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BCGワクチンのCOVID-19後遺症への有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BCGの新型コロナ後遺症への有効性.jpg
Journal of Internal Mdicine誌に、
2022年5月22日ウェブ掲載された、
BCGワクチンを新型コロナウイルス感染症の後遺症に活用する、
という臨床試験の結果をまとめた論文です。

BCGワクチンというのは、
牛の結核菌由来の生ワクチンで、
結核の予防ワクチンとして開発されました。

そのまま他のワクチンのように接種すると、
皮膚が腫れあがったり水疱が出来るような副反応が強いので、
日本では独特の剣山のような器具を用いて、
複数の針を皮膚に押し当て、
判子を押すようにして注射する方法が開発され使用されています。
ただ、これは日本とその器具を輸入して使用している、
一部の国のみの接種法です。

日本では定期接種として、
1歳未満のお子さんの時期に接種が行われていますが、
こうした接種スケジュールも、
一部の結核の流行国以外では行われていません。

それはBCGを一旦打ってしまうと、
結核菌に対する身体の免疫が活性化されるので、
結核に実際に感染した際の診断が難しくなってしまうことと、
このワクチンの成人の結核の予防効果は、
充分に確認されていない、
という点がその主な理由です。

BCGワクチンは牛の結核菌を使用するという、
古い製法によるワクチンで副反応が強く、
その効果も現代の目で見るとそれほど高いものではないのです。
しかし、その後BCGを超える結核予防ワクチンが、
登場していないこともまた事実で、
そのためにやや消極的に使用されている、
というのが実際である訳です。

ところが…

BCGワクチンには、
結核予防以外に有効性があるのでは、
という見解が、
最近相次いで報告されるようになりました。

その幾つかは以前ブログでもご紹介しています。

複数の疫学研究において、
出生時にBCGワクチンを接種することにより、
子供の死亡リスクが減少する、
という報告が存在しています。
その後の解析によりこれは結核の予防効果のためではなく、
お子さんの時期の敗血症や呼吸器の感染症が、
トータルに減少したためと考えられています。

動物実験においても、
BCG接種がその後の死亡リスクを低下させ、
結核以外の細菌感染を予防するという結果が報告されています。

BCGはまた、
癌に対して非特異的免疫療法としても、
その効果が確認されています。
膀胱癌への補助的治療としてのBCGの効果は、
世界的に評価されている知見です。
更に疫学データにおいては、
出生時のBCGワクチンの接種が、
肺癌のリスクを低下させたという知見もあります。

それでは、
何故結核ワクチンのBCGが、
他の多くの感染症や癌に対して効果があるのでしょうか?

免疫には、
対象を選ばず相手を攻撃する自然免疫と、
相手に合わせて抗体を産生し、
次に同じ病原体の攻撃を受けた際には、
速やかに対応する獲得免疫という2種類があります。

これまでの研究により、
BCGは自然免疫の賦活による効果と、
獲得免疫の賦活による効果の、
両方があると想定されています。

最近になってBCGワクチンが注目されているのは、
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対しても、
BCGワクチンには一定の予防効果があるのではないか、
という考え方があるからです。

この点については幾つかの臨床試験が施行されていて、
その一部はブログでご紹介したことがあります。

結果は若干の有効性が確認された、
というようなものもありますが、
トータルに見て新型コロナウイルス感染症の、
感染予防や重症化予防に、
BCGワクチンを推奨する、というほどの、
明確な有効性は確認されていないのが実際です。

今回の臨床研究は南アメリカの複数施設において、
新型コロナウイルス感染症に感染後の、
嗅覚障害と味覚障害の持続に与える、
BCGワクチン接種の効果を検証したものです。

新型コロナウイルス感染症の378名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はBCGワクチンを皮内注射で施行し、
もう一方は偽の注射を施行して、
その後の経過を比較しています。

その結果、
6週間の時点での嗅覚障害の改善率は、
BCG接種群では83.1%であったのに対して、
偽注射群では68.7%となり、
同様に味覚障害の改善率も、
BCG接種群では81.2%、偽注射群では63.4%で、
いずれもBCGワクチン群で有意な改善が認められました。
BCG群では半年の時点での細胞性免疫の賦活があり、
より少ない量の抗体産生で、
新型コロナウイルスの中和が可能となるような効果が示唆されましたが、
こちらは有意な差ではありませんでした。

このように、
BCGワクチンの接種には、
細胞性免疫を賦活して、
多くのウイルス感染の予防に寄与するような効果のあることは、
ほぼ間違いがないのですが、
新型コロナウイルス感染症に限ってその有効性を見た時には、
単独でその使用を推奨するほどの、
有効性は確認されない、
という辺りが実際であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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