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スタチンに上乗せしたコレステロール降下剤の予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチン以外のコレステロール降下療法の有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年5月4日ウェブ掲載された、
スタチン以外のコレステロール降下剤による、
心血管疾患予防効果についての論文です。

スタチンというのはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
強力にLDLコレステロールを低下させる作用を持ち、
コレステロールの合成抑制以外に、抗炎症作用など、
動脈硬化性疾患の、
進行を抑制するような働きを併せ持ち、
特に心筋梗塞などの心血管疾患の再発予防においては、
欠かせない治療薬となっています。

スタチンの心血管疾患予防に関する有効性は、
多くの精度の高い臨床研究により実証されています。

ただ、スタチンを充分量使用しても、
目的となるLDLコレステロール値を達成出来ない場合や、
副作用や有害事象などにより、
スタチンを使用出来ないケースでは、
上乗せもしくは単独で、
エゼチミブというコレステロール吸収の阻害剤や、
PCSK9阻害剤という、
LDL受容体に結合して安定化させるという、
別個のメカニズムを持つ注射薬が、
健康保険でも適応となり使用されています。

しかし、実地臨床において、
エゼチミブやPCSK9阻害剤に、
スタチン単独と比較して、
どれだけの有効性があるのかについては、
まだデータは限られたものしかありません。
この場合の有効性というのは、
コレステロールを下げる力ではなく、
心血管疾患の予防効果のことです。

今回の研究では、
これまでの臨床研究のデータをまとめて解析して比較する、
ネットワークメタ解析と言う手法で、
この問題の検証を行っています。

これまでに行われたエゼチミブとPCSK9阻害剤の介入試験の中で、
500人以上の患者を6か月以上観察した、
14の臨床研究に含まれる、
トータルで83660名のデータをまとめて解析したところ、
スタチンへのエゼチミブの上乗せは、
心筋梗塞の相対リスクを13%(95%CI:0.80から0.94)、
脳卒中の相対リスクを18%(95%CI:0.71から0.96)、
有意に低下させていました。
つまり、一定の予防効果は付加されるという結果です。
ただ、総死亡や心血管疾患による死亡のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。

もう少し詳細な解析として、
患者を心血管疾患の発症リスクが低い群から高い群に分け、
絶対リスクとして、
患者1000人当たり心筋梗塞が12人、
脳卒中が10人の患者発症を抑制した場合に、
上乗せ効果があるとして解析すると、
今後5年間の心血管疾患発症リスクが、
中間値で24%に達するような超高リスク群では、
スタチンへのPCSK9阻害剤の上乗せは、
心筋梗塞のリスクを患者1000人当たり16人減らし、
脳卒中のリスクを21人減少させましたが、
エゼチミブは脳卒中のリスクは14人減らしたものの、
心筋梗塞のリスクは11人で基準には達していませんでした。

今後5年間の心血管疾患発症リスクが、
15%を超える高リスク群での解析では、
スタチンへのPCSK9阻害剤の上乗せは、
心筋梗塞のリスクを患者1000人当たり12人減らし、
脳卒中のリスクは16人減少させましたが、
エゼチミブは脳卒中のリスクは11人減らしたものの、
心筋梗塞のリスクは8人減少で基準には達していませんでした。

そして患者の大多数を占める、
中等度リスク群から低リスク群においては、
スタチンへのPCSK9阻害剤やエゼチミブの上乗せは、
明確な予後の改善には結びついていませんでした。

このように、
スタチンの使用で充分なコレステロール降下が得られない場合、
PCSK9阻害剤やエゼチミブの上乗せは、
一定の心筋梗塞や脳卒中発症抑制効果が望めますが、
生命予後には影響を与えず、
抑制効果自体も、
今後5年の心血管疾患リスクが15%以上という、
高リスク群に限って認められていました。

矢張り、スタチンと他のコレステロール降下剤とは、
同列に考えるべきではなく、
上乗せでの使用は高リスクの患者に限って有効性があると、
そう考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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