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抗凝固剤の使用と感冒時の出血リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
風邪の出血リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年12月21日ウェブ掲載された、
抗凝固剤使用時の出血リスクについての論文です。

心房細動という不整脈における、
脳塞栓症などの予防や、
下肢静脈血栓塞栓症における、
肺血栓塞栓症の予防などには、
抗凝固剤という、
強力に血液の凝固を抑える薬が使用されます。

古くから使用されているのが、
注射薬のヘパリンと経口薬のワルファリンで、
最近その利便性からその利用が増えているのが、
直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる薬です。
プラザキサやイグザレルト、エリキュース(いずれも商品名)、
などがそれに当たります。

この直接作用型経口抗凝固剤は、
概ね良くコントロールされたワルファリンと同等の効果と、
より低い重症出血系合併症発症率を持つと報告されています。

しかし、直接作用型経口抗凝固剤の使用時にも、
消化管出血や脳出血などの出血系有害事象が、
少なからず発症しています。

ワルファリンは多くの薬剤や食品などとの相互作用があり、
特にマクロライド系抗菌剤の使用時には、
出血リスクが増加することが報告されています。
こうした相互作用は直接作用型経口抗凝固剤ではない筈ですが、
実際には出血リスクはワルファリンより少ないものの増加は認められています。

ただ、マクロライド系の抗菌剤が使用される状況というのは、
気道などの感染症時が多いと思われます。
そうした時には炎症それ自体の影響で、
凝固系の異常が起こり、
それが出血リスクの増加に結び付く可能性もあります。

つまり、抗菌剤との併用時の出血リスクの増加は、
抗菌剤と抗凝固剤との相互作用によるものなのか、
それとも感染症自体の影響なのか、
明確ではないのが実際なのです。

そこで今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの臨床データを活用して、
ワルファリンもしくは直接作用型経口抗凝固剤を使用していて、
1回以上の未治療の気道感染症の発症があり、
1回以上の消化管出血や脳出血などの出血系病変を発症した、
トータル1208名の患者を解析しています。

その結果、
気道感染症発症2週間以内では、
それ以外の期間と比較して、
重症の出血系病変の発症リスクが、
2.68倍(95%CI:1.83から3.93)、
臨床的に意味のある出血系病変の発症リスクが、
2.32倍(95%CI:1.82から2.94)、
それぞれ有意に増加していました。

つまり、風邪を含む気道感染症の罹患時には、
抗凝固剤使用者では出血系合併症のリスクが、
2倍以上に増加していたのです。
これは抗菌剤の使用とは無関係の現象です。
更に興味深いことには、
使用薬剤がワルファリンであっても直接作用型経口抗凝固剤でも、
その出血リスクの増加には明確な差は認められませんでした。

従って、抗凝固剤を使用中の患者さんでは、
感染症罹患時には出血リスクの増加を想定して、
充分な注意が必要ですし、
今後薬剤の調整の可否を含めて、
実証的なデータに基づく対応ガイドラインの作成が、
急務であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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