倉持裕「お勢、断行」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

倉持裕さんが、
江戸川乱歩の短編を想を得たシリーズ第二弾、
「お勢、断行」が先日まで世田谷パブリックシアターで上演されました。
倉持裕さんは舞台のみならず、
ドラマや映画の台本でも多彩な才能を開花させていますが、
師匠筋の岩松了さんと同じように、
単純に面白いとか感動した、
というような言葉では語れない、
一筋縄ではゆかない作品世界を持っています。
個人的には「ワンマン・ショー」と、
「磁場」という作品には、
とても刺激的で感銘を受けましたが、
明らかに一般的な娯楽作品を意図していると思われるのに、
とてもそうとは思えなくて、
面白さを感じることが出来ない、
というような作品も多いのが実際です。
これはまあ、相性もあるのかも知れません。
今回の作品は古典文芸的な闇の世界を、
エンターティンメントとして描いているもので、
作り手の意図通りの仕上がりになっているのかは、
やや微妙な感じもするのですが、
僕の好みの世界でまずは楽しんで観ることが出来ました。
パブリックシアターでは以前、
マクバーニー演出の「春琴」という、
谷崎潤一郎の闇の世界を見事に現出させたヒット作がありましたが、
オープニングなどそれに似通った感覚がありました。
それから小劇場の鵺的が、
江戸川乱歩の作品を再構成したような「奇想の前提」というお芝居がありましたが、
そのセンスにおいて結構近いものがありました。
ラストの少女が館を駆け抜ける感じなどは、
鵺的の「悪魔を汚せ」にとても近いイメージでした。
ただ、倉持さん的には、
多分三島由紀夫の「黒蜥蜴」が、
ベースにあったのではないかしらと思うのですね。
「黒蜥蜴」は三島美学によって、
江戸川乱歩の通俗長編を、
その当時としては「現代」の娯楽作として、
再構成した作品であったのですが、
倉持さんには三島美学を体現したような、
「磁場」という傑作もありますし、
自分なりの「黒蜥蜴」を、
作ってみたいという考えがあったのではないでしょうか?
凝ったセットや映像などの効果も素晴らしいですし、
正名僕蔵さん、梶原善さんといった曲者の芝居が雰囲気を出し、
特に池谷のぶえさんが水を得た魚のように、
作品世界に溶け込んでいたのが素敵でした。
池谷さんは体重を大分絞られてから、
正直かつての狂気が蔭を潜めたようで、
個人的には残念であったのですが、
今回はまた新たな面を見せていて魅力的でした。
ヒロインの倉科カナさんは、
とても艶やかで立派な舞台の中心となっていました。
ただ、物語自体は色々な思惑のキャラが交代で登場して、
交互に段取りを展開する芝居が続き、
特に意外な展開もなく、
感情の重層的な盛り上がりなどもなく、
動きのある部分はその多くが映像で処理されてしまうので、
ラストの唐突な銃撃のカタストロフまで、
さしたる盛り上がりなく進行してしまう、
というきらいがありました。
もう少し演劇の興趣に満ちた部分があるといいな、
というようには思うのですが、
倉持さんの娯楽作と思われるものの多くが、
こうした構成を取っていて、
途中で歌が一曲入るという点も一緒なので、
倉持さん的には、
この内容で充分娯楽になっている、
というように感じているのかも知れません。
個人的には、
せっかくこれだけの見事な道具立てを用意したのだから、
それがもっと十全に活用され展開するようなお芝居が観たいな、
というようには思うのですが、
それが勿体ないと思うのは感覚の違いであって、
倉持さんの娯楽作というのは、
このややまったりとした展開と時間を、
じっくりと楽しむのが正解なのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

倉持裕さんが、
江戸川乱歩の短編を想を得たシリーズ第二弾、
「お勢、断行」が先日まで世田谷パブリックシアターで上演されました。
倉持裕さんは舞台のみならず、
ドラマや映画の台本でも多彩な才能を開花させていますが、
師匠筋の岩松了さんと同じように、
単純に面白いとか感動した、
というような言葉では語れない、
一筋縄ではゆかない作品世界を持っています。
個人的には「ワンマン・ショー」と、
「磁場」という作品には、
とても刺激的で感銘を受けましたが、
明らかに一般的な娯楽作品を意図していると思われるのに、
とてもそうとは思えなくて、
面白さを感じることが出来ない、
というような作品も多いのが実際です。
これはまあ、相性もあるのかも知れません。
今回の作品は古典文芸的な闇の世界を、
エンターティンメントとして描いているもので、
作り手の意図通りの仕上がりになっているのかは、
やや微妙な感じもするのですが、
僕の好みの世界でまずは楽しんで観ることが出来ました。
パブリックシアターでは以前、
マクバーニー演出の「春琴」という、
谷崎潤一郎の闇の世界を見事に現出させたヒット作がありましたが、
オープニングなどそれに似通った感覚がありました。
それから小劇場の鵺的が、
江戸川乱歩の作品を再構成したような「奇想の前提」というお芝居がありましたが、
そのセンスにおいて結構近いものがありました。
ラストの少女が館を駆け抜ける感じなどは、
鵺的の「悪魔を汚せ」にとても近いイメージでした。
ただ、倉持さん的には、
多分三島由紀夫の「黒蜥蜴」が、
ベースにあったのではないかしらと思うのですね。
「黒蜥蜴」は三島美学によって、
江戸川乱歩の通俗長編を、
その当時としては「現代」の娯楽作として、
再構成した作品であったのですが、
倉持さんには三島美学を体現したような、
「磁場」という傑作もありますし、
自分なりの「黒蜥蜴」を、
作ってみたいという考えがあったのではないでしょうか?
凝ったセットや映像などの効果も素晴らしいですし、
正名僕蔵さん、梶原善さんといった曲者の芝居が雰囲気を出し、
特に池谷のぶえさんが水を得た魚のように、
作品世界に溶け込んでいたのが素敵でした。
池谷さんは体重を大分絞られてから、
正直かつての狂気が蔭を潜めたようで、
個人的には残念であったのですが、
今回はまた新たな面を見せていて魅力的でした。
ヒロインの倉科カナさんは、
とても艶やかで立派な舞台の中心となっていました。
ただ、物語自体は色々な思惑のキャラが交代で登場して、
交互に段取りを展開する芝居が続き、
特に意外な展開もなく、
感情の重層的な盛り上がりなどもなく、
動きのある部分はその多くが映像で処理されてしまうので、
ラストの唐突な銃撃のカタストロフまで、
さしたる盛り上がりなく進行してしまう、
というきらいがありました。
もう少し演劇の興趣に満ちた部分があるといいな、
というようには思うのですが、
倉持さんの娯楽作と思われるものの多くが、
こうした構成を取っていて、
途中で歌が一曲入るという点も一緒なので、
倉持さん的には、
この内容で充分娯楽になっている、
というように感じているのかも知れません。
個人的には、
せっかくこれだけの見事な道具立てを用意したのだから、
それがもっと十全に活用され展開するようなお芝居が観たいな、
というようには思うのですが、
それが勿体ないと思うのは感覚の違いであって、
倉持さんの娯楽作というのは、
このややまったりとした展開と時間を、
じっくりと楽しむのが正解なのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2022-05-29 13:25
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