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「あんのこと」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日でいつも通りの外来になります。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
あんのこと.jpg
入江悠監督がかなり深刻な実話を元に脚本演出を勤め、
今注目の河合優実さんが体当たりの熱演を見せた映画が、
ロードショー公開されています。

入江監督は「22年目の告白」と「AI崩壊」が、
新たな日本の娯楽映画の可能性を感じさせて好印象でしたが、
その後はあまり企画に恵まれていないな、
というような印象がありました。
幅広い作品を手掛けていますが、
かなり出来にはムラがあります。

これはゴミだらけの狭い公団住宅の部屋で、
家族が罵り合い取っ組み合いを続ける様子を、
延々と撮り続けるようなヘビーな作品で、
大森立嗣監督や是枝裕和監督、白石和彌監督などにも、
同じような素材を扱った映画がありましたが、
そのどれよりも画面は暗く構図も歪み、
ある意味ノンフィクションよりも荒れた映像が連続します。

情緒的な泣かせのような水分もほぼなく、
観ていると、
こちらの心も砂漠と化してしまうような気分になります。

これは今の社会の空気感でないと望まれない作品、
良くも悪くも、
この映画をこのように観ることが出来るのは、
今生きている観客のみだろう、
という感じがする作品です。

僕自身もかなりのダメージを受けましたが、
精神的にダウンしているような時には、
とてもお勧め出来ないタイプの映画です。

皆さんもご注意下さい。

主演の河合優実さんが抜群で、
この役をこのように演じられる役者さんが、
今他にいるとは思えません。

彼女の纏う空気感が、
おそらく今の社会の閉塞感と、
絶妙にリンクしているのだと思います。

評価が分かれるだろうと思うのは、
複雑なキャラの警察官を演じた佐藤二朗さんで、
僕も大好きな俳優さんですが、
今回の役柄に関しては、
ややミスキャストのように感じました。
この役は表面的には、がさつだけれど良い人、
というように見えないといけないと思うのですが、
佐藤さんが演じると、
「得体の知れなさ」が出てしまうのですね。
それではいけないように感じました。

作劇としては、
ラストが少し中途半端に感じました。
ちょっと泣かせと希望を入れようとしているのですが、
この映画はハノケみたいに、
身もふたもないくらいに、
無雑作に絶望的に終わらないといけないですよね。
多分作り手はそうしたかったのだけれど、
それが許されなかったのではないかな、
というように感じました。

いずれにしても鑑賞には非常に精神的体力の必要な、
かなりヘビーな力作で、
こうした作品が国内外問わず多い気がするのは、
それはもう今の時代の反映なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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