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何故発熱外来は斯くも渋滞を生じているのか? [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
夜はまた、いつ来るとも知れぬ検査報告を待つ予定です。

今日は新型コロナウイルス感染症を巡る、
最近最も怒りを覚えた事例をご紹介します。

基本的には事実の記載ですが、
守秘義務及び患者さんの特定を避けるという観点から、
一部事実を変えたり、省略して記載している部分のあることを、
予めご了解下さい。

患者さんはAさん。
30代の男性で、
炎症性腸疾患の既往がありました。
ストレスとも関連が深く、
下血して貧血になったり、
腹痛を繰り返したりするような難病です。
ただ、数年前には完治(寛解)したと主治医より告げられ、
その後は特に治療はせず、
経過観察のみ施行されていました。

Aさんは地方の出身で、
地元の病院で長く診てもらっていたのですが、
昨年になって仕事のために東京に引っ越しをしました。
本来は炎症性腸疾患の経過観察は、
続けるべきではあったのですが、
症状は何もない状態がもう2年以上続いていたので、
東京に来てから医療機関を受診することはありませんでした。
これはもう通常のことだと思います。

ところが…

仕事のストレスがきっかけであったのかも知れません。
今年の1月の初めからお腹の不調が再燃するようになりました。
下血があったり腹痛が時々起こるようになりました。
それでも、もう少し様子をみようと医療機関の受診はしないでいると、
ある日微熱と咳と共に、
身を捩るような強い腹痛が襲いました。

そこでAさんは、
田町にある○○クリニック田町という、
都内で複数の分院を手広く展開しているクリニックを受診して、
東京都「無料」PCR検査を受けました。

この検査は都が無料で行なっているもので、
そのクリニックが配布したチラシによると、
対象は「感染に対する不安があり、検査を希望する「全て」の「東京都在住の方」」と書かれていて、
かつ「無症状の人も、無料PCR検査の対象となります」
とも補足されています。

この文章を読む限り、
発熱などの症状のある人も、
この検査を受けて問題がないように思います。

ただ、その元となっている、
東京都の「PCR等検査無料化事業」では、
そのニュアンスは少し違います。

その対象者の記載を以下引用します。こちらです。
(1)ワクチン・検査パッケージ制度又は対象者全員検査及び飲食、イベント、旅行・帰省等の  活動に際して、陰性の検査結果を確認する必要がある無症状の方 (2)発熱などの症状のない 無症状の都民の方で、下記に該当する方 感染している可能性に不安を抱える方 あらかじめ感染不安を解消しておきたい事情がある方   たとえば、以下のような方が想定されます。  ・感染者の周辺で保健所により濃厚接触者とされなかった方のうち、感染不安を抱える方  ・高齢者施設を訪問する予定がある方など、あらかじめ感染不安を解消しておきたい事情がある方  ・感染拡大傾向時においても対人接触の機会が多い環境にある方

このように、元の文面は明確に無症状の人に、
対象を限っているのですが、
医療機関の文書は、有症状であっても、
検査は可能と謳っています。

何故こうした詐術が可能であるかと言うと、
この医療機関は新型コロナウイルス感染症の検査や診療を行う医療機関でもあって、
公費の行政検査も可能であるからです。

本来はそれと無料PCR検査はそもそも趣旨が違うので、
混同するような記載は医療の倫理に反すると思いますが、
この医療機関にとっては、
そんなことはどうでもいいようです。

それで問題が生じなければ、
勿論文句を言う筋合いはありません。

しかし、実際にはこれがトラブルの元になりました。

Aさんは今の体調不良がコロナが原因かそうでないか、
それを調べる目的でその検査を受けました。
医療機関であるので、何かあればアフターフォローも万全、
というように思ったのです。
ネットでホームページを見れば、
確かに多くの病気に対応している上に、
新型コロナ感染症の経口薬の投与にも対応、
というように記載されています。

Aさんは唾液を採取して結果を待ちました。

すると採取翌日の夜にメールで結果が届きました。
「陽性」という結果です。
そこには「陽性者は医療機関を受診して下さい。
当院の予約受付はこちら」というような文言がありました。
それで、Aさんはただちに電話でクリニックに連絡したのですが、
大企業によくある録音で番号を入力するタイプのもので、
入力しても何度もたらいまわしになるだけで、
何度やっても肉声の電話には繋がりません。
メールも出しましたが返信はありません。

そのうちに体調はより悪化して、
熱は上昇しますし、腹痛はひどくなる一方です。
それで、Aさんは発熱センターに電話をして相談しました。
すると、担当者は無料のPCR検査ではコロナの診断にはならないので、
もよりの発熱外来を受診して、
もう一度検査を受ける必要があると説明。
発熱外来のある医療機関を複数紹介しました。
そのうちの1つとして、
Aさんはクリニックを受診されたのです。

受診されたAさんは強い腹痛で七転八倒の状態です。
当座の薬を出しRT-PCR検査はしましたが、
この状態で検査結果が出るのを待つというのも、
とても酷な感じです。

それで近隣のコロナ患者も受け入れている病院に依頼して、
これこれの状態であるけれど、
入院前提に診療をしてもらえないかとお願いしました。
しかし、その時点では、
もうコロナ用の病床はほぼ埋まっている状態で、
受け入れる余地はない、という返答でした。
医師会にもその旨相談しましたが、
コロナの届け出前に病状悪化時は、
救急車を要請するしか手がない、
という返事です。

それでその旨Aさんには説明して、
翌日のRT-PCR結果を待つことにしました。

結果のファックスは翌日の夜10時過ぎに届きました。
検体数が多く、結果はどんどん遅れているのです。
それから電話をしましたが、
幸いにもAさんはその時点では腹痛も軽快していました。
それで陽性の説明をして、
その場でHER-SYSというシステムを使って、
発生届を送信しました。

この事例は本来は、
〇〇クリニック田町で責任を持って診るべきだと思うのです。

薬局などで行なっている検査ではなく、
保健医療機関で、
それも行政検査も可能な医療機関で行なっている検査なのですから、
それが東京都の無料検査のフォーマットで行なわれたものであっても、
陽性となった事例については自院で責任を持つのが、
医療機関の倫理であると思います。
それを意図的に自費検査と行政検査を混同させる手法で、
検査だけはやりまくり、
結果としてAさんのような、
「感染難民」を作り出しているのです。

行政検査をして診療もしていながら、
発生届すら自院では出さずに放置するのですから、
これほど酷いあり様はないと、
個人的には思います。

このように、検査数は多くなり、
検査を受けること自体は簡単になったのですが、
それほど高い陽性率を想定している枠組みではそもそもなく、
「陰性で安心」を提供するための仕組みである点が、
今の混乱を生み出しているのです。
クリニックでは連日6割を超える患者さんが陽性となっています。
自院の検査だけで手いっぱいで、
毎日電話説明だけで3時間以上掛かる状態ですが、
それで自費検査を同時に行うなど、
そもそも不可能なのです。

結果として、
陽性の患者さんが発生届も出されず、
行き場を失っているのが現状だと思います。

確かにオミクロン株感染の多くは軽症に終わります。
しかし、高齢者やAさんのように持病のある方では、
持病が悪化するケースがしばしばあり、
重症化しても結果として病院に掛かることも入院することも出来ない、
という事態が発生しているのです。

このことを是非、
皆さんにも分かって頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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渡辺勉

部外者には知り得ない惨状ですね。情報ありがとうございます。
by 渡辺勉 (2022-01-27 13:45) 

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