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「自己検査だけで診断が可能」の実態 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
ただ、夜は昨日のRT-PCR結果が送られて来る予定なので、
クリニックで説明の電話と届け出に当たる予定です。

ここ数日がとても色々なことがあって、
ブログも現状について下書きは書いていたのですが、
書いている途中で行政の方針が急に変わったり、
診療を巡る状況も変わったりするので、
そのままアップできずに、
外来、トラブル、電話、トラブル、往診、トラブル、検査、トラブル、結果説明、トラブル、
といった荒波に飲み込まれていました。

それが、1月29日の午後5時4分に保健所からメールが届きました。

以下それを抜粋します。
 平素、大変お世話になっております。  新型コロナ感染者急増(激増)に伴い、感染者及び、濃厚接触者への対応が変更となりました。 今般、厚生労働省より下記2点について対応変更の通知が発出されましたので、お知らせします。 いずれも大きな方針変更ですので、内容把握の上、変更後の対応について、よろしくお願いします。 ○自宅待機中の濃厚接触者に症状が出現したら、『検査せずに診断可能』  併せて、有症状の患者が自ら抗原検査キットで陽性と申し出たら(写真確認含む)検査せずに診断が 可能となります。 (この場合の診断は、電話診療、オンライン診療を活用し、対面せずに診断することが出来ます。)

その前日でしたか、
厚労大臣の発表が報道されていて、
そこでは感染により医療が逼迫したような地域においては、
濃厚接触者は発熱などの症状が出た時点で、
検査なく医師の裁量で診断をしても良い、
というようなものがありましたから、
早晩そうした連絡はあるのだろうなあ、
とは思っていたのですが、
メールの内容はより踏み込んだもので、
全ての新型コロナウイルス感染症の患者さんについて、
患者さんが自宅で抗原検査を自分で施行し、
それが陽性であると本人が確認すれば、
それで電話のみで医療機関が、
患者さんが新型コロナウイルス感染症であると診断し、
届け出を出して良いということになっています。

ちょっと呆然としてしまいました。

ただ、そこに添付された、
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの、
2022年1月24付の通達では、
そのニュアンスはやや異なっています。

以下そちらを抜粋します。
今後感染がさらに継続して急拡大した場合に備え、患者の症状や重症化リスク等に応じて、 適切な医療の提供が確保されるよう、自治体(都道府県又は保健所設置市)の判断で 下記の対応を行うことが可能であることをお示しします。あわせて、管内市町村、関 係機関等への周知をお願いいたします。 記 1.地域の感染状況に応じて、診療・検査医療機関への受診に一定の時間を要する状 況となっている等の場合 当該場合には、自治体の判断で、以下①~③の対応を行うことが可能であること。 ①発熱等の症状がある場合でも、重症化リスクが低いと考えられる方につ いては、医療機関の受診前に、抗原定性検査キット等で自ら検査していただいた上で受診することを呼びかけること。この場合に、医師の判断で、受診 時に再度の検査を行うことなく、本人が提示する検査結果を用いて確定診断を行 って差し支えない。 ただし、本人が希望する場合には検査前でも医療機関への受診は可能であるこ とや、症状が重い場合や急変時等には速やかに医療機関を受診するよう、併せて 呼びかけること。また、重症化リスクが高い方については、これまでどおり医療 機関を受診していただき、適切な医療が受けられるようにすること。 ②地域の診療・検査医療機関以外の医療機関の協力も得て、電話診療・オンライン 診療の遠隔診療を積極的に活用すること。

一番の違いはこの措置は、
流行状況に併せて自治体によりその適応の有無が決められる、
というように元の文書では記載されているのですが、
保健所からのメールでは、
そういう通達が国から出ているのでそれを周知せよ、
というように書かれているだけです。

つまり、当該の自治体としてそうした決定をしたのか、
具体的には品川区として、
もう個人の抗原検査の結果だけで、
診断可能という決定をしているのか、
それとも、今後そうした対応に移る可能性があるので、
その点を周知するというだけなのか、
メールを読んでもその点が明確ではありません。
メールの最初には「変更になりました」と書かれているので、
決定されたのかと思いますが、
その後に書かれているのは、
国から通達があった、という内容のみで、
その通達では「自治体」が個別に判断する、
というように書かれているので、
結局どうなの、そう決まったの、まだ検討中なの?
と五里霧中の感じになってしまうのです。

ただ、今ではなくても、
早晩そうした事態になり、
患者さんからもそうした質問や依頼が来ることは、
これはもう間違いのないことのように思います。

そのための準備は、
今日のうちにしておかなくてはいけません。

ここ数日のクリニックへの電話で多かったのは、
「熱が出たのでかかりつけ医に連絡したら、
『うちではPCR検査はしていないので対応が出来ない。
北品川藤クリニックに相談して検査をしてもらって下さい』
と言われたので検査をして欲しい」
というものや、
「木下グループのPCR検査で陽性の疑いと言われたので、
発熱センターに連絡したら、もう一度確認の検査が必要と言われたので、
PCRの出来る医療機関として紹介された」
というもの、
また「抗原検査を買って家で検査をしたら陽性だった。それで発熱センターに連絡したら、
もう一度検査が必要と言われて紹介された」
というものでした。

これらについて、
可能な範囲で対応して、
時間の許す限りで来て頂いて、
検査をして結果を連絡し、
無理な場合にはかかりつけ医への、
もう一度の相談を指示する、
というのが昨日までの基本的なフローでした。
勿論手が足りなくてバタバタの状態でしたので、
失礼なお断りの対応をしてしまったり、
お怒りを買ってしまったような方もいらっしゃいました。
大変申し訳ありませんでした。

ただ、このフローは激変することになります。

まず、かかりつけ医のいる方は、
その医療機関がPCR検査や発熱外来に対応していなくても、
自分で自費のPCRなり、自費の抗原キットで検査をして、
それが陽性であれば、
かかりつけ医に電話してもらえばそれでいいことになります。
もう一度検査をする必要はなく、
かかりつけ医の判断で、
発生届を「疑義症患者」として出してもらえばそれで良い、
ということになる訳です。
濃厚接種者の発熱であれば、
検査自体も必須ではありません。
わざわざ発熱外来を受診する必要はなく、
かかりつけ医の裁量で判断が可能だということになるのです。

ただ、自費検査の結果を持ってこられて、
それで診断をして欲しいと言われたケースは、
正直対応に悩むのが実際です。

自費検査の精度をこちらで把握することは出来ませんし、
初診の患者さんに電話のみで、
症状を把握しろ、というのも実際的ではありません。

出来ればもう一度クリニックで責任を持てる形で検査をして、
しっかりと診断をした上で、
治療や療養につなげたいというのが、
臨床医としての切なる思いですが、
一旦こうした通達が出た以上、
それが通用しない状況になるのは明らかです。

家での抗原検査というのはより不確かなもので、
鼻からの検体採取の方法によっては、
感染していても陰性となることもありますし、
他のウイルス抗原との干渉によって、
感染していなくても陽性となることもあります。
オミクロン株では検出が不正確となる点があることも、
実際に報告されていて、ブログ記事にもしています。

ただ、一度こうした通達が出てしまえば、
多くの患者さんにとっては、
わざわざもう一度医療機関を受診して、
確認のために検査をしましょうと言われても、
そんな面倒なことをさせられて、
おまけにお金をとられるなどあり得ない、
と思われるのは必定です。

それを強要するようなことをすれば、
今の世の中患者さんの怒りを買って、
どのような目に遭わされるかも分かりません。

それでは、患者さんの言うことを全てそのまま受け入れて、
電話の話だけで新型コロナと診断し、
そのまま疑義症患者として発生届を連発するべきなのでしょうか?

ずるいことに役所の通達では、
「医師の判断により」診断すると書かれています。
これは都合の良い決まり文句で、
家での抗原検査だけで診断した場合、
それはその医師の責任である、ということになるのです。
これは拒否する自由はあるという建前ですが、
実際にはその患者さんにとって、
もう一度医療機関を受診して検査をすることのメリットは、
全くないと言って過言ではありませんから、
そうした選択をすればその医者が恨まれるのは必定ということになります。

この仕組みは性善説に基づいているので、
悪く考えると、
本当は感染していなくて、
症状のない人でも、
検査で陽性になったと言って、
電話でその確認を求める、というような事態も想定されます。

そんな行為に意味があるのか、
と思われる方があるかも知れませんが、
今はコロナ用の保険もありますし、
傷病手当などの対象にもなるので、
幾らでも悪用の理由は考えられます。

仮に悪用されてそれが問題になったとしても、
責任があるのは診断した医師だ、
ということになるのですから、
これはもう安易に出来ることではありません。

本来はもし緊急避難的にこうした仕組みを導入するのであれば、
専用の窓口を自治体が作って、
そこに医師や看護師も常駐させ、
自治体の責任で診断と療養の確認に当たるのが筋だと思います。

実際に神奈川県が導入しているスキームは、
医療機関を介さない方法を取っていて、
無用な混乱や医療機関の負担に繋がらないためには、
そうした方法を取る方が適切であると思います。

現状品川区のホームページにはそうした点についての明確な記載はなく、
(2022年1月30日午前11時43分現在)
どのように対応したら良いのか、
混乱の中頭を悩ませるだけの状況となっています。

自治体の良し悪しによって、
このように無用の混乱が生じるのが正しいことでしょうか?

一篇のメールで方針変更が通達され、
それで混乱しても不利益を被っても、
それは全て自己責任ということなのでしょうか?

このようになし崩しに自己診断が可能となるのであれば、
これまでの発熱外来での苦労は、
一体何だったのでしょうか?

今日は観察期間は10日と説明していたのに、
明日は7日と説明しなければならず、
今日は自費検査だけでは診断は出来ませんと説明していたのに、
明日は自費検査を見せるだけでも大丈夫になりました、
ただし当院ではそうした対応は困難です、
というような説明をしなければならないのです。

専門会議の専門家の方が、
こうした決定をされた趣旨は分かるのです。
地域医療を混乱させるために決めた訳ではなく、
発熱された患者さんが、
医療機関に押し寄せて対応困難になる事態を、
回避するために出されたことは理解はしています。

しかし、これでは逆効果です。

医者は患者さんを正確に診断したいのです。
極力受診可能な方は受診して頂いて、
適切に検査をして診断がしたいのです。
勿論迅速な診断が必要な場面では、
抗原検査のみで届け出を出したり、
濃厚接触者の感染で症状が明らかであれば、
擬似症患者として登録するようなことは、
既に実地にやっているのです。

しかし、こうした通達を一旦出されてしまうと、
医師のそうした裁量などと言うものは、
一瞬にして吹っ飛んでしまうのです。
抗原検査が陽性であった患者さんは診断のみを求め、
陰性であった患者さんも、
実際には感染の可能性はあるのですが、
「陰性なので問題ない」と、
感染対策なく受診をされるようになるのです。

厚労省の通達には、
こうした特例の措置を施行するには、
自治体はそれなりの準備をするべきだと記載されています。
そこには、抗原検査の無料配布や、
パルスオキシメーターの、
疑義症患者への迅速な配布の体制整備、
などの記載もあります。

しかし、今の時点でそうした対応が、
当該自治体で取られているのかどうか、
全く情報は入って来てはいません。

長々と駄文を連ねましたが、
最後に自治体の方に言いたいことは以下です。

「自己検査のみで診断可能」を決めるのであれば、
誰がどのような責任を担うのかについて、
きちんとした通達を出して下さい。
個々の医療機関が対応するのではなく、
「自己検査による診断」のための窓口を用意して、
そこで一元化して診断と届け出を行って下さい。
そうでないと個々の医療機関がより疲弊するだけです。
その責任は自治体が持つと明言して下さい。
指示の主体が東京都なのか区なのか、
その線引きも明確にして下さい。

それから自費のPCR検査で診断OKであるなら、
その診断の責任は検査をした機関や事業所で、
担うように指示をして下さい。
自費検査のみで診断可能であるなら、
その診断は自費検査を担当した事業所が、
責任を持つのが当然ではないでしょうか?
その責任を、どうして関係のない医療機関が、
自前では検査もせずに担わないといけないのですか?
そんな謂れは全くない筈です。

今日は新型コロナの検査と診断を巡る混乱の話でした。

もうほとほと疲れ果てました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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