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新型コロナウイルス感染症はなし崩しに5類相当になっている、ということ [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

新型コロナウイルス感染症の現状について、
また少し別の切り口から考えてみます。

新型コロナウイルス感染症は、
今なし崩しに季節性インフルエンザと、
殆ど変わらない対応にシフトしていると思います。

新型コロナウイルス感染症は2類相当の感染症とされており、
そのため全例把握のための検査が行われています。
新型コロナウイルス感染症を診断した医師は、
直ちに結果を保健所に届け出る義務が生じます。
保健所や医療機関には、
原則として患者の健康観察を連日行う義務も生じます。

今のオミクロン株による感染拡大は、
感染力が強く患者数の増加が急激である一方、
多くの特に持病のない若い感染者では、
普通の風邪程度の症状しかない、
という特徴があり、
2類相当の感染症として扱うことは、
過大ではないか、
たとえば季節性インフルエンザと同じ、
5類相当に変更するべきではないか、
というような意見があります。

この議論はまだ解決していませんが、
その一方で現実には、
新型コロナウイルス感染症は、
対応としては季節性インフルエンザと同等に、
シフトしているのが現状です。

ただ、それはかなり現場無視の、
歪みを伴った形でなされているので、
僕のような末端の医療機関の医師としては、
納得のゆかない部分を感じていることも事実です。

以下その内容をお話します。

季節性インフルエンザは毎年流行しますが、
その感染者数は、
定点観測と言って、
一部の登録された医療機関での、
検体の分析のみで集計され推測されています。
クリニックでもインフルエンザの診断をしていますが、
それは遺伝子診断ではなく、
通常は抗原検査のみで行っています。
これは健康保険が適応となっていますが、
遺伝子検査での確定診断が必要と感じても、
それを保険診療の範囲内で行うことは出来ません。
遺伝子診断は通常行政の機関などのみで施行されているのです。
〇〇株が流行しています、
というような報道も、
一部の検査のみをその根拠としているのです。

インフルエンザを診断しても、
別に届け出をする必要はなく、
隔離の期間も発症から5日以降経過して、
2日以上無症状であった時、
というように規定されていますが、
各自の自主的な判断に任されている部分があるので、
守る人もいれば守らない人もいます。

インフルエンザが問題となり、
保健所が関わるのは、
施設や学校などで、
クラスターと規定されるような集団感染が、
起こった時のみです。
こうした場合に施設や学校が保健所に相談しないと、
「何故届け出なかったのか?」
などと報道でつるし上げされたりすることがあります。

インフルエンザに感染しても、
その治療は健康保険の通常の負担が必要となります。

一方で新型コロナウイルス感染症では、
医師は原則として診断した全ての事例を、
原則その日のうちに保健所に届け出をしなければいけません。
保健所も全例を把握して全例に連絡をし、
連日の健康観察を施行する必要があります。
その診断は当初は行政検査として、
RT-PCR検査のみで行われ、
その後抗原検査などでの診断も、
許可されるようになりました。
行政検査としてのPCR検査の費用は無料で、
診断後の感染症に対する医療費も、
原則無料となります。

この仕組みの中で、
紆余曲折はありながら、
2021年までは診療体制は維持されて来たように、
個人的には考えています。

それが最近になり大きく揺らいでいます。

まず報告の部分ですが、
当初は保健所にファックスして報告し、
個別に電話で担当者に説明もする、
というのがスタンダードであったものが、
HER-SYSというシステムの導入以降、
医療機関でもっぱらHER-SYSに報告を挙げ、
保健所に個別の連絡は迷惑なのでしないで欲しい、
という方針となりました。
保健所からの報告も、
電話から軽症者ではショートメッセージにシフトし、
若年者では自分でHER-SYSに打ちこみをして、
それを経過観察とみなすという方針に転換されました。

前回の記事で説明しましたように、
診断の部分も大きく変わり、
自費検査や市販の抗原検査での陽性のみで、
医師が報告することも可とされました。
濃厚接触者などでは、
検査をしなくても症状のみで、
医師が診断しても可とされました。
行政検査による診断との整合性をどうするのかと思っていると、
疑義症患者として登録すべしという通達がありました。
経過観察自体も自分やればそれで可とされました。

こうなると、
医療機関など受診しなくても、
自分でみなしで療養し経過をみれば良い、
ということになりますから
実際的には登録をする患者は減り、
全例報告と患者把握という当初の方針は、
既に崩壊してしまった、
というのが実際ということが分かります。

つまり、今後の患者数の数字は、
全くあてになるものではなくなります。

保健所は家族以外の濃厚接触者の認定を止め、
その役目は事業所や管理医師などに丸投げされました。
保健所が意識的にかかわるのは、
施設でのクラスターの事案のみです。

この状況を客観的にみてみると、
患者把握はクラスターでしかされず、
全例検査もされず、
症状のみでの診断も可となったのですから、
季節性インフルエンザと、
何ら変わらない状況となっていることが分かります。

違いがあるのは、
「形式上」全例の届け出が必須、
という状況が残っている点のみです。
その負担のみが診断した医療機関に、
むなしく重くのしかかっているのです。

これは法律を変えずに、
中身を骨抜きにするという、
行政の得意な詐術そのものですが、
これでは虚偽の報告が増えるだけの結果になり、
表に出た数字には何の意味もないということにもなりかねません。

もう、こうした現状があるのであれば、
一刻も早く全例報告を止め、
現実に合った枠組みに一時的にせよシフトすることが、
まっとうな行政の在り方なのではないでしょうか?

対面のみを守り、
現場に負荷のみを掛けるような行政は、
変わって欲しいと切に願います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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み

大変な思いされて対応にあたられていらっしゃることに頭が下がります。ここ数日のブログを拝見していると、先生含めクリニックのスタッフの皆様の心身の健康が心配になります。どうぞ、ご自身のことも十分留意されてくださいませ。
公園通りの頃からブログを拝見せていただいてますが、いつも先生のような医師がいらっしゃることにどこか安心というか、安堵しています。
by (2022-01-31 18:03) 

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