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多発性嚢胞腎の進行メカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
多発性嚢胞腎の進行メカニズム.jpg
Nuture Communications誌に、
2022年12月23日ウェブ掲載された、
多発性嚢胞腎の進行メカニズムについての論文です。

オルガノイドという最近注目の技術を活用した研究です。

オルガノイドというのは、
2000年代後半以降に確立された技術で、
遺伝子技術によって、
細胞皿や試験管内に作られた「ミニ臓器」のことです。

それまでの研究では、
試験管の中に作ることが出来るのは、
組織を形成する細胞だけで、
複数の細胞が集まって立体的に作られる「臓器」を、
研究に簡単に利用することは出来ませんでした。
臓器の働きや病気になる仕組みを研究しようと思えば、
動物実験をするしかなかったのです。

それが、正常や病気のミニ臓器を、
簡単に作ることが可能となったのです。
動物を殺さなくても、
動物実験と同じような研究が、
出来るようになったのです。
これは画期的な進歩でした。

多発性嚢胞腎というのは、
遺伝性の腎臓病の中で最も多い病気で、
先天的な遺伝子の異常により、
腎臓に多数の嚢胞が形成され、
それが増大することによって、
腎機能が低下します。

この病気の原因遺伝子はPKD1もしくはPKD2と名付けられ、
この遺伝子のどちらかの変異があることにより、
この病気が発症することが分かっています。

しかし、遺伝子変異があると、
どのようにして嚢胞が進行するのかについてのメカニズムは、
これまで分かっていませんでした。

今回の研究では変異遺伝子を導入した、
腎臓オルガノイドを作成することにより、
嚢胞の進行メカニズムを解析しています。

その結果、
グルコーストランスポーターというタンパク質を介して、
ブドウ糖と共に水が嚢胞内に移行し、
それが嚢胞の増大に繋がっていることが確認されました。

これが事実であるとすると、
グルコーストランスポーターを阻害するような薬があれば、
嚢胞腎の進行を抑制するという可能性が示唆されます。
その代表的な薬は、
言うまでもなくSGLT2阻害剤です。

SGLT2阻害剤は、
糖尿病の治療薬として開発されましたが、
今では心不全の治療薬としても使用され、
慢性腎臓病の進行予防効果があることも、
最近報告されて注目されています。

この同じ薬が、
難病である多発性嚢胞腎の、
治療薬となる可能性も生まれて来たのです。

これはまだ実験的「ミニ臓器」での知見で、
嚢胞の形成される場所によっては、
逆に嚢胞を悪化させる可能性もある、
という指摘もあります。
従って、現時点での臨床応用には慎重であるべきですが、
今後より検証が深められることにより、
この病気の治療のブレイクスルーとなることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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