚血の所見が認められました。
つまり、当初の予測に一致して、
心臓を栄養する冠動脈に異常のある高齢者では、
体温上昇に伴って、心臓に負荷が掛かり、
それが心筋の虚血に繋がる可能性が示唆されるという結果です。
少数例での検証でもあり、
今後同様のデータが蓄積される必要がありそうですが、
特に高齢者で心臓に病気のある患者さんでは、
熱中症予防はより厳密に考えた方が良さそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2024-07-12 11:08
nice!(3)
コメント(0)
コメント 0