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骨粗鬆症治療薬の止め方 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
骨粗鬆症治療薬の止め方.jpg
Journal of Internal Medicine誌に、
2021年9月28日ウェブ掲載された、
骨粗鬆症治療薬の中止に関する解説記事です。

慢性の病気に使用する薬というのは、
始め方と同じくらい止め方が重要です。

どんな薬でも、
確実に一生飲み続けた方が良い、
ということは基本的にはないからです。

ただ、臨床研究の多くは薬を使用した際の有効性や副作用に、
その力点を置いているので、
薬をどのようなタイミングでどのように止めることが、
最も科学的に正しい選択であるのか、
というような点については、
信頼のおけるデータが少なく、
ガイドラインなどでも言及されることが少ないのが実際です。

そのため2015年に薬の止め方に力点を置いた、
「薬の始め方・止め方」という本を書きました。

ただ、その本の中で言及していないのが骨粗鬆症治療薬です。

骨粗鬆症には長く有効な治療が存在しませんでしたが、
それが大きく変わったのは、
骨の表面をコーティングして骨吸収を強く阻害する、
ビスフォスフォネート製剤の飲み薬の開発で、
この薬の使用により、
骨塩量が増加し骨折リスクが明確に低下することが確認されたからです。

ただ、この薬の継続的な使用は、
抜歯の時に起こることのある顎骨壊死と、
大腿骨の幹の部分の非定型骨折のリスクを、
軽度ながら高めるような作用があります。

そのためビスフォスフォネートの長期使用時は、
一時的な休薬期間を設けることが、
そのリスクの軽減に繋がると考えられています。

その後ビスフォスフォネートに匹敵するか、
場合によりそれを凌駕する働きを持つ薬剤が、
複数開発されて一般にも使用が施行されています。

それが、抗RANKL抗体のデノスマブ(商品名プラリア)と、
副甲状腺ホルモン誘導体のテリパラチド(商品名テリボン)です。

このうちテリパラチドについては、
骨系腫瘍のリスクを長期使用により増加させる可能性が指摘され、
その使用は2年に制限されています。
つまり、中止の基準についてはかなり明確な薬剤です。

一方でデノスマブについては、
破骨細胞の形成を阻害する作用を持ち、
骨吸収をビスフォスフォネートより強力に抑制しますが、
その使用終了の明確な基準はなく、
そのメカニズムから破骨細胞の分裂した細胞が、
使用により蓄積し、
それが薬剤投与の中断により、
破骨細胞の急激な増加に繋がる可能性が指摘されています。

それでは、ビスフォスフォネートとデノスマブを、
骨粗鬆症の骨折予防のために1年を超えて継続使用した時、
薬はいつどのタイミングで、
どのように止めることが適切なのでしょうか?

2006年のJAMA誌に掲載されたFLEXという臨床試験の結果によると、
ビスフォスフォネート製剤であるアレンドロネートを、
5年間使用してから中止しても、
非椎体骨折の予防効果は維持されていました。
しかし、5年の使用でも骨量が低値のままであると、
中止により骨折リスクの増加が認められました。
ゾレンドロネートという別のビスフォスフォネートを使用した臨床データでは、
3年間使用継続後に中止すると、
椎体骨折のリスク増加が認められましたが、
6年使用継続後に中止すると、
骨折リスクの増加は認められませんでした。

これらの結果からは、
ビスフォスフォネートは少なくとも5年以上継続し、
その時点で骨量が一定レベルに保たれていれば、
中止して様子をみることは選択肢として無理がない、
ということを示しています。

一方でデノスマブについては、
その使用を中止すると、
その7から9か月後より骨吸収は上昇し、
1年後には使用開始前より50%を超えて増加する、
と報告されています。
このリバウンド的な骨吸収の増加により、
中止後18か月で治療による骨量の増加は、
元に戻ってしまうのです。

2021年のthe Journal of Internal Medicine誌に掲載された、
台湾の臨床データの解析によると、
デノスマブを1年以上使用していて使用を中止すると、
そのまま継続していた場合と比較して、
その後椎体骨折のリスクは2.18倍(95%CI:1.46から3.24)
有意に増加しており、
これが2年以上継続してからの使用中止になると、
椎体骨折のリスクは3.58倍(95%CI:1.74から7.40)と、
より高い増加を示していました。
大腿骨頸部骨折などの非椎体骨折に関しては、
有意な増加は認められませんでしたが、
2年以上使用後の中止では増加する傾向は示していました。

一方でビスフォスフォネートの同様の検討では、
1年以上の使用後の中止では有意な骨折の増加は認められず、
2年以上の使用後の中止においては、
椎体骨折のみ2.02倍(95%CI:1.07から3.08)と、
有意な増加が認められました。

つまり、デノスマブはその中断により、
1年以内に骨折のリスクがリバウンド的に増加する可能性が高く、
使用の中断には慎重な判断が必要な薬剤です。
ビスフォスフォネートも中断により骨折リスクは増加しますが、
中断後も一定の骨折予防効果がかなり長い間維持され、
その後の骨折リスクの増加もゆるやかです。

従って、この特徴をよく理解した上で、
どの薬剤を骨粗鬆症予防に使用するべきか、
将来を見据えた上で選択を行う必要があるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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