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新型コロナウイルス感染症に対するアンドロゲン抑制療法の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
朝から保育園の健診があり、
そこから老人ホームの診療に廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19に対するアンドロゲン抑制療法.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年4月19日ウェブ掲載された、
男性ホルモンを抑制することの、
新型コロナウイルス感染症への有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の治療には、
多くの薬剤が使用されていますが、
一定の有効性はあるものの、
決定打のような治療法は開発されていません。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
人間の身体の細胞にある、
ACE2という受容体に結合することにより感染します。
その後にもう1つのステップがあり、
コロナウイルスに特徴的な表面の突起(スパイク)が、
感染細胞にあるセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素により、
変化(プライミング)を受け、
それにより細胞内に侵入することが出来ると考えられています。

このACE2とTMPRSS2と同じように、
人間の肺の上皮細胞に発現しているのが、
男性ホルモンであるアンドロゲンの受容体です。

アンドロゲンはTMPRSS2と相互に刺激する関係にあり、
アンドロゲンによりTMPRSS2の発現は増加します。

この知見からは、
新型コロナウイルス感染症の罹患時に、
アンドロゲンを抑制することによって、
その予後が改善するという可能性が示唆されます。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
18歳以上で新型コロナウイルス感染症に罹患し、
人工呼吸器は必要ないけれど、入院治療の適応と診断された男性患者を、
72時間以内にくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の治療に上乗せして、
アンドロゲンを抑制するデガレリクスを使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その予後を比較検証しています。

このデガレリクスは、
前立腺癌の治療薬として日本でも使用されている薬剤で、
ゴナドトロピンを抑制することにより、
強力にアンドロゲンを低下させる注射薬で、
今回は240㎎を皮下注射で使用しています。

試験は早期に中止されていますが、
96名の患者が解析されていて、
そのうちの62名はデガレリクス群に、
34名は偽薬群に割り付けられています。
その結果、治療開始後15日の時点で、
生命予後を含む患者の予後には、
明確な差は認められませんでした。

今回の臨床試験は大変興味深い試みでしたが、
少なくとも明確な差は両群で認められず、
現時点で推奨される治療とは言えません。
ただ、例数が少ないなど限界もあるため、
今後こうした治療の試みが、
意外に奏功するような報告が得られるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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