三谷幸喜「VAMP SHOW ヴァンプショウ」(2022年河原雅彦演出版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1992年に初演され、2001年に再演された、
三谷幸喜さんの異色作が、
今新しいパルコ劇場で上演されています。
新型コロナの感染などもあって、
初日が遅れてのスタートです。
5人の大学生の吸血鬼が、
謎の少女に翻弄されるという物語で、
三谷さんの作品としては非常に珍しく、
1970年代から80年代くらいの、
アングラや小劇場のお芝居の要素を、
非常に色濃く反映している内容です。
初演の1992年は、もう「12人の優しい日本人」や、
「ショー・マスト・ゴー・オン」が書かれて以降ですから、
シチュエーションコメディとしての三谷さんの作劇は、
もう完成している時期なんですよね。
ただ、丁度劇団を離れた大きな仕事が、
決まり始めている時期で、
結構今からすると毛色の変わった作品や、
「これを何故三谷さんが…」というような企画も、
あった時期でもあります。
この作品は多分、
「こうしたものを」という依頼あってのお仕事だったと推察しますが、
三谷さんとしては当時はまだ小劇場の世界では1つの人気ジャンルとしてあった、
アングラテイストの笑いのあるホラーを、
「俺だってこのくらい」という感じで、
再構成してみたものではないかと思います。
これ、三谷さんの得意技、
すれ違いの連鎖とか、言葉遊びとか、
コメディリリーフの人物のあざとい設定とか、
これでもかの伏線回収とか、
そうしたものは全くない戯曲なんですね。
得意技を全て封印して構成されています。
ですから、正直そう面白くはないのです。
そう面白くはないのですが、
アングラホラーとして、
その完成度は非常に高いと思います。
以下内容に少し踏み込みますので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。
よろしいでしょうか?
それでは進めます。
これね、5人の青春している男子大学生の吸血鬼が、
謎の美少女に翻弄されて、
自滅してゆくという話ですよね。
主人公は少女を救おうとするのですが、
それが逆に自滅の引き金を引くのですね。
この構造自体が、
鴻上さんの「朝日のような夕日を連れて」と一緒なんですね。
それから駅員と少女との不毛な会話は、
別役芝居のパターンで、
ボストンバックに男の生首を入れて彷徨う女、
というのは唐先生の「鉄仮面」そのままなんですね。
最初に5人が歌の尻取りみたいなゲームをするでしょ。
これもアングラでは定番の趣向で、
竹内銃一郎さんのお芝居でもお馴染みですね。
登場する歌がとても古めかしいでしょ。
軍歌や童謡が出て来たり、
1992年初演としても古めかし過ぎますよね。
これも意図的なものなのだと思います。
古いアングラをやっているんだよ、
という自己主張のようなものですね。
それで仲間を何人も殺してしまって、
主人公が独白をしますよね。
ここの部分の情感も、まさにアングラ小劇場の感銘なんですね。
言ってみれば「破滅への甘美な衝動」のようなもの。
それを、そんなものに対して共感を持っていない筈の三谷さんが、
完璧に書いている、という点が、
この芝居の凄いところだと思います。
僕自身はもう、こうしたもので育った、
と言ってもいいくらいなので、
このクライマックスにはとても心地良い思いを感じ、
「ああ、ここまでやってくれるのね」と、
素直に感銘を受けることが出来ました。
今回の上演は演出とキャストのバランスが非常に良かったと思います。
演出の河原さんは、
こうした芝居のアングラ演出の何たるかを、
寺十吾さんとともに最も当代では心得ている演出家なので、
映像なども巧みに利用して、
最初から最後まで緩みなく舞台を展開しています。
適度なグロテスクさや過激を演出する仕掛けも良いですし、
舞台装置もとても雰囲気のある精緻なものです。
キャストもバランスが取れている点がとても良く、
河原さんの交通整理の妙もあって、
5人の吸血鬼のそれぞれの個性が分かり易く理解出来ます。
特に良かったのは、
暴れん坊を演じた戸塚純貴さんで、
古田新太さんや橋本じゅんさんが外連味たっぷりに演じた難役を、
なかなか巧みに自分のものにしていました。
ややおとなし目の役作りではありましたが、
それが今回の座組には良くあっていました。
主人公を演じた岡山天音さんは、
内面的な芝居を得意としているので、
舞台より映像に合っているという気はしましたが、
それでも踏ん張っていたと思います。
そんな訳で三谷さんが、
得意技を封印して仕上げたアングラホラーの再構成を、
若いキャストでリニューアルし、
河原演出が手堅くまとめた娯楽作で、
個人的には結構気に入った1本でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1992年に初演され、2001年に再演された、
三谷幸喜さんの異色作が、
今新しいパルコ劇場で上演されています。
新型コロナの感染などもあって、
初日が遅れてのスタートです。
5人の大学生の吸血鬼が、
謎の少女に翻弄されるという物語で、
三谷さんの作品としては非常に珍しく、
1970年代から80年代くらいの、
アングラや小劇場のお芝居の要素を、
非常に色濃く反映している内容です。
初演の1992年は、もう「12人の優しい日本人」や、
「ショー・マスト・ゴー・オン」が書かれて以降ですから、
シチュエーションコメディとしての三谷さんの作劇は、
もう完成している時期なんですよね。
ただ、丁度劇団を離れた大きな仕事が、
決まり始めている時期で、
結構今からすると毛色の変わった作品や、
「これを何故三谷さんが…」というような企画も、
あった時期でもあります。
この作品は多分、
「こうしたものを」という依頼あってのお仕事だったと推察しますが、
三谷さんとしては当時はまだ小劇場の世界では1つの人気ジャンルとしてあった、
アングラテイストの笑いのあるホラーを、
「俺だってこのくらい」という感じで、
再構成してみたものではないかと思います。
これ、三谷さんの得意技、
すれ違いの連鎖とか、言葉遊びとか、
コメディリリーフの人物のあざとい設定とか、
これでもかの伏線回収とか、
そうしたものは全くない戯曲なんですね。
得意技を全て封印して構成されています。
ですから、正直そう面白くはないのです。
そう面白くはないのですが、
アングラホラーとして、
その完成度は非常に高いと思います。
以下内容に少し踏み込みますので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。
よろしいでしょうか?
それでは進めます。
これね、5人の青春している男子大学生の吸血鬼が、
謎の美少女に翻弄されて、
自滅してゆくという話ですよね。
主人公は少女を救おうとするのですが、
それが逆に自滅の引き金を引くのですね。
この構造自体が、
鴻上さんの「朝日のような夕日を連れて」と一緒なんですね。
それから駅員と少女との不毛な会話は、
別役芝居のパターンで、
ボストンバックに男の生首を入れて彷徨う女、
というのは唐先生の「鉄仮面」そのままなんですね。
最初に5人が歌の尻取りみたいなゲームをするでしょ。
これもアングラでは定番の趣向で、
竹内銃一郎さんのお芝居でもお馴染みですね。
登場する歌がとても古めかしいでしょ。
軍歌や童謡が出て来たり、
1992年初演としても古めかし過ぎますよね。
これも意図的なものなのだと思います。
古いアングラをやっているんだよ、
という自己主張のようなものですね。
それで仲間を何人も殺してしまって、
主人公が独白をしますよね。
ここの部分の情感も、まさにアングラ小劇場の感銘なんですね。
言ってみれば「破滅への甘美な衝動」のようなもの。
それを、そんなものに対して共感を持っていない筈の三谷さんが、
完璧に書いている、という点が、
この芝居の凄いところだと思います。
僕自身はもう、こうしたもので育った、
と言ってもいいくらいなので、
このクライマックスにはとても心地良い思いを感じ、
「ああ、ここまでやってくれるのね」と、
素直に感銘を受けることが出来ました。
今回の上演は演出とキャストのバランスが非常に良かったと思います。
演出の河原さんは、
こうした芝居のアングラ演出の何たるかを、
寺十吾さんとともに最も当代では心得ている演出家なので、
映像なども巧みに利用して、
最初から最後まで緩みなく舞台を展開しています。
適度なグロテスクさや過激を演出する仕掛けも良いですし、
舞台装置もとても雰囲気のある精緻なものです。
キャストもバランスが取れている点がとても良く、
河原さんの交通整理の妙もあって、
5人の吸血鬼のそれぞれの個性が分かり易く理解出来ます。
特に良かったのは、
暴れん坊を演じた戸塚純貴さんで、
古田新太さんや橋本じゅんさんが外連味たっぷりに演じた難役を、
なかなか巧みに自分のものにしていました。
ややおとなし目の役作りではありましたが、
それが今回の座組には良くあっていました。
主人公を演じた岡山天音さんは、
内面的な芝居を得意としているので、
舞台より映像に合っているという気はしましたが、
それでも踏ん張っていたと思います。
そんな訳で三谷さんが、
得意技を封印して仕上げたアングラホラーの再構成を、
若いキャストでリニューアルし、
河原演出が手堅くまとめた娯楽作で、
個人的には結構気に入った1本でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2022-08-20 10:17
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