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アスピリンの心血管疾患一次予防の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの一次予防の有効性.jpg
JAMA誌に2022年4月26日掲載された、
アスピリンの一次予防の有効性についての提言です。

1日80から100mg程度のアスピリンを継続的に飲むことに、
心血管疾患や腺癌というタイプの癌の、
予防効果のあることは、
多くの疫学データや精度の高い臨床試験においても、
実証されている事実です。

ただ、その一方でアスピリンには出血系の合併症があり、
使用を継続することで、
消化管出血や脳出血などのリスクは増加します。

従って、アスピリンを服用することが、
その人にとって有益であるかどうかは、
その作用と有害事象とのバランスに掛かっています。

その有効性は一度そうした病気になった人の、
再発予防効果としては確立されていますが、
まだ病気にはなっていない場合の、
一次予防効果については、
どのような対象者を選ぶかによっても、
その結果は様々で統一した見解とはなっていません。

2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
糖尿病の患者さんにおけるアスピリンの一次予防効果を検証した論文では、
アスピリンを使用することにより、
心血管疾患は12%減少し、
その一方で出血系の合併症は29%増加していました。

2019年のJAMA誌に掲載された、
システマティック・レビューとメタ解析の論文では、
これまでの13の介入試験のトータル164225名のデータをまとめて解析した結果として、
アスピリンは心血管疾患のリスクを相対リスクで11%(95%CI: 0.84から0.95)、
絶対リスクで0.38%(95%CI: 0.20から0.55)、
それぞれ有意に低下させていました。
これは265人にアスピリンを使用することで、
1人の心血管疾患を予防出来る、
という確率と推計されます。

一方でアスピリンを使用することによる、
重篤な出血系合併症のリスクは、
相対リスクで1.43倍(95%CI: 1.30から1.56)、
絶対リスクで0.47%(95%CI: 0.34から0.62)、
それぞれ有意に増加していました。
これは210名にアスピリンを使用すると、
1人が出血系の合併症を発症する、
というくらいの確率と推計されます。

こうした予防効果と有害事象のバランスを、
どのように考えれば良いのでしょうか?

今回の提言は、
米国予防医学専門委員会(USPSTF)によるもので、
これまでの提言より一歩踏み込んで、
年齢が60歳以上での心血管疾患の一次予防目的のアスピリン使用開始は、
出血系合併症のリスクの方が、
その予防効果を上回るという判断から、
推奨はされないとしています。

また、40歳から59歳での同様のアスピリン使用についても、
その後の心血管疾患リスクが高い対象者に絞り、
個別に慎重に判断されるべきとしています。

アスピリンは一時万能薬のように言われたこともあり、
全ての中高年に推奨されるようなニュアンスで、
過大に評価されたこともありました。
今でも心血管疾患の二次予防(再発予防)については、
その有効性は揺らぐものではありませんが、
まだ病気にはなっていない段階での発症予防(一次予防)については、
その有効性と比較して出血系合併症のリスクは、
当初想定していたより高いものなので、
その使用は今後はより慎重に検討する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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